○事故事例アーカイブ酸欠・有害物

神奈川県横須賀市 マンホール内で硫化水素が発生し、作業員が意識不明になる事故

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下水道に関わる工事は、衛生面と匂いが大きな問題になります。
どうしてかは、言わずとも分かりますよね。

それらは避けられないものではありますが、下水道工事において、どうしても避けなければならないことがあります。
それは、酸欠と硫化水素の発生です。

酸欠状態とは、空気中の酸素濃度が18%未満のことを言います。
酸欠空気を吸い込むと、意識障害が発生したり、身体の機能を失い、死に至ることもあります。
酸欠は人では耐えられないものなのです。

そして硫化水素の発生。
硫化水素は猛毒です。
ほんの少し空気に混ざっているだけでも、人体に重大な影響を与えます。
その量は、10ppm、つまり100万分の10という濃度で十分なのです。

下水道は処理施設も下水道管も、悪臭を広げないために閉鎖されているのが通常です。
つまり空気の寒気は行われません。
限られた酸素は、汚水に含まれる有機物が腐敗し、酸素を消費します。
そして含まれる硫黄が化学反応を起こし、硫化水素を生み出すのです。

下水道工事は、これら目に見えないものへの注意が重要です。

少し警戒を怠ると、重大な事故が起こってしまいます。
今回は、下水道工事で起こった硫化水素による事故についてまとめ、原因の推測と対策を検討してみます。

マンホール内で硫化水素発生 作業員4人倒れ2人重体
(平成26年1月10日)

10日午前9時10分ごろ、神奈川県横須賀市久里浜の下水道工事現場で異臭が発生したと、県警に通報があった。男性作業員4人が倒れ、病院に搬送された。うち2人が意識不明の重体。硫化水素が発生したといい、県警が状況を調べている。

県警や消防によると、作業員数人が下水管のマンホール内で工事を始めたところ、異臭が発生。4人が次々に倒れた。意識不明の2人はいずれも60代の男性で、先にマンホール内に入っていたという。消防は現場で硫化水素ガスを確認した。県警が安全管理に問題がなかったかを調べている。

工事を発注した横須賀市上下水道局によると、この日は、民間業者の作業員が下水管の空気抜きバルブの交換作業を始めていた。下水には硫黄が含まれ、管が曲がるなど空気が少ない場所で硫化水素が発生しやすい。毒性が強いことから、国は安全のため、作業中のガス濃度測定や換気を呼びかけている。

現場は京急久里浜駅から約200メートルで、片側2車線の道路の中央付近。周囲には住宅や病院が立ち並ぶ。現場前の鮮魚店主は「店でかなり強い硫黄の臭いがしてきた。10分ほど臭いが続き、そのうちにパトカーが来た」。近くの理容店主は「硫黄くさいと思っていたら救急車の音が聞こえた。作業服姿の男性が道に倒れていて、全く動かない人もいた」と話した。

朝日新聞

この事故の型は「有害物との接触」で、起因物は「有害物(硫化水素)」です。

下水道は地下に管路が走り、処理場へ汚水を運びます。
下水道管路には、一定間隔でマンホールが設けられ、点検やメンテナンス等に使われます。

下水道管路での工事は、劣化した内部を補修したりなどがあります。
記事では工事の内容まではわかりませんが、今回の工事もそのようなものだったと思われます。

下水道施設は、閉鎖施設です。
換気すると悪臭を撒き散らすので、基本的に行われません。
そのため、作業前には必ず酸素濃度や硫化水素の濃度を測定しなければなりません。
測定を行って、もし濃度基準をクリアしていないならば、換気を行います。

事故は、これらの措置が取られていなかったため、発生してしまいました。
この工事では、測定も換気も行われないまま、作業員がマンホールに入ってしまったのでしょう。

下水道工事を行っていると、事前測定が必要だということは知っていたはずです。
それにも関わらず、対処が行われていなかったのです。

実のところ、マンホール内での工事で、確実に酸素濃度が低い、硫化水素が発生しているということはありません。
むしろ最初から基準の濃度をクリアしていることの方が多いのです。

測定しても、きっと酸欠状態じゃないだろう、硫化水素が発生していないだろうという油断が、事故につながったのかもしれません。

それでは、原因を推測してみます。

1.下水道管路内に硫化水素が発生していたこと。
2.作業前に酸素濃度、硫化水素濃度を測定していなかったこと。
3.適切な換気を行っていなかったこと。
4.作業主任者を専任していなかったこと。
5.空気呼吸器などの保護具を着用していなかったこと。
6.下水道工事の危険性を作業員に教育していなかったこと。

酸欠や硫化水素発生の危険がある場所では、作業主任者を選任し、作業の指揮を取らせなければなりません。
作業主任者が安全を確かめ、安全な作業を進めるようにします。

濃度の測定や換気は、酸欠などの安全対策です。
換気でも、濃度が改善しない場合は、空気呼吸器を着用させます。

一呼吸だけでも、意識不明になってしまうような危険な場所での作業です。

少しの油断が、命取りになるのです。

対策を検討してみます。

1.作業前には、酸素濃度、硫化水素濃度を測定する。
2.適切な換気を行う。
3.空気呼吸器を着用させる。
4.作業主任者に作業を指揮させる。
5.作業員には、下水道工事の危険性を教育する。

下水道関係の作業は、目に見えない酸素濃度や硫化水素の危険に備えなければなりません。
今まで大丈夫だったから、今回も大丈夫だろうという油断は、文字通り命取りになります。

事前の準備は、命を守るための安全対策なのです。

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