厚生労働省労働局長登録教習機関
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家屋の建築工事は、高所作業がつきものです。
例え平屋の家を建てるとなっても、柱やハリなどの組立、屋根作業は必要ですし、室内の内装では天井や窓など、地に足をつけた状態でできる仕事は全体の半分程度と言っていいでしょう。
家を建てる大工さんは、見ていると細いハリの上を身軽に歩き、重いものも容易に運んだりしているように見えます。
その姿は、一言、格好いいにつきます。
しかし、どんなに颯爽として、格好良くとも、高所作業であること、不安定な足元で作業を行うこと、電動の工具を取り扱うことなどを考えると、危険がないわけではありません。
どんなに仕事に慣れていても、墜落の衝撃は軽くなるものではありません。
むしろ慣れが行動を大胆にして、危険を招くこともあるのです。
大工さんも危険と隣り合わせの仕事であると言えます。
今回取り上げるのは、家の建築現場で起こった、大工さんの墜落事故です。
この事故の原因を推測し、対策を検討してみます。
大工の男性、新築現場で転落 胸など強く打ち死亡/羽生
(平成27年2月21日)
21日午前9時ごろ、羽生市西2丁目、木造平屋の新築工事現場で、梁(はり)の上で作業をしていた白岡市小久喜、大工が約4メートル下の建物基礎部分に転落した。被災者は胸などを強く打っており、搬送先の病院で死亡が確認された。
羽生署によると、事故当時、被災者はもう1人の男性大工と作業をしていた。男性が被災者の転落した音に気付いて110番した。同署で事故原因を調べている。 |
この事故の型は「墜落」で、起因物は「構造物(家屋)」になります。
ハリとは、柱と柱の間をつなぐ、水平方向の骨組みです。
新築の家の中では、狭い空間の中で足場を組んでしまうと、身動きが取りづらくなることがあります。
そんな場合は、脚立やハシゴを用いたり、ハリを足場代わりにして作業を行います。
今回の事故も、ハリの上で作業を行っていた時に起こった事故でした。
ハリの上で作業を行うのは、間違いなく今回初めてというわけではないでしょう。
長年行ってきたものでしょう。
そのため、もう1人の作業者も、特に止めることもなく作業を行っていたのでしょう。
この作業も2人で行われていたのですから、2人ともベテランだったのかもしれません。
日常的に行っていて、危ないとも感じていないことが、時として事故につながります。
ハリの上で、バランスを崩したのでしょうか、4メートルの高さから落下しました。
下は、建物の基礎です。
基礎は、コンクリートの打ちっぱなしが多いです。
このような状況ですから、落ちた時の衝撃は相当なものだったろうと想像されます。
足場を組むことが困難だった場合、高所作業で、墜落を防ぐ方法は、何かあったのでしょうか?
1つの手段は、安全帯を着用することです。
安全帯は命綱です。
仮にバランスを崩し、落下してしまったとしても、地上に激突することを防いでくれます。
今回の事故では、安全帯を着用していなかったことが、墜落し、地上に激突してしまった原因だったのです。
安全帯の大切さ、着用しましょうということは、建設作業ではとてもよく耳にします。
そして、腰道具の1つとして、安全帯を着けている人も、非常に多いです。
しかし、きちんと使用しているとなると、その率はグッと減ります。
私も現場で、作業員の腰回りで、ヒモがタラーンと収納されているだけというのも、よく目にしてしまいます。
安全帯は、身につけているだけでは、全く意味がありません。
きちんと、フックを掛けておかないと、支えになってくれないのです。
誰しもが、安全帯が何のためにあり、どう使うかはしっています。
しかし、使われれないのはどうしてでしょうか?
原因は、行動を制限するからでしょう。
柱や手すりにロープを固定するので、行動範囲が制限されます。
移動するときには、フックを掛け替えないといけません。
さらに、ロープが手元作業のじゃまになることも少なくありません。
作業効率を考えると、安全帯は好まれない存在なのです。
安全帯が活躍する時は、めったなことではないでしょう。
そのことも、危機感を薄れさせる原因なのかもしれません。
また家の新築現場であれば、フックを掛ける場所もなかったのかもしれません。
ハリに掛けると、ハリを傷つけることになります。
理想を言うと、別途安全帯を着けられる親綱を張ることです。
こういった措置がなく、作業を行っていたところ、今回の事故になってしまったのではないでしょうか。
それでは、原因を推測してみます。
1.ハリの上の作業中に、バランスを崩した、または足を滑らせたこと。
2.安全帯を使用していなかったこと。
3.高所作業に対する慣れ、安全意識が低かったこと。
事故の背景には、危険に対する認識や、安全意識が低いことがあります。
今までの作業が、安心感の根拠になっているです。
しかし事故は、新人でもベテランにも降りかかります。
確かにベテランになると、ちょっとしたミスは減ります。
しかし、行動が大胆になると、一度事故になれば、大事故にもなりうるのです。
安全帯をあまりしっかり活用しない人は、今まで墜落し、安全帯に助けられたという経験がないのでしょう。
一度、体験してみれば、そのありがたさは身にしみるでしょう。
ただ、多くの人にそのような機会を得ることはありません。
そのため、時としてただのアクセサリーになってしまうのです。
対策を検討します。
1.作業時は、墜落しないよう足場を固めて作業を行う。
2.安全帯を着けられる、親綱を張る。
3.安全帯を堅固な場所に、確実に掛ける。
4.墜落事故について、教育を行う。
長年、仕事をされてきたベテランの中には、経験を頼りに、自信を持っている方も少なくありません。
そういった方に、あれこれ押し付けても、反発をまねきます。
制度として徹底するのも大事ですが、同時に理解を得る、教育を行うなど、少々時間がかかるかもしれませんが、意識を変えていくことも大切なプロセスではないでしょうか。
今回の事故のように、思わぬ形で事故が起こり、痛ましい結果になる。
このようなことは、毎年1000人前後の方の身に降りかかっているのです。
少し安全に意識してみる。
様々な事故を見ていると、そうした意識の持ちようだけでも、被害を減らせるのではないかと思うのです。