○ショートストーリー”猫井川ニャンのHH白書”

保楠田、外れた手すりを呆然と見つめる

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こんなヒヤリハットがありましたので、対策とともにご紹介したいと思います。

猫井川と保楠田は、ビル屋内の仕上げ作業を行うことになりました。

明日から内装業者が入ってくるので、その前にコンクリート壁のデコボコした部分を補修したり、掃除をしたりという作業です。

壁といっても、四方の壁だけではありません。
天井もやらなくてはなりません。

そうなると、2人で作業しても、1日くらいかかってしまいそうな量なのでした。

「よし、猫ちゃん。天井からやっていこうか。
 キビキビやっていかないと、今日中に終わらないからね。」

保楠田は、猫井川にそう言うと、室内に作られているローリングタワーを登り始めたのでした。

ローリングタワーとは、固定されていない足場のことです。
足元には車輪が取り付けられ、必要な場所に移動させることができます。
移動式とはいえ、足場であることには変わらないので、手すりや中さん、筋交いなど、足場で必要な設備は揃っています。

ローリングタワーのハシゴを登り、最上段の手すりと中さんの間に体を入れ、作業床の上に立ちました。

「猫ちゃん、ロープ降ろすから、モルタルが入ったバケツを結んでくれる?」

「はい。オーライです。」

保楠田が天端からロープを垂らしすと、猫井川はバケツや必要な道具を結びます。

「じゃあ、猫ちゃんも上がっておいで。」

保楠田がバケツを持ち上げてから、そう言うと、猫井川もハシゴを登り始めました。

「この辺りからやっていこうか。穴とかき裂があるところに、モルタルを練り込んでいこう。
あとコンクリートの継ぎ目とかで、出っ張ったり、バリになっているところがあったら、削っていってね。
まあ、多少なりとも、内装屋さんが作業しやすいようにしとかないとね。」

作業内容について、簡単に説明すると、ローリングタワーの上の2人は作業を開始しました。

バリや出っ張ったところは、グラインダーで削ったり、窪みになっているところはモルタルで埋めたりしていきます。

「よく見たら、結構補修しなきゃいけないところが多いですね。」

「そうだね。遠目に見たら気にならないんだけど、近くで見ると、どうしても目につくね。
でも、あれもこれもやっていたら切りがないから、ある程度目立つものだけにしてきなよ。」

「はい。一応そのつもりなんですけど、それでも多いですね。」

しばらく作業を続けていると、ローリングタワーの上で動ける範囲では、全て補修し終えました。

「じゃあ、一旦降りて、移動させようか。
 昔ね、乗ったまま移動してたら、落ちそうになってさ。
 横着すると、怖いよね。」

そんな話をしながら、2人ともローリングタワーから降り、タイヤのロックを外して、次の場所へと押して行きました。

「じゃあ、続きをやろうか。」

保楠田はそういうと、ローリングタワーのハシゴを登っていきました。
続いて、猫井川も登って行きました。

天端まで登ると、先ほどと同じように、バリをグラインダーで削り、窪みにはモルタルを詰める作業を行っていきました。

順調に作業は進み、この区画での作業も終わりに近づいてきた頃でした。

「よ!よ!」

そう言いながら、保楠田が端に立って手を伸ばしていました。

「どうしたんですか?」

猫井川が、保楠田の方を振り返り、声をかけると、保楠田は答えました。

「ここ部分だけ、やっておきたいなと思うんだけど、ちょっと遠いかな。」

手すりに体を預けて、必死に手を伸ばしています。

「気をつけてくださいよ。落ちないでくださいね。」

「大丈夫。ちゃんと安全帯も掛けてるしね。」

そう言うと、保楠田はさらに手を遠くに伸ばしたのでした。

「よし、もうちょっと。」

保楠田の体が手すりから半分以上突き出された時でした。

ガチャ

変な音がします。

「ん?」

保楠田が、気になり少し体を引っ込めたところ、事が起こりました。

なんと、手すりが外れ、床に落ちていったのです。

カラーン

大きな音を響かせ、手すりが床に激突しました。

手すりと床がぶつかり合う音をよそに、保楠田と猫井川は呆然とする他ありません。

幸い、保楠田は落ちた手すりとは別の手すりに安全帯を掛けていたことと、手すりが外れた瞬間は体重を掛けていなかったので、墜落を免れました。

保楠田は目の前の出来事を受け止められません。
ただ落ちた手すりを見つめるだけです。

「ほ、保楠田さん、大丈夫ですか?
 そんな端に立っていないで、もっと真ん中に来てください。」

先に我に返ったのは猫井川でした。
猫井川が、保楠田に声を掛けると、はっと気付いた様子で、後退りしました。

「あ、危なかったー」

保楠田はそう言うと、へたへたと座り込んでしまいました。
安全帯のロープがぴーんと張られ、、体を少し持ち上げていますが、力が入らない様子です。

「ほんとに危なかったですね。何で手すりが落ちたんでしょうか?」

「ちょっと、金具が緩んでたのかも。チェックしてなかったからな。」

そう、ローリングタワーの事前点検を行わずに、作業を始めていたのでした。

「ちょっと手すりを直して、チェックしてから作業しようか。」

しばらく経ってから、保楠田が言いました。

「そうですね。俺、下に降ります。」

猫井川は、そう言いながら、安全帯のフックを外し、ハシゴを降りていくのでした。

今回のヒヤリハットは、あわや墜落かというものでした。

もしこのようなことがあったならば、本当にゾッとする瞬間でしょう。
体重をかけたままの状態だったら、確実に落下していたに違いありません。

保楠田は九死に一生を得たような体験になったはずです。

足場や、ローリングタワーは、高所作業を行うための設備です。
作業床や手すりなど、様々な部材で構成されていますが、接続部が外れていたり、緩んでいたりすると、上にいる人が安心して作業できません。

今回の保楠田のようなことが起こってしまいます。

まさか手すりが落ちるなんて、まさか作業床が外れるなんてなど、誰も想像すらしないことでしょう。

しかし、どこかに緩みがあったり、何かの都合で取り外したものが復旧されていなかったら、起こり得ることです。

このような設備不良による事故を防ぐため、足場作業では、作業を行う前に点検を行うことが義務付けられています。

各部のはずれや損傷、緩みなどをチェックするのです。

毎日使っているものなので、そう簡単に異常が出てくるものではないでしょう。
ところが、誰かが手すりを外して、きちんと元に戻していないということもあります。

本人は元に戻したつもりになっているが、実は勘違いでしたということも起こり得ます。

いずれにせよ、安心して作業ができるように点検することが大切ですね。

それでは、ヒヤリハットをまとめます。

ヒヤリハット ローリングタワーの手すりに体重を預けたら、手すりが外れた。
対策 1.事前に点検を行う。
2.過度に手すりに体重をかけない。

手すりは墜落防止になりますが、過度に体重をかけることは想定していません。

また体を預けすぎると、手すりの上を乗り越えて、墜落ということもあります。

作業床の端では、体を乗り出すといったことは、やらないほうが良いですね。

それにしても、保楠田が落下に至らなくてよかったです。

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