○ショートストーリー”猫井川ニャンのHH白書”

猫井川、えせ関西弁に翻弄さる

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こんなヒヤリハットがありましたので、対策とともにご紹介したいと思います。

犬尾沢と鼠川は明日からのコンクリート工事のために、型枠を組み立て、配筋工事を行うことになりました。

型枠を組み立てる場所は非常に狭く、2人以上が入ると身動きがとれなくなるようなところです。
そこで、組み立てや配筋の作業は、犬尾沢と鼠川が作業場内で組み立てを行うことになりました。

猫井川は、2人の手伝いです。
今回は、もう1人サポートとして、牛黒ベコも参加していました。

「がははは、俺に任せとけ」

牛黒は、なぜだか自信満々です。

「はあ、お願いします。」

相変わらずの牛黒の様子に、猫井川は少々戸惑い気味です。

しかしそんなことで、あたふたしていられません。

「猫井川、型枠を切って、こっちに渡してくれ。」

犬尾沢からの指示を受け、早速仕事にとりかかります。

猫井川と牛黒の仕事は、あらかじめ測った寸法通りに、コンパネを切ったりして、加工することです。

加工が終わったコンパネは、どんどん犬尾沢たちに渡していきます。

牛黒は、配筋作業用の鉄筋を運び、部材ごとに並べていきます。

「猫井川、こっちが終わったら、すぐに手伝ってやるかな。」

「はい。早めにお願いします。」

おう、と返事をして、牛黒は鉄筋を肩に抱えて、運びます。
運ぶのはいいのですが、肩に載るその量は、猫井川の倍くらいです。

「牛黒さん、一度に運ぶ量が多くないですか?」

「あああ、だ、大丈夫だ。。。」

と、言うものの、明らかに鉄筋を載せた右肩が下がり気味。
肩への食い込みも、目に見えて痛々しいです。

「ちょっと、減らしたほうがいいですよ!」

「そ、そうだな。ちょっと減らす。」

そう言うと、その場で鉄筋を下ろし、半分程度の量を改めて拾い上げます。

「お、これは楽だー。
 最初に重いのを持ったから、楽に感じるんだな!」

なんとポジティブなのでしょう。
無茶はするものの、この性格が牛黒を憎めない人にしているのでした。

「いやー。一度にたくさん持って行って、早めに終わらせようと思ってさ。
 そうしたら、猫井川も手伝いが増えるだろ。」

そして、牛黒はいい人でもあるです。

その後は、牛黒も適正な量の鉄筋を運び、部材ごとに並べ終えました。
きちんと整列していませんが、それや愛嬌ということで。

「あー、1人で運ぶのはえらかった。
 よし、猫井川、手伝ってやろう。」

「はい、お願いします。
 確かに、1人で運ぶのはすごいですね。」

「おー、大変だったわ。
 ん、お前はえらいを言う意味をわかってないな。」

牛黒は、こんな時だけ、妙にいい勘を働かせます。

「え、牛黒さんが『大した人』ということなんじゃ。」

「違う違う。『偉い』ってのは、『疲れる』という意味だ。
 関西じゃ、えらいって言うんだな。」

「へー、関西弁なんですか。
 牛黒さんは、関西出身ですか?」

「いや、生まれは違うけど、しばらく大阪にいたからな。
 だから、関西弁はペラペラやねん。」

「急に口調が訛りましたね。
 それはともかく、この板を切るのをお願いします。」

「おう。ほな、やってこか。」

関西弁もどきの牛黒は、早速コンパネに描かれた線に従い、切っていきました。

何枚か切断すると、次はセパ穴などを通す穴を開けていきます。

ハンドドリルを使い、加工していっている時でした。

「ありゃ、キリがつぶれてしもた。」

急に牛黒が頓狂な声をあげたのでした。

「猫井川、キリがつぶれたわ。替えのキリはあるやろか?」

「キリがつぶれた?
 何かで挟んでしまったんですか?」

「ちゃうちゃう。『つぶれた』言うんは、『壊れた』という意味や。
 キリの先端が丸くなってもうたんやわね。」

「はあ、それも関西弁ですか。何か色々混ざってそうですけど。
 替えのキリは、車に載っていたと思いますよ。」

「そうか。ほな、このキリは投げとくわ。」

「え、投げたら危ないですよ。」

「だからちゃうって、『投げる』言うんは『捨てる』いう意味や。」

ちょっと、得意気に関西弁講座をする牛黒。

その時でした。

「捨てるを『投げる』というのは、関西じゃないぞー。東北の方の言葉だぞー。」

型枠の組立作業をしていた鼠川の一声が響きました。

「牛黒、関西弁を使うのもいいが、相手に分かるように話さんと、指示を取り違えてやってしまうぞ。」

鼠川のちくっとした言葉に、先程まで得意げだった牛黒が少し固まります。

「まあ、ワシは嫁さんのスペイン語は分からんが、分かり合ってるがな。」

訳の分からない追い打ちをかけ、鼠川は仕事に戻ります。

少しシュンとした牛黒は、ぼそっとつぶやきます。

「実は、おれ関西人じゃないんだ。」

「いや、それは知ってます。」

「青森さ、出身だ。」

「そうだったんですか!?」

牛黒は先ほどまで、ノリノリで関西弁講座をやっていたので、これも本当かどうかわからなくなる猫井川なのでした。

今回は、ヒヤリハットしたのは、牛黒だけでしたね。
とはいえ、事故や怪我になるようなものではないので、いつもと違う感じになりました。

指示伝達やコミュニケーションは、仕事をする上で非常に重要です。

ちょっとした言い方の違いが、誤った指示の実行になることもあるのです。

何よりも注意しなければならないこととして、コミュニケーションは、何を伝えたかではなく、相手に対してどのように伝わったかかです。

時として、自分の意図とは違った伝わり方をしていることもあります。

どんな時に、自分の意図と異なった伝わり方をするのでしょうか。
原因の1つは、言葉の違いです。

日本語しか分からない人に英語で指示をしても分かりませんよね。
これは明らかに、理解ができていないというのが分かります。

微妙なのが、同じ言語であっても、理解できないということがあることです。

今回のお話でもあった方言などは、一例ではないでしょうか。

同じ動作であっても、地方によって表現が異なるのが方言です。
「ゴミを捨てる」を、関西では「放る(ほる)」等と言い、東北では「なげる」と言います。
「放る」も「投げる」も別の意味があります。違う地方の人が聞くと、どうしても「投げる」=「捨てる」とはわからないのです。
同じ地方であれば、問題ありませんが、様々な出身地の人が集まる場所では、こういったほんの少しの言葉の違いが、指示ミスにつながることもあります。

関東地方では「片付ける」ことを「片す(かたす)」と言います。これは関東以外では?となりかねません。
場合によっては「立たす」と勘違いしてしまうことも。

もしコンパネを「片しておいて」と指示した場合、「立たす」と誤解した人が、コンパネを壁に立てかけたとします。
立てかけていたコンパネが倒れ、下敷きになる人がいれば大事故ですね。

この時、真っ先に責任を問われるのは、コンパネを立てかけた人でしょうが、誤解を生む指示をした人にも責任がゼロとも言えません。

ミスコミュニケーションは、時として事故を招くのです。

それでは、ヒヤリハットをまとめます。

ヒヤリハット 関西弁で指示をしていたら、相手に正しくない行動をとらせそうになった。
対策 1.相手に分かる言葉で指示を伝える。
2.指示を受けた人は、内容を復唱して、お互いに指示内容に誤解がないことを確認する。

指示間違い、誤解は大事故の原因になったりします。

よく映画などで見るシーンですが、自衛隊などで時間を確認する時、10:00を「じゅうじ」とは言わず、「ヒトマル、マルマルじ」と言いますね。
これは、聞き間違いなどをなくすために、あえて回りくどい言い方をしているのです。

きちんと伝えることは、ミスを起こさないためにとても大切なことなのです。

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