○ショートストーリー”猫井川ニャンのHH白書”

保楠田、ショベルカーの扉より滑り落つ

9304672042_a493ac3cb4_c.jpg

こんなヒヤリハットがありましたので、対策とともにご紹介したいと思います。

犬尾沢たちのチームは、河川工事の現場に応援に行くことになりました。

この川は、昨年大雨で、土砂が大量に流れこみ、底が浅くなっているのでした。
浅くなった川のままだと、水の流れも少なくなります。
それにまた大雨があった時には、洪水になってしまいます。

そのため川の中を浚渫、つまりたまった土砂を運び出す工事をやっていたのでした。

とはいえ工事は、後半に突入しています。
もう川の中の作業は終わりです。残りは工事の時、ショベルカーなどで踏み荒らしてしまった堤防を、きれいに整えることだけです。

工事の後半で、人手が足りなくなったので、応援に行ったのでした。

応援に向かうことになったのは、犬尾沢を始めとして、猫井川と保楠田、そして鼠川でした。

現場に着くと、犬尾沢は早速、現場監督と話し、作業内容などの確認から始めました。

犬尾沢が打合せを行っている間、猫井川たちは、作業場をぼんやり見渡していました。

昨日は雨降りだったので、やや土はぬかるんでいます。
コンディションはあまりよくありませんが、やらなくてはなりません。

「よーし、今日の作業を確認するぞ。」

打合せを終えた、犬尾沢は全員を集め、作業内容の確認を行います。

「あそこに置かれているショベルカーで、堤防の法面を整形してきます。
 それは、保楠田さんにお願いします。
 俺と、鼠川さん、猫井川は届かないところを、整えていくから。」

「土が湿ってるから、あまり締め固められないかもしれないけど、急ぎということで、進めていきましょう。
 斜面だから滑り落ちないように。」

犬尾沢が作業内容を指示すると、それぞれ準備に取り掛かりました。

犬尾沢は小型のタンパ、振動で土を締め固める機械を持ち出し、猫井川と鼠川は、ジョレンやスコップを手にします。

「滑り落ちないよになー」

犬尾沢が改めてみんなに言います。

保楠田が乗り込もうとするショベルカーは、堤防の上にあるのですが、車体が半分法面に掛かっており、斜めの状態で停められています。
工事中ではあるものの、多少人が行き来するので、堤防に人が通れるだけのスペースを取らないければならないので、こんな停め方をしているようです。

「よく落ちないもんですね。」

斜めに傾いて停められているショベルカーを見て、猫井川は疑問を口にします。

「意外とタフだよね。」

猫井川と一緒にショベルカーに向かっていた、保楠田が答えました。

「こういうのってタフっていうんですかね?」

軽く笑いながら、それぞれに持ち場に向かって行きました。

「こんなに傾いていると、かなり乗りづらいよ。」

車体が斜めなのですから、保楠田乗り込もうとしている出入口も斜めです。

斜面とは反対側に出入口があるので、扉を開け、中に降りて乗り込まなければなりません。

「扉が開けづらい。」

本来水平に開くはずの扉も、上に持ち上げなければなりません。
それなりの重量があるので、非常に重く、開けづらいことになっているのでした。

フンフンと力を入れて、何とか扉を開け、ようやく乗り込むことができました。

「乗り込むだけで、疲れるよ。」

保楠田がつぶやきます。

「ほんと、そんな感じですね。」

猫井川は、ハハハと軽く笑い、ショベルカーから離れて行きました。

ブォォォンと、エンジンを掛け、しばらく暖気した後、ショベルカーは動き始めました。

堤防の上に登りようやく車体は水平になりました。
保楠田は、ショベルカーの上部を旋回させ、アームを法面に向けました。
そして平になったバケットの背で、法面を強く押し、土を固めていくのでした。

少しずつ少しずつショベルカーで法面を押し固めていく一方、斜面の下側では犬尾沢たちが作業を行っていきます。

ショベルカーと手作業の違いはあれども、法面を固めていく作業には違いありません。

少しずつですが、機械と人とで協力し、仕事を進めていきました。

作業を進めていると、少し晴れ間がのぞいてきたので、湿った地面も少しずつ乾いてきました。

12時近くになり、お昼休憩をとることになりました。

昼食は、弁当を持ってきている人もいれば、買い出しに行く人もいます。
猫井川と保楠田は買い出し組でした。

ちなみにエスパニョールのお弁当は、愛妻弁当でした。

猫井川たちが、道具をまとめている時、保楠田もショベルカーを停車しました。
通行人がいるかもしれないということなので、停車中は車体を斜面にかけて停めます。

「作業中だから、堤防の上に置いててもいいんじゃないですか?」

猫井川は言うのですが、現場監督の意向で念のため、そうしてして欲しいそうです。

「通行止めにしておけばいいのに。」

猫井川の言い分に、犬尾沢も「全くだ」と同意します。

そんな話をしていると、保楠田は停車し終え、車外に出ようとしました。

朝、出入口が上向きになっていて、入るのに苦労したので、今度は斜面側、つまり下向きにしていました。

そんな状態ですので、扉を開けると、ドーンと勢いよく開いてしまいます。
そして、車体から降りようとした時でした。

つるぅ!

足を置いた場所は、まだ生乾きの斜面です。
しっかりと地面をつかむことできなかった、保楠田の右足は滑り、そのまま斜面を落ちていったのでした。

ザザザと音を立てて、3メートルくらい滑り落ちた所で、ようやくストップしました。

保楠田の作業着は上も下も泥がべったりです。

「大丈夫ですか!?」

その様子を見ていた、犬尾沢や猫井川が声をかけます。

「だ、大丈夫。足が滑っただけ。」

ゆっくり立ち上がりながら、保楠田が答えます。

「怪我はないですか?」

「大丈夫。どこも怪我はないよ。でもドロドロだ。。」

パンパンと作業服の泥を払おうとしますが、水気を含んだ土はべったりついてしまっていました。

「猫ちゃん、悪いけど、俺の弁当も買ってきてくれる。」

このままではコンビニにも行けないなと思ったのでしょう。
猫井川に買い出しを任せました。

「あ、はい。分かりました。
 でも、扉が斜めだと入りづらいですね。」

「そうなんだよね。参ったよ。」

2人のそんな会話を聞いていた、鼠川がポツリ。

「扉を斜面に対して上とか下ではなくて、横にしたらいいんじゃないか。」

ハッ!
そうか、別に横にしてもよいのだ!

それなら、もう少し早く言って欲しかったと思う保楠田なのでした。

今回は、ショベルカーの乗り降りの時のヒヤリハットです。

小型のショベルカーを除き、ショベルカーの運転席はガラスで覆われた部屋になっていることが多いです。
これは、飛び石や落石などから運転手を守ると同時に、雨や風もしのげるようになっているのです。

とはいえ、冷暖房がついていなければ、夏は暑くて、冬は寒いのはかわりありません。

運転席の扉は、車体の側面にあります。
扉を開けて、出入りします。

通常は車体は水平な場所で停車しますから、何の支障もありませんが、今回のように時として、通常ではない場所で停車していることもあるのです。

私も先日、近くの堤防の斜面で、斜めになりながら停まっているショベルカーを見ました。
ちょっと押したら転がり落ちるんじゃないかと思うほどです。

ショベルカーの足回りは、クローラー(キャタピラ)なので、タイヤに比べ安定度はあります。
しかし見ているだけで危うさを感じてしまうのですから、実際は本当に危険ではあります。

ほんの少しバランスを崩したら、機体ごと落ちてしまうことでしょう。

保楠田は、機体ごと落ちるのではなく、降りる際に本人だけ滑り落ちました。
これも幸いというわけではありませんが、怪我がなくて何よりです。

もし法面に石があれば、それにぶつかり大怪我になったことも考えられます。

作中では、現場監督の意向でとしていましたが、よい停車方法ではありませんね。

私が斜めになったショベルカーを見たのは日曜だったので、作業停止中の通行者を配慮してかなと思われます。

作業を再開する時に、なるべく重機は作業場付近においておきたいというのは、十分に理解できますが、工事関係者以外も行き交う場所なのですから、もうちょっと置く場所は考えてもいいんじゃないかと思いました。

最後に、鼠川が「扉を法面に対して横にしてもよいのでは」と言っていましたが、アームの向きを考えると、いい停め方ではないです。

保楠田たちは、ニュートンの卵!の如く、驚いていましたけどね。

さて、今回の話をまとめます。

ヒヤリハット 堤防の斜面でショベルカーを停車したら、降りる時に、斜面を転げ落ちた。
対策 1.ショベルカーなどの重機は、平で安定した場所に置く。
2.乗り降りする時に、危険がないような位置に扉を向ける。

ショベルカーなどの重機は、作業中にも危険がないようにしなければなりません。
しかし、停める、動かし始めるといった動作の時にも注意が必要です。

ショベルカーは、悪路でも安定して動きます。
その分無理をきいてくれる機械です。

しかし、それに安心して無理をさせすぎると、一気に崩れ落ちることもあります。

少々法面で、斜めに停車しても大丈夫でしょうが、それが当たり前と思うのは避けたほうがいいです。

自分が安心だなと思える範囲での、運用が機械にとってもよいのではないでしょうか。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA