○ショートストーリー”猫井川ニャンのHH白書”

猫井川、突き出すクギで靴を貫く

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こんなヒヤリハットがありましたので、対策とともにご紹介したいと思います。

コンクリート打設を行い、養生期間を経て、固まったコンクリートから、型枠を取外事を、俗に脱型、型バラシといいます。

日常的にコンクリートを扱う猫井川たちは、型枠を組み立てること、バラすこともよく行うのです。

猫井川も、幾度となくこれらの作業を行い、今では一人前とまでとは言いませんが、あるい程度は仕事を任されるようになってきたのでした。

今日の猫井川の仕事は、先週打設したコンクリートの脱型作業です。
さすがに1人では無理なので、エスパニョール鼠川と一緒です。

「猫井川も段々仕事を任されるようになってきたな。」

現場に到着すると、鼠川が言いました。

「こういった雑用がほとんどですけどね。
 犬尾沢さんみたいに現場を任されるのは、まだまだ先になりそうです。」

「まあ、それは追々だな。
 資格はなにか持ってるのか?」

「いや、まだ持ってないです。
 会社からは、あと何年か経ったら2級土木施工管理技士を受けろとは言われてるんですけど。
 割りと長い実務経験が必要なんですって。」

「そうか、それまでは現場経験を積むのが大事だな。
 それにしても、今は何でも資格資格だな。」

「ほんとに。学校出てからのほうが勉強することが多いですよ。」

「全くだ。何をするにしても、講習だー、試験だーというのが必要だから。
 まあ、資格を取っていれば、無駄にはならんからな。」

「そうですね。」

「それより、今は現場を覚えろ!
 お前はまだまだ仕事が粗いし、ツメが甘い。それにうっかりが多い。」

資格の話をしていたところ、何故か最後は説教になっていくことに理不尽さを覚えながら、作業に手を付け始めたのでした。

「犬尾沢さんから言われているのは、この型枠をバラして、コンパネとかは持ち帰ってくれということみたいです。
 ばらした後は、リボン尺とかで出来形の写真とっておいてくれということ」

作業内容について、猫井川が簡単に説明をします。

「そうか、それじゃ、始めるか。
 コンクリート傷つけないようにな。」

「はい。毎回言われるんですけど、そんなに信用ないですかね?」

「まあ、その辺りは仕事で示すしかないな。
 毎回言われるってことは、まだまだ半人前ということだ。」

ぐむむむと、言葉にならないうめきを出す猫井川でした。

2人はハンマーを手にすると、型枠を内から外へと叩いてきます。
こうして、クギを抜いていくのでした。

カン、カンと叩くたびに、クギが抜け、型枠が外れていきました。

型枠を固定する桟木もどんどん取り外していきます。

取り外した桟木や木片は、後でまとめて片付けるため、近くに放り出しているのでした。

だいたい半分くらいの型枠外しが終わった時でした。

少し深くクギが刺さっていて、何度叩いても抜け切らないところがありました。

「鼠川さん、全然叩いても外れないんですけど、どうしたらいいですかね?」

困った猫井川は、鼠川に尋ねました。

「あー、そういう時は、バールを使ったほうがいいかもな。
 バール持ってきてただろう?」
「はい。車に積んでるんで、取ってきます。」

そう言うと猫井川は、ハンマーをその場に置き、車に向かって歩き始めました。

車までの途上には、先ほどからバラしては、放り投げていた木片が散らばっています。
猫井川は、それらの木片を気にせず歩いて行きました。

車の中からバールを取り出すと、肩に担ぎながら、元来た道を歩き始めました。

また木片が散らばる箇所を歩いていた時です。

踏み込んだ右足に少し抵抗を感じました。

何だろうと思い足元を見てみると、そこには木片が靴にぴったりと張り付いているのでした。

足を上げてみると、木片も一緒に付いてきます。

あれっと思って、よくよく見てみると、なんと靴のすぐ側にクギが生えているのでした。
どうやら木片に刺さっているクギが、靴底の側面を貫通して、飛び出してきたようです。

幸い貫通したのは靴底のゴムだけなので、足に刺さってはいないようでした。

「鼠川さん、こんなことになってしまいました。」

足を持ち上げ、鼠川に見せました。

「おっ、どうなってんだ?
 あー靴に刺さったのか。足には刺さってないんだな?」

「ええ、大丈夫そうです。」

「もう1センチずれてたら、足を貫通してたな。」

「1センチですか。ギリギリですね。」

「もうちょっとだったのにな。惜しかったな。」

「洒落になりませんよ。」

クギは根本まで刺さっているので、足をぶらぶらさせただけでは抜けそうにありません。

猫井川は手にしたバールを使い、木片を押して、クギを抜いたのでした。

「バールもこんな使い方をされるとは思わなかったようだな。」

「全くです。」

「まあ、歩くときには足元を注意しろということだ。」

「今さらながら、刺さっていたらと思うとぞっとしますね。」

そう言うと、散らばった型枠材を片付ける、猫井川なのでした。

その後、作業は順調に進み、無事型枠のバラしと出来形の写真撮影は終わりました。

今回の猫井川は、2箇所コンクリートを傷つけ、モルタルで補修となりました。

その様子に、

「やっぱり、次もコンクリート傷つけるなよと言わなきゃならんな。」

少々呆れ気味の鼠川なのでした。

今回は、踏抜きのヒヤリハットです。

型枠通しは、クギでつないでいきます。
コンクリートの圧力は非常に強いため、1箇所につき何本ものクギで固定し、さらに桟木で囲うなどして、頑丈にしていきます。

型枠はコンクリートが固まるまでの間は必要ですが、固まったらばらしていきます。

型をばらすときに注意しなければならないのが、取り外した残材による怪我でしょう。
木の切れ端やクギなど、無防備にしていると怪我にするものがたくさんあるのです。

危険とわかっていても、慣れていると気にもとめなくなるもの。
クギが空を向いて放置されていても、現場では放置されることもしばしばではないでしょうか。

建設業では、ほとんどの場合、作業時は安全靴を履きます。
しかし安全靴は、つま先のところに鉄板などで補強されているものがほとんどです。

実は靴底はゴムのままなので、踏抜きには弱いのです。

単純に靴底にも鉄板を入れて補強すればとも思うのですが、そうすると靴が曲がらなくなり、歩きづらいことこの上なしになるので、実用的ではありません。
鉄板のインソールというのもあるのですが、これも歩きづらくなるので、コンクリートから鉄筋が飛び出て撤去できない場所などで、使用するに限られます。

踏抜きは、足元、足の裏を襲う事故なので、注意が行き届かない恐れがあります。

五寸クギなどは容易に足を貫通してしまいます。

実は転倒と同じくらい危険なのが、踏抜き事故と言えます。

猫井川は幸い、靴底を貫通させただけですみました。
鼠川が言うように、もしあと1センチ内側だったら。
無意識の力は加減がないので、クギが足からはえていたことになったでしょう。

想像するだけでも、痛くて怖いですね。

それでは、ヒヤリハットをまとめます。

ヒヤリハット 型をばらした木片の間をあるいていたら、クギを踏み抜いた。
対策 1.残材は1箇所にまとめる。
2.残材がある場所はあるかない。

不注意による事故を避けるためには、事故の要素を極力減らすことが大事です。

事故の要素を減らすためには、整理整頓など4Sを行うことです。

今回の場合であれば、残材をその辺りに放り投げず、1箇所にまとめておけば、通路が確保できていました。

あちこちに荷物などが散らばっていると、物を置く場所と通路が、一緒になります。
つまり、通路に危険要素がたっぷりということになるのです。

建設現場であろうと、事務所であろうと4Sを徹底し、通路には物を置かない。
これが安全で最も基本的なことと言えますね。

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