厚生労働省労働局長登録教習機関
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こんなヒヤリハットがありましたので、対策とともにご紹介したいと思います。
第39話「鼠川、年寄りの冷水ならぬ、赤ペンキの出会いを語る。」 |
猫井川と鼠川はコンクリートの型枠をとる作業を終え、事務所に戻ってきました。 「犬尾沢、今日型枠を外したのを、まとめておいたけど、あれは再利用するのか? 鼠川は、返ってきて早々、合板で出来た型枠の再利用について、聞きました。 「ええ、一応そういう方針です。 犬尾沢も、少し渋い顔をしながら答えました。 彼もそう指示を受けてのことのようです。 「ああ。まあ結局はしばらく寝かせて、廃材で処分というところになるな。 「そうですよね。一応名目上やってるんで、クギを抜くとか手間をかけてしまうんですけど。」 「今の時期なら、そんなに忙しくないから構わんが、建て込んできたら出来ないぞ。」 「その時になったらいいです。 どうせ、そのうちウヤムヤになるでしょうし。」 「だよな。 ワシも猫井川から話を聞いて、なんだか意味がわからんかったが、そういうことか。」 「すみませんが、お願いします。」 犬尾沢もすまなさそうに、鼠川に言いました。 「それじゃ、猫井川よ。 仕事もしまって、飲みに行くか。」 作業日報を書き終えると、鼠川は猫井川に言いました。 「ええ、行きましょう。」 猫井川も答えました。すると、 「あれ、猫ちゃんたち飲みに行くの?」 と保楠田が聞きました。 「ええ、これから行くんですよ。保楠田さんも行きます?」 猫井川が聞きました。 「いいの?鼠川さん一緒に行ってもいいですか?」 保楠田が聞きました。 「おう、構わんぞ。ワシの嫁さんの店は初めてか?」 鼠川も、快諾しました。 何気に行く店も決まったようです。 「初めてですね。よし行きましょう!」 保楠田も加わり、3人で鼠川の奥さんの父親がやっているスペイン料理屋に向かっていったのでした。 店に入り、保楠田は鼠川の妻、ラータに初めて会い挨拶をしました。 「鼠川さん、写真以上にきれいな奥さんですね。」 保楠田は、羨ましそうに言いました。 「そうだろ。羨ましいだろう。」 「全く。」 そんな話をしていると、飲み物も揃ってきました。 「それじゃ、乾杯!」 鼠川が号令をかけ、3人のグラスがチンと小気味いい音を鳴らしたのでした。 「保楠田も型枠で使ったコンパネの再利用の話は聞いたか?」 グラスを一気に飲み干すと、鼠川が聞きました。 「そうらしいですね。木だから再利用厳しそうですけど。」 保楠田も、グラスの中身を減らし、そう答えます。 「だよな。犬尾沢にも言ったんだが、とりあえずポーズみたいなもんらしい。 「何の意味があるんですかね。」 「全くな。たまに訳のわからないことを言い出すよな。」 鼠川と保楠田がそんな話をしていると、猫井川が口を挟みました。 「ところで、鼠川さん。 奥さんと出会った話を聞かせてくださいよ。」 すると、保楠田が、 「何ですか、それ? 面白そうな話ですね。」 と食いついてきました。 「まあまあ、落ち着け。 昼間そんな話を猫井川としててな。 あれは、ワシが会社を定年退職してからのことだが・・・・」 今から2年前。 鼠川は、長年勤めていた会社を定年退職しました。 今までずっと仕事を生きがいにしてきたので、毎日やることもなくだらだらと過ごしていました。 鼠川チュウ一郎、60歳。 仕事に従ってきた男は、今現在従うべきものを見失っていたのでした。 ともかく、暇を潰すためにブラブラと散策することで、気を紛らわせていたのでした。 そんなブラブラするだけの日々のことでした。 内装工事などは、普通業者が入ってやります。 「ああ、海外では部屋の内装を自分たちでやったりするから、そういうのかな。」 その様子を見て、鼠川はそんなふうに思うものの、特に気を止めませでした。 それから、毎日散歩をするたびにその光景を見ました。 そんなある日、鼠川がいつものように歩いていると、目の前に何かが落ちてきました。 ベチャ! 思いの外大きな音を立てて、足元が赤く染まっています。 何事か!血か!? 鼠川は一瞬焦りを覚えました。 しかし自分の体のどこからも出血はしていません。 怪我とかではなかったとほっと安心すると、頭上から声がかかりました。 「ゴメンナサイー。サイン書いてたら、落としちゃて。」 鼠川が見上げると、そこには脚立に乗った、外国の女性がいたのでした。 若く健康的で、背中に陽の光を背負ったその人は、とても美しく感じたでした。 どうやら、看板をペンキ塗りしてたところ、誤ってハケを落としてしまったようでした。 「だいじょうぶ?あたってない?」 少し片言ではありますが、流暢な日本語で聞いてきます。 「オーケー、オーケー、ダイジョブ! どこもついてないよ。サンキュー」 思わぬ異文化コミュニケーションに、しどろもどろになりながらも、応える鼠川。 「ほんと?」 と言いながら、その女性は脚立を下りてきました。 「おー!足にちょっとついてる。」 その女性は、鼠川の足元を見て、そう言いました。 「まあ、これくらいならだいじょぶ。気にしないで。」 鼠川は言います。 「ごめんなさい。洗います。」 女性は、申し訳無さそうに言います。 「いやいや、気にしなくていい。 ほんと、だいじょぶだから。 それより、ここのお店、ずっと工事してるけど、自分たちでやってるの?」 ずっと謝れられるのから何とか話題を変えようと、鼠川は工事について尋ねました。 「はい。私とおとうさんの2人で、ずっとやってます。」 その女性は答えました。 「そうなの。工事する人にたのまないの?」 鼠川は、率直に聞きました。 「たのめないです。あまりお金ないから。」 女性は、少し申し訳無さそうに言いました。 「むずかしくないの?」 さらに、鼠川が聞きました。 「むずかしいけど、しかたない。」 そう女性が答えると、しばらく沈黙が流れました。 「もし、よかったら、ワシ、てつだおうか? 突然、言い出しました。 「え!?でもそれは悪いです。」 「いまは毎日ヒマ。だから手伝おう。2人でやるより早い。」 「でも。。。」 と、女性が言いよどんだ時、突然、室内から声がかかりました。 「ぜひ!お願いします!」 それは、鼠川より少し年下くらいの、濃い顔の男でした。 「パパ!」 女性が言いました。 「2人で、こまってます。手伝いお願いします。」 その男は、鼠川に頭を下げました。 「おう!この鼠川、手伝いましょう!」 そういうと、男は鼠川の手を握り、「ありがとうございます。」と、喜色満面の表情を浮かべたのでした。 「ワシは鼠川チュウ一郎です。これからよろしく!」 鼠川は、2人にそう自己紹介をしました。 「私は、ラータです。」 女性も名乗りました。 「私は・・・・」 男も名乗りましたが、改めて見る女性が美しく、鼠川にはその声は届かなかったのでした。 「・・・それが、奥さんですか?」 話を聞き終えると、猫井川が尋ねました。 「おう、そうだ。それが出会いだ。」 ワインを空けながら、鼠川が言います。 「それから、どうしたんですか。」 保楠田が聞きました。 「まあ、暇をしてたから、毎日手伝いしてたな。」 「でも、どうやったら、結婚になるんですかね?」 保楠田が、最もな疑問を口にします。 「それは、その後色々あってだな。」 鼠川の話は、まだまだ続きそうです。 |
ヒヤリ・ハットの補足と解説 |
今回から鼠川の出会いの話です。
このような恋愛絡み話を書くなんて思っても見ませんでしたが、よりにもよって、60歳の人の恋バナなどという感じです。
出会いのきっかけは、全開「恋は落ちてくるもの」と言ってのけたように、上から物が落ちてくるというものでした。
猫井川に落ちてきたのは合板でしたが、鼠川に落ちてきたのはペンキ付きのハケでした。
これはもし当たっていたら、なかなか厄介なことになっていました。
ペンキは一度体に着くと、なかなか落ちません。
髪につこうものなら、最悪切るしかなくなります。
これはなかなか厄介なのです。
テレビやCMでほっぺたにペンキを着けているシーンを見たりしますが、実際に着くと、落とすのにかなりの時間を要します。
ペンキは厄介ですが、これが他の物だったら、危険ですね。
ラータは脚立の上で作業していましたが、脚立上には物を置いたりするスペースはありません。 天端に置いたとしても、安定しません。
近くにいる人にとって、脚立の上から物が落ちてくるのは、危険だったりします。
作業をしていた2人は、内装等の作業に慣れていないので、鼠川から見ると危なっかしくて仕方なかったことでしょう。
目の前の作業に集中していると、手元においた道具などは目に入らなくなります。 これはベテランであろうが、変わりません。
対策としては、気にしなくてもよい状態にすることがあります。
建設業等の作業者は、腰回りに道具をぶら下げていますが、これはあちこち置かず、安置するための工夫なのです。
腰の周りに色々着けているのは、すぐに道具を取り出すためだけではないんですね。
それでは、ヒヤリハットをまとめます。
ヒヤリハット | 脚立の上で、ペンキを使っていたら、ハケごと落とした。 |
対策 | 1.落下防止のための、ネットやシートをつける。 2.落下しない安定した場所を確保し、必ず安置する。 |
飛来・落下の事故は、落下地点にいる人にとっては、不意を突かれます。
当たってから気づくというケースも少なくありません。
上方にいる人の対処が、最も大事なのです。 落とさない工夫をすること。高い所で作業する人の義務とも言えます。
落ちてくるのは、恋だけでいいです。
さて、鼠川の恋の道は、次回に続きます。