○コラム○健康と衛生

「意識高い系」がはまるブラックの世界の思い出と、メンタルヘルスケア。

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もう何年も前になりますが、私は自己啓発系のセミナー会社にいました。

トレーナーと呼ばれる講師に憧れ、人を前向きに輝かせるような仕事をしたい。
当時の私は、そんな気持ちに溢れ、非常に高いモチベーションを持ってました。

ところが、どっこい

その高いモチベーションは、たった1年で、燃え尽きました。

最終的に、胃潰瘍3箇所、ますます増えた体重です。
さらに、巨大な挫折感と、周囲への罪悪感。

現実は甘くありませんでした。

index_arrow 自己啓発で、自己嫌悪

私は大学4年の時に起業しました。
仕事での役割は、営業でした。しかしアポを取るのが苦手意識があり、うまくいっていませんでした。

そんな時、あるセミナー会社にアポイントを取ることができました。
会ってみると相手は、海千山千の営業のプロ。
営業に行った所、営業を掛けられてしまい、クロージングされていたという始末。

全く為さなけないことですが、これが自己啓発セミナーというものと出会った瞬間でした。

いくつかのセミナーを受講すると、どんどん自分の意識が高くなるような、モチベーションが高くなるような、そんな感じになりました。
また、成功されている方、とてもハツラツとされている方と出会う機会が増えたことも、私をより高いモチベーションの世界に連れて行きました。

「目標・ビジョンを明確にする」
「タイムマネジメントが重要」
「仕事はFOR MEではなく、FOR YOUであるべし」

さて、耳にしたことがあるのでは?
普段の会話の中にも、このようなフレーズが入りました。

いつしか
「おれは、多くの人とは違うぜ!高い目標に向かっているんだ!」
という「意識高い系」になっていったのです。

ところが、実際の仕事はどうかというと、口だけで実状あまり変化なしだったのは言うまでもありません。

私を「意識高い系」に進化させたセミナーは、やがて私をセミナーの主催者側へと憧れを植え付けます。

私は、セミナーのトレーナーになりたいと思うようになりました。

その憧れを抱き、起業した仕事を辞め、自己啓発セミナーの会社に入社しました。

外から憧れるのと、中に入るのでは、全く違うもの。
これはセミナー会社でも同じでした。

もともと営業ベタの私が、実際に手に取ることが出来ないセミナーを売ることとなどできず、四苦八苦になりました。
しかし毎月設定され、繰り越される目標数字、毎週月曜日は半日詰められます。
土日祝日はセミナーなので、当然出勤です。
毎日終電間近まで働きますが、残業代はありません。
社会保険、雇用保険、年金、なにそれ?

今で言うブラック企業に入るのでしょうが、当時の私には、それが当たり前の世界でした。

なぜなら、私には高い目標があったから。
私の意識は絶好調に高かったから。

とはいうものの、金も時間もないので、スーツは薄汚れ、深夜にバカ食いをして、体型も太っていきます。
当時のスーツは、パンツの股の部分が擦り切れて、穴が開いてるのばかりだったんですよ。

そんな状態でしたが、お客さんが、かつての私と同じように、高いモチベーションを持っているのですから、私は出来る人を振る舞わなければなりません。
スーツパンツの股間が破れているなど、知られてはいけなかったのです。

情けない振る舞いを繰り返す私でしたが、次第に葛藤が芽生えました。
本当にセミナーが役に立つのだろうか。
もう、根本的な問題ですが、確信が薄れていったのでした。

社内では、「このセミナーを進めることが、お客さんの成功を助ける!セミナーに導入することが愛なのだ。」と言われます。
自分でもそう宣言します。
セミナー受けたお客さんも、テンションが高いので、同じことを言います。

しかし私自身は、高い意識と現実のギャップは苦しいのです。
本人のテンションは爆発的に向上します。
一方で、周りは変わらず。自分の脳力も変わらず。結果も変わらず。
いつしか心はヒビだらけなのを感じます。

そして、私が携わったお客さん、知り合ったお客さんは1000人近くになりますが、ほとんど成功への道を進んだ人がいないという事実。
一部例外は、もともと高い結果を残していた人たちだけ。
自分を変えて、成功の道を歩んだ人を、私は1人も知りません。
私が知るかぎり、全てのお客さんは1年以内に、セミナー会社からの電話を拒否になりました。

私は自己啓発セミナーを勧めることを、心の何処かで抵抗を感じていました。

自分の気持ちと、仕事は別と割り切ればいいのでしょう。
しかし、もともと営業ベタな私は結果を出せずにいました。
(これについては私の能力と努力不足ですけどね)
当然、毎日のように説教を受けます。 家に帰っても、説教の電話がかかってきたのでした。

中でも、最もやらかしたエピソードを1つ。
テレアポしたくなかった私は、嘘電話をかける方法を編み出します。
それは会社の電話から自分の携帯に電話をかけて、さもアポ入れをして断られているかのようなものです。
周りで聞いている社員には、仕事しているように見えていたはず。 
1日中、自分に掛けて、独り言を言ってたのです。
なんともバカみたいな話ですが、こんなこともやってました。

当然のことながら、後々バレて、大説教と電話代を支払うことになったのでした。
テレアポが嫌いな方。この方法は、なかなか負う傷がでかいようです。

こんな感じだったので、常に鞄の中に辞表を持っていました。
どんどん心と体が病み、ある日、勢い余って、辞表を提出したのでした。

退職金なし。
自費で受けたセミナー代金を一括返済。 (40~50万くらい)
胃潰瘍。
電話恐怖症。
9割の人間関係喪失。

高い目標を持ち、意識高い系の言動を繰り返していた私は、これだけのものをお土産に、都落ちしたのでした。

仕事で仲の良かった人に退職の連絡をしたら、会社からお叱りの電話がかかってくる始末。
そのため電話は今だに好きになれません。

index_arrow メンタルヘルス調査の義務化

さて、意識が高かろうが低かろうが、仕事において過剰なストレスを抱えてしまうことがあります。

今まであれば身体の怪我などによる労災対策は講じされてきましたが、精神面に対する対策は見過ごされてきました。

しかし、近年長時間労働を強いたりするブラック企業という用語も一般化し、精神面も労災があるんじゃないという風潮になってきました。

そして、平成27年度より、職場のメンタルヘルスケアも義務化されるようになります。

平成27年度の安衛法改正では、これが最も大きなポイントになります。

今後は、従業員が50名以上の事業場では、メンタルヘルスのチェックが義務になります。 50名未満の事業場は、義務でありませんが、外部の医師などと連携し、対応することが求められます。

厚生労働省による指針は、こちらです。
「心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」について(基発0501第7号平成27年5月1日)(PDF)

安衛法で、関係する条文は次のとおりです。

【安衛法】

(心理的な負担の程度を把握するための検査等)
第66条の10
事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、
医師、保健師その他の厚生労働省令で定める者
(以下この条において「医師等」という。)による 心理的な負担の程度を把握するための検査を行わなければならない。

2 事業者は、前項の規定により行う検査を受けた労働者に対し、
  厚生労働省令で定めるところにより、当該検査を行った医師等から
  当該検査の結果が通知されるようにしなければならない。
  この場合において、当該医師等は、あらかじめ当該検査を
  受けた労働者の同意を得ないで、当該労働者の検査の結果を
  事業者に提供してはならない。

3 事業者は、前項の規定による通知を受けた労働者であって、
  心理的な負担の程度が労働者の健康の保持を考慮して
  厚生労働省令で定める要件に該当するものが医師による
  面接指導を受けることを希望する旨を申し出たときは、
  当該申出をした労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、
  医師による面接指導を行わなければならない。
  この場合において、事業者は、労働者が当該申出をしたことを
  理由として、当該労働者に対し、不利益な取扱いをしてはならない。

4 事業者は、厚生労働省令で定めるところにより、前項の規定による
  面接指導の結果を記録しておかなければならない。

5 事業者は、第3項の規定による面接指導の結果に基づき、
  当該労働者の健康を保持するために必要な措置について、
  厚生労働省令で定めるところにより、医師の意見を
  聴かなければならない。

6 事業者は、前項の規定による医師の意見を勘案し、
  その必要があると認めるときは、当該労働者の実情を考慮して、
  就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、
  深夜業の回数の減少等の措置を講ずるほか、当該医師の意見の衛生委員会
  若しくは安全衛生委員会又は労働時間等設定改善委員会への報告
  その他の適切な措置を講じなければならない。

7 厚生労働大臣は、前項の規定により事業者が講ずべき措置の
  適切かつ有効な実施を図るため必要な指針を公表するものとする。

8 厚生労働大臣は、前項の指針を公表した場合において必要が
  あると認めるときは、事業者又はその団体に対し、当該指針に
  関し必要な指導等を行うことができる。

9 国は、心理的な負担の程度が労働者の健康の保持に及ぼす影響に
  関する医師等に対する研修を実施するよう努めるとともに、
  第2項の規定により通知された検査の結果を利用する
  労働者に対する健康相談の実施その他の当該労働者の健康の
  保持増進を図ることを促進するための措置を講ずるよう
  努めるものとする。

メンタルヘルスケアの導入について、講習等が開かれているので、総務や人事の担当者は受けられているのではないでしょうか。

従業員数によりますが、義務化される話なので、事業者は必ず確認しましょう。

問題は、従業員50人未満の会社なんです。

私が所属していたセミナー会社は、社長を含め従業員は5人でした。
当然、今回の法改正でも、対象外です。

当時の知り合いに話を聞くと、今なお社員が入っては辞めを繰り返しているようですから、決してよい経営とはいえません。
なんといっても、この会社では、全ての病気は詐病、つまり嘘であると周知徹底されていましたから。
胃潰瘍も嘘、インフルエンザも嘘になる会社、躁うつ病など気のもので一蹴されるだろうと、想像してみます。

また、今年からブラックな就業を強いる企業を公表するようです。

ブラック企業、社名公表18日から 厚労省が対策発表 日本経済新聞 平成27年5月15日

しかし、対象は大企業のみ。
中小企業は含まれません。 理由は、多すぎるからです。

雇用のあり方の改善は、まだまだのようです。
きっと、当時の私のような人も減らないでしょう。

メンタルヘルスの義務化はゴールではありません。
第1歩目であり、これからより裾野を広げる活動を繰り返す必要があります。

index_arrow 最後に余談ですが。

自己啓発セミナーにいたとき、セミナーを受講する人には特徴がありました。
保険などのフルコミッションセールスと、ネットワークビジネスの人たち、たまに自営業。

いずれも、自分の人間力がモノを言う仕事ですね。

しかし、一般のビジネスパーソンにとっては、居心地の悪さはこの上なしだということは、想像に難くありません。 だって勧誘されるから。

私が自己啓発セミナーの会社で、1000人くらい受講生を見てきた経験から一言。

ネットワークビジネスを始める人の99%失敗するでしょう。
残念ながら、今語っている夢は決して叶うことはありません。

残るものは、商品の山だけです。
失うものは、友人家族からの信頼と莫大な金です。

成功者として紹介された人は、他のことでも超一流だった人です。
もしくは、成功しているように装っている人です。

平凡な主婦がいきなり、ベンツは買えません。
ジェットに乗ってハワイのコンペで受賞することはありません。
ましてや今の仲間はいつまでも残りません。

携わっている間は、仲間同士で熱い話ができるし、成功者然とした人とも知り合いになれます。
それが楽しい、私もそうなりたいと語りたくなりますよね。
私もそういう人たちと、熱く語らったものです。
ただその全員が1年以内に姿を消しました。

セミナーは麻薬のようなもので、一時的に気分良くしてくるだけですので、使用にあたっては、ご注意ください。副作用は現実とのジレンマです。

でも、セミナーの力ってすごいのもあるんですよ。
当時の私は、小汚く、ブクブク太っていました。 こんなのとも、ハグしてくれるんですよ。 男女ともに。なんて寛容な気持ちになるのか!

自己啓発セミナーは婚活にもいいんじゃないかな。
でも長続きしないだろうな。

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