厚生労働省労働局長登録教習機関
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こんなヒヤリハットがありましたので、対策とともにご紹介したいと思います。
第41話「鼠川、知名を十ばかり過ぎて、使命を知る」 |
鼠川は、ラータからの(ついでに親父さんからも)プロポーズを受け、一旦は受けようとも考えましたが、まだ悩んでいました。 (やはり年の差がな。 あの娘はまだまだ若いから、ワシよりもっといい人が見つかるはず。) 誰に相談することもできず、1人悶々としていました。 ラータからは、 「きゅうに言ったことだから、返事はすぐでなくてもいいよ。」 と言われています。 しかし、この店の工事はあと少しで終わります。 時間はあまり残されていないのでした。 (さて、どうしたものか。) 鼠川は、プロポーズのことが頭から離れないまま、毎日の仕事を行っていたのでした。 そんな中、ラータが描く壁画の仕上げを行なうことになりました。 「ラータの絵は何度見ても立派だな。」 鼠川は素直に感想を言いました。 「そう!?チュウにそう言ってもらうと嬉しいわ。ありがとう。 ラータは嬉しそうに言うと、ペンキを片手に、脚立に登り始めました。 1段目を登り、2段目に足をかけた時でした。 するっと、ラータの足が滑ります。 ラータが「あ、落ちる」と思った時、その背中がガシッと支えられたことに気がついたのでした。 どうしたのだろう?と振り向くと、そこには鼠川がいました。 「ありがとう、チュウ。助かったわ。」 転びそうになったドキドキと、鼠川に支えられた嬉しさで、弾けるような笑顔でお礼を言います。 「ん、あ、まあ、気をつけてな。」 照れくさそうな、鼠川。 ラータをしっかりと両足で立たせると、そそくさと別の仕事に向かったのでした。 「照れちゃって。」 ニッコリとつぶやくラータに見送られながら、鼠川も天井の仕上げをするために、脚立を引っ張り出しました。 腰道具をセットし、脚立に登ろうとした時でした。 このままでは、足を滑らせ、脚立もろとも前に倒れてしまいます。 ガシッと、自分の体が支えられるのを感じました。 スローモーションの世界から、等倍速の世界へ。 ふと我に返った鼠川は、後ろを振り向りました。 「あぶなかったね。チュウ。」 掴んだ腕を引っ張りながら、ラータが言いました。 「ああ、ありがとう。危なかったよ。」 やや呆然としながらも、鼠川が言います。 滑ったのか恥ずかしいのか、ラータに支えられたのが照れくさいのか、すぐに話題を変え、 「でも、なぜ滑ったのか」 と、脚立を見ました。 しかし、脚立には何もありません。 「なんだかヌメっとしたような気もしたが。 そう思うのと、同時に鼠川は少し考えます。 (こうやって、怪我をしそうな時支えられるのは、若い時依頼だな。) 現場の第一線で働いてきた鼠川にとって、怪我は日常茶飯事でしたが、全て自分の責任、事故解決するもだと思っていました。 (退職し、今このような場で作業しているのも、自分が誰かを支え、自分も誰かに求められているからだ。) 転倒しそうになったドキドキは、鼠川の脳裏にそんな考えが浮かばせたのでした。 (ワシがこの親子の開店準備を手伝い、支えているつもりだったが、この娘にも支えられてることも多いな。) (ラータが転びそうになった時ワシが支え、ワシが転びそうになった時はラータが支える。) (それもまたよしかもしれん。) 鼠川の中で、考えが巡るのでした。 「ラータありがとう。もう手を離しても、大丈夫だよ。」 鼠川は照れくさそうに言いました。 「そう?もうだいじょうぶ?」 ラータもそう言、鼠川から手を話したのでした。 やや見つめ合う2人でしたが、鼠川の視界の端では、親父さんが脚立につまづき転んでいる様子が映りました。 残念ながら、親父さんには支ええてくれる人はおらず、そのまま前のめりに倒れていくのでした。 工事は進み、完成の日。 すべての工事が終わりました。 隅々まで掃除も終え、3人は出来たばかりのお店で祝杯を上げることにしました。 「チュウが最初のお客ね。」 ラータがそう言い、親父さんもウインクしました。 ピカピカの厨房で、親父さんが料理を作り、テーブルに並べます。 そしてワインを開け、3人のグラスに注ぎました。 「お店完成!かんぱーい!」 チンとグラスの音が響いたのでした。 ワインを飲み、料理も食べ、工事の時の苦労話などを話して、ひと通り満足した頃でした。 特にラータのプロポーズについて。 そろそろ結論の時期に来ていることを3人は気づいていました。 そんな思いが交錯したのか、しばし沈黙が訪れます。 短いような、長いような沈黙の後、鼠川が口を開きます。 「さて、この店もあとはオープンするだけだし、ワシの仕事は今日で終わりだ。 鼠川は、頭を下げます。 「工事は終わりだが、まだ終わっていないこともあるな。 鼠川の言葉を、2人はじっと聞いています。 「どうも回りくどくなったな。 鼠川がそう言うと、ラータが言葉を挟みます。 「年の差なんて!関係って言ってる!」 それを聞いて、鼠川がにっこりとして答えます。 「そうだな。そう言ってくれてたな。 でもな、この前ラータとワシと脚立で滑った日があったろ? それに対して、ラータが答えます。 「おぼえてる。こけそうになった時、チュウが支えてくれた。」 隣で親父さんもうなずきます。 「うん。あの時な、ワシがラータを支え、その後ワシが転けそうになった時に、ラータがワシを支えてくれたんだ。」 自分は誰にも支えてもらえなかったことを思い出し、ややがっかりする親父さん。 「それで、その時思ったんだよ。 こうやって支えあうのもいいのかなと。 何を言っているのか、よく分からないラータと親父さん。 「それってどういうこと?」 ラータは聞きます。 「どうも、回りくどくてすまんな。 「つまり、結婚するということ?」 ラータが聞きます。 「うむ。結婚してくれ。」 鼠川が答えた瞬間、ラータと親父さんが抱きついてきました。 「お、おう。こんなにまで答えを長引かせてすまんな。」 「ううん。いいの。チュウありがとう!」 しばらく3人とも、会話にならないほど、もみくちゃになっていました。 「さて、改めて乾杯しようか。」 ひとしきり大騒ぎし、興奮が治まったので、鼠川がそう提案しました。 「これからの家族にかんぱーい!」 そう言って、またグラスを高くならせたのでした。 「ところで、これは聞いていいのか分からんかったのだが、家族になるということで教えて欲しいのだが。」 乾杯の後また大騒ぎとなりましたが、落ち着きを取り戻した後、鼠川が言いました。 「なに?家族だもん、隠し事はないわ。」 ラータが答えます。 「ラータのお母さんは、日本には着ていないのか?」 そう聞くと、ラータと親父さんの顔が急に曇りました。 「す、すまん。聞いてはいかんことだったかな。」 2人の反応に、鼠川が慌てます。 「ううん。いいの。 実は・・・」 ラータの話によると、ラータと両親は10年くらい前までスペインのマドリードに住んでいました。 そんなある日、事件が起こります。 ラータの母親は、いつものように通勤してしていた所、交通事故に巻きこまれてしまったのです。 事故の後、一切の気力を失った2人。 折しも、マドリード列車爆破テロ事件などで、治安への不安が蔓延した時期です。 2人は悩みに悩み、考えに考えた末、いっその事、母の思い出が深く残るスペインを出て、新天地でやり直そうと考えたのでした。 そうして、2人は日本に来たのでした。 日本に来てからは、親父さんはスペイン料理屋での働き口を見つけ、ラータは大学に通い、その後就職しました。 そして資金をため、この店をオープンに至ったのです。 出す料理は、母親が得意だったスペインの家庭料理が中心です。 そんな思いの溢れたお店に、鼠川が来て、手伝ったというわけなのです。 「そうか、そんなことがあったのか。 目に涙を浮かべながら話すラータを気遣う鼠川。 「だいじょうぶ。話さなきゃいけないことだから。 そう言いながら涙の止まらないラータを見ていた、鼠川でしたが、 「わかった。よく話してくれた。ありがとう。 ・・・わからんか。 これからワシがラータの故郷のスペイン代わりだ。 勢いで言ってしまったものの、何言ってんだと振り返り、自分に自分で絶句する鼠川。 「つ、つまりだな。。。」 さらに、言葉を重ねようとする鼠川に対し、 「つまり、チュウがスペイン代わりということ?」 ラータが、不思議そうに聞きます。 「まあ、そういうことだな。 顔を真赤にして、何言ってだと弱気になる鼠川。 「私たちのことを考えてくれたのね。ありがとう。 分かったのか、分からないのかは不明ですが、気持ちだけは伝わったようです。 その隣で涙を流しながら親父さんが「エスパニョール、エスパニョール」と呟いていたのでした。 この瞬間、鼠川チュウ一郎が、ラテンの男「エスパニョール鼠川」になったのでした。 |
ヒヤリ・ハットの補足と解説 |
今回のヒヤリ・ハットは、脚立に関するものです。
脚立は、ちょっとした高所作業になります。
天端に乗っての作業は禁止ですが、足元を支えるのは、細いサン、横棒だけです。
少し踏む場所が悪いと、容易に滑る危険性があるのは確かです。
鼠川、ラータともに脚立を登るときに滑りました。
脚立を登る時は、必ず足の裏の中心で踏みましょう。
つま先だけだと、鼠川たちのように滑ってしまうので注意です。
鼠川、ラータは墜落時に支えあい、転倒を免れましたが、親父さんは残念ながらフォローなしでしたね。 何とも不憫な。。
脚立作業は、蛍光灯を替えたりなど、頻繁に行われますが、一応は高所作業なのです。 それなりに作業場の注意は必要ですよ。
それでは、ヒヤリ・ハットをまとめます。
ヒヤリハット | 脚立を登るときに、滑り落ち、転倒しそうになった。 |
対策 | 1.脚立のサンは、足の裏の中心で確実に踏む。 2.登り降りの際は、両手でしっかり持ち手をつかむ。 |
脚立の登り降りの際は、確実に行なうことが重要です。
これは、作業時も同じです。
脚立程度の高さでも、転落すると怪我をするのです。
さて、鼠川がプロポーズを受け、2人は結ばれることになりました。
そして、勢い余って口走ったことにより、エスパニョール鼠川が誕生となったのです。
鼠川がどんどんメインになっていますが、次回は久しぶりに猫井川も出ます。
ついでに保楠田も登場です。