厚生労働省労働局長登録教習機関
北海道・宮城県・岩⼿県・福島県・東京都・⼤阪府・福岡県
先日、私の近くで起こった、ショベルカーが斜面から転落する事故について書きました。
同様の事故について、事例を調べてみると、案外多いようです。
そこで、別のケースの事故事例を取り上げてみます。
これは、平成12年と古いのですが、事故時の状況は考えさせられるものがあります。
事故の概要 |
事故の概要について、「失敗事例データベース」というサイトから、日本道路建設業協会の渡辺邦臣さんが作成されたデータを参照にしております。
愛知県瀬戸市・斜面を走行中、バックホウ(=ショベルカー)が転倒
(平成12年8月12日)
この事故は、沈殿地の縦排水溝砕石投入現場で起こりました。
ショベルカー(0.4m3)で縦排水溝に砕石を投入作業を行っていた所、投入口に対してバケットが大きすぎ、砕石のほとんどが投入口に入いらず、周りに散らばっていました。 そこで、運転手の判断でより小型のショベルカー(0.2m3)に切り替えることにしました。 |
この事故の型は「転倒」で、起因物は「地山」です。
ショベルカーで、斜面を斜めに走行してたところ転倒し、運転者が下敷きになったというものです。
小型のショベルカーですので、完全に密閉されたような運転席はなく、ヘッドガードしかなく、いとも簡単に放り出されたのでした。
不幸中の幸いは、測量杭が支えとなり、完全に押しつぶされずに済んだというものです。 大怪我にはなりましたが、命ばかりは失わずにすみました。
それでは、原因を推測していきます。
事故原因の推測 |
何よりもの原因は、斜面を斜めに走っていたということにつきます。
ショベルカーの足回りは、クローラー(キャタピラー)で悪路や勾配のある場所でも走ることができます。 しかし、どんな場所でも強いわけではありません。
どうしても上部にアームやバケットなどを持っているため、重心は高く、バランスを崩すと容易に倒れてしまいます。
トラックが強風にあおられ、一定角度以上に傾くと、倒れてしまうように、ショベルカーも左右に傾きすぎると、横転してしまうのです。
通常、ショベルカーで斜面を登る時は、地面に対して直角に登ります。
その時、アームを下方に向け、バック走行でゆっくりと登っていきます。
重心を下に置くことで、バランスをとっているのです。
しかし、この事故では、斜めに走行していました。
当然、重力は車体の横にかかりますね。 どうあっても、安定して走ってますねとは言いがたいといえます。
またこの斜面は、締固めも十分ではなく、重量のある機械で走ると沈むといったものでした。 それだけ緩い地盤だと、どれほど悪路に強くとも、地面を十分掴んで走ることはできませんでした。
なぜ斜めに走ったのかというと、近道をするのためです。
ショベルカーを替えて、いち早く現場に戻りたかったのでしょうが、よい選択ではありません。
このような作業方法をとったのには、背景がありそうです。
そもそも、砕石の投入口に対して、大きすぎるショベルカーを選択していたことから、作業計画が不十分でした。
作業者が、誰の相談もなく、ショベルカーを替えたこと。 斜面の行き来について、ショベルカーの運行経路を定めていなかった、転倒するおそれがある場所にもかかわらず誘導者などがいなかったことがあります。
あまり、安全管理体制について十分ではなく、作業者の危険意識も低かったことが根底にありそうです。
それでは、原因を推測してみます。
1 | ショベルカーで斜面を斜めに走行したこと。 |
2 | 作業計画、手順が十分でなかったこと。 |
3 | 転倒の恐れのある場所で、誘導者に誘導させなかったこと。 |
4 | 安全教育、KYなどが不十分だったこと。 |
それでは、対策を検討します。
対策の検討 |
直接原因となったのは、斜面の斜め走行ですから、近道であってもこのような運転をさせてはいけません。
これは、普段から指導しておく必要があります。
同時に、何か変更事項があった場合、運転者がショベルカーを替えるなども避けたほうがよいでしょう。 作業責任者などに確認をとりましょう。
中には、「そんなこと、いちいち聞かず、自分で判断しろ!」と怒る責任者もいるかもしれません。
しかし、考えてもみてください。
別の作業で、小型ショベルカーを使おうとしてるのになかったら、困りませんか?
作業場の把握は、責任者の責務です。
また責任者に対し、そのように自覚させるのは、事業者の責務です。 事業者が完全、現場任せではなく、責任者への指導も重要です。
事業者や作業責任者は、作業内容を把握し、適切な作業計画、手順を定めなければなりません。 これが不十分だと、出戻りややり直しがあり、余計にコストが掛かります。 今回のようにショベルカーのサイズ選定を誤っために、大きなロスとなります。
事故は何よりもの損失になります。
また個々の作業者に任せることではないのですが、横転する場所などでは、誘導者に誘導させます。 誘導者は、斜面を斜めに走らせるなどをさせてはいけません。
さらに、近道だとしても、斜面を斜めに走ったらどうなるかなど、運転者が想像できていないのも問題でしょう。
危険に対する認識が低いのは、知らないからです。 何が危険かを理解させるために、安全教育や作業前のKYは必要になります。
事故を起こしたのは、下請け業者だったのですが、元請け業者は何の指導もしていなかったのかなども、問われるところでしょう。
実際のところ、作業は下請けに任せっきりというのはあるでしょうが、元請業者は注文者としての責任もあることを忘れてはいけません。
特定の危険な行動が事故を引き起こしましたが、その背景には様々な要因があるといえます。
対策をまとめてみます。
1 | 斜面の走行は、誘導者に誘導させる。 |
2 | 現場に合わせた作業計画、手順など定める。 |
3 | 安全教育やKYで、作業者の安全意識を高める。 |
4 | 元請業者は、注文者としての指導監督を行なう。 |
事故には、直接的な原因がありますが、その背景には安全体制や危険に対する認識なども関係します。
現場で、出来る限りのことをするのは大事です。
一方で、それが事故を招くこともあるのも知っておく必要があります。
よく、「自分で考えてやれるようになれ」と言うのを耳にします。
これは大事です。 ですが、経験のない人にまで、これを言うのは正しいでしょうか?
知識と経験があってこそ、現場判断です。
それが十分でなく、本人の判断任せになるのは、作業責任者や事業者に問題があります。
いつまでも成長しない姿に苛つくこともあるでしょう。
同じことを何度も言うのは、苦痛です。 よくよく理解できます。
でも、事故を起こしたら、元も子もありません。
事故を起こさせないこと。 この点については、事業者も作業責任者も明確な目的があると思うので、事故防止には努めたいものですね。
違反している法律 |
この事故で、関係する法律は、おそらく次の条文です。
第154条 車両系建設機械を用いて作業を行なうときは、作業場所の地形、地質等を調査し、記録しておかなければならない。 |
第155条 車両系建設機械を用いて作業を行なうときは、調査結果を元に作業計画を定めなければならない。 |
第156条 車両系建設機械の適正な制限速度を定めなければならない。 |
第157条 車両系建設機械を用いて作業を行うときは、転倒防止のための措置をとらなければならない。 |
これらについて、解説している記事は、こちらですので、あわせて参考にしてください。
元請け事業者、注文者の責務はこんなのがあります。 ただし、重量が3トン以上の機械の場合なので、今回は対象外になります。
第662条の5 注文者は、法第31条の3第1項の機械について必要な措置をとらなければならない。 |
第662条の6 注文者は、パワー・ショベル等について必要な措置をとらなければならない。 |
これらについて、解説している記事は、こちらです。