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「ほめる文化がヒューマンエラーを減らす! ハード×ソフト×マネジメント」 中田 亨 著 中央労働災害防止協会 2014/04 「ヒューマンエラーは起こりうる」という前提で、「仕事の進め方を変える」「影響が大きくならないようにする」といった現実的な対策を、現場を巻き込みながら進めていくためのポイントを解説。 豊富な事故事例から考えるヒューマンエラー対策のほか、ヒューマンエラー対策の応用力を身に着けるための「力試し実例問題集」も掲載。 |
先日、「百戦錬磨のベテランスタッフに学ぶ 安全衛生管理の勘所とコツセミナー」を受講した時、私はこんな質問をしました。
講師はまさに百戦錬磨!中災防セミナーで得たものは、アイデアと勇気でした。
「安全管理について、こんな対策をしようとしても、作業者が聞いてくれない。 特に長年経験を積んできた人ほど、耳を傾けてくれない傾向がある。」
それに対して、古澤登先生は、こんな風に回答されました。
「年上の人に対しては、持ち上げたり、敬意を表して接するのが大事。 いっそのこと、『どうしたらいいですか?』と聞いてみるのも、いいんじゃない。」
なるほど。
指示をする、命令するだけでは、人は聞く耳を持ってくれないということです。
特に、ベテランになると、今までの実績があるので、現場も分かってない若造や外部の者などの話など耳に入らないようです。
自分に置き換えれば、分かる話です。
しかし、いざ何か行なうとする時、このことは忘れてしまします。
「褒める」や「聞いて、引き出す」は、コミュニケーションには大事と、いくつもの本で読んだことがあります。
読んでも身になっていないんだなー。
要は、相手を受け入れること!と、古澤先生の言葉にハッとしたのでした。
実際に古澤先生が事業所パトロールに行くと、3時間もすると、作業場の皆さんが元気になるとか。
もちろん、明るくハツラツとした人柄もあるでしょうが、皆さんモチベーションが向上したのもあるのだと思います。
例えば「褒める」ことが、作業場を明るくし、安全意識を向上させるなら、なんと効果的なことでしょうか。
そんな時に読んだ本がこの本。 「褒める文化がヒューマンエラーを減らす!」
なんてタイムリーなのでしょう!!
今回は、この本のご紹介。
ヒューマンエラーとは |
ヒューマンエラーとは、何でしょうか?
ヒューマンのエラーなのですから、要は「人が関わる失敗」というものですね。
いわゆる、ミスったというやつです。
ヒューマンエラーにはいくつも種類がありますが、またそれは別の機会にまとめてみます。
簡単に幾つか分類をすると、こんなのがあります。
忘れる。手元が狂う。誤解する。タイミングを逃す。
へー、こんなことがと思いませんか?
こういったことは、誰でもあるんじゃないでしょうか。
例をいくつか挙げてみると、こんなのもヒューマンエラーですね。
初芝駅で事故-券売機に車が突っ込み男女ケガ 南海電鉄高野線(ニュース速報JAPAN(平成27年6月25日)
よくニュースで見かける「アクセルとブレーキを踏み間違える」事故です。
これは操作ミスですし、アクセルとブレーキの認知ミスでもあります。
この事故では、幸い死者はありませんでしたが、一歩間違えれば大きな事故になりました。
ヒューマンエラーが引き起こした事故には、甚大な被害をもたらすものもあります。
この本にも紹介されていたのは、2005年に起こった、みずほ証券のジェイコム株大量誤発注事件です。
みずほ証券はジェイコム株の上場初日に61万円で1株売る注文を出すところを、誤って1円で61万株売るよう入力して、送信してしまいました。 しまった、とすぐに取り消し操作をしても、もはや取り返しがつかず、巨額の損失を産んでしまいました。
誤発注をした人もですが、関係者が全員血の気が引いたはずです。
発注の前には、確認画面もありましたが、長年携わってきたからか、確認画面をスルーし、発注してしまったのです。
この事件では、巨額な損失を出してしまいましが、これはよくあることではないでしょうか。
誤ってメールを送ってしまったことはありませんか?
アプリをインストールする時、規約をしっかり読んでるでしょうか?
意外とスルーしているのでは。 誤発注などでなくとも、ウイルスを仕込まれる可能性は十分にあるわけですよね。
とりあえず、Twitterで広告リツイートを仕込まれてる人は、どうにかして欲しい。 アダルトやらダイエット、ゲームの広告ばかり、延々と。
リツイートしている本人は気づいていないかもしれませんが、原因はアプリをインストールしたり、何かのアドレスをクリックした際に、リツイートする許可を与えてしまっていることです。
「Twitter 広告 リツイート」などで検索すると、解除方法はあるので、自分のツイート見て、身に覚えがないリツイートをしていたら、設定の程をぜひ。
ブロックされたり、フォロー解除の原因になりますよ。 私はそうしてますけど。
そんなことはさておき、日本年金機構が起こした、個人情報の大量漏洩も、メールの添付ファイルを警戒なく開いてしまったことが原因なので、ヒューマンエラーですね。
年金情報流出101万人、全都道府県で被害 年金機構が発表(日経新聞 平成27年6月22日)
よく理解しておくべきことは、ヒューマンエラーは、いつでも、誰にでも起こり得ることです。
株誤発注は、この後より確認画面で入念にチェックするようになっています。
しかしジェイコム株ほどの規模なくとも、今も起こっているでしょう。
失敗とそれに対する対策は、いたちごっこです。
この本の後半は、ヒューマンエラーのケーススタディと、あなたならどうするという問題集になっています。
この部分がもしかした、この本の一番優れているところかもしれませんね。
ケーススタディなどでも、実際に起こった事故と対策をまとめています。
対策として有効そうなものが、「褒める」文化ということだそうです。
褒めるは有効? |
「褒める文化」というのが、この本のタイトルになっていますが、取り上げているのは、ほんの1章のみです。 割合でいうと、かなり少ないので、ある意味看板に偽りがと思うかもしれません。
しかし、「褒める」ことの大切さを唱えている本。 私は、褒めます。
「褒める」効果の根拠となっているんは、「ホーソン効果」というものです。
これは、アメリカのホーソン工場で、労働者の作業効率を上げるために何が効果的かを実験した結果から導き出されました。
結果として、
「労働者への周囲や上司が関心を高めることが、物理的要因以上に効果のあることが判明した。 このように、人は一般的に関心を持つ人や期待する人の心に応えようとする傾向があるとされる。」
ということです。
つまり、関心や期待をされると、それに応えようとする心理が働くとういうことです。
本文では、店先でうどんを打つ職人は、お客さんにじっと見られることで、よい仕事をするという例があげられています。 「すごい!このうどんが美味しそう!」という期待の目が、職人を奮い立たせるというのです。
このホーソン効果を、ヒューマンエラー減少に役立てようよというのが、この本のメインテーマと言えます。
管理者や安全管理者が、職場の安全パトロールで回ったとします。
パトロールで、駄目だしやあら探しばかりされたら、作業者はうんざりすると思いません?
もしあなたが仕事をしてて、うまくできていることはスルーされ、ほんの少しのミスを責め立てられた、やる気はでるでしょうか?
ブラック企業てそういうのじゃないでしょうか?
できてないことばかりに目が行く人と、付き合いたいかという話です。
あなたはどうです? いつもダメ出ししかしない人と、付き合いたいですか?
安全パトロールは、あら探しや、指摘事項を探すことばかりになっていませんか? あら探しばかりする人の話を聞きたいと思いますか?
全部が全部パーフェクトなんてないですよね。
でも、かなり多くことができているはずです。
安全活動で言うと、きちんと保護具を着けている、安全な距離を保って機械を扱っている、安全設備が動くように維持している。 ちゃんと出来ていますよね。
こういうのも見て、できていることは褒めましょう。
この本では、コミュニケーションのあり方を述べているんですね。
無理やり「褒める」ことはありません。
意味のない「褒め」は、嫌味です。
「褒める」とは、「認める」ことです。
評価というと偉そうに聞こえますけど、「ここはできてるね」と認めることはできるはず。 「認める」ことは、すなわち「褒める」ことになるのです。
ちなみにこれは、COMICOでブックマークしてる「硬い彼とやわらかすぎる彼女」の13話にあって、なるほどと思いました。
きちんとやっているところを認められる、評価されると、人は嬉しくなるもの。
もっと言うと、人は褒められると嬉しくなるんじゃないでしょうか。
そして、それがモチベーションになり、エラーが減るのじゃないか。 結果として、事故も減るんじゃないか。
「褒める」文化とは、そういったものだと解釈しました。
冒頭で、みんな聞いてくれないというのも、コミュニケーションが成ってなかったからですね。どんなに年を重ねても、褒められるのは嬉しいもんです。
まずは、見る所を変えていくことが大切だよということなのかもしれません。
一方で、「褒める」ってどうなの?
という意見もあると思います。
今年は「嫌われる勇気」という本が流行りましたね。
これはアドラー心理学についてのものです。
(まだ読んでない、興味あるという人は、ページ下部へ。)
今年は、アドラーが大人気で、関連本もたくさん出版されていました。
アドラー心理学では、「褒める」や「叱る」に対して否定的です。
なぜなら、それらは縦の関係のなせる技だから。
上下の関係より、横の関係を重視すると、「褒める」ではなく「勇気づけ」ようと言います。
どっちがいいのか?
私の意見は、どっちでもいいんじゃないとと思います。
結果として、作業者のモチベーションが向上し、エラーが減少するなら、どっちでもと思います。 ただ、まだまだ日本では縦の関係は強いのですから、それも考慮しなきゃねと思います。
「褒める」にせよ「勇気づけ」にせよ、安全パトロールや巡視では、作業者の意識をそぐのではなく、向上させることを気に留める必要はあるようです。
では、一番の問題、作業者のモチベーションが上がれば、ヒューマンエラーは減るのでしょうか?
おそらく、少しは減るでしょう。
でも、エラーはなくなりません。
人間は、どんなに集中力がある人でも、エラーを起こしてしまいます。
機械じゃないんだから、当然です。
そもそも、人に完璧にしろというのは、無茶で無責任な話だということです。
管理者だって失敗するでしょう。
それを棚にあげて、「注意力が散漫だ!」などと失敗を責めるのは、ちゃんちゃらおかしいです。
人間は失敗します。
これを踏まえた対策が、重要です。
長くなりますし、書評からかなり外れるので、これ以上は止めますが、人間の失敗を前提とするのが安全対策です。
例をあげると、フールプルーフやインターロックなどです。
昔、稲盛和夫さんの講演録CD50巻くらいを70万くらいで買ったことがあります。 欲しかったわけではなく、知り合いのセールスの人に頼み込まれて、売上に貢献したというか・・・。それでも意識高い系だった私は投資として支払いましたけど。
稲森さんの話の中で、こんなエピソードがありました。
「京セラでは、経理で印鑑を持つ人と決済をする人と分けている。また役割を担う人は、定期的に変更する。 それは、不正経理をしないと信じているけれども、できないような体制をとっているからだ。 魔が差すということも起こさせない仕組みにしている。」
うろ覚えですが、確かこんな話だったような。
人は失敗したり、ぼんやりしたりします。時には魔が差すこともあるでしょう。
でもそれをさせないシステムが大切だと言われているのです。
機械設備作業に置き換えましょう。 操作ミスや、場合によっては危険な箇所に入り込むこともありえます。
その時、機械側で害を及ぼさないようにすること、これが重要ということです。 思いもよらないこともあるでしょうが、基本的人の失敗を前提とした、仕組み作りですね。
この本の言う、褒める文化は、よい職場作りで、失敗を減らそうというものです。
それはさておき、この本の真価は後半にあります。 ケーススタディと模擬テスト。
なるほど、こんな失敗もあるんだと、実例で知ることができます。
失敗の対策には、まず知ること。 学習教材にも使えますよ。
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参考までに、アドラーも。
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