厚生労働省労働局長登録教習機関
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こんなヒヤリハットがありましたので、対策とともにご紹介したいと思います。
第41話「保楠田、色んな物に板ばさまれる」 |
鼠川は夫妻の馴れ初めの話と、なぜエスパニョール鼠川と名乗るようになったのかを、一気に語りました。 酒の勢いは恐ろしいもののようで、同じ席にいる猫井川や保楠田の口をはさませない勢いでした。 話も一旦終わり、しばしの沈黙が流れました。 「そんな話があったんですね。 なんというか、ドラマみたいですね。」 ぼそっと保楠田がこぼします。 「ああ、何があるか分からん。」 グラスに残ったワインをぐいっと飲みながら、鼠川が言いました。 「お前らは2人とも独身だったな?」 保楠田と猫井川は、「はい」と答えました。 「猫井川はまだ若いが、保楠田も予定なしか?」 鼠川が聞きました。 「はっはっは、女の人にそれを言ったセクハラらしいですよ。 保楠田は、明るく答えました。 「そうだったな。すまんことを聞いたな。 「どうでしょう。うちは母親がいますからね。 保楠田もグラスを傾けながら、いいました。 「そうか。お袋さんが一緒か。 急に話を振られ、猫井川はむせ返りました。 「い、いや、全然ですよ。彼女でもいればいいんですけど。」 むせ返りながらも、猫井川は答えました。 「だからな、きっかけなんてのは、どこにあるか分からん訳だ。 その点、わしの場合のきっかけはだな・・・」 鼠川の話がループしそうな予感がした2人は、早々に話を切り上げさせ、その日の飲み会は解散となりました。 「おう、2人とも気をつけて帰れよ!」 鼠川夫妻に見送られながら、猫井川と保楠田が帰りの途についたのでした。 「それじゃ、猫ちゃん、お疲れさま。 駅に着くと、保楠田が反対のホームに向かいます。 「お疲れ様でしたー。」 猫井川も別れの挨拶をし、プラットホームに向かったのでした。 20分ほどの電車の旅。 その後は、10分ほどの歩き。 それが保楠田コンの通勤路でした。 保楠田は、鼠川と飲みに行ったことを少し後悔していました。 普段飲み行くことはありません。 会社の忘年会くらいです。 今日は、鼠川と猫井川が一緒に飲みに行くと聞き、先日2人が行ったというスペイン料理屋に興味を持ったので、参加したのでした。 鼠川のような老人に近いとも言える人が、若い外国の娘と結婚したのか、興味もありました。 しかし、話を聞いていると、そのドラマチックな出来事に羨ましさと、自分の身の寂しさを感じたのでした。 「ただいま。遅くなってごめん。」 保楠田が家に帰ると、暗い部屋に電気をつけました。 「どうして電気をつけてなかったの?」 2部屋あるマンションの一室。 奥の部屋を覗くと、母親がベッドの上で眠っていました。 「ああ、寝てたのか。」 保楠田が声をかけると、母はもぞもぞと動き、目を覚ました。 「おかえりなさい。今日は遅かったわね。」 母はしっかりした口調で、コンを出迎えます。 「遅くなってごめんね。今日は職場の人と久々に飲んだよ。 コンは、そう言うとテーブルの上を見ました。 「母さん、ちゃんと食べないと。温めようか?」 「ううん。お腹は空いてないから、大丈夫よ。」 「少しは口に入れたほうがいいよ。スープだけでも飲む?」 「そうね。スープはもらうわ。」 そういうと、コンは電子レンジでスープを温めました。 「ゆっくり食べてね。」 母親にスープをあずけ、少しずつ飲んでもらいます。 「食べ終わったら、置いておいて。 そういうと、保楠田は作業服を洗濯機に入れ、風呂に向かいました。 保楠田の母は、寝たきりではありませせんが、介護が必要です。 保楠田コンは、この生活に慣れていますし、母親の面倒を見ることに苦を感じていません。 ただ、今日聞いた話は、寂しさを痛感させるのに十分でした。 (おれは、ずっとこのまま独り身なのか。) 5年前、母が倒れた時に、離婚しました。 妻が同居を拒否したからです。 介護施設なども考えしたが、保楠田は自分で介護することを選んだのでした。 (この生活じゃ、出会いなんて無理だしな。) 建設現場も女性が増えてきたといっても、それは他の会社の話。 仕事で話をするのは、男ばかり。 休みの日は、1日世話と家事に明け暮れます。 母1人、子1人。 離婚した時、母親は謝罪しました。 今も、母親には「いい人がいたら、そちらを優先して」と言われます。 しかし、完全に割り切れない感情もあります。 シャワーを浴びながら、おれとは一体と考えてしまします。 しばしその状態で過ごすと、保楠田は母親に心配かけないように頭を切り替えます。 (保楠田コン、46歳。おれはこの生活に不満はない!) 心の中でそう叫ぶと、シャワーを止め、浴室のドアを開け、日常に戻るのでした。 翌日、保楠田は二日酔いもなく起き、いつものように母親の世話をして、出勤しました。 「おはようございます。 鼠川さん、昨日はありがとうございました。」 朝、事務所に着くと、早くも席に付いている猫井川に声をかけました。 「おう、こちらこそ。二日酔いは大丈夫か?」 鼠川も答えます。 「大丈夫ですよ。そんなに飲んでないですからね。 鼠川さんは大丈夫ですか?」 「ワシはちょっと頭痛がする。 まあ、しばらくしたら治る。」 そう言って笑っていました。 「おはようございます。」 しばらくすると猫井川も事務所に来ました。 こっちは、少し青い顔をしています。 「猫ちゃん、二日酔い?」 保楠田は、隣の席に座った猫井川に聞きました。 「ええ、ちょっと。飲みなれないものを、飲み過ぎました。」 「仕事までに水でも飲んで、治しといてね。」 「はい。。。」 弱々しく返事をすると、猫井川は自販機に歩いていきました。 「大丈夫かな。。。」 保楠田が、その背中につぶやきを1つこぼしました。 今日の現場は、保楠田、猫井川が一緒です。 現場では、コンクリート打ちのための型枠の組立を行なうことになりました。 早速仕事に取り掛かる2人。 トラックからコンパネを下ろすと、近くの塀に立て掛けていきました。 数枚のコンパネを重ねた時です。 突風が現場を吹き抜けていきました。 ビュオウ~ にわかに風の音が聞こえたと思うと、立て掛けていたコンパネがぐらりと傾いたのでした。 バタンと倒れかけた先には、保楠田と猫井川。 2人はとっさに両手を掲げ、倒れてくるコンパネを支えたのでした。 間一髪支えるのが早く、激突することは避けられました。 昨日、鼠川の話では出会いは降ってくるというものでした。 その時、2人の後ろから声がかかりました。 「大丈夫~?」 これは、新たな出会いか!? 「ええ、大丈夫です!」 声を揃えて答えた先には、ラータのような女性・・・ ではなく、兎耳長ぴょんでした。 「あんたかーい!!」2人とも心のなかで、突っ込みをいれたのでした。 保楠田コン。 今日の彼は仕事と家庭、介護、だけでなく、コンパネにも板挟みになっているのでした。 |
今回は、ちょっとしんみり保楠田の話です。
いつもひょうひょうとして、猫井川とおちゃらけている彼も、何かと抱えているのです。 実際、男性女性関わらず、保楠田のような状況の人もいるのではいでしょうか。
今後は、超高齢化社会になるのですから、珍しくないことかもしれません。
しかし、ちゃんと最後に落ちをつけてくれるのが、保楠田と猫井川のいいところではないでしょうか。
物が落ちてきて、出会ったのは、兎耳長ぴょんでした。 彼は名前は可愛いですが、謎多き年寄りです。
ヒヤリ・ハットの補足と解説 |
さて、今回のヒヤリ・ハットは、落下ではなく、倒壊ですね。
落下は上から落ちてくるもの、倒壊は自立しているものが崩れるものです。
2人に出会いが訪れなかったのは、落ちてきたものではなく、倒れかけてきたものだったからかもしれません。
コンパネの板に限らず、脚立など平置きにせず、壁や塀に立て掛けるというのは、そう珍しくないことです。
誰しもやったことがあるでしょうし、どこでも行われるものです。
立っているものは、倒れてしまう。 これも自然なことです。
しっかり安定してれば、倒れることは少ないものの、今回の話のように突風が吹いたりすると動きます。
その時、付近に人がいると下敷きになります。
数枚のコンパネ程度であれば、支えられるでしょう。
しかし頭にぶつかってしまうと、かなりのダメージになります。
また、もっと重量のあるものだと、命取りになりかねません。
立て掛けたものが、風に煽られ倒れるのは、よくあることですが、少し気をつけるだけで、ヒヤリ・ハットの芽をつむことも出来ます。
ヒヤリハット | 立て掛けていたコンパネが倒れてきた。 |
対策 | 1.板などは壁や塀に立て掛けず、平置きする。 2.立て掛けれる場合は、固定などで、倒壊防止する。 |
板が倒れる程度は、大したことがないと感じるかもしれません。
しかし、不意を突かれると、大怪我に成るのも確かのなのです。
地面が濡れていて、平置きできず、立て掛けざるを得ない場合もあるでしょう。
その場合は、きちんと固定するなどして、倒れないようにしましょう。
ちょっとした固定や倒れない工夫をするだけで、側を通る人の安心になります。
ほんのちょっとした工夫が事故の芽を摘むのです。
鼠川に感化された保楠田は、今後何かしらの変化はあるのでしょうか。
さて、次は猫井川に出会いが???