厚生労働省労働局長登録教習機関
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毎日の作業では、安全のことは後回しになりがちです。
もちろん、事業者がしっかり安全設備や手順を徹底しているところも多いです。
しかし、納期や工期、作業の効率などのことを考えると、費用や手間がかかってしまうものは、ついおろそかになるところも少なくありません。
もし作業者が事故にあった場合、事業者は送検されます。
それは、作業者の安全に配慮していなかったことが、罰則対象になるからです。
こちらでも、安全配慮義務違反で送検された事例を紹介しましたが、また別の事例を紹介します。
これは建設作業現場で、クレーン車で人を移動させていた時に、事故を起こしてしまったものです。 今回は、この事例の原因を推測し、対策を検討します。
事故の概要 |
事故の概要について、新聞記事を引用します。
なお、紹介したいのは事件そのものですので、被害者名などは割愛しておりますので、ご了承下さい。 引用の下に、元記事へのリンクを張っております。
クレーン事故で業者を書類送検(平成27年6月8日)
去年3月、埼玉県和光市の橋の工事現場で足場を解体する際、作業用のかごをつっていたクレーンが横転し、かごに乗っていた作業員1人が死亡した事故について、労働基準監督署はクレーンで作業員を動かすのは違法だとして、解体業者と41歳の社長を労働安全衛生法違反の疑いで書類送検しました。
去年3月、和光市新倉の橋の補強工事の現場で足場を解体する際、作業用のかごをつっていたクレーンが横転し、かごに乗っていた作業員2人のうち1人が死亡しました。 川口労働基準監督署は、クレーンで作業員を動かすのは違法だとして、工事を請け負っていた千葉県市原市の解体業者と作業の責任者だった41歳の社長を労働安全衛生法違反の疑いで書類送検しました。 調べに対し社長は「効率を優先して、禁止されていることを知りながら、危険な作業をさせてしまった」と話しているということです。 |
この事故の型は「墜落・転落」で、起因物は「移動式クレーン」です。
足場解体作業中に起きた事故です。 足場の解体作業中に、クレーン車でカゴを吊り、作業者を乗せて作業をしていました。
しかしクレーン車はバランスを崩し、横転していまいました。
上に乗っていた2人の作業者の内、1人が亡くなってしまったのでした。
その後、警察や労働基準監督署の捜査を受け、事業者は安全配慮義務違反や安衛法違反で書類送検されました。
それでは、原因を推測していきます。
事故原因の推測 |
足場の解体作業は、安全に開催作業ができるように作業床を設けたり、安全帯を使用できる設備を設けて行わなければなりません。
場合によっては、仮設の足場を壊すための足場が必要になることもあります。
しかしそのように安全に作業を進めるのは、作業手間がかかりますよね。
必要な資材も持ってこなければいけないので、費用もかかってしまいます。
なるべくなら、わざわざ別で用意せず、あり物で済ませたくなるのも人情でしょう。
なんとか工夫したいものです。
とはいうものの、危険な作業を行ってしまうのは工夫にはならないのです。
本来クレーンは、物を吊るための機械です。
人を吊るものではありませんし、禁止されています。
もしどうしても人を吊り上げる場合は、しっかりとした吊り上げ装置を備えて行います。
とはいうものの、これは例外的な方法なので、原則人を吊ってはいけません。
またクレーンが横転してしまったということなので、設置していた地盤も安定していなかったのかもしれません。
本来の用途で使用した場所は、地盤も安定したり、鉄板で補強していたでしょう。
しかし予定外の場所であれば、安定度が十分でなかった可能性もあります。
さらに作業範囲が広範囲になる場合、いちいちクレーン車を動かして、アウトリガーを延ばしてというのは面倒です。
なるべくなら、クレーン車は動かさずに、1箇所で設置したままとしたいものです。 クレーン車を動かさずに、広範囲に上下左右にアームを動かしていたなら、安定して吊ることができる範囲を超えて使用したことも考えられます。
何より、作業の効率を優先するあまり、危険な作業だと思いが至らなかったことに問題がありそうです。
今回起こった事故には、事業上全体に安全意識が低かったことがあるのかもしれません。
それでは、原因を推測してみます。
1 | 禁止されているクレーンで人を吊り上げる作業をしたこと。 |
2 | クレーンの安定が十分でなかったこと。 |
3 | 安全体制や作業者への教育が不十分だったこと。 |
それでは、対策を検討します。
対策の検討 |
何よりは、簡易な作業台を準備したかといって、クレーンで人を吊り上げる方法を安易に選んではいけません。
例外的に人を吊り上げる場合は、専用の吊り上げ装置を準備をしたりします。 これはこれで手間もかかってしまうのです。
クレーン車は、水平で安定した地盤に置かなければなりません。
もし予定外の場所に設置する場合でも、水平でしっかりとした地盤の上に置くか、鉄板で補強します。
人が乗ってようが、乗っていまいがになりますが、過負荷制限内で作業しなければなりません。
荷物の重量は、荷物そのものの重さだけでなく、車体からの距離やアームの角度によって変わります。
制限重量を超えて使用すると、クレーン車そのものを横転させてしまうので、無茶な使い方はダメです。
事業者は何よりも作業者の安全を守ることが重要です。 そのためには危険な作業をさせてはいけません。
危険な作業を黙認したり、何となく許す雰囲気を出さなようにしなければなりません。
そのためには作業場の安全責任者を決め、管理させるとともに、事業者自身も安全重視の姿勢を見せる必要があります。
安全教育もしっかり行いましょう。 作業計画の段階で、組立解体作業に必要な資材を準備し、危険な作業を行わないように指導します。
対策をまとめてみます。
1 | クレーンは安全な使い方を行う。 |
2 | 危険を伴う作業を行わせない。 |
3 | 日頃から安全教育や指導を行う。 |
作業を急いでいたりすると、少々危険な作業もやってしまうこともあります。
しかし、事故はこちらの事情に関係なしで、起こってしまいます。
作業者がクレーンなどの機械を、本来の用途から外れた使い方などをすると、それは事業者がさせたことにもなります。
現場で勝手にやったというのは、考慮されません。 今回の事例のように、書類送検は免れないでしょう。
普段からの安全指導や教育、安全を重視する社内文化作りが、事業者の義務なのです。
今回の事例も、決して珍しい事例ではないでしょう。 事業者にとっては、それだけ身近な問題であるとも言えます。
違反している法律 |
この事故で、関係する法律は、おそらく次の条文です。
【クレーン則】
>第66条の2 事業者は、移動式クレーンを用いて作業を行うときは、危険防止のための作業方法を決めなければならない。 |
第69条 事業者は、移動式クレーンにその定格荷重をこえる荷重をかけて使用してはならない。 |
第70条の3 事業者は、地盤が軟弱などの場所では、移動式クレーンを 用いて作業を行ってはならない。 ただし、必要な広さと強度の鉄板を敷くなどの措置をとった場合は、この限りではない。 |
第70条の4 事業者は、アウトリガーを当該鉄板等の上で移動式クレーンが転倒するおそれのない位置に設置しなければならない。 |
これらについて、解説している記事は、こちらですので、あわせて参考にしてください。
第72条 事業者は、移動式クレーンにより、労働者をつり上げて作業させてはならない。 |
これらについて、解説している記事は、こちらですので、あわせて参考にしてください。