厚生労働省労働局長登録教習機関
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夏休みに入って早々、連日のように報道されている事故が起こりました。
鹿や猪から農作物を守るために、畑の周りに電気が通った柵を設けることがありますが、これが原因で2人が死亡、5人が怪我をしたというものです。
電気柵はよく見かけるものだけに、この事故の衝撃は大きなものと言えます。
水は電気を通します。
この当たり前の事実が突きつけられた事故とも言えます。
湿度が高く、汗をかくこの季節は、1年で最も感電事故が多い時期です。
この事故は、レジャー時の事故なので、労災事故ではありません。
しかし、仕事の時でも起こりかねない事故なので、この事故から対策を検討してみます。
事故の概要 |
事故の概要について、新聞記事を引用します。 なお、紹介したいのは事件そのものですので、被害者名などは割愛しておりますので、ご了承下さい。
引用の下に、元記事へのリンクを張っております。
最初に男児が電気柵に触れ感電か 西伊豆の感電死事故(平成27年7月20日)
静岡県西伊豆町で川遊びをしていた家族連れら7人が感電し、男性2人が死亡した事故で、最初に男児1人が土手に設置された動物よけの電気柵に触れて感電し、助けようとした大人らが次々に感電した可能性が高いことが20日、捜査関係者への取材でわかった。男児がやけどなど左手に大けがをしていたことや目撃証言から県警が判断した。
(中略) 県警の説明では、電気柵は高さ約1メートル、長さ約10メートル。仁科川支流の土手の斜面のアジサイの花壇を囲うように設置され、電気柵の切れた電線が川の中に垂れ下がっていた。電気柵は対岸の家の納屋の家庭用電源の100ボルトのコンセントにつなげていた。現場に危険を知らせる看板はなかったという。 捜査関係者によると、事故当時は3人が川遊びをしていたという。左手に大けがをしたのは長男。県警は、誤って電気柵に触れて感電した長男を助けようとした別の男性が感電して川に転落し、悲鳴を聞いて川の中に助けに入った人たちが次々に感電したとみている。 県警は業務上過失致死傷容疑の適用も視野に、電線が切れた原因とともに、漏電遮断器の設置など必要な安全対策の有無などを調べている。 |
この事故を型に当てはめると「感電」で、起因物は「電気柵」です。
後追いの報道で事故状況が徐々に明らかになってきました。
川遊びの途中、子どもが電気柵に触れ、左手に大やけどを負いました。 その時、電気柵の一部が切断し、その先端が川の中に浸かりました。
これにより川の中にいた人たちが感電、助けようとした人たちも川に入って次々に感電したのでした。
事故当時パニックになったと思います。
原因が見えないのですから。
感電事故の恐ろしさは、目に見えないことにあるのです。
事故の原因となった電気柵は、あじさい畑を鹿などから守るため、被害にあった家族の親戚が設置したものでした。
状況を調べるにつれ、明らかになることは、この設備に不備があったということです。
設備の不備 |
電気柵は、100ボルトの家庭用電源からとられています。
100ボルトは、それほど高い電圧ではありません。
しかし電圧の大きい小さいより重要なのは、電流です。
50ボルト程度の低い電圧であっても、多量の電流が流れると、心肺は停止します。
42ボルトは、「シニ」ボルトという言葉があるくらいです。
電気柵は、ビリっとくる程度まで電流が流れないようになっていました。
報道では、変圧器で400ボルトまで上げられていたという話もあります。 もし事実であれば、より強力な電流が流れていたかもしれません。
電気柵事故 変圧器で電圧高くする設定(NHK 平成27年7月22日)
また設置者の話によると、この電気柵は夜間だけ通電しているとのことでしたが、残念ながら事故当日は、電気が流れっぱなしになっていたようです。
さらに、事故防止のために決定的な保護装置が欠けていました。
それが漏電遮断機、つまりブレーカーです。
実は6年前の平成20年に、兵庫県で電気柵による死亡事故がありました。
この事故を受けて、経済産業省が、電気柵設置での感電防止に向けて、ガイドラインを定め、通達しました。
これを受けて、農林水産省も同様のガイドラインを設け、通達しています。
鳥獣被害対策用の電気さく施設における安全確保について(PDFファイル)
これらのガイドラインは次のとおりです。
1.電気さくの電気を30ボルト以上の電源(コンセント用の交流100ボルト等)から供給するときは、電気用品安全法の適用を受ける電源装置(電気用品安全法の技術基準を満たす、電気さく用電源装置)を使用すること。
2.上記1.の場合において、公道沿いなどの人が容易に立ち入る場所に施設する場合は、危険防止のために、15ミリアンペア以上の漏電が起こったときに0.1秒以内に電気を遮断する漏電遮断器を施設すること。
3.電気さくを施設する場合は、周囲の人が容易に視認できる位置や間隔、見やすい文字で危険表示を行うこと。
人が触れる可能性がある場合は、危険表示をすること。
もし接触した場合に備えて、漏電遮断機を備えなければなりません。
この事件は、いずれも行われていませんでした。
実際のところ、このガイドラインが守られているところは、どれほどあるでしょうか。 事件をきっかけに、全国一斉に点検が行われているでしょう。 同じようなものは、たくさん見つかると思います。
さすがに、ことが大きくなったため、経産省が改めて、注意喚起をしています。
経産省 電気柵感電で全国に注意喚起の通知へ
動物を撃退するほどの電気を流しているのですから、人体にも影響があるはずです。
それは忘れてはならないことなのです。
仕事で同様の事故を防ぐためには |
この西伊豆の事故は、労災事故ではありませんが、仕事でも同じような事故が起こる可能性はあります。
安衛法で、バッチリ同じシチュエーションを想定したものはありませんが、安衛則第333条に、こんな条文があります。
第333条 電動機を有する機械又は器具で、移動式若しくは可搬式のもの、湿潤している場所などで使用する場合は、漏電による感電の危険を防止するため、感電防止用漏電しや断装置を接続しなければならない。 |
電気を取り扱う時、漏電による事故を防ぐために、漏電遮断機を設けなければなりません。 先のガイドライン等と同じですね。特に水気の多い場所では、必須です。
電気柵などは、簡単に取り付けられるのでしょうが、やはり電気工作物なのですから、電気の知識が必要です。
漏電遮断機や接地が必要など、知らずにやってしまうと、怖いこともあるのです。
夏は感電事故が多発します。 汗をかくなというのは無理です。
少しでも感電リスクを下げるための、保護装置なのです。