厚生労働省労働局長登録教習機関
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溶接とは、金属同士をくっつけるものです。
溶接の際には高い熱を発するので、火災事故や火傷の危険と隣り合わせなのは想像できますね。
溶接の種類によっては、火傷以外の危険もあります。
それは、感電です。
溶接の1種に、アーク溶接というものがありますが、これは放電により高熱を作り出すものです。
いわば手元に雷を発生させると言えます。
かなり高い温度まで上げるのですから、かなり大量の電流が流れます。
この電流が、体に流れると感電してしまうのです。
アーク溶接は、資格がなければ行うことができません。
熊本県八代市で、アーク溶接の資格取得に向けた練習中に、事故が起こりました。
被災者は、感電により亡くなられました。
今回はこの事故の原因を推測し、対策を検討します。
事故の概要 |
事故の概要について、新聞記事を引用します。
なお、紹介したいのは事件そのものですので、被害者名などは割愛しておりますので、ご了承下さい。
引用の下に、元記事へのリンクを張っております。
感電か?電気溶接の練習中に男性死亡 (平成27年8月17日)
17日午後5時すぎ、八代市の建設会社で、溶接作業の訓練を行っていたこの会社の従業員が大きな声を出した後、 倒れているのを近くにいた同僚が見つけ、消防に通報しました。被災者は病院に運ばれましたが、およそ2時間後に死亡しました。
警察の調べによりますと、被災者は午後5時に勤務を終えたあと、今月末に行われる国家試験に向け、「アーク溶接」と呼ばれる放電の際の高熱で金属を溶かす溶接方法の訓練を1人で行っていたということです。 警察は、被災者が溶接の機械で感電した疑いが強いとみて、詳しく調べています。 |
この事故の型は「感電」で、起因物は「アーク溶接」です。
アーク溶接試験は、学科と実技による試験です。 実技試験を合格するには、練習が必要になります。
会社にはアーク溶接の設備があったので、被災者も練習していたのでしょう。 事故は、1人練習中に起こりました。
状況から見て、溶接作業中に体に大量の電流が流れたと思われます。 感電した時、被災者は大きな悲鳴を上げ、亡くなられたのでした。
それでは、原因を推測してみます。
事故原因の推測 |
アーク溶接で注意しなければならないのは、感電です。
感電は、溶接機に触れることで起こります。
もし被覆などが破れていて、電線がむき出しだったら。
または、溶接機のホルダーが破損していたら。
ほんの針の穴ほどの穴からでも、電気は流れます。
しかし、感電の原因は、それだけでもないのです。
アーク溶接で感電の危険がある場所は、船底や周りを金属で囲まれた場所があります。これらに共通するのは何でしょうか。
そうです。体が金属に触れる場所といえますね。
溶接する金属には、溶接機からの放電により、大電流が流れています。 それに触れてしまうと、体にも電気が流れてしまうのです。
しかし、どんなに注意を払っていても、体の接触を完全に防ぐことは難しいです。
感電防止のため、絶縁用保護具を身に付けていると、体の自由を奪います。
アーク溶接では、感電を防ぐため、自動電撃防止装置というものを備えなければなりません。 感電や、漏電などが起こると、本来の使用量をはるかに超える電流が流れます。
自動電撃防止装置とは、大量の電流が流れた時、自動的に電流量を絞り、人体に影響がないようにするものです。
漏電ブレーカーと同じような働きをするわけです。
先ほど上げたような溶接する金属に体が触れるような場所、高所などでは、この装置を備えることが義務付けられています。
今回の事故では、どうやら自動電撃防止装置は備えたものを使用していなかったようです。
特殊な場所での使用ではないので、義務ではありませんが、安全のためには自動電撃防止装置を備えておくほうがよかったのではとないでしょうか。
また資格取得前だったので、1人で練習するには知識が不足していたのかもしれません。
指導者が側にいて、指導も必要だったのではないでしょうか。
それでは、原因をまとめます。
1 | ホルダーやケーブルの絶縁被覆が破損していたこと。 |
2 | 自動電撃防止装置を備えた溶接機を使用していなかったこと。 |
3 | アーク溶接の危険性について、指導していなかったこと。 |
それでは、対策を検討します。
対策の検討 |
アーク溶接を行うときには、装置が完全に絶縁されていることが大事です。 ホルダーに穴が空いていると、絶縁性がなくなり、電気が漏れてきます。
ケーブルが破れて中の銅線が見えているだけでも、危険です。
使用前には、必ず溶接機の点検が必要です。
また、なるべく自動電撃防止装置を備えた溶接機を使用するのが、危険を下げることができます。 どんなに注意していても、感電の恐れはあるのですから、未然に防ぐのが大事ですね。
また、今回のように練習中であるならば、事業者やすでに資格を持っている人が、危険性についてよくよく指導しておく必要があります。 知らない危険は、防ぐことができません。 そのため、知っている人が、教えなければなりません。
今回の事故は、1人で練習中に起きたので、誰か指導者がいると、事故が防げたかもしれません。
事業者にとっては、溶接などの資格者が増えることは、仕事の幅も広がりますので、望ましいことですが、練習指導体制も考えておく必要がありそうですね。 特に、危険作業の実技は、しっかりした安全体制が必要です。
対策をまとめてみます。
1 | 作業前に、溶接機の点検を行う。 |
2 | アーク溶接では、自動電撃防止装置を用いる。 |
2 | 練習中は、経験者が直接指導する体制を作る。 |
アーク溶接は、感電以外にも危険があります。
それは、とても明るい閃光を放つので溶接面をつけないと、失明になります。
また粉塵が舞うので、じん肺になる可能性もあります。
感電対策に加え、防塵、保護面など、非常に防護を固めて作業を行う作業なのです。
違反している法律 |
この事故で、関係する法律は、おそらく次の条文です。
【安衛則】
第331条 事アーク溶接等の溶接棒等のホルダーについては、感電防止の絶縁効力及び耐熱性があるものを使用しなければならない。 |
第332条 船舶の二重底若しくはピークタンクの内部等、著しく狭あいなところ又は墜落により労働者に危険を 及ぼすおそれのある高さが2メートル以上の場所で、交流アーク溶接等の作業を行うときは、交流アーク溶接機用自動電撃防止装置を使用しなければならない。 |
これらについて、解説している記事は、こちらですので、あわせて参考にしてください。