○ショートストーリー”猫井川ニャンのHH白書”

猫井川、コンクリートハンマにブルブルす

entry-397

こんなヒヤリハットがありましたので、対策とともにご紹介したいと思います。

index_arrow 第51話「猫井川、コンクリートハンマにブルブルす 」
建設業では、物を作る仕事ともあれば、壊す仕事もあります。

建物やコンクリート構造物も、出来た当初はきれいで丈夫でも、何十年も経つと劣化してきます。
建物の建て替えなどを行なうには、まず古い物を取壊します。

古くなって、劣化してきているとはいえ、コンクリートはコンクリート。
とてつもなく固いのです。

人間が生身のまま殴ったり、蹴っても、ヒビの1つもいれられません。 むしろ骨にヒビが入ります。

コンクリートの壁に突撃して、体の形に貫通することなどできません。
それが出来るのは、トムとジェリーの世界くらいです。

劣化したコンクリートを取り壊すためには、機械を使います。 大きなコンクリート構造物であれば、ブレーカーといった重機を使います。

建物の床に小さな穴を開けたり、小さな構造物を壊す時は、手持ちのコンクリートハンマといったものを使います。

猫井川は、このコンクリートハンマが苦手でした。

電動ドリルが巨大になったようなこの機械は、先端の爪を激しく振動させて、コンクリートを割っていきます。 機械が動いている間、体全体に振動を受けます。

この振動が、あまり気持ちよくなかったのでした。

ところが、この日犬尾沢から、こんな指示を受けました。

「この建物のポーチをやり替えることになったから、今のを壊してくれ。」

ポーチとは、建物の出入口にあるコンクリートの床です。
地面と扉との段差を埋めるために、コンクリートで一段高くしている部分のことです。

扉の前に縦横1メートル、高さ5センチほどのコンクリートの段。 それほど大きなものではありませんが、猫井川にとっては大事でした。

「コンクリートハンマは苦手なんで、他の仕事ではダメですか?」

犬尾沢に聞きました。

「苦手と言われてもな。他の人も役割振ってるから、頼むよ。
 なんで、苦手なんだ?」

「あの振動が嫌いなんです。
 終わった後、しばらく震えてる感じがして。」

「そうか。苦手なので悪いが、お前しかいないんだ。
 頼むよ。
 防振手袋を貸してもらってな。」

「そうですか。それじゃ、仕方ないです。」

しぶしぶ、振動の世界に入ることを受け入れたのでした。
そうして、一緒に来ているメンバーに聞きました。

「防振手袋を誰か持ってますか?」

しかし、誰も持ってません。

「いや、会社にはあるけど。」

保楠田の返答があったくらいでした。

「犬尾沢さん、防振手袋を誰も持ってないんですけど。」

犬尾沢に言うと、

「じゃあ、買ってくるから、準備しておいてくれ。
 すぐに持ってくるから。」

と言い、防振手袋を買いに出かけたたのでした。

犬尾沢を待つ間、猫井川はコンクリートハンマをケースから取り出し、ドラムの電源ケーブルにつなぎ、準備をしました。 目にはゴーグルを装着しました。

大した準備ではないので、すぐに終わりました。 あとは、犬尾沢を帰りを待つだけでした。 しかしじっと待つのもじれったく、作業を始めることにしました。

防振手袋の代わりに、厚手の革手袋をはめ、コンクリートハンマを持ち上げました。
ポーチの上に、コンクリートハンマの爪を起きました。

スイッチを入れると、ガガガと大きな音と立て、体が震えます。 ハンマの爪は、その振動により、コンクリートの表面を削り、割っていきます。

1箇所を割り終えると、次の場所へと、次々に爪の位置を変えます。

スイッチをいれる度に、猫井川の体は振動に満ち溢れています。 革手袋はどうやら気休めにしかなっていないようでした。

何度も位置を変え、取り壊していくと、犬尾沢が防振手袋を持ってくる前に、ポート全ての取壊しが終わってしまいました。

ほっと一息をついて、コンクリートハンマを地面の上に置くと、やはりどうも体が変です。 まだ体がブルブルと震えている感じがします。

「なんか、ずっと小さな地震が起こってるみたい。」

そんな感じがありました。
声を出すと、回っている扇風機の前で声を出すように、震えた音になるのではと思うほどでした。

しばらく、そんな振動に浸っていると、犬尾沢が帰ってきました。

「ほら、この手袋を使え。
 あれ、ここのポーチはもう壊したのか。」

「はい、待っている間に。
 だから、手袋は必要なかったかもしれませんね。」

「そうか。お疲れ様。
 じゃあ他の入口のポーチも頼むよ。

 あと、5箇所あるから。

猫井川の体内で駆け巡る振動は、まだまだ抜けそうにありません。

index_arrow ヒヤリ・ハットの補足と解説

今回は、振動についてのヒヤリ・ハットです。

建設業の現場では、振動と騒音が溢れています。重機の騒音、杭打ち機などの振動が現場の作業者だけでなく、工事現場の周りの人にも影響します。

今は昔の機械よりも、低騒音で低振動の機械が使われているので、ひどく体に響くことは減りましたが、それでもゼロではありません。

チェーンソーやコンクリートハンマのように、振動する機械を使うと、使い終わった後も、体が震えているような感じがします。その感覚が苦手という人もいます。猫井川も、振動が嫌みたいですね。

振動を抑えるために、防振手袋というものがあります。 この手袋があるかないかで、かなり体への負担が違ってくるので、振動する機械を使う時は、必ず使いたいですね。

振動や騒音は、ただ不快なだけではありません。 長い間浴び続けていると体に障害が出ます。

その辺りは、この記事も参照にしてください。

HAV(振動作業)をあなどるなかれ。

長い間かけて障害の出るものですから、事故というには分かりにくいかもしれません。
ヒヤリ・ハットとして、事故を回避した経験とは違うかもしれません。
しかし、作業によって起こる体への症状なのですから、十分に注意する必要があるのです。

それでは、ヒヤリ・ハットをまとめます。

ヒヤリハット コンクリートハンマを使っていたら、体がブルブルした。
対策 1.体への振動が少ない機械を使う。
2.防振手袋を使う。

振動障害は、すぐに症状が現れるものではありません。 日常的にチェーンソーなどを使用する方は、作業時間を守り、定期検診を受けるなどして、健康維持に努めていきましょう。
事業者は、振動作業を行っている作業者の健康管理に十分な配慮を行なう必要があります。

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