崩壊・倒壊○事故事例アーカイブ

工事現場の本音と建前の事故

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工事はナマモノなので、現場ごとにやるべきこが変わります。
作業方法も、現場で検討ということも少なくありません。

また、工事には締切日があります。 これを工期といいますが、工期をオーバーすることは許されません。

建設業者の本文は、現場作業です。 書類業務などは、どちらかというと後回しになりがちです。

しかし、現実はどうかというと、現場と事務書類の割合は、5:5だったりします。
昔に比べ、非常に書類の負担が多くなっています。

現場だけやっていればいいという時代は、遠の昔の話です。

工事を着手する前に、作成しなければならない書類には、施工計画書があります。

これは、工事をどのように進めていくかという手順書です。
工事にあたっては、非常に重要な書類と言えます。

施工計画書は、着工までに元請けや発注者に提出しなければなりません。
その内容は、大体おいて、標準的な作業方法をまとめたりしています。
現場特有の問題を記入することもありますが、多くの場合は、特に記載しないことも多いです。

現場の問題は、現場で解決する。
下請け業者にとっては、書類作成よりも現場作業が重要と考えています。

そのため、施工計画で書いている内容と実際の作業が異なることも、よくあることです。

作業が順調に進めばよいのですが、事故があった時に問題があります。 作業手順の無視ということになるのです。

今回は、作業手順無視による事故をとりあげてみます。

index_arrow 事故の概要

参考にしたのは、厚生労働省の労働事故事例です。
労働事故事例

施工計画を無視、掘削溝が崩れ生き埋め

発生状況 本災害は、掘削溝の中で、床付け作業を行っていた作業者1人が、周囲の地山が崩壊したため、逃げ遅れ、生き埋めになったものである。
現場は、浚渫土砂や陸上土砂で埋め立てられた人工島にある、緑地整備工事を請け負った。その工事の元請会社は、排水管の敷設をY建設に下請けした。さらにY建設はその工事の一部をV建設に下請けした。

排水管の埋設工事は、総延長600mにわたって、地下1.2~2.9mの位置に水平に、直径20~30cm、長さ2mのヒューム管を埋設するものであった。

埋設工事は次の手順で行っていた。
[1] 床掘はドラグ・ショベルで行う。掘削土は、埋戻しのために掘削溝の両脇に仮置きする
[2] 床付けは人力で行う
[3] 砕石をその上に人力で敷き、ランマーで転圧する
[4] コンクリート枕を据え付け、ヒューム管を据え付ける
[5] 埋め戻す。

災害は工事を始めた日から4日目に発生した。初日にヒューム管を8本、2日目に10本を埋設した。3日目は、ヒューム管が不足したため工事を中止した。

4日目、V建設の3人が作業手順に従って作業を始めた。この日の作業主任者には、F組の地山の掘削作業主任者技能講習修了者であるTが選任されていた。ドラグ・ショベルによる掘削作業はBが行った。掘削溝の西側は、植樹されており、十分な勾配をとることができなかった。また反対の東側には、芝生が植えられており、埋戻し後の復旧に手間取るため、ほぼ垂直に掘削した。

掘削の最大深さは、2.9mであったが、土止支保工は設けていなかった。

また、掘削作業と並行して、KとRは は掘削溝の中で、床付け、ヒューム管の据付け作業を行っていた。
5本目のヒューム管の据付け作業が終了した。その後、KとRは6本目のヒューム管の据付けのための床付けの作業を、Bはドラグ・ショベルで7本以降のヒューム管の据え付けるための掘削を開始した。作業にかかって間もなく、掘削溝西側の地山が長さ8.8m、最大幅1.0m、最大高さ2.8mにわたり、約11.5m3の土砂が崩壊した。Kは逃れたが、Rは逃げ遅れ生き埋めになった。Tは災害発生時、現場を離れ、いなかった。

なお、工事開始3日前に雨が降ったものの、それ以降晴天続きであった。また、作業開始以降、湧水も認められなかった。

NO.529

この事故の型は「崩壊・倒壊」で、起因物は「地山・岩石」です。

事故は、埋設配管工事の最中に、土砂が崩壊したという事故です。
掘削深が、約3メートルにも関わらず、土止め支保工もせず、掘削面に適切な勾配も設けず作業を行っていました。 掘削溝の中に、作業者が入り、床付けを行っていた時、間近でショベルカーを使っていました。

土止め支保工がなく支えのない土壁を、ショベルカーの振動によりゆるめてしまったのが、土砂崩壊になったようです。

なぜ土止め支保工を設けなかったのか。
計画ではどうだったのか。

これら計画と実際の現場の違いが、事故の背景にありそうです。

それでは、原因を推測していきます。

index_arrow 事故原因の推測

この作業場は、埋立地で元々地盤がゆるかったようです。 そのため、作業にあたっては、適切な勾配を設けること、または土止め支保工を設ける計画になっていました。

しかし現場にはこのことが十分に伝わっていませんでした。 土止め支保工を設けることを指示しておらず、付近の植樹を傷つけないという指示を出していたのでした。

そのため、植樹がある場所では、勾配をつけられず、垂直掘りになっていたのです。 また、1つの菅を埋め戻してから、次の場所を掘る手順を計画していましたが、実際は配管を置くのと並行で、掘削作業も行っていました。

これらの本来の計画にない作業方法が、事故の背景になったようです。

それでは、原因を推測をまとめてみます。

約3メートルの掘削深にも関わらず、土止め支保工がなかったこと。
土砂崩れの恐れのある場所に作業者が入っている時に、近くショベルカーが作業していたこと。
施工計画の内容を現場に十分に伝えていなかったこと。

それでは、対策を検討します。

index_arrow 対策の検討

まず、現場の状況に応じた施工を行う必要があります。

この事故であれば、地質や掘削深を考慮し、土止め支保工を設けることを徹底する必要がありました。 もし植樹がじゃまになるのであれば、傷つけても土止め支保工を行うなどもできたのではないでしょうか。

地質がゆるいのであれば、崩壊させないように、開口部付近でのショベルカー作業は控えるのがよかったでしょう。

施工計画も、現場の状況を理解した上で作成し、作業者に伝える必要があります。 そのためには、よくよく現場と作業方法を理解しておく必要があります。

また、2メートル以上の深さを掘る場合は、地山の掘削作業主任者及び土止め支保工作業主任者を配置し、指揮させる必要があります。

施工計画は標準的な作業方法のみ書くことが多いのですが、現実的なものにする必要があります。 それよりも大事なことは、現場の状況に応じた、現実的な対策を行うことです。

対策をまとめてみます。

掘削深さが1.5メートルこえる場合は、土止め支保工を行う。
施工計画書は現場の特性を踏まえ、現実的なものを作成する。
掘削作業では、地山の掘削作業主任者などの有資格者に指揮をとらせる。

施工計画書は、契約してから1ヶ月以内に提出することが求められます。
その間に現場の特性を調査し、作成するのは困難だったりするので、以前作ったものの焼き直しというのが多いです。

建設現場は、現場ごとに特性があります。その特性をなるべく早めに理解し、反映する必要があります。

少なくとも、現場作業を行っている時に、問題が発見されれば、その問題を放置してはいけません。

工事の建前と本音に温度差はありますが、元請け業者や管理者は、この温度差を埋める役割があります。

重要なのは、施工計画書を作ることではありません。
現場の安全を守ること。
これが一番大事です。

index_arrow 違反している法律

この事故で、関係する法律は、おそらく次の条文です。

第355条
地山の掘削の作業を行う場合において、地山の崩壊等の危険を及ぼすおそれのあるときは、あらかじめ、作業箇所などを調査し、その結果をもとに、掘削の時期及び順序を定めなければならない。
第359条
2メートル以上の深さを掘削する場合は、地山の掘削及び土止め支保工作業主任者技能講習を修了した者のうちから、地山の掘削作業主任者を選任しなければならない。
第361条
明り掘削の作業を行なう場合において、地山の崩壊等の危険を及ぼすおそれのあるときは、
あらかじめ、土止め支保工などの措置をとらなければならない。

これらについて、解説している記事は、こちらですので、あわせて参考にしてください。

掘削作業等での安全対策について

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