○コラム

増える高齢者事故をどうしていくか?

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私の会社は建設業ですが、高齢化が進んでいます。
20代の社員はおらず、60代の社員は2人います。整備工場には、80歳の人がいます。

60代の社員は、非常に元気です。若いものより元気です。 しかし一方では、見ていて危ないと思うことや、怪我もあります。

何年も前からですが、団塊の世代の定年退職というものが、社会問題になっています。 私の会社で働いている60代の社員が一斉に退職するというものです。
この問題は大きな比率を占めていた世代が退職することで、労働人口がごそっと減るだけでなく、技術や経験が失われていくことにあります。

新しく人を雇い、育成し、技術や知識を継承する対策はされていますが、完全にカバーすることは難しいです。

この対策として、定年を迎えた労働者を、引き続き雇用し続けているところも多いのではないでしょうか。 建設現場で、60代以上の方を見かけることも少なくありません。

むしろ、20代の若い人を見かけることが少ないような気がします。

50代、60代の方は、技術や経験があるだけでなく、よく働かれます。 よく動きますし、ものすごく元気です。

これは私の周りだけではなく、今や高齢者は労働力として欠かせないというところも少なくないのではないでしょうか。

しかし、一方では高齢者の事故も増えてきています。

厚生労働省の労働死傷報告では、年齢別の死傷事故(休業4日以上)をまとめていますが、これによると、平成26年度の年齢別死傷事故は、合計119,535人に対し、60代以上の死傷者は27,102人で約23%にもなります。50代では、27,523人でこちらも約23%になります。
つまり50代、60代で、死傷者数の約46%も占めているのです。

これは非常に大きな割合を占めているといえますね。
高齢者の事故にはどんな特徴があるのでしょうか。

index_arrow 高齢者事故の傾向

高齢者事故で多いのは、「墜落・転落」、「転倒」です。

年齢別にみた労働災害件数の現状(独立行政法人労働安全衛生総合研究所)
高年齢労働者の労働災害状況等について(PDFファイル) 厚生労働省
これらの事故の中で、注目すべきは「転倒」事故の多さです。「転倒」事故とは、どうして起こるのでしょうか。

それは、足を滑らせる、段差でひっけるなどによって起こります。

若い人では起こりにくいことだと思います。
私は、平面でも足を引っ掛けてしまうのですけども。まだ若いはずなんですが。

何が違うのでしょうか。考えられるのは、身体的な能力の衰えです。

歩くときは、足を上げた時、かかとから着地し、つま先で蹴りますね。年をとると、筋力が衰えます。それはつま先を持ち上げる筋力も衰えさせます。この筋力の衰えは自覚がないものです。足を持ち上げた時、頭で考えているよりもつま先は上がっておらず、かかとより先につま先が地面に接触してしまうのです。これが転倒の一因のようです。

また段差では足が十分に上がっておらず、引っ掛けるということもありそうです。歩くという動作1つでも、筋力の衰えにより、転倒を招いてしまうのです。

身体的な衰えは、筋力だけではありません。
最も顕著に衰えるのは、視力です。老眼という言葉があるくらい、目が見えにくくなり、視野も狭くなります。周りがよく見えず、注意力が低下しているといえます。この視力の衰えは、足下の不注意にもなり、転倒や高所であれば墜落の原因になります。

さらに平衡感覚の衰え、聴力の衰えも、活動や周囲の不注意を招いてしまいます。

もう1つ身体的な衰えとして、見過ごされがちですが、疲労の回復というものがあります。高齢になると少し休んでも疲労は回復しないのです。長い時間が必要になります。体力のある若い作業者と同じペースで働くと、疲れてしまうのです。

高齢になると、誰でも身体的な能力が低下します。鍛えていれば多少抑えられますが、避けることはできません。
ところが、身体的に衰えたという事実は認めたくないものでもあるでしょう。まだまだ若いという感覚をお持ちの60代の作業者も多いです。

この体と意識のギャップが、事故を招いたりします。若い時の感覚で仕事をすると、体が追いつかないということもあります。
1メートルくらいの段差を飛び降りるといったこと、若い時ならなんでもありませんよね。年をとり、骨が弱くなっている時に同じことをすると、骨折することもあります。

私の身近なところでも、階段を踏み外したことで、足の裏を骨折したというものがあります。

元気な高齢者と一緒に働くためには、どうしていけばよいのでしょうか。

index_arrow 事故の対策

高齢者の方と一緒に働くためには、事業者も対策が必要です。 大まかな対策としては、次のとおりです。

1.作業環境の整備
2.作業方法の検討
3.機械設備の改善
4.安全教育、保護具

具体的にどのようなことを行うでしょうか。

1.作業環境の整備
高齢者が安心して働ける環境作りが必要です。もっとも重要なことは、2点ではないでしょうか。

まず、照明を明るくすること。暗いところでは、足下もおぼつきませんので、まず取り掛かることでしょう。比較的、低コストで行えることだと思います。

次に、段差や出っ張りをなくすことです。つまづいたり、ぶつけたりする可能性のある場所を洗い出し、スロープをつけたりします。階段などスロープをつけられない場所であれば、足下にトラテープを張るだけでも、注意を引き起こしますね。

注意をうながす掲示を貼りだすことも1つの手段ですね。でもただ注意を貼り出すのではなく、工夫しましょう。どんな工夫かというと、大きくはっきり、分かりやすくです。読ませるのではなく、目に入った瞬間に分かるものをしましょう。色使いもハッキリしたものの方が、注意を引きます。

さらに、滑りやすいところにはマットを敷く、床の上が濡れていればすぐに拭き取るなども重要です。 高所作業であれば、手すりや中さんで、落ちないようにしてあげます。

整理整頓も大切ですよ。

2.作業方法の検討
高齢者の方でも、体に負担がないような作業方法を検討します。
例えば、重いものを持ち上げる作業をなくす、かがんだ姿勢で作業させないなどがあります。

重いものはクレーンやリフトなどを使えるようにするとよいでしょう。作業姿勢の変更は、作業台を高くしてあげるだけでもよいでしょう。長時間作業であれば、座って作業ができるようにしてあげるのも大事です。

また作業だけでなく、休憩の頻度を増やしてあげるのも、作業方法の検討になるでしょう。

高齢者にインタビューするのがよいのですが、要望が出してもらうのは難しいかもしれません。 むしろ、どこかやりにくい作業はあるかとか、足をひっかけたところはあるかなどの聞き方をすると、意見が出て着やすいです。

3.機械設備の改善
工場や建設業では機械を使用することが多いです。機械に接触したり、巻き込まれたりすることを防ぎます。

機械設備の改善には、設備投資が必要になり、場合によっては多額のコストがかかります。 そのため、すぐに対応できないかもしれません。機械設備を替える場合は、機能だけでなく、安全装置にも着目して検討するといいですね。

予算を掛けない方法では、ガードや囲いを設けるなどの自作の安全装置を設けることができます。また危険な場所には、トラテープなどで、明らかに危険だとわかるようにしてあげます。

もし巻き込まれるなどの危険があった場合、すぐに機械をストップできる非常停止ボタンは、常に機能するようにしておきましょう。

4.安全教育、保護具
長年の経験を持っている作業者は、昔のことがなかなか抜けなかったりします。現在は昔に比べ、遥かに安全に対して厳しく管理されるようになっています。今は保護具の着用徹底は、当たり前となっています。

高齢者の中には、昔の経験から保護具を軽視する傾向もあるように思います。 これは私の周りの人に多いだけかもしれませんが。

ヘルメットはともかく、安全帯や防じんマスクなどは嫌がります。
目に付けば、その都度注意していますが、目が届かない時はどうなのやらです。

保護具の着用を徹底させるためにも、安全教育は大切です。すぐには変わりません。時間をかけなければなりません。繰り返し、繰り返し同じメッセージを伝え、身に付けていくのが大事です。

どんな教育が良いのか。資料として参考になるものもあります。

高年齢化時代 安全・衛生 (PDFファイル) 東京労働局

高年齢労働者の労働災害防止対策 (PDFファイル) 東株式会社インターリスク総研  ※リンク切れ

これらの資料をそのまま使うのは難しいでしょうが、この内容を踏まえ、自社にカスタマイズするのがよいでしょう。
カスタマイズするポイントは、こんなところでしょう。

・自社で高齢者が働いている場所はどこで、どんな危険があるか。
・作業姿勢はやりづらくないか。
・必要な保護具は何か。なぜ着用しなければならないのか。

最後に、事業者として注意しなければならないことも補足しておきます。
年齢を重ねると、身体的な衰えだけでなく、何かしらの持病を抱えることが多くなります。高血圧などをお持ちの方も多いのでは。高血圧の人は、高圧の作業をさせないなどの配慮が必要になるので、健康状態を把握しておきましょう。

一緒に作業する仲間です。事故や怪我を追わせるわけにはいきません。予算をかけなくとも、できることはあります。高齢者に配慮した安全対策は、全ての世代の安全対策にもなるでしょう。

高齢化社会は進んでいきます。高齢者に配慮した対策をいち早く進めていくことは、投資効果があることではないでしょうか。

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