○ショートストーリー”猫井川ニャンのHH白書”

鼠川、不意の動作でギックリ

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こんなヒヤリハットがありましたので、対策とともにご紹介したいと思います。

index_arrow 第54話「鼠川、不意の動作でギックリ 」
鼠川の今朝の出勤は、いつもより遅くなりました。
普段は元気に働く鼠川ですが、60を超える年齢のこともあり、定期的に病院で検診を受けているのでした。

彼自身はそんな必要はないと思っているものの、妻の主張が強く、鼠川としては従うしかないのでした。

「先生、どうですか?」

一通りの診察を受け、鼠川が訪ねます。

「ええ、問題はなさそうですよ。元気なものです。」

「そうですか。まだまだ若いものには負けないつもりですが。」

「運動不足の若者よりは体は強いでしょうね。でも、年齢が年齢なので無理は禁物ですよ。  肩とか、腰の痛みはないですか?」

「まあ、年が年なんで腰にはガタがきてますけど、大丈夫です。五十肩というわけでもないですし。」

「それはよかったです。無理はしないでくださいね。
 急に動いたりすると腰に来たりしますからね。
 それ以外は、全く健康そのものです!」

「ありがとうございました。」

そう言って、診察室を後にしました。
病院で診てもらう必要なんてないと思いながらも、医師から問題ないとお墨付きをもらうと、なかなか心強いものを感じるのでした。

「さて、遅くなったけど、仕事に行くか。」

鼠川は、病院を出た足で、会社に向かったのでした。

会社に到着した後、現場に向かうと、もう作業は始まっていました。

「みんな、おはよう。遅くなって悪かった。」

「あ、鼠川さんおはようございます。」

犬尾沢や牛黒たちも、鼠川の到着に気づきました。

「今日は何をやるの?」

鼠川が聞くと、犬尾沢が答えました。

「とりあえず、片付けなんですけど。
 今日、トラックが入ってくるので、この辺りを開けなきゃいけないんです。」

見ると、牛黒や保楠田などが、工具やコンパネ、その他の材料を持って、別の場所まで運んでいます。

「じゃあ、わしも手伝うか。」

「お願いします。」

鼠川は、早速材料置き場に向かうと、コンパネの前に立ちました。
腰を曲げ、コンパネを2枚掴むと、そのまま立ち上がろうとした時でした。

ピキーン!

鼠川の背中から腰にかけて、電撃が走りました。

「うおっ!」

腰を曲げたままの姿でフリーズしている鼠川。
その顔は、苦悶に歪み、玉の汗が浮かび上がっています。

異常に気づいた牛黒が声をかけました。

「鼠川さん、どうしました?」

「いや、腰が・・・」

声も絶え絶えに答えます。

「ぎっくり腰ですか?」

牛黒がそう聞くと、力弱くうなづきます。

「とりあえず、コンパネを降ろしてもらって、座りましょう。」

牛黒がコンパネを掴むと、ゆっくり降ろしました。次に鼠川を支えると、ゆっくりその場に腰を下ろさせたのでした。
ゆっくり動きながら、顔を歪める鼠川。犬尾沢も近づいてきました。

「大丈夫ですか?」

「ああ、腰を痛めたみたいだ。」

腰を降ろし、小さな声でつぶやきます。

「ぎっくり腰ですかね?
 牛黒さん、湿布持ってきてもらっていいですか?
 病院行きます?」

「少し休んで、様子見てからな。」

牛黒が湿布を持ってきました。

「背中を出してください。」

犬尾沢がそういうと、ゆっくり服をまくり上げ、背中を見せました。

「どのあたりですか?この辺りでしょうか?」

位置を聞きながら、湿布を貼りました。

「とりあえず、ここでは何なんで、車の中で休みましょうか。
 ゆっくり動けます?」

「ああ、それくらいなら大丈夫だと思う。」

支えられながら、時間を掛けて立ち上がり、ゆっくり車に向かいました。 ドシッと車のシートに座ると、少し一心地をついた気分になりました。

「病院に行きましょう。
 今日は仕事はやめておいた方がいいですね。
 奥さんに電話しますか?」

「いや、電話は勘弁してくれ。
 びっくりして、すっ飛んでくるから。」

「そうですか。でも病院行く時には、連絡した方がいいですよ。
 ちょっとだけ待っててもらっていいですか?
 みんなにやることを指示したら、すぐ病院に連れて行きますから。」

離れていく犬尾沢の背中を見ながら、1時間前の病院で言われたことを思い出す鼠川なのでした。

index_arrow ヒヤリ・ハットの補足と解説

鼠川は60歳を超えているので、どうしても身体的な衰えがでてきます。もちろん普段から現場作業で体を動かしているので、頑強ではあります。しかし目や肩、腰、足などの衰えは、誰も止めることができません。

今回は鼠川のぎっくり腰です。実際に負傷してしまっているので、ヒヤリ・ハットにとどまらない状態かもしれませんが、よくある状況だと思います。

足元に置かれた荷物を、足を伸ばしたまま、腰を曲げた持ち上げ方をすると、腰に負担がかかります。この時勢いをつけて持ち上げようとすると、ぎっくり腰になどになります。いわゆる不意の反動による負傷というものです。
今回の鼠川は、遅れて現場に行ったので、作業前の体操など準備運動もせず、作業にとりかかりました。体が十分にほぐれていなかったのも、腰を傷めた原因のようです。

しかもこの不意の反動による腰痛や背中痛は、年に関係なく起こります。私の近くでも、まだ20前後の作業者が、まさに鼠川と同じ状況で、背中に痛みを覚えました。

重いものを持ち上げるときは、足を曲げ、腰を下ろして荷物を持ちましょう。荷物を持ち上げながら、立ち上がると腰への負担は軽減されます。
さらに、作業前にはラジオ体操などで体をほぐしましょう。ちょっとした準備運動ですが、怪我の防止になります。

それでは、ヒヤリ・ハットをまとめます。

ヒヤリハット 荷物を持ったら、腰に負担がかかって、ぎっくり腰になった。
対策 1.荷物を持ち上げるときは、腰に負担のかからない持ち上げ方をする。
2.作業前には準備運動を行う。

私も以前、腰を傷めたことがあるので、腰痛の辛さはわかります。しかも一度なったら、癖になるのか、慢性の腰痛になります。
別の記事でも書きましたが、作業前のラジオ体操などで体をほぐすのは、怪我の防止に大事なことですよ。

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