○ショートストーリー”猫井川ニャンのHH白書”

猫井川、脚立足場に不安を覚える

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こんなヒヤリハットがありましたので、対策とともにご紹介したいと思います。

index_arrow 第56話「猫井川、脚立足場に不安を覚える 」
猫井川は、今日も牛黒の代わりに羊井の現場に参加していました。
牛黒が問題を起こした現場だけに、当初は不安はあったものの、そんなのはすぐに消えました。

どうやら牛黒と揉めた業者の作業者も変わったらしく、ある種の痛み分けで幕を引いたらしく、表立ってギクシャクもありませんでした。
そもそも工事現場多くの人が出入りする現場です。時にはぶつかることもあります。しかし、ギクシャクして仕事に支障をきたす訳にはいきません。
結局のところ何事もなかったように、淡々と仕事が進んでいくのでした。

「牛黒さんの代わりだから、何か文句言われるかもと心配したけど、何にもなさそうでよかった。」
猫井川も内心ほっとして、胸をなでおろしていたのでした。

今、羊井たちは建物のコンクリート工事を準備していました。
猫井川が現場に入った時には、すでに建物は3階まで打ち上がっていました。これより上の階の作るためには、材料を持ち上げる必要もありますが、人の手で持ち上げるのは難しくなります。そのため、クレーンを使って持ち上げていくのでした。

「俺はこんな高いところでコンクリート打つのは初めてです。」

作業内容を聞きながら、猫井川は羊井に言いました。

「そうだろうな。同じコンクリ仕事でも、土木のとはちょっと違うかもしれないな。でも基本的にやることは一緒だよ。高いところでやるだけ。」

「そうなんでしょうけど。いちいちクレーンで鉄筋運ぶのも大変ですね。」

「さすがに、足場使っては運べないし、逆に危ないからな。
 建築現場は、高所だから安全第一なんだぞ。」

「羊井さんも、犬尾沢さんみたいなことをいいますね。」

「そりゃそうだ。うちの会社は、名実ともに安全第一だからな。」

そんな話をしながら、クレーンが運んできた荷物を整理整頓していきました。

「猫井川、下まで降りて、桟木とか番線とか持ってきてくれ。」

「はい。」

猫井川は、羊井の指示を受けて、足場を降りて行きました。
トラックから桟木や番線を取り出し、羊井のところに戻ろうとした時です。 何とはなしに建物の中を覗いてみると、1階の室内で作業している様子が見えました。

1階の室内では、壁の修復をやっている様子でした。
左官屋さんが、コテを使ってモルタルを塗っています。左官は、猫井川もコンクリート押さえでやっていますが、なかなか上手にできません。いつも猫井川がやった後には、保楠田が「ダメだなー」と言いながら、仕上げているのでした。

左官作業は、それだけ難しいのを知っているので、その技を見ようとしたのでした。

さすがは、左官屋さん。壁を見事に仕上げていきます。
遠目ではありますが、壁が均一の厚さに塗られていっているのが分かります。

腕は確かのようです。しかし猫井川はその手元より、足元に目が行ってしまうのでした。

左官屋さんは、壁を塗るために脚立足場を使っていました。脚立を2つ並べ、その間に作業床を通して簡易な足場にしているのです。 その足場がなんとも頼りなさ気に見えたのでした。

脚立の1つは足元が曲がっていました。そのため脚立の高さが若干違い、斜めになっています。作業床もただ脚立の足の間を通しているだけで、きっちり固定でされていません。

左右の足に体重移動させるだけで、脚立の足が浮き上がったりしています。 移動すると、そのがたつきは更に大きくなります。

どう考えても、安全に気をつけて仕事していますねとは言いがたい様子でした。

「危ないな。あの足場。
 犬尾沢さんがあれを見たら、絶対キレる。」

そうです。犬尾沢ならば、ガタガタしている足場作業など決して許しません。
きっと「猫井川ー!」と、怒鳴るはずです。

そんなことを思いながら、足場を登り、羊井の元に戻りました。

「持ってきました。
 室内で左官してますけど、脚立足場危ないですね。」

荷物をおきながら、今見てきたこと、さっそく伝えました。

「ああ、あれな。俺も見たよ。
 うちの会社では、あれは許さんな。
 ここの元請けも安全安全と言ってるけど、あんまり指摘はないからな。
 なあなあになってるんだよ。」

「そうなんですか。  それも問題ですね。」

「まあ、実際いろんな会社があるからな。
 うちは比較的気をつけている方だと思うけど、そうじゃない会社も多いよ。
 特に下請けになればなるほどな。」

「そうですか。  もし俺らがあんな仕事してたら、犬尾沢さんにキレられます。」

「まあ、確かに。あいつなら吠えるな。」

2人して笑いながらも、あの左官屋さんのガタつく足場作業への不安が拭えない猫井川なのでした。

index_arrow ヒヤリ・ハットの補足と解説

今回のヒヤリ・ハットは、猫井川たちに直接降りかかったものではなく、むしろ他の業者の様子を見て、不安を覚えるというものでした。
建設業では、専門に特化した会社も多数あります。建築現場では、鉄筋、型枠、足場、建具、塗装など多数の下請け業者が入ることは珍しくありません。
そのような現場では、顔見知りの業者も多いでしょうが、初めて会う業者も多いです。また直接関係のある仕事でなければ、同じ現場内にいても、関わることも少ないでしょう。

多くの会社が出入りしているのですから、安全に対する考え方や意識、対策もばらつきがあります。元請け業者が全体の管理は行うものの、実務に携わる作業者の監督を行うのは、下請け業者自身ですから、その人たちの意識が何よりも重要になるのです。

猫井川の会社HHCは、安全に対しては意識は高い方です。ヒヤリ・ハットはあるものの、犬尾沢や羊井といったリーダーが口うるさく指導しているため、みんなにもその意識が浸透しています。どうやら猫井川が不安を覚えた塗装業者は、違ったようです。

脚立足場は、脚立を2脚以上並べ、その間に作業床を渡します。これによって脚立では不可能な、左右の移動が可能になるのです。構造は簡単なので、簡単に準備ができます。しかし支えるのが脚立に過ぎないので、不安定でもあるのです。
不安定さを解消するためには、脚立の高さをそろえ、足元のがたつきをなくす、そして作業床を固定しなければなりません。

塗装業者は、このいずれもやっていなかったようでした。ほんの短時間の作業だから気にしなくていいやというのかもしれませんが、短時間でも墜落することはあるのですから、理由にはなりませんね。

それでは、ヒヤリ・ハットをまとめましょう。

ヒヤリハット 不安定な脚立足場の使い方を見て、不安を覚えた。
対策 1.脚立足場に使う脚立は、高さをそろえ、足元のがたつきのない頑丈なものを使う。
2.作業床は、脚立に番線などで固定する。 /td>

足場作業は、多少なりとも墜落するリスクのある場所で仕事をします。2メートルに満たない低い場所からの墜落は、大ごとにならないように思うかもしれませんが、頭を強く打てば死の危険があります。骨折をする危険もあります。 不安定な場所で作業することに慣れていても、ついバランスを崩すことは誰でもあります。

仕事に専念するためには、仕事以外の不安を解消してやる必要があります。そのためには作業場は安定させる必要があるのです。

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