○事故事例アーカイブ火災・爆発

工場でホースの先端が作業員の腹部に刺さり死亡 (群馬県明和町)

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機械に巻き込まれたり、切られたり、刺さったりする事故は、想像するだけでものすごく痛くなるのですが、そんなことはありませんか?そんな痛い事故を気にしていると案外少なくないのか、報道されているのを目にします。

ニュースなどでは、さらっと状況を説明されるのですが、事故の現場は非常に凄惨なものになっているに違いありません。

事故は痛いものなのに、どうして防ぎきれないのかと思わずにいられません。

群馬県でタンクの溶接検査の際に、破裂し、ホースが刺さるという事故がありました。ホースなんてのは、先端は細くなっているものの、鋭利に尖っているわけではありません。
そんなものが刺さるのですから、よっぽどの勢いで飛んできたに違いありません。

今回はこの事故の原因を推測し、対策を検討します。

index_arrow 事故の概要

事故の概要について、新聞記事を引用します。 なお、紹介したいのは事件そのものですので、被害者名などは割愛しておりますので、ご了承下さい。 引用の下に、元記事へのリンクを張っております。

工場でホースの先端が作業員の腹部に刺さり死亡  群馬・明和町(平成27年10月5日)

群馬・明和町の工場で、5日、作業員の男性の腹部にホースの先端が刺さり、死亡した。

5日昼前、明和町の工場内で、アルバイト従業員が、タンクの溶接検査をしていて、タンクに空気を注入する作業をしていたところ、タンクが破裂して、ホースの先端部分などが、被災者の腹部に刺さり、死亡した。
警察は、事故の状況をくわしく調べている

FNNニュース(記事リンク切れ)
この事故の型は「爆発」で、起因物は「タンク」です。

事故は、タンクの溶接検査の時起こりました。タンクは内部に液体や気体を溜めておく容器のことです。車にあるガソリンを溜めるところといえば、イメージできるかもしれません。
もしガソリンタンクに穴が空いていれば、危険ですよね。何かガソリン臭いと思った時には、家事になるかもしれません。
タンクの重要な役割は、中に液体などを溜め、漏らさないことです。

タンクなどの組立は溶接で行われることが多いです。ボルト・ナットだと長年使用するとパッキンが劣化し、漏れが生じるため、金属そのものをくっつけて一体化させるほうがが、密閉度が増し、長年経っても漏れが起こりにくいからです。

溶接は金属同士をくっつけるのですが、作業が終わった後は、漏れがないかの検査を行ないます。この検査は、内部に水や空気を満たして行います。溶接不良の部分があれば、そこから漏れ出します。

また内部に液体や気体を満たすと圧力がかかり、外に強く押し出します。タンクはこの力にも耐えなければなりません。そのため、漏れチェックの際には、やや高めの圧力をかけてやるのです。圧力を高めてやることで、漏れている箇所も探しやすくなります。

今回の事故では、タンクの溶接検査の際、高い圧力がかかったため、爆発しました。
爆発した際に、検査で使用していたのでしょうか、ホースが被災者の腹部に刺さってしまったのでした。

それでは、原因を推測していきます。

index_arrow 事故原因の推測

この事故の直接原因は、溶接検査の際に圧力をかけすぎたことです。

「圧力容器構造規格」の第1編 第一種圧力容器構造規格、第3章 工作及び水圧試験では、溶接後の圧力検査についての規定があります。
この規定によると、圧力容器(タンク)で中に水を溜め圧力をかけて試験する際には、最高使用圧力の1.5倍(プラス温度補正)の圧力をかけます。全文はこちら
時間は確か3分程度だったはずです。水道では3分のはず。

内部に水を満たせない場合は、空気で代用します。空気で試験する場合は、最高圧力の1.25倍の圧力をかけます。水圧よりやや低めです。これは空気のほうが膨張率が高いからです。

この事故では、空気圧で試験を行っていました。実際にどれだけの圧力をかけたのかは、記事から伺い知れませんが、少なくとも規定以上はかかっていたのではないでしょうか。水圧試験と同じ圧力をかけたのかもしれません。

もし溶接不良があり、漏れがあれば空気が漏れ出し事故に至らなかったかもしれません。

過剰に圧力をかけた原因は、2つ考えられそうです。
まずは、試験圧をよく理解していなかったこと。次に圧力計などが不良だったことです。

しかし試験を担当するくらいなので、試験圧くらいは把握していたのではと思います。これも憶測ですが、もともと水圧試験が予定されていたけれども、急きょ空気圧試験に変更となり、水圧試験と空気圧試験では試験圧が異なることを知らなかった可能性はありそうです。

圧力計が不良であれば、知らず知らずのうちに、過剰な圧力をかけたということも考えられます。

それでは、原因を推測をまとめてみます。

試験圧以上の圧力をかけたこと。
試験圧を理解せず、検査したこと。
圧力計が故障していたこと。

それでは、対策を検討します。

index_arrow 対策の検討

この事故は、過剰な加圧により爆発したのですから、規定の圧力で試験を行なうべきでした。 そのためには、事前に試験圧を調査し、決定しておくことです。そして常にどれだけの圧力をかけているのかを把握するために、正常に動く圧力計を使用しなければなりません。 非破壊の溶接検査を行なうのは、資格も必要です。有資格者が実施しなければなりません。 より安全性を高めた試験を行なうのであれば、タンクが破裂するといった万が一の事態にも備え、物が飛んできても防ぐ囲いを設けておくのも対策になりそうです。ただ、まさかタンクが爆発、破裂するなんて考えませんよね。 対策をまとめてみます。

圧力試験では、規定値を守る。
試験に使用する器具は、正常に稼働するものを使用する。
飛散防止のための囲いなどを備える。

~しめ~

index_arrow 違反している法律

この事故で、関係する法律は、おそらく次の条文です。

圧力容器構造規格
第1編 第一種圧力容器構造規格 第3章 工作及び水圧試験

第2節 水圧試験

第63条

第一種圧力容器は、その種類に応じ、それぞれ次の各号に掲げる圧力により水圧試験を行って異状のないものでなければならない。

  1)鋼製又は非鉄金属製の第一種圧力容器最高使用圧力の1.5倍の圧力に第5項による温度補正を行った圧力
  2) 最高使用圧力が0.1メガパスカル以下の鋳鉄製第一種圧力容器0.2メガパスカル
  3) 最高使用圧力が0.1メガパスカルを超える鋳鉄製第一種圧力容器最高使用圧力の2倍の圧力
  4) ほうろう引き又はガラスライニングの第一種圧力容器ほうろう引き又はガラスライニング施工前にあっては
    前3号に掲げる圧力、ほうろう引き又はガラスライニング施工後にあっては最高使用圧力

2 メッキを行う第一種圧力容器の水圧試験は、メッキを行った後に行うことができる。

3 大型の第一種圧力容器その他その構造が水を満たすのに適さない第一種圧力容器は、水圧試験に
  代えて気圧試験を行い異状のないものでなければならない。
  この場合において、試験圧力は、最高使用圧力の1.25倍の圧力に第5項による温度補正を行った圧力とする。

4 前項の気圧試験は、最高使用圧力の50パーセントの圧力まで圧力を上げ、
  それ以降最高使用圧力の10パーセントの圧力ずつ段階的に圧力を上げて試験圧力に達した後、
  再び最高使用圧力まで圧力を下げて、この圧力において異状の有無を調べるものとする。

5 水圧試験又は気圧試験の圧力の温度補正は、次の算式により行うものとする。

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