飛来・落下○事故事例アーカイブ

鉄板下敷き、作業員死亡 新日鉄住金君津(千葉県君津市)

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ここ数日、クレーンの事故が頻発しているように思います。少し前も鉄骨の落下事故、鉄パイプの落下事故等を事例で取り上げたばかりなので、そのように思うだけかもしれませんが、続けざまに同様の事故が起こっているように思います。

クレーンは吊り上げる機械です。空中に吊り上げるのですから、特に注意しなければならない事故というのが、荷物の落下です。クレーンで吊り上げるものは、主に人の手では持てないような重量物です。そのようなものが落下してくるのですから、危険極まりありません。

千葉県の新日鉄住金でも、クレーンの事故が起こってしまいました。吊り上げていたものは、鉄板です。
この鉄板が落下し、作業者を下敷きにしてしまったのでした。

今回はこの事故の原因を推測し、対策を検討します。

index_arrow 事故の概要

事故の概要について、新聞記事を引用します。 なお、紹介したいのは事件そのものですので、被害者名などは割愛しておりますので、ご了承下さい。 引用の下に、元記事へのリンクを張っております。
鉄板下敷き、作業員死亡 新日鉄住金君津 (平成27年10月17日)

君津市君津1の新日鉄住金君津製鉄所内の熱延工場で17日午後10時ごろ、クレーンで鉄板を運搬する作業中に鉄板5枚が落下、クレーンを操作していた会社員が下敷きになり、間もなく死亡が確認された。君津署が事故原因を調べている。

同署によると、鉄板は1枚の重さが529キロ。5枚ずつつり上げ、出荷用の台座に移し替える作業が行われていた。近くで別の作業をしていた同僚が鉄板が落ちた音に気付き、製鉄所内の保安室に通報した。

この事故の型は「飛来・落下」で、起因物は「クレーン」です。

新日鉄住金の熱延工場で、事故が起こりました。
熱延とは鉄を熱し、鉄板に加工することです。加工を終えた鉄板をクレーンで運び、出荷用の台座に置く作業中に事故が起こりました。

鉄板は1枚が529キロで、これを5枚ずつ運んでいました。クレーンを操作していた人は、吊り荷の側でいたため、落下の際に下敷きになり、亡くなられてしまったのでした。

それでは、原因を推測していきます。

index_arrow 事故原因の推測

操作していたクレーンは、工場内のことなので、天井クレーンであったと推測されます。
天井クレーンは、倉庫や工場の天井付近に設置され、前後左右に移動させることができます。操作は大きなものであれば運転席がついていたりしますが、おそらくこの事故現場では、床でコントローラーで操作していたものだと思います。

荷物の移動ともに、操作者自身も移動するタイプのクレーンです。そのため、どうしても吊り荷の側にいるため、荷物が落下した時には巻き込まれてしまうリスクが高くなります。

この工場では、鉄板を5枚づつ運んでいました。1枚が500キロ弱なので、約2500キロの吊り荷です。大きな工場ですし、日常的に行われていた作業だと思うので、クレーンの吊り能力を超えた過負荷であったとは考えにくいです。建物の中なので、風などの影響もなかったことでしょう。
そのため、玉掛けがしっかりされていなかったのが、落下の原因であると考えられそうです。

鉄板の積み重ね方が悪かったのか、ワイヤーの掛け方が悪かったのか。もしくは、何かに衝突したのか。
いずれかが原因と思われます。

それでは、原因を推測をまとめてみます。

玉掛けが悪く、バランスを崩したこと。
吊り荷のすぐ側で操作していたこと。

それでは、対策を検討します。

index_arrow 対策の検討

床上で操作する天井クレーンは、どうしても吊り荷の側に立たなくてはなりません。それであっても、ある程度の安全距離を保つことはできます。 吊り荷の真下に入らなくとも、手で触れるような距離にいると非常に危険です。
日常的に、吊り荷作業を行っていると、慣れてしまい近くに寄ることに対して抵抗がなくなるのでしょうが、距離感をしっかり保つことは徹底しなければなりません。

これはしっかり教育として、全ての作業者にクレーン作業時の立ち位置を理解させる必要があります。

また玉掛けやクレーン作業は有資格者でなければ行ってはいけません。吊り荷は1トン以上ですので、玉掛けは技能講習、クレーン作業は特別教育を修了したものが行います。大きな工場ですので、無資格とは考えにくいのですが、資格の有無の確認は大事です。

そしてバランスを崩さないような玉掛けは非常に重要です。
ただワイヤーを掛けたらいいのではなく、吊り上げ移動している最中に荷崩れさせてはいけない、掛け方をします。
きちんとバランスがとれているのかは、地切りで確認します。繰り返される作業であっても、地切りをおこたってはならないのです。

対策をまとめてみます。

玉掛けやクレーンは有資格者が行う。
地切りでバランスを確認する。
吊り荷の落下範囲には入らない。

クレーンを使用する工場や倉庫は、数多くあります。そして吊り荷作業も日常的に行われています。
吊り荷作業は常に落下の危険と隣り合わせです。
落下させないためには、適切な玉掛けを行うこと。

玉掛け1つで生死を分けてしまうのです。たかが玉掛け、されど玉掛け。 この資格は講習だけですので、容易に取得できます。資格者が作業するのはもちろんですが、資格者であっても、学んだことをきっちりと実行することが命を守ることになるのです。

index_arrow 違反している法律

この事故で、関係する法律は、おそらく次の条文です。

【クレーン則】

第71条
事業者は、移動式クレーンを用いて作業を行なうときは、一定の合図を定め、合図者を指名して、合図させなければならない。
第74条の2
事業者は、移動式クレーンの作業中に、特定の吊り方をしている荷の下に、労働者を立ち入らせてはならない。

これらについて、解説している記事は、こちらですので、あわせて参考にしてください。
クレーンの安全 その9。 作業時の注意

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