厚生労働省労働局長登録教習機関
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家や建物を作る時には、足場は欠かせません。
壁を作ったり、屋根に登るために必要だからです。2階以上の建物はもちろん、平屋であっても、足場を組むことがほとんどではないでしょうか。
足場作業は、高所作業です。高所作業には、常に墜落するリスクが伴います。
墜落すると、地面や床に叩きつけられることが多いのですが、場合によっては落下地点にあるもので傷つけられることもあります。
茨城県茨城町で、家の瓦ぶきを行っていた職人が、足場から墜落するという事故がありました。
そして、墜落した先には、鉄筋があったのです。
今回は、この事故の元に推測し、対策を検討します。
事故の概要 |
事故の概要について、新聞記事を引用します。 なお、紹介したいのは事件そのものですので、被害者名などは割愛しておりますので、ご了承下さい。 引用の下に、元記事へのリンクを張っております。 脇腹に鉄筋刺さる 36歳瓦ぶき職人の男性死亡(平成27年11月4日)
4日午前8時45分ごろ、茨城県茨城町の住宅工事現場で、小美玉市の瓦ぶき職人が足場から転落し、脇腹に石塀から出ていた鉄筋が刺さった。被災者は搬送先の病院で死亡した。
県警水戸署によると、被災者は同僚ら約10人と高さ約5メートルの門の工事を行っていた。高さ約2.6メートルの足場から降りようとして、誤って転落したとみられる。門に隣接する石塀からは、直径約1センチ、長さ約34センチの鉄筋が複数突き出ており、防犯のため先端が鋭角になっていた。 近くで作業をしていた同僚が、うめき声を聞き、確認すると被災者が倒れていたため119番通報した。 |
この事故の型は「墜落・転落」で、起因物は「仮設設備(足場)」です。
住宅工事で事故は起きました。瓦葺き職人が、高さ5メートルの門の工事を行っていた時、足場から降りようとしたところ、転落してしまいました。
落下した先には、隣の石塀から突き出た鉄筋が何本もあり、これが脇腹に刺さってしまったのでした。
鉄筋は、ただ突き出していただけではありません。防犯のため、先が斜めにカットされ、鋭く尖っていたのです。
被災者は、病院に運ばれましたが、亡くなってしまいました。
なんとも想像するだけで、痛い事故です。
それでは、原因を推測していきます。
事故原因の推測 |
この事故が死亡事故にまでなったのには、原因が2つありそうです。
1つ目は、足場から墜落したということ。
2つ目は、近接する塀から、鉄筋が突き出していたことです。
この2つが重なり、深刻な被害になってしまいました。
まず足場からの墜落ですが、高さが2.6メートルということなので、1段目の作業床から降りようとしたのだと思われます。
足場には昇降用の階段は備え付けられていたでしょうが、それを使わず、手すりの間から降りようとしたのではないでしょうか。つまり導線のショートカットを行ったことです。
手すりの間から降りる時も、筋交いなどに足を掛けて、地表まで降ります。しかし足を掛けることを目的としていない場所ですから、足を滑らせても仕方がありません。おそらく、降りる時に足を滑らせ、転落したのだと思われます。
作業者の間で、階段を使わず昇り降りする習慣があったのではないでしょうか。
次に突き出していた鉄筋ですが、作業場の周辺に危険と思われるものがあれば、対処しておく必要があります。作業場のすぐ近くに鋭く尖った鉄筋があると分かっていたならば、何かしらの対処を検討しておく必要はあったのではないでしょうか。
少し離れているから大丈夫と思ったのかもしれません。
しかし、目につく危険は放置しておくと、思いもよらぬことも起こるのです。
それでは、原因を推測をまとめてみます。
1 | 足場の昇降に階段を使用しなかったこと。 |
2 | 鉄筋の突出しなど、周辺の危険物の養生をしていなかったこと。 |
3 | 足場の使い方などの安全教育が十分でなかったこと。 |
それでは、対策を検討します。
対策の検討 |
足場などの設備には、手すりや中桟、階段などの安全設備が設けられています。これらは、作業者が危険に合わないようにするための設備です。どのような安全設備でも同じですが、安全設備を外してしまうと、それだけ危険が及びます。
1段目の作業床から地上までの高さは、この現場でも2.6メートル程度です。ジャンプして降りられない高さではありません。急いでいる時や、階段が離れている場合であれば、ついつい階段以外のところから登り降りしたくなります。
しかし、階段以外での登り降りは、それだけ足を踏み外す、滑らせる危険があることを十分に知っておかなければなりません。この事故でも、瓦ぶきの職人さんなので、常日頃から高所作業を行っているので、足場を使うことも日常茶飯事だったことでしょう。足元も、滑り止めの付いた地下足袋か安全靴を履いていたことでしょう。 そのような人であっても、墜落してしまうのです。高所作業を時々しか行わない人なら、なおさら足元は危ういでしょう。
また作業場周辺に危険物がある場合は、きちんと対処しておきます。
この事故の場合は、鉄筋ですね。鉄筋は石塀から上に突出し、その先端は鋭く尖っていました。その上に落ちれば、刺さることは明白です。このような危険物がある場合は、その先端に鉄筋用のキャップを付けるなどの対処ができたのではないでしょうか。
その塀が隣の方の私有地に立っていた場合、高所作業で、鉄筋の上に墜落する危険がある間だけでも、キャップを付けさせてもらえないかと頼むこともできたと思います。
危険を危険のまま放置しておくと、それが大きな事故になることもあるのです。
対策をまとめてみます。
1 | 足場の昇降は階段を使用する。 |
2 | 鉄筋が突き出している場合は、キャップをする。 |
3 | 足場の使い方や周辺の危険物に対して、教育と対処を行う。 |
鉄筋コンクリートであれば、基礎コンクリートの後、壁と一体化させるための鉄筋を突き出させておくことがあります。
基礎コンクリートから鉄筋が突出したままの状態で、足場を組み、壁の鉄筋組みなどを行う場合、これに刺さる危険があります。
鉄筋は、先端が尖っていなくとも、墜落した勢いで刺さってしまうことがあります。
鉄筋の端部はキャップを付けておきましょう。少なくとも上から人が落ちてくる危険がある場所では、キャップの有無は命に関わります。