○ショートストーリー”猫井川ニャンのHH白書”

猫井川、幾度となく釘を刺される

entry-493

こんなヒヤリハットがありましたので、対策とともにご紹介したいと思います。

index_arrow 第64話「猫井川、幾度となく釘を刺される 」
「お前は、釘を打つのが下手だなー。」

そんな声が、工事現場に響きました。
声の主は、型枠大工さん。どうやら一緒に仕事をしている若い作業員に向かって言っているようでした。

よくよく見ていみると、その若い大工さんは、型枠を支える桟木に釘を打つ時、上手く打てず、ボロボロと落としてしまっているのでした。

「少しくらいなら落としたままにしておいてもいいけど、流石に多いから、後で拾っておけよ。」

ベテラン型枠大工さんは、呆れ気味に言っていました。

猫井川は、そんなやり取りを耳にしながら、自分の仕事に取り掛かろうとしていました。

今日は、ようやく羊井の現場に戻り、さっそくコンクリート工事を行なうことになりました。
ちょっとした土間を打つだけなので、それほど大量ではありませんが、しばらく倉庫整理に掛かりっきりだったので、猫井川には新鮮な作業でした。

高周波バイブレーターを持つ手にも力が入ります。

張り切る猫井川が待つ現場に、ミキサー車が到着し、さっそくコンクリートを打ち始めます。
シュートでどさっとコンクリートを落とすと、猫井川がバイブレーターを挿しこみ、型枠の隅々まで、流し込んでいきます。

型枠大工さんは、先程まで別の場所で組んでいた型枠の手を止め、コンクリートが打ち込まれる様子を見ています。コンクリートの圧力で型枠が壊れないかチェックしているのでした。
時折、締付け金具をカンカンと叩きながら、確認していました。

ブイーン、ブイーンとバイブレーターを差し込みながら、猫井川の体はコンクリートの飛沫がかかります。 それでも、猫井川は今の仕事が新鮮なのでした。

コンクリートの打ち方が終わると、表面を均していきます。
今回は、均し作業のために鼠川が来ていました。

鼠川は、いくつかのコテを準備しながら、ちょっと思案顔をしていました。

「鼠川さん、どうしたんですか?」

「いやな、どうってことはないんだけども・・・
 そうだな、猫井川、お前均しをやったことはあるか?」

「いえ、ないです。いつも鼠川さんとか、保楠田さんがやってましたから。」

「大体そうだな。うむ。猫井川、お前ちょっとやってみろ。」

「えっ!やったことないですよ!」

「だからだ。仕上げはワシがやるし、教えてやるからやってみろ。」

「そうですか。汚くなっても、後できれいにしてくださいね。」

「おう。じゃあ、まずはこのプラスティックのコテで全体をざーっと均していけ。」

「はい。これを持つのは、初めてです。」

猫井川は、初めてのコンクリート均しに挑戦になりました。

早速、コンクリートの表面にコテを当て、左右に動かすと、

「いや、最初はそうじゃなくて、表面を軽く叩いていけ。そうして表面付近の空気を抜いていくんだ。」

「はい。こうですか?」

ペタンペタンとコテを叩いていきます。

「ちょっと強すぎる。そんなに跳ねさせるんじゃない。もう少し軽くていい。」

アドバイスを受けて、軽くペチペチと叩いていきます。

「そうそう。そうしたら気泡が出てくるだろう。それがなくなるまで万遍なく叩け。」

「はい。」

「そうしていくと、天端の隅より高いところとか低いところがあるだろう。
 そういうところは、コンクリートの量を調整するんだ。」

「多い所は、削ればいいんですか?」

「そうだ。ちょうどお前が今コテを当てている辺りは、少し多いだろう。
 少し削れ。」

「そんな微妙な差は分かるもんなんですか。」

「よく見れば、わかるもんだ。よく表面を観察するのが大事なんだぞ。」

そんな風に教えてもらいながら、猫井川は初めてのコンクリート均しをやっていきます。

全体的にザーッと均し、猫井川の役割は終わりました。

表面にはまだコテの跡が残っているものの、なかなかの出来です。

「初めてにしては、まあまあだな。」

鼠川も満足気でした。

「これから少しずつやらせるから、任せるぞ。」

「はい。」

「それじゃ、少し均すか。」

そうして猫井川と鼠川の位置を替わろうとしたときでした。
猫井川が持ち上げた長靴から、カランと何か落ちました。

何だろうと見てみると、それは1本の釘でした。

「何で釘が落ちてきたんだろう。」

そう思い、長靴を脱いで、靴の裏を見てみると、溝の中に数本の釘が挟まっていたのでした。

「なんだ、これ!?」

慌てて、もう一方の長靴の裏を見てみると、こちらにも数本挟まっています。
2、3本は、かかとに刺さっているのでした。

よくよく足元を見てみると、釘が何本も落ちています。
散乱している釘を不思議に思っていると、先ほどの型枠大工さんのやり取りを思い出しました。

「ああ、若い大工さんが打ち損じした釘か。」

そう思い納得がいきました。

その様子を見て、鼠川は、

「ちょっと仕事が良くないな。さっき親方が言っていたけど、ちゃんと片付けもやらせないと。
 もし釘が靴を貫通したら、危ないな。」

「そうですね。ちょっと拾っておきます。」

猫井川はそう言って、釘を拾い集めました。

「いいか、猫井川。最初のうちは何事も下手くそだし、要領が悪いと思うが、ちゃんと身に着けていくんだぞ。
 犬尾沢にもよく言われていると思うが、こういうちょっとした片付けをやることは、かなり大事なことだ。  あの若い大工も、まだそこまで気が回っていないが、お前は違うと思う。
 そういうのを大事にしていくんだぞ。」

「ええ。どうしたんですか、急に。」

「いやな、さっきの大工のやり取りを聞いていたら、ちょっと思ったんだ。
 まあ、お前はまだまだ未熟者だがな。」

「何ですか、褒めたり、けなしたり。」

「ははは。これから仕上げをするから、見てろ。」

何か含むところを持つ鼠川でしたが、そのコテさばきは、なかなかのもので、先ほど初めてのコテに四苦八苦した猫井川には、とてもまぶしかったのでした。

index_arrow ヒヤリ・ハットの補足と解説

今回は、猫井川というより、型枠大工さんが引き起こしたヒヤリ・ハットという感じです。

先日、現場で擁壁の型枠を組んでいたのを見ていたところ、若い大工さんが釘をポロポロ落としまくっているのを見てたので、今回のストーリーを考えました。
1箇所につき、1本くらい落としていたようなので、トータルでは結構なロスが出ていると思うのですが、その後回収をしていた様子はありません。そのまま土の中に埋もれてしまうのだと思います。

クギが横たわっているくらいならば、靴で踏んでも支障はありませんが、怖いのはクギが刺さった木片が落ちていることです。
これはクギが立っているので、踏むと刺さる恐れがあります。
型枠を取り外した後は、クギが刺さった板が散乱しています。踏み抜く恐れが多くなるため、非常に注意が必要ですね。

クギが靴底の溝に挟まるくらいなら、怪我にはなりませんが、道具や材料が散乱していると怪我につながりかねないので、作業中も整理することを心がけたいものです。

それでは、ヒヤリ・ハットをまとめます。

ヒヤリハット 散乱していたクギが、靴底の溝に挟まった。
対策 1.材料や工具は整理する。
2.落ちたクギなど刺さったり、切るおそれがあるものは片付ける。

作業中は、どうしても周りに物が溢れます。ある程度は仕方ないと思いますが、刺さったり、切ったりする危険物はきちんと片付けましょう。それだけでも怪我のリスクが小さくなるはずです。

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