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山形県での話ですが、こんなニュースがありました。
県内建設現場の6割、安全衛生法違反 下請け指導不徹底など (山形新聞 平成27年11月24日)
記事をまとめると、山形労働局が10月に県内90ヶ所の工事現場を巡視したところ、54ヶ所、約60%で現場で何らかの安衛法違反が確認されたということです。
うち、13ヶ所の現場では、立ち入り禁止や作業中止という厳しい指導があったようです。
60%の現場でと言うと、結構な割合です。一体どんな違反があったのでしょうか。
違反は、山形労働局のレポートに詳細が載せられています。
「建 設 工 事 9 0 現 場 ( 1 8 7 事 業 場 ) に 対 し て 法 令 違 反 を 指 導 ~監督指導対象の6割で労働安全衛生法違反~」(山形労働局)
レポートを見てみると、多い物順から次のとおりです。
・元請けが下請けに法令順守のための指導を行っていない 40%
・高さ2メートル以上の足場に手すり、中さん等の墜落を防止す るための措置を講じていないことなど。 36%
・高さ2メートル以上の作業床の端、開口部に手すり等の墜 落を防止するための措置を講じていないことなど。 20%
・足場などの作業主任者の氏名、職務内容を周知していない 13%
最も多いのが、元請けが下請けに法令遵守のための指導を行っていないというものです。
元請けの違反とは一体何でしょか?
該当する条文は、安衛法の第29条と第29条の2です。
【安衛法】
(元方事業者の講ずべき措置等) 第29条-2 建設業に属する事業の元方事業者は、土砂等が崩壊する おそれのある場所、機械等が転倒するおそれのある場所 その他の厚生労働省令で定める場所において関係請負人の 労働者が当該事業の仕事の作業を行うときは、 当該関係請負人が講ずべき当該場所に係る危険を 防止するための措置が適正に講ぜられるように、 技術上の指導その他の必要な措置を講じなければならない。 |
元請(元方)業者は、下請け業者(関係請負人)に法令違反をさせてはいけません。
というものの、この範囲は安衛法と関連則に及ぶので、かなり広範囲に及びます。
土木工事であれば、ショベルカーの使用にあたっての法令を知り、守らせなければなりません。
ショベルカーが転倒しないように、走行ルートを定めることも重要な決定事項なのです。
細かくは色いろあるのですが、まず何よりも危険な作業をさせてはいけないということ、もし危険な作業をしていたら注意し、改めさせることが元請業者の重要な責務であるといえます。
これらについてこの記事で、詳しく書いています。
元方事業者の責務
つまり、60%の現場では、元請業者が下請業者に作業を任せっきりで、指導力を発揮していないということが問題だということです。
次いで違反として多い、足場の転落防止設備が不備なことも、元請業者が改めなければなりません。
もし下請業者が、手すりを取り外して作業していたら、中止して、直させなければなりません。
たくさんの業者が出入りする現場だと、隅々まで目が届きにくくなります。
それでも、作業場巡視などで、危険作業を注目することは、元請業者の責任になるのです。
結局は、コミュニケーション |
元請(元方)業者などの重要な役割の1つに、作業間の連絡調整というものがあります。
これは、クレーン作業と土木作業など、近接する作業場で異なる業者が作業する時、接触事故などがないように調整することです。業者同士で話し合うのも大事ですが、間に元請業者が入り、出入りの時間帯を調整するなども含まれます。
ここで大事なのは、お互いにコミュニケーションをとらなきゃ、どうにもならないということです。
もし元請の監督が、事務所に引きこもりっぱなしだと、下請業者は他の業者のスケジュールを知ることができません。 また、隣で作業している業者が、明らかに危険なことをやっていても、注意もしづらいものです。
こういった執り成しは、元請業者でなければできません。
直接的な作業をすることもあれば、完全に下請けに任せることもあると思います。
いずれにせよ、下請けに仕事を任せ以上、密に連絡したり、調整したりすることが大事な仕事です。
この連絡調整には、危険作業をさせないこと、法令を守らせることも含みます。
そのためには、何の仕事を行なうのか、どんな危険があるのか、関連法令には何があるのかということを知る必要があります。
とはいえ、仕事の内容はともかく、どんな法令があるのかを理解しておくのは、困難です。
だからこそ、60%が違反した状態になっているのです。
知らず知らず法令違反を見過ごしていることはあると思います。
もちろん、法令にかなって作業させることは求められます。でも、そのために安衛法を熟読しろというのは何とも酷な話。
可能な限り、関係する法令を目を通しておけば、大したものだと思うのです。
現場でできることで、より大事なことは、明らかに危険な作業をしていたら注意することです。
手すりなしの足場を使っていたら、作業を止めさせることです。
これは非常に勇気を必要とします。
作業をストップさせますし、中止指示を受けた業者からは反ぱつをくらいます。
それでも、元請業者の責任は、勇気を持って実行する必要があります。
もし危険作業があった場合、それをストップさせるためには、日頃のコミュニケーションが大事です。
朝、挨拶をすること。雑談をすること。
こういったことの積み重ねが、いざというときに指示や指導に活きるのです。
普段顔を見せないのに、いきなり出てきて注意しようものなら、「なんと高圧的な」と反ぱつを感じさせてしまうことでしょう。
円滑なコミュニケーションがある現場では、相手も聞く耳を持ってくれるので、違反も少なくなります。
結局は、日頃のコミュニケーション。
違反を許さない雰囲気作りは、日常的なコミュニケーションで作れるものではないでしょうか。
さらに、今回は山形労働局での調査結果ですが、この傾向は他の都道府県でも同様のようです。
これより以前の調査結果として、こういうものがあります。
建設現場6割に是正勧告 労働安全衛生法違反|佐賀新聞LiVE
これは、今年の2月の記事です。違反件数も、内容も似たり寄ったりですね。
建設工事は、1社だけでは出来ません。たくさんの下請業者の協力のもとに作っていきます。
全ての業者の全ての作業者が事故なく仕事を終わらせること。作業現場における元請業者の責任は全てここにあります。
事故が起これば、当事者だけでなく、元請業者にも責任が及びます。
法令を完全に把握することは難しいでしょうが、危険作業には目を光らせ、中止させる勇気は重要でしょうね。