厚生労働省労働局長登録教習機関
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新年早々に大きな事故がありました。
有毒ガスにより、2人もの人が亡くなったのです。
報道での取り扱いも大きく、労働局も重大事故として、捜査することになりました。
今回は、この事故の原因を推測し、対策を検討します。
事故の概要 |
事故の概要について、新聞記事を引用します。 なお、紹介したいのは事件そのものですので、被害者名などは割愛しておりますので、ご了承下さい。 引用の下に、元記事へのリンクを張っております。
タンク破損、有毒ガスで2人死亡(平成28年1月3日)
3日午前0時55分ごろ、埼玉県本庄市仁手(にって)の金属化合物製造会社「DOWAハイテック」の工場内で、タンクのガラス窓が爆発音とともに破損した。周囲にいた男性作業員4人が病院に搬送され、うち2人が死亡した。有毒ガスを吸い込んだとみられ、県警本庄署は詳しい経緯を調べている。 |
この事故の型は「有害物との接触」で、起因物は「有毒ガス」です。
この事故は、後追いの検証記事も多数出ています。
「本庄のタンク破裂 労基署や県も原因調査 近隣学校は一時登校見合わせ」(産経新聞)
「本庄のタンク破裂死亡事故、労働基準監督署が立ち入り 保健所も調査」(埼玉新聞)リンク切
これらの記事を読んでみると、事故の状況について、大体のことが見えてきます。
今回事故が起きたDOWAハイテックでは、ソーラーパネル向けの銀粉の生産過程で起こったようです。銀を含んだ排水はタンク内で濃縮します。このタンク内を希釈した硝酸で洗浄し、溶けた銀を回収します。事故はこの回収過程で起こったようです。
硝酸での洗浄では、タンク内の温度は80℃が目安になりますが、事故の時には85℃まで上がり、そのためタンクののぞき窓が破裂し、窒素化合物系の有毒ガスが吹き出したようです。
このガスをタンクの周りにいた作業者が吸い込んでしまいました。この人たちは防毒マスクを着用しておらず、無防備に体内に取り込んでしまったのです。
有毒ガスを吸い込んでしまった2人は、亡くなられたのでした。
それでは、原因を推測していきます。
事故原因の推測 |
事故を起こした会社によると、硝酸による洗浄過程は、通常の作業手順だったようです。今までも同じ作業を繰り返してきたものの、事故は起こらなかったとのことです。
通常の手順であれば、事故はないでしょうから、今回は何らかの問題があったのかもしれません。作業手順が適切だったか、劇物指定の硝酸の使用にあたって、有資格者でないものが作業していたら問題です。
もし硝酸の使用に熟知していない人が作業を行っていて、温度管理が出来ていなかったり、トラブル時の対処ができなければ、危険作業への備えとしては、不十分だったかもしれません。
この事故で洗浄作業を行っていたのは、派遣作業員だったようなので、資格のチェックや管理体制も問われそうです。
また今回被害を大きくしてしまったのは、有毒ガス漏れに対しての設備や保護具などの対策の不十分さではないでしょうか。ガスを排出するのも、除毒できていなかったため、しばらく周辺が立ち入れない状態になったのでした。この影響は、周りの学校などにも及び、年明け早々登校の見合わせになるほどでした。
最も深刻な被害を受けたのが、タンク周りで作業していた人たちです。ほぼ希釈されていないガスを吸い込むことになったのです。タンク周辺でも、ガスの漏れに対する備えがなかったようです。
それでは、原因を推測をまとめてみます。
1 | 作業方法や配置人員に問題があったこと。 |
2 | ガス漏れ時の中和設備が備わっていなかったこと。 |
3 | ガス漏れ時に、防毒マスクが使用されなかったこと。 |
それでは、対策を検討します。
対策の検討 |
元方事業者や派遣業者としての責任としては、適正な作業者を配置していたか、手順が定められていたかです。 硝酸の取り扱いで、きちんと劇物取扱者を派遣し、実際に作業に当たらせなければいけません。この工場では、作業手順書が定められていたようですが、きちんと守られていなければ意味がありません。
万が一の有毒ガスの漏れに対しての対策も重要です。有毒ガスを除毒、中和する排気設備があるのが理想です。しかし、一方でどこで漏れるかは予測がつかないので、必ずしも有効とは言えないのですけども。
排気設備より現実的なものは、タンク周囲に防毒マスクを用意しておくことです。もっと万全にするならば、有毒ガスが発生する恐れのある場所での作業なので、タンクの内外を問わず、防毒マスクを着用させることです。
マスクを着用していると、息苦しく、作業者にとってはありがたくはないでしょう。ほとんどの場合、ガス漏れは起こらないのですから、そんな備えは要らないと思われるかもしれません。
確かに、このような事故はめったに起こらないものです。ただ可能性はゼロかというと、そうではないと、今回の事故が物語ります。
結果論になりますが、もし作業者全員がマスクを着用していれば、少なくとも命を失うことはなかったかもしれません。
対策をまとめてみます。
1 | 有資格者を配置し、作業手順を守らせる。 |
2 | ガス漏れ対策の設備を置く。 |
3 | 防毒マスクを着用させて、作業させる。 |
複数の方が亡くなり、工場周辺まで影響を及ぼした大きな事故でしたので、警察や保健所、労働局などが立ち入りしてくます。本当に正月から大変なことになったものだと思います。
この工場のように、毒性のある化学物質を取り扱う場合は、リスクアセスメントが義務になりますので、今後はより管理が厳しくなります。