○ショートストーリー”猫井川ニャンのHH白書”

猫井川、そのパンチラはセパのせい

blog-entry-543

こんなヒヤリハットがありましたので、対策とともにご紹介したいと思います。

index_arrow 第73話「猫井川、そのパンチラはセパのせい 」
擁壁工事も最初のコンクリート打ちが無事終わりました。
最初の段階は無事終わったものの、擁壁はいくつかの区分に区分けして作っていくので、まだまだ仕事は続きます。

「とりあえず、最初の段階が終わってよかったです。」

コンクリートの養生シートをめくりながら、猫井川は鼠川は言いました。

「最初からつまずいていたら困ってしまうぞ。
 でもたまにつまずくこともあるからな。今回は順調だな。」

「そうですね。このまま何事もなく進んで欲しいです。」

「そんなこと言ってると、途中でどえらい問題があったりしてな。」

「止めてくださいよ。本当にそんなことになったら困りますから!」

「ははは。意外とそうなるかもしれんぞ。
 わしのカンは当たるからな。」

ニヤリと片方の唇を上げながら鼠川はからかうのでした。
しかし、すぐに顔を引き締めると、

「今日はどこまでの作業をするんだ?」

と聞きました。

「今日は型枠をバラして、出来形をとった後、次の部分を掘削して、その土で埋め戻していきます。
 砕石までは難しいかもしれませんが、何とか掘削だけでも終わらせたいですね。」

「そこまでできるかな。セパ穴も埋めなきゃいけないから、全部掘りきるのは難しいかもしれんな。」

「もし掘り切れなくても、均しコンクリートは明日の午後の予定なので、それまでも終わればいいので。」

「明日もならできるだろうが、結構時間がキツキツだな。」

「そうなんですけど、あんまり工期がないので余裕もないんですよね。」

「そうだな。それじゃ型バラシからやっていくか。」

こうして、鼠川と猫井川は擁壁コンクリートを覆う型枠を外し始めたのでした。
まず型枠を支えている角パイプや角材を取り外しました。

「外した材料はまたすぐに使うから、きちんとまとめて保管しておけよ。」

鼠川が猫井川に指示しました。

「はい。まとめておきます。」

猫井川はそう返事しながら、材料ごとにある程度まとめていきました。

角パイプを全て取外し、まとめると、次は型枠のコンパネを取外しにかかりました。

「コンパネも次に使いまわせるから、あんまり壊さないようにな。
 ちゃんと節約するところは、節約しないとな。」

「分かりました。確かに次も同じ型枠を使えますね。」

コンクリートと型枠は張り付いているので、手の力だけでは剥がせません。そのためハンマーでコンコン叩き、バリっと剥がします。

猫井川は型枠を壊さないようにしようと、少し弱めに叩き型枠を外していくのでした。
すると、

「猫井川、慎重なのはわかるが、そんなに怖怖やっていたら終わらないぞ。」

と、突っ込みを入れられるのでした。

そんなこんなで、型枠のコンパネを外し終えると、ようやくコンクリートの擁壁が現れたのでした。

初めて全部任された仕事の最初の成果物。
たった十数メートルのコンクリート構造物でしかありませんが、それでも猫井川の成果です。

土木工事は、何もないところに、新たなものを作り出す仕事です。
この敷地内も、ほんの一週間前には、何もないただの地面でした。
その地面だったところに今はコンクリートの擁壁が立っているのです。

その姿を見ると、猫井川には少し感慨深く感じるのでした。

しかし、その感慨を断ち切る一声。

「おーい、猫井川。ぼーっとしてないで、セパを取っていけ。
 仕事が終わらないぞ!」

その声にはっとした猫井川は、「はーい。」と上ずった返事をして、ハンマーを手にとって作業にかかったのでした。

コンクリートの表面には、型枠を固定しているセパがついたままになっています。このセパをハンマーで叩き折ると、丸い穴がぽっかり空きます。この穴を放置しておくと、そこから水が入り鉄筋のサビの原因になってしまいます。そのため穴は、モルタルを詰めていくのでした。

セパ穴のモルタル詰めは、鼠川がやっていきます。猫井川は、セパを取っていく役割を行っていきます。

カンカンとセパを叩き折っていきます。単純な作業のため、鼻歌交じりに作業を進めていた時でした。

猫井川の作業服のズボンがグイッと引っ張られました。そしてバリッという小さく嫌な音。
猫井川がズボンの股間付近を見ると、そこにはファスナー全開になっていたのでした。

どうしてこんなことになったのかと見てみると、そこには折り忘れたセパがあったのでした。
このセパが、ズボンのファスナー部分に引っかかったようなのでした。

急いでファスナーを閉じようとしますが、どうやら引っ張られた勢いで、壊れしまったようでした。
焦る猫井川。何度も何度も直そうとしましたが、どうにもならず、しばらくして諦めまして。
そしてファスナー全開のまま作業を続けたのでした。今度は折り忘れないように、慎重に確認しながら。

セパ穴埋めの作業が一段落して、休憩していると、

「猫井川、チャックが開いてるぞ。」

鼠川に見つかってしまいました。

猫井川は見つかったと思いながら、理由を話すと、ひとしきり笑われた後、

「とりあえず、これでも付けておけ。」

と、安全ピンを渡されたのでした。

「嫁さんに、何かあった時のために渡されていてな。
 でもまさか、役に立つことがあるとは思わなかったぞ。」

受け取った安全ピンで股間を閉じたものの、隙間から見え隠れするパンツを切なげに見る猫井川なのでした。

index_arrow ヒヤリ・ハットの補足と解説

擁壁の工事も第一段階が完了しました。
まだまだ仕事は続きますが、最初の段階の達成は嬉しいものです。私も最初に現場代理人とした現場が完了した時、感慨深いものがあったものです。
猫井川も少しそんな気持ちがあったのかもしれません。

今後は基本的に同じことを繰り返すことになります。大きなトラブルがない限りは、順調に進んでいくはずです。

さて、今回はコンクリートの型枠をバラしているときのヒヤリ・ハットです。
コンクリートを打ち込んだ時の内圧で型枠が外れないように固定するために、セパというものがあります。コンクリートが固まるまではセパは必要ですが、型枠が外れた後は不要です。残したままにしておくと、内部にサビが浸透する原因になるのです。

セパはコンクリートの表面に少しだけ突き出した細い鉄筋です。そのため油断してコンクリートの近くを歩くと、服に引っ掛かってしまうこともあります。
さすがに猫井川のように股間のファスナーに引っ掛けることは少ないでしょうけど。

セパは脱型後すぐに取り除くのがいいでしょう。

それでは、ヒヤリ・ハットをまとめます。

ヒヤリハット セパが服に引っ掛かり、ファスナー部が破れた。
対策 1.コンクリート表面に近づいて歩かない。
2.セパはすぐに折る。

最初の段階の感慨も、パンチラで消し飛んだ感がありますが、作業はまだまだ続きます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA