○ショートストーリー”猫井川ニャンのHH白書”

猫井川、ワイヤーロープでチックリ

entry-572

こんなヒヤリハットがありましたので、対策とともにご紹介したいと思います。

index_arrow 第76話「猫井川、ワイヤーロープでチックリ 」
擁壁工事の作業は続いています。
今回コンクリートを打ち込む部分は掘り終え、床均しや砕石敷均し、均しコンクリートと進み、これから型枠を組み、本体のコンクリート作業を行っていきます。

「さてと、型枠材を運び込みましょうか。」

均しコンクリートの上で墨出しを終えた猫井川は、鼠川に言いました。

「うむ。ダンプに積んでるのを、運びこむか。」

一緒に墨出ししていた鼠川も腰を伸ばしながら言いました。

「それじゃ、ショベルカーで吊って、中に入れましょうか。
 保楠田さん、よろしくです。」

それを聞いた保楠田は、了解と軽く手を上げのと、ショベルカーに乗り込みました。
エンジンがかかると、ショベルカーはゆっくりとダンプに近づいていきました。

猫井川もダンプに近づきました。
ダンプの荷台に乗り込むと、荷台に置かれていたワイヤーロープを手に取りました。

「あれ、このワイヤー、チクチクする。」

手にしたワイヤーロープに多少の違和感を感じながら、荷台に積まれた型枠材をワイヤーロープを通し、玉掛けをしました。

すでに加工された型枠を4、5枚重なり吊り上げられました。

吊り上げらたままショベルカーはゆっくり移動してきました。
そのまま穴の近くに近づくと、均しコンクリートの上にゆっくり下ろしました。

均しコンクリートの上に置かれると、猫井川はワイヤーロープを外しました。

型枠を下ろしたショベルカーは、ワイヤーを吊るしたまま、反転するとまたダンプに移動していきました。
猫井川も一緒にダンプに向かいました。

型枠はまだまだたくさんあります。あと何往復かをしなくてはなりません。

荷台でワイヤーを掛け、運ぶ。
これを数往復しました。

何度目かの玉掛けのときでした。

猫井川がワイヤーロープを掴んだ瞬間、

「いてっ!」

思わず手を離してしまいました。
手のひらを見てみると、手袋が薄っすら穴が空いていました。
そして、ワイヤーロープを見て、何が痛みの原因になったのかまじまじと見たのでした。

顔を近づけ見てみると、ロープ表面が毛羽立っていました。

「結構、ワイヤーが毛羽立ってるけど、こんなの前からだしな。」

と思い、さらにじっくり見渡すと、端のリングの当たりを見てみると、細いワイヤーが何本か切れ、特に突き出ているのでした。

「これか〜。かなり出ているから、刺さっちゃったのか。」

改めて手を見ると、薄っすら血が滲んできているのでした。
血が出ている箇所をゴシゴシすると、再度ワイヤーを掴み、型枠に通しました。

ワイヤーを通された型枠はショベルカーに運ばれ、穴の中に収まりました。

吊り降ろされた型枠からワイヤーをほどき、ショベルカーのフックからもワイヤーを外しました。

猫井川が外されたワイヤーをまじまじと見ていると、鼠川が

「どうした?」

と訪ねてきました。

「いや、さっきワイヤーを掴んだ時、刺さってしまって。」

「あー、いい加減古いからな。
 あちこち切れたりしてるのかもしれないな。
 ひどく傷んでるとしたら、廃棄しなければならないかもだが、どうだ?」

「うーん、あちこち細いのがピョンピョン飛び出てるけど、まだ大丈夫だと思います。」

「とりあえず、会社に替えを頼まないといけないのかもしれない。」

「不用意に握ったりすると、ダメですね。」

「それはそうだな。」

そんな話をしながら、ゆっくりと穴から離れるショベルカーの背を見送る2人。
そして猫井川は、手にしたワイヤーをダンプに持っていかねばと思ったのでした。

index_arrow ヒヤリ・ハットの補足と解説

今回はちょっとだけ怪我をしてしまったので、完全なヒヤリ・ハットではないのですが。

ワイヤーロープは細い針金を編み合わせて、太く丈夫にしていきます。
完成品は、数センチから数十センチもの太いものになりますが、最小単位は髪の毛ほどの細い針金です。そういった細い針金なので、長年使っていると腐食したり、擦れたりして、切れることもあります。

細い針金が数本切れたところで、支障はないのですが、これがかなりの数になると、本来の強度を発揮できません。
強度不足のワイヤーロープを使っていると、非常に危険です。吊り作業を行っている最中に、切れてしまい、荷物が落下することもあります。

そのような事態を防ぐためには、事前に点検することが大事です。
作業前の点検はもちろん、よく月次で点検することがあります。月次の点検では、点検済みを示すシールを巻きつけたりしています。

幸い猫井川の手にちょっと刺さったくらいでしたが、このまま放置し過ぎたら切れることもあるので、しっかり点検のいい機会になったのかみしれません。

それでは、ヒヤリ・ハットをまとめます。

ヒヤリハット ワイヤーロープを掴んだら、切れた針金が刺さった。
対策 1.作業前にワイヤーロープの点検をする。
2.劣化が進んだワイヤーロープは廃棄する。

劣化の進んだワイヤーロープを使い続けると、大事故につながりかねません。 そのため、点検で事故を未然に防ぐために大切なことなのです。 猫井川は薄っすら傷を負いましたが、これが事故防止の予防になれば、怪我の功名ではないでしょうか。

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