○ショートストーリー”猫井川ニャンのHH白書”

鼠川、暗闇段差でゴロンする

entry-585

こんなヒヤリハットがありましたので、対策とともにご紹介したいと思います。

index_arrow 第78話「鼠川、暗闇段差でゴロンする 」
猫井川が担当していた擁壁工事も残すところ後わずかとなりました。
最後の区画のコンクリートも打ち終わり、残りは型枠を外し、埋戻しを行うのみです。
その作業も今日で終わりそうです。

「やっと終わりだな。
 ここまで、大きなトラブルもなく来てよかったな。」

最後の作業を前に鼠川がつぶやきました。
そのつぶやきを耳にして、保楠田が準備の手を止め、鼠川の側に立ちました。

「ほんとに順調に進みましたね。
 猫ちゃんの最初の仕事にしてはうまく行き過ぎですね。」

「順調すぎだな。
 もっとトラブルがあってもよかったのに。」

「普通現場は何かしら問題があるんですけどね。」

「まあ、猫井川の最初の仕事としては、よかったかもだ。」

「それじゃ、今日でしっかり終わらせましょうか。」

「そうだな。あっちでゴソゴソ準備している猫井川に発破でもかけようか。
 おーい、猫井川!」

猫井川は今日の作業で使うスコップなどを取り出し、準備していましたが、呼ばれたので顔を上げました。

「何ですかぁ?」

「いや、そろそろ仕事始めようかと思ってな。」

「そうですね。早いことやっちゃいましょう。」

「よし、型枠をバラしていくか。」

そう言うと、3人は型枠をとり外しにかかりました。

何度も繰り返し型枠外しもやってきたので、もう慣れたもので順調に進んでいきます。

「もうこのコンパネも使えないですね。」

2回、3回と使い回したコンパネを持ちながら、猫井川が言います。

「ここまで、よれよれになったら無理だな。もう流石に型枠には使えないから、取り外すときに壊れても気にしなくていいぞ。でもコンクリートは傷つけるなよ。」

「最後の最後で、コンクリート割っちゃうときついんで、そこは注意します。」

そんな話をしながら、型枠はどんどん取り外されていきました。
全ての型枠が外れると、保楠田と鼠川はセパを折り、モルタルでその穴を埋めていったのでした。猫井川はその間、コンパネをまとめトラックに積んでいくのでした。
もうこういった連携もばっちりなのが、チームワークを感じさせます。

あっという間に型枠の取り外しが終わり、後は埋め戻すだけです。

「後は埋め戻しですね。
 転圧機を下ろしますので、保楠田さんショベルカーで下ろしてください。」

保楠田は、ショベルカーに乗りこむと、早速ダンプから転圧機を下ろしました。

転圧機の準備ができると、さっそくショベルカーで土を穴の中に埋めていきました。
20センチ程度埋めると、転圧機で締め固めていきます。

これを繰り返し、地表の高さまで埋め戻すころには、もう夕闇が迫ってきていました。

「終わりましたね。」

猫井川は全てやり終え、やや影が長くなった擁壁を見ながら、つぶやきました。

「終わったな。」

鼠川も同調します。そして、

「とりあえず工事は終わったが、最後はきちんと掃除して引き上げるぞ。」

と言いました。

「そうですね。竹ほうき持ってきます。」

猫井川はトラックに向かうと、竹ほうきを2本持ってきました。

「俺はあっち側から掃いてきますので、鼠川さんはこっち側からお願いします。」

そういうと猫井川と鼠川は、コンクリート擁壁の上に立ち、泥や土を落としていきました。

シャッ、シャッと小気味いい音を立てながら、少しずつ掃いては後ろ向きに歩いて行きました。

しばらく掃いてた時でした。

鼠川が後ろに引いた足は、擁壁の端にかかり滑ってしまったのでした。
ドタッと大きな音を立てて、尻もちをつく鼠川。

その音で、異変に気づいた猫井川は慌てて駆け寄りました。

「大丈夫ですか?」

猫井川が近くまで来ると、鼠川は腰をさすりながらゆっくり立ち上がりました。

「いてててて。大丈夫。大丈夫。」

「本当ですか?」

「大丈夫だって。」

「怪我がないなら、いいですけど。
 後は俺がやっておくんで、休んどいてください。」

「そうか。じゃあ、すまんが少し休んどくよ。
 片付けはやるからな。」

「わかりました。
 掃除したら、片付けて早く撤収しましょう。」

そう言うと猫井川は掃き掃除の続きに戻ったのでした。
鼠川はゆっくり車の方に向かいます。

「夕方になると目が見えにくくなるもんだ。」

 猫井川の最初の仕事だからな。
 怪我でもして、泥を塗ってしまったら恥だからな。

 でも何とか無事にやり終えたもんだ。
 よかった、よかった。」

先程よりも一層長くなった擁壁の影を見ながら、鼠川はまだ少しじんじんする尻を撫でるのでした。

index_arrow ヒヤリ・ハットの補足と解説

長々と続いてきた猫井川が担当していた擁壁工事ですが、ようやく完了となりました。
今回はコンクリートの型枠を外し、埋め戻しまでやりました。

擁壁工事は一般的な工事なのですが、現場ごとに条件が異なるので、最初のうちはまごつくこともあります。 しかし同じ作業を繰り返し行っていると、作業に慣れるのとお互いに役割がはっきりしてきて、どんどん効率があがります。

砂防ダムのような大きな構造物は、1メートルくらい
ずつコンクリートの嵩上げをしていくのですが、後半になればなるほど、作業が早くなり、型枠→コンクリート→養生→型枠外しのサイクルが短くなっていくそうです。

この擁壁工事も最後になるとあっという間に終わったようです。

工事が終われば、「はい、さよなら」というわけにはいきません。
飛ぶ鳥跡を濁さずではないですが、最後はきれいに片付けと掃除をして引き上げるのが通常です。

鼠川はその掃除の時に転んでしまいました。
擁壁の天端に立ち、掃き掃除をしていたところ、擁壁の端で足をとられてしまいました。

後ろ向きに進んでいたのもありますが、夕方で辺りが薄暗くなりつつあったのも一因かもしれません。

幸い頭などを打たなかったのですが、後ろ向きに倒れるのは後頭部を打つ危険があるので、段差がある場所では足元の確認欠かせません。

それでは、ヒヤリ・ハットをまとめます。

ヒヤリハット 擁壁の掃除をしていたら、後ろ向きに転んだ。
対策 1.暗くなったら照明をつける。
2.段差があるところにはコーンなどを立てて、わかりやすくする。

猫井川の初めての仕事は、何らトラブルもなく終わりました。
これで擁壁工事は終わりですが、これですんなり終わるのでしょうか。

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