○ショートストーリー”猫井川ニャンのHH白書”

猫井川、ブルーシートに潜む刺客にプスリとされる

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こんなヒヤリハットがありましたので、対策とともにご紹介したいと思います。

index_arrow 第79話「猫井川、ブルーシートに潜む刺客にプスリとされる 」
擁壁工事も全て完了したので、猫井川は元請業者がいる現場事務所まで報告に行きました。

現場事務所の扉を開けると、白髪交じりの監督が事務作業をしていました。

「失礼します。HHCの猫井川です。
 野虎さん、擁壁工事なんですが、終わりました。」

元請業者の監督員、野虎(のこ)は、事務の手を止め顔を上げると、

「おお、そうか!
 猫井川さん、仕事が早かったんね。」

と、快活に答えました。

「ええ、順調に終わってくれて良かったです。」

「他の作業が遅れ気味だから、助かったよ。
 一応、現場確認に行くよ。」

そう言うと、野虎は靴を履き、猫井川と一緒に擁壁工事の現場まで行きました。

擁壁のある場所には、鼠川が片付けをしていました。
その様子を見た野虎は、

「お疲れ様です。
 早いこと仕上げてくれましてね。」

と話しかけます。

「お疲れ様です。
 ええ、猫井川が急かすものですから、一気にやりました。」

「いやいや、俺はそんなに急かしていないですよ。」

「ははは。いや、でも猫井川君が早くしっかりと進めてくれて助かりますよ。
 元々頼んでいたところは、他の仕事で手一杯らしくて、遅々としてましたからね。
 ありがたいです。」

野虎の言葉に、鼠川は、

「そう言っていただけると、私らもやってよかったと思いますよ。
 思いの外、猫井川がしっかり進めてくれたと思います。」

と答えます。
思いもよらない鼠川の言葉に、猫井川の胸中には思わずぐっと来るものがありました。

「ええ、猫井川君はこまめに連絡をくれるし、しっかりやってくれましたよ。
 ところで、猫井川君。1つ相談があるんだけど。いいかな?」

野虎が突如、聞いてきました。

「何でしょうか?」

「いやね、この敷地内は最後に舗装で仕上げるんだけど、猫井川君のところでできないかな?
 実はね、元々は別の業者で依頼をしていたんだけど、工事の予定が遅れたから、入るの無理とか言われてね。
 もし猫井川君のとこが舗装してたり、どこか無理を聞いてくれる会社を知っていたら、紹介して欲しいんだけど。」

「舗装ですか。ここ結構広いですよね。
 鼠川さん、どうでしょうか?」

「そうだな。
 いや、うちの会社にも舗装班があるから、できなくはないですけども。
 同じように今は忙しいみたいですし。」

と、鼠川は考え込みます。

「やっぱり無理ですかね?」

野虎はどうしたものか、悩ましい表情を浮かべます。

「うーん、ちょっと舗装班に聞いてみます。
 もし開きがあってら、スケジュールは合わせてもらっていいですか?」

「ええ、それは。出来るなら、都合に合わせます。」

「そうですか、一旦会社に持ち帰って相談してみますので、返答は明日でもいいですか?」

「それで構いませんよ。それじゃ猫井川君、また連絡もらってもいいですか?」

「分かりました。確認して、すぐ連絡します。」

「うん。頼むよ。
 擁壁これでOKだから。」

そう言うと、野虎は現場事務所に引き上げていきました。

「さて、これを言ったら、馬万が怒るかもな。」

舗装班のリーダーは、犬尾沢の同期の馬万ヒヒンでした。
なかなか激しい性格で、猫井川は別班のため、あまり接点がないこともあって、苦手に思っていたのでした。
「野虎さんの話は嬉しいのですが、気が重いです。」

「まあ、わしも口添えするから。」

そう言うと、2人は後片付けをはじめました。

現場で使った残材をダンプに載せていた時のことです。
ブルーシートの束を持ち上げた猫井川が、

「いて!」

と大声を上げました。
ブルーシートを持ち上げたとたん、何やらチクリと刺さったのです。

何が刺さったのかと手元をよく見てみると、ブルーシートを突き破り細い番線が突き出ていたのでした。 しかもその先は、切られているので尖っています。

「どうした?」

猫井川の声で、鼠川も近づいてきました。

「見て下さいよ。ブルーシートの中に番線があって、突き出しるんですよ。」

「誰かが中に放り込んだんじゃないか。」

「今回は番線使ってないのです、他の会社の人が捨てたのかもですね。
 勘弁して欲しいですよ。」

「何があるかわからんからな。
 さあ、早いこと片付けよう。」

そうして、2人は片付けを終え、帰っていったのでした。

夕方、みんなが現場から帰ってくると、猫井川は馬万に、今日のことを聞きました。

「すぐにやるのか?
 今うちの班がどんなかわかっているのか?」

話を聞くと馬万は、いきり立ちました。

「もちろん、分かっていはいるのですけども。」

馬万の迫力に、しどろもどろになる猫井川。
舗装班のメンバーも猫井川を見ています。

その様子に、鼠川が口をはさみました。

「確かに、今は忙しいのはわかっているんだがな。
 今、猫井川が行っている現場の監督がぜひにと言ってきてな。
 どうも猫井川のことも気に入ってくれてるみたいだし。
 それで一度社内で聞いてみますとなったんだよ。

 どこも日程の開きはなさそうか?」

「予定表見てもらったらわかりますけど、いっぱいですよ。
 かなり厳しいな。
 その現場も結構広いんでしょ?2日とるとなると、土日しかないですけども 。
 土日入れるんで
すか?」

「土日か。道路じゃないから大丈夫かと思うが。
 猫井川、すぐ電話して聞いてみろ。」

「はい。」

猫井川が、野虎に電話し、確認すると、

「入ってくれるなら、OKだそうです。」

との回答がありました。

「馬万、土日でもいけるか?」

「うーん、来週末なら何とか。
 みんなには休日出勤してもらうことになるがな。

 でも少々の雨でもやるからな。大雨だったら、諦めてくれ。」

「分かりました。野虎さんにはそう伝えます。」

早速、猫井川は野虎に連絡したのでした。

「まあ、あいつの初めての担当現場だからな。
 無理を言うけど、協力してやってくれ。」

猫井川が電話をしている最中、鼠川がぼそっと言いました。

「まぁ、仕方ないですね。その代わり2人も休日出勤してもらいますよ。」

「ああ、わしも猫井川もそのつもりだ。
 すまんな。」

鼠川と馬万は、電話をする猫井川の背中を見つめるのでした。

index_arrow ヒヤリ・ハットの補足と解説

擁壁工事が無事終わったところ、次は舗装工事を頼まれてしまいました。
きちんと期待に応えると、次に繋がるのです。こんなに直ぐにというのも珍しいでしょうけど。

というわけで、猫井川の次の仕事は舗装工事になります。

普段一緒に仕事をしない舗装班との仕事です。馬万ヒヒンをはじめとして、濃い面子が揃っていそうです。

さて、今回のヒヤリ・ハットはブルーシートの潜む番線、つまり太めの針金です。
まさか何かがはさまっているとは思わなかった猫井川は思いっきりブルーシートの束を抱えてしまい刺さってしまったのでした。

普通は何かあるとは考えません。
おそらく誰かがゴミだと思ったブルーシートに番線を捨てたのでしょう。捨てた本人も、まさかそれで怪我をする人がいるなんて思わなかったはず。しかし思いもよらないことが巡り巡って、怪我を引き起こすこともあるのです。

昔、ブルーシートの片付けようとしたら、中にクワガタがいて、はさまれたという話を聞きました。
今回はそのことを思い出して書いてみました。

それでは、ヒヤリ・ハットをまとめます。

ヒヤリハット ブルーシートの束を片付けようとしたら、中にあった番線が突き出してきて刺さった。
対策 1.片付ける前に、中に何かないか確認する。
2.現場でゴミと、そうでないものを分けて保管する。

擁壁工事は終わり、舗装に入ります。
また、土工とは違うヒヤリ・ハットが生まれそうです。

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