飛来・落下○事故事例アーカイブ

除染現場の労災隠し疑いで業者と48歳代理人を書類送検(福島県)

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東日本大震災、そして福島第一原発の事故から5年が経ちます。

福島第一原発の後処理は、まだまだ先が長く今後数十年に渡り行われていきます。
原発の処理に先立って進められているのが、事故の際に放出された放射性物質の除去です。

これらは除染作業と呼ばれ、放射能の防護服を着用し、作業時間も限られています。
健康への影響に配慮しながら行われていますが、行っていることは通常の建設作業と同じです。
そのため建設作業で起こりうる事故も起こります。むしろ、視界や行動に制限がある、大量の作業者を必要とするため、現場の経験が浅い人も作業するなどがあるため、事故が起こりやすい条件が揃っています。

もし事故があった場合は、労働基準監督署に報告しなければなりません。もし報告を怠れば、それは労災隠しです。労災隠しは忘れていたではすまなくなります。

福島県の除染作業現場で、事故報告を行わず、書類送検されたということがありました。

今回は、この事故の原因を推測し、対策を検討します。

index_arrow 事故の概要

事故の概要について、新聞記事を引用します。 なお、紹介したいのは事件そのものですので、被害者名などは割愛しておりますので、ご了承下さい。 引用の下に、元記事へのリンクを張っております。

除染現場の労災隠し疑いで業者と48歳代理人を書類送検 (平成28年3月11日)

労災事故を報告せず、隠したとして、富岡労働基準監督署は10日、労働安全衛生法違反の疑いで、富岡町などで除染業務を行っていた東京都の事業者と、現場代理人だった男性を書類送検した。

送検容疑は2014(平成26)年12月11日、同社が除染を請け負った同町の住宅除染現場で、トラックに積まれた砂を降ろす作業をしていた作業員男性の右足にトラック荷台のあおりが落下し、男性が右足甲の骨を折るけがをしたにもかかわらず、同労基署に報告しなかった疑い。

同署によると、現場代理人だった男性は、別の場所で事故があったとする虚偽内容の労災保険請求書を提出。同社は昨年6月に破産手続きに入り、同12月に事業廃止となっている。

福島民友新聞

この事故の型は「飛来・落下」で、起因物は「トラック」です。

この事故は、1年以上起こった事故についてです。
トラックに積まれた砂を降ろそうとしたところ、荷台のアオリが落下したのです。アオリとは、荷台の囲いです。これが落ちることなど普通は考えられません。

こんな普通では考えられないようなことが起こり、作業者の足の甲の骨を折ったのでした。

この事故は、適切に労働基準監督署に報告されませんでした。報告されなかったところか、別の場所で事故があったと労災申請をされていたのでした。これは意図的に隠されていたと判断されても仕方がないでしょう。

それでは、事故の原因を推測していきます。

index_arrow 事故原因の推測

トラックのアオリが落ちることなど、普通では考えられないことです。
アオリはボルトでしっかり固定されています。落下したということは、ボルトが外れていたか、折れていたのではないでしょうか。

アオリの両端のボルトが一度に折れるとは考えにくいので、事故になる前から1本だけで支えていたのではないでしょうか。
つまりずっと1本は折れたままの状態で放置されていた可能性が高そうです。もしそうであったならば、しっかり点検されていなかったのではないでしょうか。

この作業者がきちんと安全靴を履いていたかも不明ですが、足の甲に落下してきたというので、安全靴ではカバーできないかったと思われます。

ボルトが外れそうな状態でトラックを使い続けていこと、適切な整備をしていなかったことが事故になったと思われます。

それでは、原因を推測をまとめてみます。

トラックのアオリのボルトが外れそうなまま使っていたこと。
トラックの整備がされていなかった。
作業者に適正な安全教育をしていなかったこと。

それでは、対策を検討します。

index_arrow 対策の検討

何よりの対策は、トラックの状態を点検し、異常があれば、直ちに修理することです。

トラックなどの作業車の車検は、年に1回受けなければなりません。こういった機会でも対応できるでしょうし、毎日作業前でも点検はできたのではないかと思います。

異常個所をそのまま放置しておいてはいけません。
ブレーキやクラッチなどの運転に支障きたす部分以外も、早めに対応するのが重要です。
アオリが落下するなんて思いもよらないかもしれません。しかしこれも急に両端のボルトが外れたわけではないはずです。ずっと兆候があったものと思われます。

おかしいなと思ったら、調べて修理することが重要ですし、事故防止になります。
もし修理する時間も費用もないと先延ばしにしていると、事故を招き、結果的に修理をするときに何倍もの時間と費用がかかることにもなりかねません。

事業者が、機械が故障したら修理するから報告するようにと伝えることが重要である一方、作業者自身も異変に気づき、対応できるようにするのも重要です。
こういった異常を発見し、事故を未然に防ぐためには、安全体制と安全教育が大事です。

対策をまとめてみます。

トラックの点検を行い、異常があれば修理する。
事業者は、機械の異常報告があれば、直ぐ様対応する。
安全教育を徹底する。

事故が起こった時には、労働基準監督署に報告しなければなりません。
今回の事故であれば、足の骨折なので、休業が4日以上となっていたと思われます。

休業4日以上になる場合は、遅滞なく報告しなければなりません。

事故があったら報告する

なぜ休業4日かというと、この日数を期に労災保険が下りるからです。

ではどうして労災報告を行わないのか。
理由としては、仕事がストップすること、また今後の保険料が上がるからではないでしょうか。

今回のケースでは、別の工事で怪我をしたと報告してます。
そのため保険料の値上がりよりも、仕事への影響を考えたのかもしれません。
除染作業は、元請業者からいくつもの下請けを経て、現場作業を行う事業者に至ります。
事故を起こしたら、今後の受注にも影響があるかもと考えた可能性もありそうです。

しかしこの会社は倒産してしまったようなので、労災隠しは多大なコストを払うことになりました。

index_arrow 違反している法律

この事故で、関係する法律は、おそらく次の条文です。
【安衛則】

第96条
事業者は、事故が起こった場合は、遅滞なく、所轄労働基準監督署に報告しなければならない。

これらについて、解説している記事は、こちらですので、あわせて参考にしてください。

事故があったら報告する

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