○書評

「戦艦武蔵」や「アポロ13」に見る、酸欠と一酸化炭素中毒の恐怖の方程式

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私の会社は、設備関係の工事をしています。工事は上水道や下水道施設のプラント工事が多くを占めます。
下水道施設では、汚水を貯蔵する水槽付近で作業することもあります。
この時注意なければならないことが、酸欠と硫化水素中毒です。

これらの危険を回避するため、作業前に酸素濃度と硫化水素濃度の測定を行います。
そのため会社には酸素と有毒ガスを計測するセンサーがあり、先日年次の校正に出しました。

酸欠や硫化水素中毒の危険がある場所での作業は、命の危険があります。
酸素などは目には見えないので、見ただけでは危険かどうかは判断できません。

もし酸欠危険の場所に入り込むと、知らず知らずのうちに意識を失い、命を落とすということもあるのです。
また火災で発生する一酸化炭素は、一瞬で意識を奪ってしまいます。

危険を回避するには、センサーなどで確認するしか方法はないのです。

酸欠の恐怖などについて、以前安全教育センターの佐々木さんより、吉川昭の「戦艦武蔵」に描かれているよと紹介されたことがありました。
すぐにAmazonで探したのですが、たしかその時はまだKindleになかったため、手に入れることはできませんでした。

ところが最近、Kindleで「戦艦武蔵」を発見し、ようやく読むことができました。

今回は、「戦艦武蔵」などから小説内で描かれる酸欠を見てみたいと思います。

index_arrow 戦艦武蔵

[amazonjs asin=”4101117012″ locale=”JP” tmpl=”Small” title=”戦艦武蔵 (新潮文庫)”]第二次大戦末期に、建造された巨大戦艦です。

その大きさは大和に継ぐ大きさでした。

無敵とも思える巨大な船でしたが、出征後まもなくフィリピン沖で撃沈されてしまったのでした。

2015年に元マイクロソフトの共同創業者であるポール・アレンが武蔵をシブヤン海の水深1000mの地点で発見したというニュースがあったのは記憶に新しいのではないでしょうか。
武蔵は、今も海深くで眠っているのです。

「戦艦武蔵」はこの巨大な船の建造から撃沈までを、詳細に書いた作品です。
おそらくとてつもない資料の山と生存者の証言を収集し、書かれたに違いありません。

作中の7割は建造時の話になります。
残り3割りになって、ようやく出撃し、レイテ島沖海戦、そして終焉の海に至る物語になっていくのでした。

酸欠に関する記述は、出撃中にあります。
正確には、酸欠というより、一酸化中毒になりますが。

昭和18年武蔵は連合艦隊の旗艦となります。
日本は山本五十六司令長官が戦死なども重なり、トラックなど太平洋上の拠点をアメリカに奪われ、劣勢に傾いていきました。
武蔵は連合艦隊の拠点をパラオに移すため、警戒行動をしている際、アメリカの潜水艦より魚雷攻撃を受けたのでした。
魚雷は、武蔵に直撃し、2600トンもの浸水を許しました。そして戦死者7名、行方不明者11人もの被害を出したのでした。

この死者のうち、魚雷の直撃で亡くなった人より、火災時の一酸化炭素中毒で亡くなった人のほうが多いようです。
遺体は、その後呉で修理するまで、船内にとどまり、発見されたとには白く腐敗が進んでいたそうです。

船内の火事では、火は行き場所を失い不完全燃焼を起こします。この時、一酸化炭素を作りだしてしまうのです。
一酸化炭素は猛毒です。気づかぬ間にめまいや吐き気などの症状が進行し、命を落としてしまうのです。
武蔵は巨大であったとはいうものの、逃げ場はなかったでしょう。持ち場を離れられないまま、亡くなってしまったのでした。

一酸化炭素中毒については、レイテ島沖海戦などでも記述があります。
ここでは、アメリカ軍の総攻撃を受け、多数の負傷者がいるところに空爆を受けてため、一酸化炭素が発生し、負傷者たちが全員の亡くなってしまったのでした。
動くこともできず、ただただ意識を失い命を落としていったのでしょうか。

この時から撃沈に至るまで、武蔵はその巨体ゆえ格好のまとになります。徹底的に空爆を受け、もう読んでいて痛々しいことこの上ありません。
一酸化炭素中毒による死は、まだ楽な方だったんじゃないかとさえ思えるくらい悲惨過ぎる状態だったに違いありません。

今は武蔵のような状況はないでしょうが、一酸化炭素中毒による事故は依然あるのです。

空気の中にほんのわずか一酸化炭素が混ざるだけで、人の命は落とされます。
空気の価値は普段は感じることはありません。しかし極限状態になると、その空気のありがたみを感じます。

武蔵の船内はその極限の状態でしたが、より極限状態なのは宇宙でしょう。
宇宙では、全く空気がありません。
その切実な状態を描いた作品に「冷たい方程式」というものがあります。

index_arrow 冷たい方程式

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「冷たい方程式」は1954年に、トム・ゴドウィンが書いたSFです。
有名な作品ですし、フォロワー作品を生み出しました。

あらすじは、必要最小限の燃料と酸素を積み、悪性のウイルスに侵された惑星に血清を届けに行く飛行船内に密航者がいました。2人分の酸素はありません。そのような場合、規則に従うなら、密航者を船外に放り出すことです。
密航者は少女。彼女も密航しなければならない理由がありました。そして密航のペナルティは、罰金くらいだと思っていました。

パイロットは、どんな選択をするべきか。
答えは方程式にあります。

この作品では、限られた酸素と燃料、そして使命との天秤です。
もっと突き詰めると、自分の命と人の命との天秤です

これはカルスアデスの板というエピソードの宇宙バージョンですね。法律では、緊急避難というものでしょう。

船内では酸欠の恐怖があったはずです。
そして船外に放り出されれば、酸欠どころでとありません。即死です。

宇宙空間で、生身で生きていられるのは「魁!男塾」の塾長江田島平八くらいなのでしょう。
打ち上げられた人工衛星から、アメリカのスペースシャトルまで泳ぐくらいですから。

宇宙空間ではわずかの酸素も貴重です。
このことを非常に緊迫して描いているのは、「アポロ13」ではないでしょうか。

index_arrow アポロ13

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アポロ13は、アポロ11が人類初の月面着陸を実現した翌年1970年に打ち上げられました。
月に向かう途中、事故が起こりました。その時点からミッションは、いかに地球に帰還するかになったのでした。
そして、このミッションの達成は、人類史上初の地球外からの生還という偉業となったのでした。

アポロ13がいかに生還したかは、トム・ハンクス主演の映画になっています。

映画の中では、絶望的な状況でいくつものミッションを達成していきます。
そのミッションの1つが、二酸化炭素の問題でした。

電力消費を抑えるために、クルー3人は着陸船に乗り込んでいましたが、着陸船のろ過器では、処理が間に合いません。
そのため、どんどん濃度が高くなり、意識が薄くなります。
司令船のろ過器は使えるのものも、フィルター口が一方は四角で、もう一方は丸でした。そのままでは使えません。
との問題を解決するため、NASAの叡智を結集し、課題に取り組んだのでした。

二酸化炭素の濃度は、呼吸する度に濃くなります。
時間は限られています。

意識はどんどん薄らいでいく緊迫感が船内を覆い尽くすのでした。

酸欠に至るプロセスは、このように緊迫したものだと思います。
きっと武蔵の船内も、アポロ13の船内に近いものがあったのではないでしょうか。

私たちの作業では、さすがに武蔵やアポロ13のような切迫した状態に追い込まれることはありません。
また自分を活かすために、船外に放り出すというような選択を迫られることもないでしょう。

しかし酸欠や一酸化炭素といった有毒ガスの危険はあります。
それこの危険を回避するためには、事前に濃度測定が重要です。

酸欠の恐怖を描いた作品は、そう多くはありませんが、「戦艦武蔵」や「冷たい方程式」、「アポロ13」は酸欠の教材しての見方もできるかもしれませんね。

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