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リスク・アセスメントについて本を読んだり、講習などに参加していると気づいたことがあります。
想定されているシチュエーションのほとんどが、製造業だということです。
リスク・アセスメントで例になっている状況も、プレス機を使っているときなどが多いです。
リスク・アセスメントがどんなもので、何をするのかは理解できます。
しかし建設業に身をおく立場としては、どのように応用していこうか少々頭を捻るところでもあります。
今市販されている書籍で、リスク・アセスメントを解説しているものはいくつもあります。
私もいくつか読みました。
著者の多くは大手メーカーの安全管理や品質管理に携わっていた方が多く、必然リスク・アセスメントでも工場を想定しているものが多いように思います。
建設業でリスク・アセスメントは、製造業と条件が異なります。
そのことを踏まえて、行わなければなりません。
今回は、建設業のリスク・アセスメントについて考えてみたいと思います。
製造業とは異なる条件 |
リスク・アセスメントを考える上で、製造業と建設業では、大きく異なる点が3つあります。
1.作業場が一定ではない。
2.作業内容が一定でない。
3.責任体制が明確でない。
この3点を考慮してやる必要があります。
1つずつ検討してみます。
1.作業場が一定でない。
製造業は、工場内での作業です。そのため作業場は同じです。
変化があるのは、作業内容が変わる、設備が変わる、ラインが変わる、材料が変わるなどです。いわゆるリスク・アセスメントを行わなければならないタイミングが明確です。
しかし建設業では、毎回作業場が変わります。ダムやトンネルなど何年もかかる現場もありますが、大半の工事は数ヶ月程度です。同じ現場でも、斜面があれば、河川敷があったりしますし、天候によっても状況が変わります。
常に変動する作業環境に応じ、リスクも変わっていきます。
これらを想定しないと、リスク・アセスメントにならないのです。
2.作業内容が一定でない。
製造業では、1人の作業者が行う作業内容は、だいたい一定です。
しかし、建設業では、1日の中でも作業内容が変化します。掘削した後、コンクリート工ということも少なくありません。
また同じショベルカーを使った掘削作業でも、作業する場所によって条件が異なります。
多種多様の作業を、多種多様の作業環境と組み合わせたリスク・アセスメントが必要になるのです。
3.責任体制が明確でない。
建設業の作業場は、複数の下請け業者が入っています。
元請け業者が統括しているものの、個々の作業者まで把握するのは難しいです。
この状態の中で、リスク・アセスメントを行うのは、困難を極めます。
もしリスクの低減措置として、重機を新しいものにするというものがあった場合、誰が行うのでしょうか。
元請けが費用を出すわけにはいきません。また重機を持ち込んだ下請けも、すぐに新しい重機を買うことはできません。
レンタルするとしても、その分の費用は元々見込んでいなかったら、コストが増するだけになっていまいます。
誰が責任をもって行うのか。
これがはっきりしないと混乱するだけになります。
特にリスクを一般化して、様々な現場でも適用するためには、このような問題をクリアしていかなければなりません。
私自身も、自分が担当していた工事でリスク・アセスメントを行ってみたのですが、いくつか課題を感じました。
実際にリスク・アセスメントをやってみると |
特定の工事となるとある程度、作業場や作業内容をしぼることはできましたが、かなりの量になってしまいました。 細かい作業単位で分けていくと、結果的に約300個くらいのリスクを洗い出してような気がします。
リスクを洗い出し、低減方法を検討する際問題になったのが、機械を新しくするといった根本的な対策が取れないということです。
少なくとも1つの工事の予算で、機械を新しく買うというのは無理です。
これは、全社的に取り組んでいかなければなりません。
工事単位でリスク・アセスメントを行う場合は、リスク低減措置も、限られた予算内で実施していく必要があります。
この制約のため、コスト面で対応できないことが多数出てきます。
もちろん機械を新しくするといったものは、他の工事にも関係するので、会社に持ち帰って、検討するのは必要です。
とはいうものの、すぐには出来ないでしょうが。
自分でやってみると、工事現場でできるリスク低減措置というのは、法律を守りましょう、保護具を着けましょう、安全表示をしましょうといったものがほとんどでした。
中災防的には、リスクの点数が下がらないものばかりで、難しいなと痛感しました。
ただ1つこうしたらいいなと思ったとこもあります。
建設業の作業は、環境や条件が異なるため、一様でないのは確かです。
そのため現場ごとにリスクを洗い出さなければなりません。
一様ではありませんが、基本となる作業方法は共通しています。
共通する作業については、一般化することができるはずです。
例えば、ショベルカーで掘削する作業の場合であれば、作業範囲内は立入禁止とするのは、作業場に依存しません。 基本となるリスクについては、まとめておくと便利です。
この基本に現場特性を加えてリスクを検討していくと、考えやすくなるのではないでしょう
か。
建設業のリスク・アセスメントでは、工事単位でできることには限界があります。
工事の元請けが出来ることも、下請けが出来ることも限界があります。
そのため、会社全体と作業場のそれぞれでリスク管理が必要になるのです。
ここが製造業と違うところです。
製造業の多くは、会社(工場)と作業場が一体です。そのため問題を明確化しやすいのです。
結局は、会社全体で取り組まないといけないのですか、責任の明確化、情報の集め方などを事前にしっかり決めておかないと、シッチャカメッチャカになるのは間違いありません。
なお建設業労働災害防止協会(建災防)には、建設業のリスク・アセスメントについてのリーフレットが紹介されていますので、参考にしてみてください。
建設業労働災害防止協会(建災防) 各種データ 「労働災害防止」の欄にリスク・アセスメントのリーフレットがあります。
リスク・アセスメントは今のところ化学物質取り扱い事業場以外は努力義務です。
しかしより一層の事故減少のためには、リスク・アセスメントが重要になります。
建設業は比較的事故の多い業種です。
そのためリスク・アセスメントの必要性は今後高まるでしょう。
やり方については、試行錯誤ありますが、こういったプロセスを経て、多くの事業者が導入しやすいように、整理されていくでしょう。
今はとにかくいい方法を探してくのが、大事ではのではないでしょうか。