厚生労働省労働局長登録教習機関
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安全衛生に関して、本年度の大きなポイントは化学物質を取り扱う場合は、リスクアセスメントが必要というものではないでしょうか。
今年の労働安全衛生コンサルタント会のリスクアセスメント研修を受講しましたが、テーマは化学物質のリスクアセスメントでした。
まあ、受講したものの何だかなーという感じでしたけども。
そんな法改正があったということで、今回はそれらをまとめてみたいと思います。
リスクアセスメントの実施について少し整理すると、安衛法第28条の2に、このように書かれています。
【安衛法】
(事業者の行うべき調査等) 第28条の2 事業者は、厚生労働省令で定めるところにより、建設物、設備、原材料、ガス、蒸気、粉じん等による、 又は作業行動その他業務に起因する危険性又は有害性等(第57条第1項の政令で定める物及び 第57条の2第1項に規定する通知対象物による危険性又は有害性等を除く。)を調査し、 その結果に基づいて、この法律又はこれに基づく命令の規定による措置を講ずるほか、 労働者の危険又は健康障害を防止するため必要な措置を講ずるように努めなければならない。 ただし、当該調査のうち、化学物質、化学物質を含有する製剤その他の物で労働者の危険又は健康障害を 生ずるおそれのあるものに係るもの以外のものについては、製造業その他厚生労働省令で定める業種に属する事業者に限る。 2 厚生労働大臣は、前条第一項及び第三項に定めるもののほか、前項の措置に関して、その適切かつ有効な 3 厚生労働大臣は、前項の指針に従い、事業者又はその団体に対し、必要な指導、援助等を行うことができる。 |
ここでのポイントは、「努めなければならない」です。つまり努力してくださいねということで、義務ではありません。
しかし、(第57条第1項の政令で定める物及び第57条の2第1項に規定する通知対象物による危険性又は有害性等を除く。)という箇所、ここに注目です。
(表示等) 第57条 爆発性の物、発火性の物、引火性の物その他の労働者に危険を生ずるおそれのある物若しくはベンゼン、 ベンゼンを含有する製剤その他の労働者に健康障害を生ずるおそれのある物で政令で定めるもの又は 前条第1項の物を容器に入れ、又は包装して、譲渡し、又は提供する者は、厚生労働省令で定めるところにより、 その容器又は包装(容器に入れ、かつ、包装して、譲渡し、又は提供するときにあっては、その容器)に 次に掲げるものを表示しなければならない。 ただし、その容器又は包装のうち、主として一般消費者の生活の用に供するためのものについては、この限りでない。 1) 次に掲げる事項 2) 当該物を取り扱う労働者に注意を喚起するための標章で厚生労働大臣が定めるもの 2 前項の政令で定める物又は前条第1項の物を前項に規定する方法以外の方法により譲渡し、又は提供する者は、 |
爆発性の物、発火性の物、引火性の物、健康障害のおそれのある物質は、調査しなくてもいいよということではないことか分かります。
むしろ、もっと厳重に管理しろといっているでのです。
次の第57条の2は、管理の仕方として、SDSの活用についてです。
化学物質等のメーカーはSDSを発行し、取り扱う事業者はSDSを取得し、使用する作業者などに公表しなけれればならないというものです。
これは今までと変わらぬ管理方法です。新たに追加されたものではありません。
そして、もっと厳重に管理しろというのが、第57条の3と4なのです。
この2条が改正ポイントです。
(第57条第1項の政令で定める物及び通知対象物について事業者が行うべき調査等) 第57条の2 事業者は、厚生労働省令で定めるところにより、第57条第1項の政令で定める物及び通知対象物による 危険性又は有害性等を調査しなければならない。 2 事業者は、前項の調査の結果に基づいて、この法律又はこれに基づく命令の規定による措置を講ずるほか、 3 厚生労働大臣は、第28条第1項及び第3項に定めるもののほか、前2項の措置に関して、 4 厚生労働大臣は、前項の指針に従い、事業者又はその団体に対し、必要な指導、援助等を行うことができる。 |
(化学物質の有害性の調査) 第57条の4 化学物質による労働者の健康障害を防止するため、既存の化学物質として政令で定める化学物質 (第3項の規定によりその名称が公表された化学物質を含む。)以外の化学物質(以下この条において「新規化学物質」という。)を 製造し、又は輸入しようとする事業者は、あらかじめ、厚生労働省令で定めるところにより、 厚生労働大臣の定める基準に従って有害性の調査(当該新規化学物質が労働者の健康に与える影響についての調査をいう。 以下この条において同じ。)を行い、当該新規化学物質の名称、有害性の調査の結果その他の事項を厚生労働大臣に 届け出なければならない。 ただし、次の各号のいずれかに該当するときその他政令で定める場合は、この限りでない。 1)当該新規化学物質に関し、厚生労働省令で定めるところにより、当該新規化学物質について予定されている 2)当該新規化学物質に関し、厚生労働省令で定めるところにより、既に得られている知見等に基づき厚生労働省令で 3)当該新規化学物質を試験研究のため製造し、又は輸入しようとするとき。 4)当該新規化学物質が主として一般消費者の生活の用に供される製品(当該新規化学物質を含有する製品を含む。) 2 有害性の調査を行った事業者は、その結果に基づいて、当該新規化学物質による労働者の健康障害を防止するため 3 厚生労働大臣は、第1項の規定による届出があった場合(同項第2号の規定による確認をした場合を含む。)には、 4 厚生労働大臣は、第1項の規定による届出があった場合には、厚生労働省令で定めるところにより、 5 前項の規定により有害性の調査の結果について意見を求められた学識経験者は、当該有害性の調査の結果に |
第57条の3で、爆発性の物、発火性の物、引火性の物、健康障害のおそれのある物質については、「危険性又は有害性等を調査しなければならない。」とあります。危険性又は有害性等を調査とは、すなわちリスクアセスメントのことですから、義務化されたのだということが明記されたわけです。
さらに詳細については、安衛則第34条の2の7と8に書かれています。
【安衛則】
(調査対象物の危険性又は有害性等の調査の実施時期等) 第34条の2の7 法第57条の3第1項 の危険性又は有害性等の調査(主として一般消費者の生活の用に供される製品に係るものを除く。 次項及び次条第1項において「調査」という。)は、次に掲げる時期に行うものとする。 1)令第18条 各号に掲げる物及び法第57条の2第1項 に規定する通知対象物(以下この条及び次条において 2)調査対象物を製造し、又は取り扱う業務に係る作業の方法又は手順を新規に採用し、又は変更するとき。 3)前2号に掲げるもののほか、調査対象物による危険性又は有害性等について変化が生じ、 2 調査は、調査対象物を製造し、又は取り扱う業務ごとに、次に掲げるいずれかの方法(調査のうち危険性に係るものにあっては、 1)当該調査対象物が当該業務に従事する労働者に危険を及ぼし、又は当該調査対象物により当該労働者の健康障害を 2)当該業務に従事する労働者が当該調査対象物にさらされる程度及び当該調査対象物の有害性の程度を考慮する方法 3)前2号に掲げる方法に準ずる方法 |
第34条の2の7は調査時期ですね。
ちなみに通知対象物とは、SDSの交付義務の対象になっている640物質です。これらははっきりと人体や環境に有害だとわかっている物質のことです。
しかし注意しなければならないのが、有害な物質はもっとたくさんあると忘れてはいけないということです。
SDSを必要としないこと = 安全ではないのです。(大阪の印刷会社の胆管がんの事例は、SDS対象物質外の物質で引き起こされたものでした。)
さて調査の時期は、目新しいところはないのですが、簡単にまとめると次の時期です。
1. 新たな原材料(通知対象物)を採用した時。
2. 作業方法や手順を変えた時。
3. その他、通知対象物の危険性や有害性に変化が生じた時。
このような場合には、リスクアセスメントを実施しなければなりません。
そして調査した結果は、まとめ、記録する必要があります。
(調査の結果等の周知) 第34条の2の8 事業者は、調査を行ったときは、次に掲げる事項を、前条第2項の調査対象物を製造し、 又は取り扱う業務に従事する労働者に周知させなければならない。 1)当該調査対象物の名称 2)当該業務の内容 3)当該調査の結果 4)当該調査の結果に基づき事業者が講ずる労働者の危険又は健康障害を防止するため必要な措置の内容 2 前項の規定による周知は、次に掲げるいずれかの方法により行うものとする。 1)当該調査対象物を製造し、又は取り扱う各作業場の見やすい場所に常時掲示し、又は備え付けること。 2)書面を、当該調査対象物を製造し、又は取り扱う業務に従事する労働者に交付すること。 3)磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、当該調査対象物を製造し、 |
化学物質のリスクアセスメントは次の手順で行います。
(参照 労働災害を防止するため リスクアセスメントを実施しましょう
1.化学などによる危険性または有害性の特定
2.リスクの見積り
3.リスク低減措置の内容の検討
4.低減措置の実施
5.リスクアセスメント結果の労働者への周知
実は今回の法改正では、これら全てのことが義務付けれらているわけではありません。
義務付けれているのは、1~3なんです。
4の低減措置は、努力義務という扱いです。
しかし現実的な話として、低減措置の内容検討して、そのまま放置というのは少ないでしょう。
もしその段階で放置してしまう事業者なら、そもそも調査すらしないのではないでしょうか。
それに、もし事故や健康被害が出た時、何も対策を実施していなければ、処罰されることは間違いないです。
ということで、実質的には1~5までが義務になっているといえます。
化学物質のリスクの見積もりですが、一般的な見積もりとは異なります。
多くの方が難しく感じるのは、見積もりの仕方ではないでしょうか。
リスクの見積もりは、多くの場合、2つの軸で考えます。
それは危険度と可能性です。
危険度とは、事故があった時の被害の大きさです。
指先を少し切るくらいなら危険度は小さく、命を落とすものは危険度が大きいです。
可能形とは、事故がどれくらい起こりやすいかです。
危険箇所に頻繁に近づく、毎日のように起こるなら大きく、年に1回起こるか起こらないものならば小さいです。
化学物質に関しては、これらにばく露量という要素考えなければなりません。
ばく露量とは、どれだけの時間、有害物に接しているかです。
長時間接しているならばばく露量は大きくなります。
ばく露量は、実際に測定したり、ある程度条件を絞り数値を推定したりします。
しかし普段から化学物質の取り扱い、熟知している人でないと、算出するのは困難です。
そのため精度の高いばく露量を出し、リスクアセスメントするためには、作業環境測定士などにお願いすることが必要になりそうです。
とはいうものの、作業環境測定士などの専門家に頼むのはコストがかかります。
化学物質をごくごくたまに使用する事業場ならば、そう簡単に頼むのも気が引けてしまいます。
そういった場合は自分たちで行うことになるでしょう。
自分たちで行う時に、注意点があります。
それは、リスクアセスメントの見積もりは、大雑把なものになるということです。
特にコントロール・バンディングを使う時は、大味な結果になることがほとんどです。
コントロール・バンディングの注意については、また別の機会に紹介します。
最後に、化学物質のリスクアセスメントは「一般消費者の生活の用に供される製品に係るものを除く」とあります。
つまり、家庭用の洗剤などは除外ということです。
また、飲食店のお酒には、通知対象物のエタノールが含まれていますが、これらも除外です。
もしお酒も対象になったら、お酒が飲めなくなっちゃいますからね。
お酒を飲む時くらいは、リスクアセスメントなど固いことは忘れて飲みたいものです。