有機溶剤は化学物質の混合物です。
用途としては、洗浄や塗装など幅広いのですが、身近なものでも体内に取り込まれると病気などの原因になる毒性が強いものがあります。
毒性の強いものは、法規制されているものもあります。
しかし、化学物質の種類は数万にもなりますし、日進月歩で新たな物質が作り出されています。
これら全てをチェックし、法の網に掛けることは不可能です。
そのため平成28年6月から、化学物質のリスクアセスメントが義務化されていました。
対象になるのは、SDSを必要とする約640種類の物質です。
有機溶剤の中には、リスクアセスメントを要する物質を含むものもあります。
このように有機溶剤は使用される用途は広いのですが、いい加減な取り扱いをすると、体に取り返しのつかない症状を引き起こすこともあります。そして引き起こされた症状は、回復せず、後遺症として引きずるものも少なくありません。
有機溶剤の取り扱いには、知識とルール、そして適切な管理が必要なのです。
これらをまとめたものが、有機溶剤中毒予防規則というものです。
【有機溶剤中毒予防規則】
第1章 総則
(定義等)
第1条
この省令において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
1)有機溶剤 労働安全衛生法施行令 (以下「令」という。)別表第6の2に掲げる有機溶剤をいう。
2)有機溶剤等 有機溶剤又は有機溶剤含有物(有機溶剤と有機溶剤以外の物との混合物で、
有機溶剤を当該混合物の重量の5パーセントを超えて含有するものをいう。第六号において同じ。)をいう。
3)第一種有機溶剤等 有機溶剤等のうち次に掲げる物をいう。
イ 令別表第6の2第28号又は第38号に掲げる物
ロ イに掲げる物のみから成る混合物
ハ イに掲げる物と当該物以外の物との混合物で、イに掲げる物を当該混合物の重量の5パーセントを
超えて含有するもの
4)第二種有機溶剤等 有機溶剤等のうち次に掲げる物をいう。
イ 令別表第6の2第1号から第13号まで、第15号から第22号まで、第24号、第25号、第30号、第34号、
第35号、第37号、第39号から第42号まで又は第44号から第47号までに掲げる物
ロ イに掲げる物のみから成る混合物
ハ イに掲げる物と当該物以外の物との混合物で、イに掲げる物又は前号イに掲げる物を当該混合物の
重量の5パーセントを超えて含有するもの(前号ハに掲げる物を除く。)
5)第三種有機溶剤等 有機溶剤等のうち第一種有機溶剤等及び第二種有機溶剤等以外の物をいう。
6)有機溶剤業務 次の各号に掲げる業務をいう。
イ 有機溶剤等を製造する工程における有機溶剤等のろ過、混合、攪拌、加熱又は容器
若しくは設備への注入の業務
ロ 染料、医薬品、農薬、化学繊維、合成樹脂、有機顔料、油脂、香料、甘味料、火薬、
写真薬品、ゴム若しくは可塑剤又はこれらのものの中間体を製造する工程における
有機溶剤等のろ過、混合、攪拌又は加熱の業務
ハ 有機溶剤含有物を用いて行う印刷の業務
ニ 有機溶剤含有物を用いて行う文字の書込み又は描画の業務
ホ 有機溶剤等を用いて行うつや出し、防水その他物の面の加工の業務
ヘ 接着のためにする有機溶剤等の塗布の業務
ト 接着のために有機溶剤等を塗布された物の接着の業務
チ 有機溶剤等を用いて行う洗浄(ヲに掲げる業務に該当する洗浄の業務を除く。)又は払しょくの業務
リ 有機溶剤含有物を用いて行う塗装の業務(ヲに掲げる業務に該当する塗装の業務を除く。)
ヌ 有機溶剤等が付着している物の乾燥の業務
ル 有機溶剤等を用いて行う試験又は研究の業務
ヲ 有機溶剤等を入れたことのあるタンク(有機溶剤の蒸気の発散するおそれがないものを除く。
以下同じ。)の内部における業務
2 令第6条第22号 及び第22条第1項第6号 の厚生労働省令で定める場所は、次のとおりとする。
1)船舶の内部
2)車両の内部
3)タンクの内部
4)ピットの内部
5)坑の内部
6)ずい道の内部
7)暗きよ又はマンホールの内部
8)箱桁の内部
9)ダクトの内部
10)水管の内部
11)屋内作業場及び前各号に掲げる場所のほか、通風が不十分な場所
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このような専門則の始まりは、定義から始まります。
有機溶剤の定義は、労働安全衛生法施行令の別表第6の2にあるものです。この別表には55種類の名前が記載されています。
安衛令別表6の2
ここに書かれている物質は、第一種有機溶剤~第三種有機溶剤に区分されます。
毒性が高いのが、第一種です。
有機溶剤は、様々な化学物質の混合物です。中には第一種と第二種の物質が混合した有機溶剤もあります。
各有機溶剤の区分の仕方は、毒性の高い有機溶剤が5%以上含まれていると、毒性の高い区分になります。
具体的には、こんな分け方です。
第一種物質Aの割合が5.1%、残りの94.9%には様々な 第二種と第三種の物質の混合物は、第一種有機溶剤の区分となります。
第一種物質Bが3% 、第二種物質Cの割合が6%、残りの91%には様々な第二種と第三種だった場合は、第二種有機溶剤となります。
第二種物質Dが5.5%、残りの94.5%が第三種の場合は、第二種です。
毒性の高い物質が5%以上含まれるかが、ポイントです。
なお、第一種混合物は、別表第6の2リスクの、第28号と第38号です。
第28号(28 1・2―ジクロルエチレン(別名二塩化アセチレン)
第38号 二硫化炭素
第二種は多いですね。第1号~第13号、第15号~第22号、第24号、第25号、第30号、第34号、第35号、第37号、第39号~第42号、第44号~47号です。
リストのほとんどが第二種です。
第三種は上記以外のものです。第14号、第23号、第26号、第27号、第31号~第33号、第36号、第48号~第54号です。
第55号は混合物についてなので、除外です。
※平成26年11月の法改正により、別表第6の2にあり、発がん性のある一部の物質が、特別化学物質の第2類内の特別有機溶剤等となりました。
これにより、作業環境記録などの保存期間が30年になるなどの変更がありました。
対象物質(10物質)
(第一種)
・クロロホルム
・四塩化炭素
・1,2-ジクロロエタン
・テトラクロロエチレン
・トリクロロエチレン
(第ニ種)
・1,4-ジオキサン
・ジクロロメタン
・1,1,2,2-テトラクロロエタン
・スチレン
・メチルイソブチルケトン
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有機溶剤の取り扱いについては、幅広いです。
第6号のイ~ヲまでが主なものです。製造のためのろ過や混合、撹拌などでも取り扱いといえます。製品になったもので、洗浄や塗装、接着などの作業も取り扱いです。
忘れてならないのは、直接有機溶剤を取り扱わなくとも、保管していたタンクなどの内部に入る作業も、有機溶剤を取り込む危険があるので、有機溶剤取り扱い業務になります。
安衛令第6号第22号には、有機則が適用される作業場所について、規定されています。
【安衛令】
有機溶剤(第6条、第21条、第22条関係)
第6条
22 屋内作業場又はタンク、船倉若しくは坑の内部その他の厚生労働省令で定める場所において
別表第6の2に掲げる有機溶剤(当該有機溶剤と当該有機溶剤以外の物との混合物で、当該有機溶剤を当該混合物の
重量の5パーセントを超えて含有するものを含む。第21条第10号及び第22条第1項第6号において同じ。)を
製造し、又は取り扱う業務で、厚生労働省令で定めるものに係る作業
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どんな場所かというと、屋内、そして通気の悪い場所ということがわかります。
具体的には、第2項にあげられた場所ですね。
通気性の悪い場所で、有機則を取り扱うときは注意が必要といえます。
(適用の除外)
第2条
第2章、第3章、第4章中第19条、第19条の2及び第24条から第26条まで、第7章並びに第9章の規定は、
事業者が前条第1項第6号ハからルまでのいずれかに掲げる業務に労働者を従事させる場合において、
次の各号のいずれかに該当するときは、当該業務については、適用しない。
1)屋内作業場等(屋内作業場又は前条第2項各号に掲げる場所をいう。以下同じ。)のうちタンク等の内部
(地下室の内部その他通風が不十分な屋内作業場、船倉の内部その他通風が不十分な船舶の内部、
保冷貨車の内部その他通風が不十分な車両の内部又は前条第2項第3号から第11号までに掲げる場所をいう。
以下同じ。)以外の場所において当該業務に労働者を従事させる場合で、作業時間1時間に消費する
有機溶剤等の量が、次の表の上欄に掲げる区分に応じて、それぞれ同表の下欄に掲げる式により
計算した量(以下「有機溶剤等の許容消費量」という。)を超えないとき。
消費する有機溶剤等の区分 |
有機溶剤等の許容消費量 |
第一種有機溶剤等 |
W=(1÷15)×A |
第二種有機溶剤等 |
W=(2÷5)×A |
第三種有機溶剤等 |
W=(3÷2)×A |
備考 この表において、W及びAは、それぞれ次の数値を表わすものとする。
W 有機溶剤等の許容消費量(単位 グラム)
A 作業場の気積(床面から4メートルを超える高さにある空間を除く。単位 立方メートル)。
ただし、気積が150立方メートルを超える場合は、150立方メートルとする。
2)タンク等の内部において当該業務に労働者を従事させる場合で、1日に消費する有機溶剤等の量が
有機溶剤等の許容消費量を超えないとき。
2 前項第1号の作業時間1時間に消費する有機溶剤等の量及び同項第2号の1日に消費する有機溶剤等の量は、
次の各号に掲げる有機溶剤業務に応じて、それぞれ当該各号に掲げるものとする。
この場合において、前条第1項第6号トに掲げる業務が同号へに掲げる業務に引き続いて
同一の作業場において行われるとき、又は同号ヌに掲げる業務が乾燥しようとする物に
有機溶剤等を付着させる業務に引き続いて同一の作業場において行われるときは、
同号ト又はヌに掲げる業務において消費する有機溶剤等の量は、除外して計算するものとする。
1)前条第1項第6号ハからヘまで、チ、リ又はルのいずれかに掲げる業務 前項第1号の場合にあっては
作業時間1時間に、同項第2号の場合にあっては1日に、それぞれ消費する有機溶剤等の量に
厚生労働大臣が別に定める数値を乗じて得た量
2)前条第1項第6号ト又はヌに掲げる業務 前項第1号の場合にあっては作業時間1時間に、
同項第2号の場合にあっては1日に、それぞれ接着し、又は乾燥する物に塗布され、
又は付着している有機溶剤等の量に厚生労働大臣が別に定める数値を乗じて得た量
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屋内作業では、有機則の規定を守らなければなりません。
しかし、一定の条件の場合、適用が除外されることもあります。
どんな条件かというと、溶剤の消費量が微量で、体内に取り込まれる量が少ないと見込まれる場合です。
消費量には計算が必要になります。
この計算をして、条件を満たせば、保護具や換気などを準備しなくともよいかもしれませんが、安全を考えるなら、量に関わらず、必要な準備をしておくことに越したことはありませんね。
まとめ。
【有機溶剤中毒予防規則】