有機則○健康と衛生

塗装業などで、シンナーの取り扱いには注意です。

Latex Glove

私は安全パトロールで、様々な建設現場に行きます。
建設現場と言っても、一括りにはできないほど、内容は様々です。
何より、土木と建築では、かなり異なり、それぞれ特色があります。

もちろん建築の基礎工事などは、土木工事と共通しているものも多いところもあります。
しかし建物が建ってからの建築現場は、様変わりです。

重機を使うことも少なくなります。その代わりに作業者数が増えます。
これは作業内容が、左官や電気、防水、サッシなどと細分化していくからです。
作業内容の数だけ、下請け業者があります。そして各下請け業者には、数人の作業者が携わるのです。

大きな建物では、毎日50人~100人もの作業者が作業していることもあります。
100人もの人となると、管理がなかなか大変そうで、統括安全衛生責任者の方も忙しそうにされています。

さて、建築工事で入る専門工種に塗装があります。
もちろん土木などでもあるのですが、建築では壁や床などの塗装作業が行なわれます。

塗装で、使用するのは塗料です。
DIYなどで塗装した経験のある人ならわかると思うのですが、かなり臭いがきついです。

臭いもケミカル臭で、イメージしやすいのが油絵の具、そしてシンナーの臭いです。
ずっと吸っていると、体に悪そうな臭いといえます。

これら塗料は、有機溶剤というものに分類されます。
有機溶剤の取り扱いは、実は危険作業に分類されるのです。

安衛法の関連則として、有機則というものがあります。
また屋内などで作業する場合は、有機溶剤作業主任者技能講習を修了した人から、作業主任者を選任しなければなりません。また作業をする人のために安全衛生教育もあります。ちなみに、この安全衛生教育とは、特別教育に準ずるものという扱いです。

これだけ、法整備や講習等があるのは、それだけ有機溶剤を取り扱いに危険が伴うからといえます。

有機溶剤は、化学物質です。
化学物質を無防備に取り扱い、健康を損なったなどといった例は、数限りなくあります。

近年では、大阪の印刷会社で胆管がんが多発するという事例がありました。
胆管がんの発生の原因は、1、2ジクロロプロパンやジクロロメタンという物質です。これらの物質は、現在は規制されていますが、この事例が発覚するまで、規制はありませんでした。

この事例のように、法で個別の物質を規制するというやり方では、見落とす危険があるということで、化学物質のリスクアセスメントが義務化される運びとなったのでした。

つまり、有機溶剤も取り扱いを誤ると、大きな災害になる可能性があるのです。

そして、塗装時に塗料を伸ばす、つまり塗りやすいように少し緩くさせる物質として、シンナーがよく使われます。
シンナーも有機溶剤です。非常によく使用されます。

そんなシンナーの取り扱いですが、法改正により、以前より規制が厳しくなっています。
法改正自体は平成24年10月公布され、平成25年1月から施行なので、昨日今日の話ではありません。
施行後、しばらく猶予期間が設けられましたが、平成26年1月から義務化されています。そのため現在は義務になっています。

しかし、パトロールしていると案外見過ごされていることも少なくないようです。
ただし、これは私が見逃しているだけという可能性も多々ありそうですが。

規制が強化された法改正は、 「平成24年10月の特定化学物質障害予防規則等の改正」 です。
内容は、「インジウム化合物、エチルベンゼン、コバルト及びその無機化合物に係る規制の導入」です。

要するに、一部の化学物質のを特定化学物質として規制対象にするというものです。
注目するポイントは、「エチルベンゼン」です。

エチルベンゼンはシンナーなどの溶剤に含まれていることが多いのです。
そのため、シンナー取り扱い時は、有機溶剤取り扱いに加え、特定化学物質取り扱いの規制も加わるのです。

ちなみに、規制対象は次の通りです。

・エチルベンゼンが、重量の1%を超えて含まれている物
・エチルベンゼンと有機溶剤中毒予防規則の対象物質(キシレンやトルエンなど)の合計が、重量の5%を 超えて含まれている物

なぜ、エチルベンゼンが規制の対象になったかというと、発がん性や生殖障害があるからです。
生殖障害については動物実験で、胎児への影響が確認されています。

今まで、当たり前にシンナーを使われていた塗装業者にとっては、寝耳に水だった(もしかしたら今も?)話になるかもしれません。
そのため、厚生労働省もこんなパンフレットを配布しています。

塗装業者のみなさんへ(資料)

塗装業者のみなさんへ (パンフレット)

パンフレットの方が、すっきりまとまっていて、見やすいと思います。

では、具体的にどのようなことやらなければならないのか、パンフレットの内容をまとめてみましょう。

1.含有の有無を確認する。
  SDSで、エチルベンゼンが含有されているか、また含有量を確認します。
  エチルベンゼンなどの規制対象物質が、0.1%以上含むものを事業者間で譲渡・提供する場合には、SDSでの確認が義務付けられています。

2.特定化学物質作業主任者を選任
  有機溶剤作業主任者技能講習修了者から選任します。選任したら、職務と氏名を掲示します。

  ややこしいのですが、特定化学物質作業主任者技能講習修了者から選任ではありませんので注意です。

  なお、これは平成27年1月より義務化されています。

3.作業環境測定

  作業環境測定は、法改正前も実施が義務付けられていました。
  対象は屋内作業のみです。

  測定は6ヶ月以内に1回定期に行い、結果に応じて適切な措置をしなければなりませんでした。
  ただし対象は混合物中の各有機溶剤と、エチルベンゼンも一括り扱いだったのです。
  測定記録の結果は、3年間保存でした。

  しかし法改正により、エチルベンゼン単独の測定が必要になりました。
  測定は、他の有機溶剤と同時に行いますが、管理区分決定の評価と記録の保管は、エチルベンゼン単独で行います。
  6ヶ月以内に1回の頻度も同じですが、記録の保管期間が、3年から30年に延長になりました。

  6ヶ月を超え、常時取り扱う場所では定期に測定が必要になります。

4.特殊健康診断

  有機溶剤の使用でも特殊健康診断を半年以内に1回に受けていますが、エチルベンゼンに係る項目も追加になります。
  エチルベンゼンに係る項目の診断結果記録は30年保管です。

5.換気と保護具
  屋内や通気性の悪い場所で塗装する時の換気については、従来通りです。
  発生源近くに局所排気装置で換気します。
  建設現場では、送風機や排風機が置かれるのを見かけます。

  保護具として、呼吸用保護具を使用します。呼吸用保護具は送気マスク、もしくは防毒マスクですね。
  防毒マスクと防じんマスクを間違えないようにしましょう。
  防毒マスクの吸収缶にはいくつか種類があります。塗装では、有機ガスのものを使用します。黒色の表示があるものです。

  法改正での変更点としては、タンク内部で防毒マスクを使用する場合。口と鼻だけをカバーする半面タイプは使用禁止となりました。
  顔面全体を覆う全面タイプを準備してください。
  とはいうものの、タンク内部などは、酸欠の危険もあるので、なるべくならば送気マスクの使用が望ましいです。

5.作業時の注意
  ・作業の記録と保存
   常時従事する労働者について1カ月以内ごとに氏名、作業の概要と従事期間等を記録します。
   記録は30年間保存しなければなりません。

  ・作業場に取扱い上の注意事項等の掲示
   有機則に基づく掲示に加え、エチルベンゼンの名称、使用すべき保護具について表示しなければなりません。

  ・ぼろ等の処理
   シンナーを拭き取ったウェス等は、ふた付きの不浸透性容器に納めておかなければなりません。

  ・その他
   ・設備の改造等の作業時の措置
   ・立入禁止措置
   ・休憩室、洗浄設備の設置
   ・喫煙、飲食の禁止
   ・容器等への表示と一定の場所での保管
   ・事業を廃止する場合、測定・健診・作業の記録等を所轄労働基準監督署へ報告

普段、何気なく使っていたものも、法改正により規制が強化されることもあります。
よく使う有機溶剤もSDSをチェックして、エチルベンゼンが含まれていたら、対処してくださいね。

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