厚生労働省労働局長登録教習機関
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重機と一口に言っても、種類は様々、用途も様々にあります。
大きく分類するとなると、車両系建設機械と揚重機械に分けられるのでしょうか。
今回は車両系建設機械をメインとして扱います。
クレーン等が含まれる揚重機械については、別の機械の教育としましょう。
車両系建設機械も数多くの機械が含まれます。細かい分類については、本編で触れていますので、ここでは省きます。
種類は様々ありますが、共通している点は「大きな機械」であることでしょう。
車体の長さ、高さ、重量は人の数倍に及びます。小さいものでも数百キロ、大きいものだと車体重量が数トンに及ぶものもあります。そのため重機というのでしょうけども。
この大きな機械(重機)は、建設業や製造業、その他で欠かすことが出来ない機械です。
便利な機械ですが、同時に一緒に仕事をする上での脅威でもあります。
車体の大きさは、それだけでリスクになり得るのです。
実際に、重機が原因の死亡災害も少なくありません。
平成28年度の確定値のため、少々古いデータですが、建設業における重機での死亡者数は33名で、3番目に多くなっています。(建設機械が29名、クレーン等が5名)
建災防 平成28年 建設業における死亡災害の工事の種類・災害の種類別発生状況
かなり高い比率を占めていることが分かります。
最近でも、東京オリンピック工事で、このような事故がありました。
五輪選手村の建設現場でクレーン車に挟まれ作業員死亡
これはクレーンですけれども、他の車両系建設機械でも起こり得る事故ということで紹介しますが、機械周辺には致命的な脅威があることがわかります。
重機の怖さは、多くの人が知っていると思います。しかし事故がある。
事故は人と重機が接触することで発生するので、接近したことが原因です。
なぜ、危険とわかっているのに近づくのでしょうか?
また、今回のテーマを決めるに至ったのは、新入社員が工事現場に入り、ショベルカーが動いているのに、横切ったりするという話を耳にしたからです。
重機事故は、命に関わります。
今回のテーマは、重機の危険を知ろう(再確認)しようです。
今回の教育の目的 |
重機の危険性を再認識させ、自衛のための対策を考えさせる そもそも知っているか、出来ているか?の再確認です。 |
教育で使用するもの | 1.記入用演習シート(今回の配布資料です) 2.重機作業計画書 |
今回の教育の 大事なポイント (この教育の目標) |
1.重機の危険性を再認識する。 2.重機の死角をOP(オペレーター)と周辺作業員全員が理解する。 3.重機事故にならないための対策を実行する。 |
導入 |
開会の挨拶を行った後、今回のポイント、教育の流れを説明。
車両系建設機械機械の資格の有無を確認します。車両系建設機械は整地運搬や基礎、解体などの種類があります。また技能講習と特別教育の区別もあります。
資格を持っている人に挙手を求めて、資格の種類などを質問しましょう。
以後、何か重機についての疑問点、ポイントなどの話を振るなどして、協力を求めてましょう。
「今回の教育で、分からないところとかあれば、聞いてもいいですか?」と伝えても良いでしょう。
資格有無の質問で教育対象者のレベルを把握しましょう。
1.重機事故はなぜ危険か?【説明と演習】 資料P2、P3 |
(演習) |
まずは重機には何があるのかを整理します。教育担当の人は、あらかじめ機械持込届けなどで解答を作っておきましょう。
◯で囲んでもらった重機を頭に思い描いてもらい、質問を投げかけてみます。
「これらの重機で事故になったら、どうなるでしょうか?」
重機事故から、人と関わるものをピックアップすると、3つにまとまると思います。(資料P3を見せる)
・轢かれる(下敷きになる)
・激突される(旋回したバケット等に当たる)
・挟まれる(上記で紹介した事故のケース)
ここまで話をまとめ、演習を行います。
(演習) |
参考までに、0.25m3のショベルカーの重量は、大体アフリカ象の重量と同じくらいだそうです。(調べてみて象って、そんなに重いのかと知りました。)
さて、象に踏まれて無事な人はいるでしょうか?
こんな話も交えながら、話し合った内容について1~2人に聞いてみましょう。
結論としては、「死亡する」に行き着くのではないでしょうか。
つまり、重機事故は死亡事故になる可能性が高いのです。
このことを強調しましょう。
2.なぜ危険に近づくのか?【説明と演習】 資料P3 |
死ぬリスクが高い重機作業です。話し合った中でも、多くの人がリスクを理解していると思います。
しかし事故が多い(建設業の死亡事故で3番目に多い)のはなぜでしょうか?
(演習) |
演習時は、自分たちのことは差し置いて原因を考えてもらいます。
我が事として考えると、原因とともに言い訳も入ってきます。
あくまでも、どうして死亡事故が起こるのかを、自分たちで分析してもらうことが目的です。
おそらく答えとしては、
・不用意に近づく
・OPとの意思疎通ができてない
・立入禁止がない
などが出てくると思います。いや実際はもっとよく分からない分析がでてくるかもしれませんが、意見は意見として聞き入れましょう。
原因の大別として、
・設備、誘導の不備
・危険に対しての認識不足
・慣れ、省略
などにまとまるのではないかと思います。これらを原因のまとめとしてもよいと思います。
3.死角を把握する【説明と演習】 資料P4(P4-2は解答例) |
原因の1つに危険に対しての認識不足というのがあります。
認識不足の1つに、重機の死角というものがあります。
(演習) |
死角の認識がOPとそれ以外の人で異なっていることがあります。
そのため、手元で作業している人が、接近しても気づかれないことがあるのです。接近する立場としては、見えてるだろうと思っているかもしれませんが、実際は思い込みということもあります。
この演習では、認識のズレを理解してもらうことが大事です。
OPがいないグループは、OPの意見が聞けないので、解答例を示しましょう(資料P4-2)
死角の範囲が思いの外広いことに気づいてもらいましょう。
そしてこの範囲に近づいても、気づいてもらえないことも強調です。
※最近はバックビューカメラを備えた機種もありますが、作業に集中しているとモニタを見落とすこともあります。バックビューカメラは、どの程度注目しているかをOPに質問してみましょう。あくまでも補助でしかないことが、理解してもらえるはずです。
死角範囲を理解し、OPと認識を共有したら、今後度のようにしていけばよいか質問してみるとよいでしょう。
質問はOP以外の人に行います。
4.接近を防ぐためには【説明と演習】 資料P5、6 |
重機事故は死亡事故になる、そして死角も広いことを理解してもらいました。
次は対策です。
事故を防ぐための一番の対策は、接近しないことでしょう。
接近しないことを強調し、納得してもらいましょう。
資料P5を見ながら、接近しないための方法を確認します。
・立入禁止
・合図
ちなみにこれらは安衛則第158条と第159条にあるので、最低限やらなければならないことでもあります。
これ以外にアイデアがあれば、検討するのもいいですね。
立入禁止は、バリケードで作業範囲を区切ることです。重機が移動する場合は、バリケードも移動させる、もしくは大きく範囲を区切ます。完全に重機単独作業で、人が接近する恐れのない場合は、作業場の進入口を区切るだけでも構わないでしょう。
バリケードは原則すき間なく囲うですが、数に限りもあるでしょうから、少なくとも範囲は明示出来る程度は囲うのがよいでしょう。
いずれにしても、重機が動いている間は、作業者は立入禁止区域に入らないことが大事です。
立入禁止で仕切るのが困難な場合は、合図者や誘導者が誘導することが大事です。誘導者の指示に従いましょう。
しかし、手元作業など重機に近づくことが避けられないこともあります。こういった場合は必ずOPに合図を送ります。
合図の方法は無線でも、グーパーでも構いません。大事なことは、OPが理解していることです。
合図は必ずOPが見える位置で、相手の了解を得てから接近します。
以上のことを踏まえて、各業者が作成した作業計画書を見てもらいます。
・立入禁止範囲は描かれているでしょうか?
・合図者・誘導者の配置は描かれているでしょうか?
・接近時の取り決めは描かれているでしょうか?
・描かれていた場合、実際にその通りにされていたでしょうか?
こんな質問を投げかけてみましょう。
見直してもらったところで、立入禁止の確認です。
(演習) |
ここで立入禁止範囲を描き、対策を書くことは自分たちならこうするという、コミットメントにつながります。
5.締め、コミットメントの引き出し。【管理者(元請け等)として協力すること。発表と説明】 |
(質問と発表) |
質問をして、対策の実行のコミットメントを引き出しましょうか
コミットメントを引き出したら、協力できること、要望などを聞きます。
例えばバリケードを増やして欲しいなどと言われるので、対応を答えましょう。
また今後巡視の際に、作業計画書と現場の整合性を確認するなどと伝えるのも良いでしょう。
要望があれば、巡視の時にも聞くと伝えるのも良いでしょう。
この対応は、管理者としての約束、コミットメントなので守らないといけません。疎かにすると、やってくれませんので注意です。
最後に、ポイントを確認して終了です。
1.重機の危険性を再認識する。
2.重機の死角をOP(オペレーター)と周辺作業員全員が理解する。
3.重機事故にならないための対策を実行する。
以上、30分くらいになるか、少しオーバーするかもしれません。演習によっては、もう少し時間がかかると思います。
30分を1時間にするためには |
30分を1時間にするには、
1.2の演習での話し合わせる時間をとる。5分~10分
2.3の死角は話し合い時間を増やし、OPに全体発表させる 5分
3.4の話し合わせる時間をとる。10分
4.締めの質問と回答者を3人程度にする。5分
実際にやってみての感想 |
演習をやると、かなり時間が厳しく、30分オーバーします。
死角の演習は、話し合いをカットしてOPに質問して答えてもらうのも良いかと思います。
死角と立入禁止の演習は、時間コントロールしないとダラダラ続きます。
ある程度の時間で、解答を提示するもの1つの手段でしょう。
最後に今回使用する資料とレシピのPDFも公開します。
自由にダウンロードしていただいても構いません。
その他事故事例も多数書いておりますので、参考にして下さい。
ただこの教育を実施される場合は、コメントに報告やご意見をいただけると、今後の励みなりますので、ぜひお願いします。