掘削作業では、土砂の崩壊が問題ですので、土止め支保工などの対策を行います。
しかし、適切に行わなければ、このような事故になるのです。
この事故の問題は、土止め支保工が適切でなかっただけではありません。
なぜ適切でないのに、作業を進めたかにあります。
この事故からの教訓として、このようなことがあります。
現場作業では、現場代理人や監理技術者(主任技術者)の配置は義務付けられています。一定の規模以上の現場では、常駐専任しなければなりません。
現場での管理体制の甘さによる災害。平成最初の課題は、平成を通じての課題となったのです。
○ 広島新交通システム橋桁落下事故
(平成3年3月14日) (wiki)
原因
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直接の原因は、ジャッキが座屈し、橋桁が転倒、回転しながら、移動し、落下した。
ジャッキ箇所にはせん断補強リブがなかった。
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転落防止ワイヤーが取り付けされていなかった。
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橋桁の受台は、通常H鋼を井桁状に並べるが、事故現場では同方向に一列に並べていた。
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元請け社員が誰も監督していなかった。
監督をしていたのは、下請けの事務作業員。作業員も橋の工事経験の乏しいものが集められていた。
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第三者も巻き込んだ大きな事故です。
事故当時、私はまだ子供でしたが、ぺしゃんこになった車の映像など記憶に残っています。
この事故でも、現場での管理体制についての問題がありました。
また、現場だけでなく、会社としての責任も問われました。
この事故からの教訓として、このようなことがあります。
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現場管理体制の徹底
現場代理人、監理技術者は常駐することが義務づけられているが、実施されていないこともある。
作業主任者等の配置の徹底。
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業者の選定を入念に行う
経験不足の会社では、工事の進行で不備があっても発見できない。
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現場不在の管理者(会社)の責任を重視
現場に不在の管理者(橋梁工事部長)も、現場代理人に対して、適切な安全対策をとる責任があることも明確なった。
現場の判断・責任では、言い逃れできない。
無責任な管理体制では、事故を招いてしまいます。管理者が不在では、事故を未然に防ぐ手立てがありません。現場任せにしてはいけないのです。
○ 海上自衛隊厚木航空基地内の体育館・プールの建築工事型枠支保倒壊
(平成4年2月14日) (失敗データベース)
簡単な概要
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体育館2階床部のコンクリート打設中(予定の約65%、500㎥)に、倒壊した。
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床部は型枠支保工で支持していた。
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コンクリート打設中に1階では現場所長や作業員7名が作業していた。
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倒壊により、1階での作業していた7名がコンクリートや型枠の下敷きになり死亡。コンクリートを打設中の作業員も含め14名が負傷。
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コンクリート打設時の事故です。スラブ(天井・床)では、型枠を支える型枠支保工を設置します。
かなりの重量を支えます。設置の仕方を誤ると、崩れ落ちてしまいます。
危険作業では、作業主任者を選任して、現場で直接指揮させます。
また計画通りに組まれているかの確認も必要です。最後の点検は、責任ある立場の人が行わなければなりません。
この事故からの教訓はこのようなものです。
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作業主任者の役割の重要性を理解する
作業主任者が選任される作業とは、危険をともなう作業です。
作業主任者は型枠支保工が組立図通りに組まれているか、確認しながら作業を進め、組み立て後は点検を行う。
問題があれば、必ず現場所長などに報告し、対応を検討する。
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危険に対する判断
異常を感知した際の避難について、判断基準を明確にする。
避難をちゅうちょしない。安衛法第25条の徹底。
危険を察知したら、まず作業の中止と避難です。確実に安全を確認してからの作業としましょう。
○ 蒲原沢土石流災害
(平成8年12月6日) (wiki)
簡単な概要
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長野県小谷村の蒲原沢で、建設省による砂防ダム、流路工、床固め工が発注されていた。また上流では、林野庁発注の工事が行われ、長野県も新国界橋の架替工事を発注していた。
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午前10時40分に大規模土石流が発生。複数現場の工事関係者14名が巻き込まれ、行方不明となった。(後に遺体で発見。)
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崩壊土砂は、約3万300㎥。約2万㎥が土石流として流れた。
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原因
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降雨に加え、融雪によって、降水量が最大100mmに達した。これが地下水に流れ、土砂崩壊となった。
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冬季の土石流発生は事例が知られていなかったので、警戒心が薄かった。そのため雨量計以外の検知装置や警報装置などを設けていなかった。
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土石流発生の予兆がなかった、地形的制限から、センサーが設置できなかったなどもある。
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この災害は、自然災害の怖さとともに、連絡体制について考えさせたものです。
今まで土石流等がなかったからといって、油断はできません。
また近接して工事を行う場合、連絡を取り合う体制も災害防止のために重要だということです。
災害を教訓に、法改正がありました。
「労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行について」(平成10年2月16日 基発第49号)
これにより、次の条文が追加・改正されました。
安衛則第575条の9~16、安衛則第642条の2の2、安衛則第634条の2(1の2号)
この事故からの教訓は次のとおりです。
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近接作業での、情報の共有体制
発注者が異なると、情報共有がされにくかったが、作業場所を同じとする場合は、災害防止協議会などを共同開催する。
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自然災害に対する監視体制の強化過去に災害の事例がなくとも、監視センサーなどを徹底。
予兆をいち早く把握し、作業中止判断や避難指示を行う。
危険を察知したら、退避する。そのためには察知する方法を確立し、共有する方法が必要です。
自然災害では、早めの避難を常に意識する必要があります。
簡単な概要
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来島大橋は、しまなみ海道の一部で全長4105m、世界初の3連吊橋。主桁の送り出し仮設に用いた仮設の工事桁を地上に吊り降ろす作業中に事故が発生。
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主桁上に作業台車を設置し、台車の四隅かに1台ずつ設置したジャッキからワイヤを介して、工事桁を吊り、地面に下ろす際、工桁が約60m下の地面に落下。
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台車に乗っていた8人の内、7人が墜落して死亡。1人が重症となった。
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原因
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ジャッキは、ワイを保持する上下2つのクランプがワイヤを交互に挟み、ジャッキが伸縮しながら、ワイヤを降下させる構造。
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事故は、4台の上クランプがすべて開放している状態で、下クランプを操作する油圧ポンプのレバーが倒れた。結果ワイヤが急激に降下して、破断した。
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上下クランプが同時開放を防ぐ、インターロックがなかった。
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ジャッキ開放は、誤操作によるもの。油圧ポンプを当初予定していたインターロック付きから、手動式に独断で変更していた。
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クレーン作業として、労働基準監督署に製造許可を得ていなかった。(相談は行っていた)
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この事故も、法改正になりました。
吊り上げ装置として、ジャッキ式吊り上げ機械操作が強化されることになりました。
* 安衛則第12条の4 ジャッキ式吊り上げ機械の運転業務が特別教育に追加
* 安衛則第194条の4~7 作業計画の作成
この作業からの教訓は次のとおりです。
安全のためには、設備に過度なコストダウンを控えることも重要です。
また教育も大切な安全対策です
平成に入って、特別教育は次のものが追加されました。
- 平成2年(基発第583号 平成2年9月26日)
33 自動車用タイヤの空気圧縮機を用いた空気の充てん業務に係る特別教育
- 平成13年(基発第402号 平成13年4月25日)
34~36 廃棄物の焼却施設に関する業務に係る特別教育
- 平成17年(基発第0318003号平成17年3月18日)
37 石綿等の工作物の解体等の作業に係る特別教育
- 平成24年(平成24年1月1日安衛則改正、基発1222第7号 平成23年12月22日)
38 東日本大震災で汚染された土壌等を除染するための業務等に係る特別教育
- 平成27年(平成27年7月1日安衛則改正 基発0331第10号 平成27年3月31日)
39 足場の組立て、解体又は変更の作業に係る特別教育
- 平成27年(基発0805第1号 平成27年8月5日)
40 ロープ高所作業に係る業務に係る特別教育
- 平成30年(基発0622第1号 平成30年6月22日)
41 墜落制止用器具を用いて行う作業に係る業務に係る特別教育
最近では、墜落性使用器具(フルハーネス型安全帯)が追加されています。
○ 東海村JCO臨界事故
(平成11年9月30日) (wiki)
簡単な概要
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JCO東海事業所の核燃料加工施設内で核燃料を加工中に、ウラン溶液が臨界に達し核分裂連鎖反応が発生、この状態が約20時間持続した。
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至近距離で中性子線を浴びた作業員3名中、2名が死亡、1名が重症となったほか、667名の被曝者を出した。
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国際原子力事象評価尺度 (INES) でレベル4(事業所外への大きなリスクを伴わない)の事故
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原因
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転換試験棟にてJCOの作業員たちが、本来硝酸ウラニル溶液を沈殿槽にバケツで流し込む作業を行っていた。
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この手順は正規マニュアルとは異なる、裏マニュアルで作業だった。
(正規マニュアルでは「溶解塔」という装置を使用すると定められていたが、裏マニュアルではステンレス製のバケツを用いるという手順に改変されていた)
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ずさんな作業管理があった。
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この事故の後、安衛法関係ではありませんが、次の法律か成立しました。
原子力災害対策特別措置法成立(平成11年12月17日)
放射線漏洩という深刻な災害です。しかも原因がずさんな作業方法というものでした。
危険物を扱うときであっても、人は手を抜きたがるものです。その特性を踏まえ、設備や作業方法を決めることが大切です。
事故の後、被爆された方は長期間治療を受けたものの、命を落とされました。
NHKのドキュメントでその様子を見ましたが、かなりの衝撃を受けました。
この災害からの教訓は次のとおりです。
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作業手順の遵守
手順書を作成していても、実行されなければ意味がない。書類と現場との不整合による災害は、検知できない。
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会社、現場ともに危険管理の甘さを改める
不安全行動などを黙認する体制は、会社にとっても致命傷となる。
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放射線漏えい等の重大災害時の、情報公開のあり方を考える
東日本大震災における、福島第一原発事故では初期避難時に原発事故との情報が知らされていなかった。
東日本大震災では、福島第一原発事故が発生しました。
事故処理にはまだ数十年かかり、道のりは遥か遠く、危険を伴います。
○ 石綿の製造・輸入・使用等の禁止(平成17年)
平成15年ごろから石綿に関する訴訟が増えてきました。
これらも背景にあり、平成17年より使用等が禁止になりました。
現在は、除去時の吸引を防ぐための対策が必要です。
また、石綿に関しては、大気汚染防止法などでの申請も必要です。
○ 高所からの墜落・転落災害減少を目指して
墜落・転落災害は常に上位を占めています。
そのため、最も課題となり、対策されています。
平成の間で、墜落・転落災害の死亡者数は、約3分の1にまで減少しました。
これは、足場などの改善や安全帯の使用など、対策に取り組んできた結果でしょう。
しかし、まだ多いのが実情です。
特に建設業での墜落・転落災害による死亡者は多いです。約半分を占めています。
墜落・転落災害を減らすために、法令の改正なども行われてきました。
フルハーネス型安全帯が義務化になったのは、墜落・転落災害の多さが背景にあります。
足場の組立は、実施者が限られます。しかし安全帯は業種問わず、高所で作業するときに必要です。フルハーネスで特別教育が必要なのは、幅広い業種の方に、墜落・転落防止のための安全教育を届けることも目的なのです。
○ 印刷業での胆管がん
印刷で、機械洗浄に使われていた薬品が原因で、従業員の胆管がん発症者が多発しました。
このとき使われていた薬品は、その当時規制対象ではなかった。
この事故もきっかけになり、平成27年化学物質のリスクアセスメント義務化となりました。
新たな化学物質が指定される法改正は頻繁に行われます。
しかし日々新たな物質が生まれているので、追いつきません。
自分たちの身は自分たちで守る。そのために化学物質のリスクアセスメントが義務化されました。
化学物質の取り扱いで、リスクアセスメントが義務化されます
取り上げた以外にも、まだまだ通達が伴った災害はあります。
また通達などがなくとも、大きな被害を出した災害もあります。
法改正の背景には、大きな災害も一因としてあります。
報道される災害もあれば、されないものもあります。しかしその全てで被害を受けた人はいるのです。
労働安全衛生法のすべての条文は血で書かれています。
全ての条文は、多大な犠牲があり、それを防ぐための規則なのです。
一方で、法改正は、事業者や労働者の負担は増やします。
しかしその負担は、大きな災害を防ぐことを目的なのだと、知ってください。
平成30年間で、働き方は大きく変わりました。
その変化は、決して平坦なものではありません。
令和は平成の教訓を活かし、誰もが怪我なく、病気にならないことが当たり前になる時代にしていきましょう!
そのためには、行政も事業者、労働者の全員が協力し、努力維持すること。
これが令和での私たちが目指すところではないでしょうか!
参考文献
建設事故(日経コンストラクション)