特定安全衛生計画

特別安全(衛生)指導事業場に指定されたら

 
 
特別安全(衛生)指導事業場というのは、ご存知でしょうか?
あまり一般的には、馴染みがないかもしれません。
 
安衛法第78条にこのような条文があります。
 
 
(特別安全衛生改善計画)
 
第78条 
 
厚生労働大臣は、重大な労働災害として厚生労働省令で定めるもの(以下この条において「重大な労働災害」という。)が発生した場合において、重大な労働災害の再発を防止するため必要がある場合として厚生労働省令で定める場合に該当すると認めるときは、厚生労働省令で定めるところにより、事業者に対し、その事業場の安全又は衛生に関する改善計画(以下「特別安全衛生改善計画」という。)を作成し、これを厚生労働大臣に提出すべきことを指示することができる。
 
これは、重大な労働災害を発生させた事業者に対して、厚生労働省(都道府県労働局・労働基準監督署)が、安全または衛生管理について、改善しなさいと命令するものです。
命令ですから、拒否権はありません。拒否したり、無視をすると法令違反となり、罰則を受けてしまいます。
 
毎年、各都道府県の労働局が選定します。(都道府県によって、選定数は異なります。)
法的には、厚生労働大臣が主体ですが、実際には都道府県労働局、さらには指定された事業者の所轄労働基準監督署です。
そのため、以下は労働基準監督署(監督署)を主体として書いていきます。
(監督署=都道府県労働局=厚生労働省と思ってください。)
 
この特別安全(衛生)指導事業場(通称として安特や衛特などと言われます)になると、かなり大変です。
少なくとも1年、場合によっては数年間、監督署の直接指導を受けることになります。
 
死亡災害などの重大な労働災害を発生させ、再発させないための改善は不可欠です。
経営者や安全衛生の担当者にかかるプレッシャーはこの上なしであることは、間違いありません。
 
しかし、この大変な安特(衛特)ですが、どのようにするのか等の情報は、少ないのではないでしょうか。
 
今回は、安特(衛特)について、紹介してみます。
 
まず強調したいのが、安特等に指定されたら、迷わず都道府県の労働安全衛生コンサルタント協会に相談してください。
きっとノウハウを持っているコンサルタントを紹介してくれるはずです。
なお、安特指定の通知の際には、コンサルタント協会について教えてくれます。
 
では、指定された場合のフローについて、紹介します。
 
 
赤字の項目は、労働安全・衛生コンサルタントが支援できるところです。
 
一般的な流れなので、時期など都道府県によって違いがあるかもしれませんので、ご了承ください。
 
指定されるのは、重大な災害を発生させた事業場です。
 
重大災害とは、安衛則第84条第1項と第2項に書かれています。
 
第84条
 
法第78条第1項の厚生労働省令で定める重大な労働災害は、労働災害のうち、次の各号のいずれかに該当するものとする。
 
 (1)労働者が死亡したもの
 
 (2)労働者が負傷し、又は疾病にかかったことにより、労働者災害補償保険法施行規則(昭和30年労働省令第22号)別表第1第1級の項から第7級の項までの身体障害欄に掲げる障害のいずれかに該当する障害が生じたもの又は生じるおそれのあるもの
 
2 法第七十八条第一項の厚生労働省令で定める場合は、次の各号のいずれにも該当する場合とする。
 
(1)前項の重大な労働災害(以下この条において「重大な労働災害」という。)を発生させた事業者が、当該重大な労働災害を発生させた日から起算して3年以内に、当該重大な労働災害が発生した事業場以外の事業場において、当該重大な労働災害と再発を防止するための措置が同様である重大な労働災害を発生させた場合
 
(2)前号の事業者が発生させた重大な労働災害及び当該重大な労働災害と再発を防止するための措置が同様である重大な労働災害が、いずれも当該事業者が法、じん肺法若しくは作業環境測定法(昭和50年法律第28号)若しくはこれらに基づく命令の規定又は労働基準法第36条第6項第1号、第62条第1項若しくは第2項、第63条、第64条の2若しくは第64条の3第1項若しくは第2項若しくはこれらの規定に基づく命令の規定に違反して発生させたものである場合
簡単にまとめると、次のとおりです。
 
第1項 第1号 死亡災害
 
第1項 第2号 後遺症が残る負傷または疾病
 
第2項 第1号 第1項の労災を発生させてから、3年以内に同様の災害を発生させている(改善していない)
 
第2項 第2号 粉じん、危険物等の取り扱い等について作業環境に問題があり、疾病を発生させる恐れがある(環境に問題あり)
 
死亡災害を発生したら、必ず安特指定になるわけではありません。
労働基準監督署等が、様々な点から判断します。
 
だいたい、前年度の後半くらいに選定し、年明けくらいには指定業者を決定しているようです。
 
そして、3月後半から4月くらいに、指定された業者には、特別安全指導事業場の指定通知が来ます。
 
この通知が来るともはや拒否や無視はできません。
一応法律上では、厚生労働大臣からの命令という形になりますので、
誠実に対応してください。それ以外に方法はありません。
 
通知時には、経営者や安全衛生担当者が、所轄の労働基準監督署に呼び出されます。
 
ここで、安全管理等の改善についての話があります。また期日までに安全改善計画を作成することを指示されます。
 
この時、労働安全・衛生コンサルタントに相談するようにとの話もありますので、素直に相談されることをおすすめします。
 
安全改善計画ですが、期日は5月下旬と定めれられていることが多いようです。
項目については、安衛則第84条第4項にあります。
 
4 法第78条第1項の規定により特別安全衛生改善計画(同項に規定する特別安全衛生改善計画をいう。以下この条及び次条において同じ。)の作成を指示された事業者は、特別安全衛生改善計画作成指示書に記載された提出期限までに次に掲げる事項を記載した特別安全衛生改善計画を作成し、厚生労働大臣に提出しなければならない。
 
 (1)氏名又は名称及び住所並びに法人にあっては、その代表者の氏名
 
 (2)計画の対象とする事業場
 
 (3)計画の期間及び実施体制
一見少なそうに見えますが、とんでもありません。
都道府県の労働局に様式などがあるので、参考にしてください。
 
私の所属する兵庫県労働局での項目を例であげると、次の項目を記入します。
 
 
1. 事業の概要(業種・主要製品・労働者数など
 
2. 事業場の安全衛生の現状
    1. 施設概要
    2. 施設の安全衛生面の問題点
    3. 労災発生状況(過去3年以内)
    4. 労災の分析
    5. 分析の結果、改善を要する事項(施設・安全衛生教育・管理機構)
 
3. 会社(経営者)としての労災に対する基本方針
 
4. 労災減少の目標
 
5.本年度の改善計画
    1. 安全衛生組織体制
    2. 施設の改善
    3. 安全衛生教育
    4. 月別実施計画
この計画は当然ですが、絵に描いた餅ではだめです。
おそらく提出しても、何度も変更や修正指示があるので、覚悟してください。
安特最大のハードルかもしれません。
 
改善計画は、経営者だけの考えではいけません。
計画を実行するのは、労働者・作業者です。
そのため改善計画を提出する際には、過半数労働者の同意書も添付しなければなりません。
 
さて、提出し、監督署の承認を得たら、実施となります。
 
計画に書いた事項を行ってください。
 
安全衛生に期限はありませんが、特安指定の期間に限ると、最低でも翌年の3月までが区切りとなります。
 
実施期間の間は、改善計画の進捗を報告します。
安特指定の場合は、毎月報告書を提出しなければなりません。
 
報告内容は、主に
 
1.実施内容
 
2.計画との差(遅れなど)と、その原因と対応
 
3.労災発生状況
 
4.度数率、強度率
などです。
 
月次の報告書提出も期日がありますので、忘れずに提出しましょう。
 
また実施期間中には、進捗報告以外にも、大事なイベントがあります。
 
それは、臨検です。
 
臨検とは、監督署が事業場に来て、計画の実施状況を直接確認したり、その他問題点がないかを点検することです。
大体2人くらいの方が来られます。
 
臨検は多少時期は異なるかもしれませんが6月、9月、1月に行われることが多いです。
 
臨検時には、是正を要する箇所に対して勧告、指示などがされます。
この勧告や指示も無視してはいけません。
直ちに対応して、報告書を提出してください。
機械や整備の是正など、すぐに対応できないものは、是正計画を作成して報告してください。
 
実施の状況と臨検の結果を元に、監督署では指定事業場の解除か継続かの判断を行います。
解除の場合は、4月頃に通知が来ます。
 
継続の場合は、通知は来ません。もう1年延期です。また今年度の安全改善計画を作成し、提出してください。
 
言うまでもありませんが、解除となっても、安全衛生管理は続きます。
この点はお忘れなく。
 
さて、改善計画の実施にあたって特に重要で重視される点は、次の2つです。
 
1.安全衛生管理体制の整備
 
 責任体制や担当を定めるだけでなく、各責任者が役割を果たせているかが大事です。
 役割表に名前を入れて、貼り出すではだめです。
 
2.安全衛生意識の改革
 
 作業者の意識を変えることは、とても大事です。
 しかしそのためには経営者、管理者の意識変革が不可欠です。
 
 安全衛生教育は、経営者層も積極的に受けましょう。
 
 安全第一を言葉だけでなく、経営活動、業務に落とし込みが必要なのです。
 安全衛生への投資を経営計画に含められるようになると、意識改革も進んでいる証拠です。
 
特別安全(衛生)指導事業場に指定されると、とても大変です。
しかしこれは、労災を再発させないための荒療治ともいえます。
もし放置していると、また被害者が出てきた可能性もあります。
その意味では、仕事のやり方を見直すチャンスと見ることもできますね。
 
自社で全てを行うことは可能です。
一方で、ぜひ労働安全・衛生コンサルタントも活用してほしいと思います。
私が労働安全コンサルタントであるので、強調したいところでもあるのですが。
 
労働安全・衛生コンサルタントが安特の際には、このような支援ができます。
フローの赤字の部分が、コンサルタントのノウハウが活きるところです。
 
1.現状確認のための安全診断
2.リスクアセスメント
3.1と2を踏まえて、改善計画の作成、修正対応
4.実施期間中の安全診断、指導
5.安全衛生教育
6.臨検時の立会、指示・勧告の対応
7.進捗報告書の作成
 
多くの点でお手伝いできます。
 
ただし、全てのコンサルタントが対応できるわけではありません。
中には、経験やノウハウがない人もいます。
 
経験豊富なコンサルタントと一緒に仕事をすれば、スムーズに進められます。
そして様々ノウハウを事業所に活かすこともできます。
 
行政関係の書類は、個人でもできます。
しかし書き方を調べたり、提出した書類を修正したりする手間もかかります。
手間をかける代わりに、行政書士さんに依頼すれば、早いです。
 
コンサルタントを活用するには、費用はかかりますが、早く確実です。
 
コンサルタントは日本労働安全衛生コンサルタント会の各都道府県支部に連絡すると、紹介してくれます。
 
 
ちなみに私は兵庫県支部に所属しております。
 
兵庫県内でお困りの際には、事務局にご連絡ください。
 
 
4月のこの時期ですと改善計画書を作成に、困っている事業者さんもいらっしゃるかもしれません。
 
もし頼っていただけたなら、私たちコンサルタントは、必ずお力になります。

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