建築物石綿含有建材調査者講習 2023年10月から義務化の前に取得しましょう
石綿(いしわた・せきめん)はアスベストとも呼ばれ、古くは古代エジプトでミイラを包む布にも使用されていました。昭和から平成にかけて、石綿を使用した建築物が数多く建てられました。老朽化した建築物は解体や改修をしますが、問題になるのが石綿の存在です。
建築物の解体、改修時に欠かせない存在が、建築物石綿含有建材調査者です。調査者になるために、講習受講と試験が必要となります。
安全教育センターでは、宮城県のある東北を中心に、東京都、大阪府、福岡県でも開催しています。
開催スケジュールはこちらをご覧ください。
今回は高い需要が見込まれる資格、建築物石綿含有建材調査者について解説します。
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建築物石綿含有建材調査者とは
建築物石綿含有建材調査者は、建築物の解体、改修に先立って、石綿の有無を確認します。石綿の有無の確認は、安全に除去を行うためには欠かせません。
調査者制度は、国土交通省による資格として運用されていましたが、令和2年の法改正により厚生労働省、環境省、国土交通省の3省による資格となりました。
2023(令和5)年10月1日からは、建築物石綿含有建材調査者による事前調査が義務づけられます。
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石綿の健康被害について
1.過去多く使われた石綿
石綿(いしわた・せきめん)とは、アスベストなどとも言われます。繊維状にほぐれ、一見すると綿と間違えてしまいそうになりますが、鉱物です。石としての性質があるため、石綿を混ぜた製品は防火性が高くなるなど大きなメリットがあったため、数多くの工業製品などに使用されました。中でも、最も多く使用されたのは建築材料です。建物の防火性能を高めるためなのですから、非常に相性がよかったのです。
戦後の復興そして高度経済成長期には、全国で建築ラッシュになりました。石綿も使われました。石綿の使用は、徐々に使用が控えられながらも、2000年代の前半までは使われていました。石綿を備えた建物は今もなお残っています。
メリットの多い石綿ではありますが、使われなくなったことには理由があります。それはメリットを上回るほどのデメリットがあったからです。そのデメリットとは、健康被害です。
2.石綿を吸い込むことで起こる病気
石綿は、繊維状にほぐれ、1本の太さは0.1マイクロメートル程度(髪の毛の太さの約1000分の1の太さ)になります。当然目には見えません。これが呼吸とともに体内に入り、肺にも到達します。肺の中に残った石綿は、病気を引き起こしてしまうのです。石綿が原因となる病気としては、「石綿肺」、「肺がん」、「中皮腫」などがあります。これらの病気を発症するのは、10年後から50年後にもなります。
石綿に関しての裁判が報道されていますが、これは昔仕事で石綿を吸い込んだために病気を発症した責任の所在について、国や当時働いていた会社と争っているのです。
3.労災保険の件数
次の図は、10年間の石綿関連疾患での労災保険支給件数です。
毎年肺がん、中皮腫をあわせて約1000件の支給で推移しています。支給されている方は、1970年代から80年代に石綿と取り扱っていた方が発症されているのです。この傾向は、今後数十年は続くと考えられます。
2020年代以降で懸念されるのは、1990年代ごろに石綿を扱っていた人の発症、そして阪神大震災などで大量のガレキ撤去に携わられた方の発症も懸念されます。
過去に石綿作業に携わった方は、石綿に関する健康管理手帳をお持ちかと思います。無料で年2回の石綿健康診断を受診することができるので、ぜひとも利用してください。
石綿健康診断については、今回と別のお話。また別の機会に話しましょう。
忘れてはならないのが、これは決して過去の話ではないということです。石綿の取り扱い作業は、形を変え、今後も残り続けます。
昔は、石綿製品の製造や建築工事などで使用していました。現在は、過去に使用された石綿を除去し廃棄する仕事となっています。
石綿を吸い込む危険性は、同じです。石綿を吸い込むことで、将来病気にならないように、今十分な対策が必要になるのです。
2.石綿含有建材調査者が求められる背景
1.石綿の規制について
石綿の輸入や使用は、規制を受け、徐々に使用量を減らしていきます。しかし2000年前半までは、数を減らしながらも、使用されていました。
一方で、石綿による健康被害も社会問題となり、国などを相手取った裁判も増えてきました。このような背景もあり、2005(平成16)年に、石綿障害予防規則が制定されました。これにより0.1%含有した石綿の製造・譲渡・取扱いが禁止されました。実質的に石綿の取り扱いが禁止となりました。
これによって石綿の新規取り扱いはなくなりました。しかし石綿の取扱作業自体はなくなっていません。なぜなら、昔作られ、使われた石綿が数多く残っているからです。
2.除去作業で必要となる資格
今現在、石綿の取扱作業は、石綿の除去です。建材として使用された石綿は、建物の解体や改修作業時には、石綿を取り除く必要があります。除去作業でも、石綿を吸い込むおそれがあり、吸い込むことで健康を害するおそれがあることには変わりません。
石綿取扱い作業は、危険性が伴うため、資格を持った人しか作業ができません。
石綿取扱い作業の資格
〇石綿作業主任者
〇石綿作業従事者特別教育
そして、直接作業に関わるものではありませんが、建築物石綿含有建材調査者があります。
3.高まる調査者の重要性
今、建築物石綿含有建材調査者資格の需要は高くなっています。なぜなら、これから老朽化した建物を解体や改修するためには、石綿の調査が欠かせないからです。
2005年の禁止以前に建てられたS造(鉄骨造)、RC造(鉄筋コンクリート造)の建物だけでも、数百万棟が残っています。これらの解体は差し迫っています。石綿調査という仕事の需要があることがわかります。
これらの建物を解体・改修作業をする上で最も大事なことは、どこに、どのような石綿が使われているかを正しく把握することです。そのためには事前に調査が必要です。
そして一定規模以上の建築物の解体・改修作業では、工事着工前に所轄の労働基準監督署長に調査結果を報告しなければなりません。
事前調査と報告を行うのが、建築物石綿含有建材調査者です。
今後多くの建物の解体、改修に対応するため、国としては、常時アクティブな建築物石綿含有建材調査者が約12万人必要であると試算しています。
4.石綿則の法改正
令和2年の法改正では、石綿に関しての規制が強化されました。その一つが建築物石綿含有建材調査者に関してです。
建築物石綿含有建材調査者の資格は平成25年から国土交通省のもとで制度が開始しましたが、平成30年の法改正によって、国土交通省に加え、厚生労働省、環境省による三省による資格として新たにスタートすることになりました。
令和5年10月1日から、事前調査や報告は建築物石綿含有建材調査者が行うことが義務づけられることになります。
2 石綿含有建材調査者講習について
建築物石綿含有建材調査者は、解体や改修作業の前に、建物で使用されている石綿の種類と場所を特定することです。特定することによって、除去作業を行う人の健康被害を防止することになります。
また不動産価値の評価においても、石綿の有無は資産価値に影響します。この調査でも調査者が行います。
調査の流れは、一般に次の通りです。
1 書面調査(図面や設計図書などのスクリーニング)
2 目視調査(現地調査)
これらの内容を学び、資格を取得することが、建築物石綿含有建材調査者講習なのです。
1.一般、一戸建て等、特定の違い
建築物石綿含有建材調査者講習は3種類あります。
- 一般建築物石綿含有建材調査者
- 一戸建て等建築物石綿含有建材調査者
- 特定建築物石綿含有建材調査者
一般は、全ての建築物を調査することができます。
一戸建て等は、一戸建て住宅及び集合住宅の居住区画の調査ができます。
特定は、一般と同様全ての建築物を調査することができます。特定は実地講習なども含み、一般より高度な内容となっています。
現在は一般と特定では調査できる範囲に違いはありませんが、今後の法改正で区分されることが想定されます。ちなみに旧制度で資格を取得している方は、特定として扱われます。
2.安全教育センターでの講習について
安全教育センターでは、一般と一戸建て等の建築物石綿含有建材調査者講習を行っています。特定は実施しておりません。
開催場所は、宮城県など東北6県、北海道、東京、大阪、福岡などです。
主催として会場を用意するだけでなく、会社などに講師を派遣する出張講習も実施しています。
1.受講料
受講料は次の通りです。
講習名 |
受講料(テキスト代込・税込) |
一般 |
49,500円 |
一戸建て等 |
37,400円 |
2.受講資格
講習を受講するためには、一定の資格が必要となります。
資格は次の通りです。
|
学歴等 |
提出書類 |
1 |
労働安全衛生法別表第18条第23に掲げる「石綿作業主任者技能講習」を修了した者 |
修了証 |
2 |
学校教育法による大学(短期大学を除く)において、建築に関する正規の課程又はこれに相当する課程を、修めて卒業した後、建築に関して2年以上の実務を有する者 |
事業主証明 |
3 |
学校教育法による短期大学(修業年限が3年であるものに限り、同法による専門職大学の3年の前期課程を含む。)において、建築に関する正規の課程又はこれに相当する課程(夜間において授業を行うものを除く。)を修めて卒業した後(同法による専門職大学の前期課程にあっては、修了した後。(4)において同じ。)、建築に関して3年以上の実務の経験を有する者 |
事業主証明 |
4 |
学校教育法による短期大学(同法による専門職大学の前期課程を含む。)又は高等専門学校において、建築に関する正規の課程又はこれに相当する課程を修めて卒業した後、建築に関して4年以上の実務の経験を有する者((3)に該当する者を除く。) |
事業主証明 |
5 |
学校教育法による高等学校又は中等教育学校において、建築に関する正規の課程又はこれに相当する課程を修めて卒業した後、建築に関して7年以上の実務の経験を有する者 |
事業主証明 |
6 |
建築に関して11年以上の実務の経験を有する者 |
事業主証明 |
7 |
労働安全衛生法等の一部を改正する法律(平成17年法律第108号)による改正前の労働安全衛生法別表第18第22号に掲げる「特定化学物質等作業主任者技能講習」を修了した者で、建築物石綿含有建材調査に関して5年以上の実務の経験を有する者 |
事業主証明 |
8 |
建築行政に関して2年以上の実務経験を有する者 |
事業主証明 |
9 |
環境行政(石綿の飛散の防止に関するものに限る。)に関して2年以上の実務の経験を有する者 |
事業主証明 |
10 |
労働安全衛生法第93条第 1 項の産業安全専門官若しくは労働衛生専門官又は同項の産業安全専門官若しくは労働衛生専門官であった者 |
事業主証明 |
11 |
労働基準監督官として2年以上その職務に従事した経験を有する者 |
事業主証明 |
安全教育センターの講習では、石綿作業主任者を修了後、続けて調査者講習を申し込まれる方が多数です。
3.カリキュラム
一般建築物石綿含有建材調査者講習は2日間の予定です。
時 間 |
項 目 |
内 容 |
講習時間 |
1日目 |
9:30 |
~ |
9:40 |
開講挨拶・予定説明 |
|
|
9:40 |
~ |
10:40 |
建築物石綿含有建材調査に関する基礎知識1 |
労働安全衛生法その他関係法令、建築物と石綿、石綿関連疾患及び石綿濃度と健康
リスクに係る建築物石綿含有建材調査の基礎知識に関する事項 |
60分 |
10:40 |
~ |
10:50 |
休 憩 |
|
10:50 |
~ |
11:50 |
建築物石綿含有建材調査に関する基礎知識2 |
大気汚染防止法、建築基準法その他関係
法令、リスク・コミュニケーションその他の建築物石綿含有建材調査全般にわたる基礎知識に関する事項 |
60分 |
11:50 |
~ |
12:50 |
昼 食・休 憩 |
|
12:50 |
~ |
13:50 |
石綿含有建材の建築図面調査 |
建築一般、建築設備と防火材料、石綿含有建材、建築図面その他の建築物石綿含有建材調査を行う際に必要となる情報収集に関する事項 |
240分 |
13:50 |
~ |
14:00 |
休 憩 |
14:00 |
~ |
15:00 |
石綿含有建材の建築図面調査 |
15:00 |
~ |
15:10 |
休 憩 |
15:10 |
~ |
16:10 |
石綿含有建材の建築図面調査 |
16:10 |
~ |
16:20 |
休 憩 |
16:20 |
~ |
17:20 |
石綿含有建材の建築図面調査 |
【2日目】 |
時 間 |
項 目 |
内 容 |
講習時間 |
9:30 |
~ |
10:30 |
現場調査の実際と留意点 |
調査計画、事前準備、現地調査、試料採取、現地調査の記録方法、建材中の石綿分析その他の現地調査に関する事項 |
240分 |
10:30 |
~ |
10:40 |
休 憩 |
10:40 |
~ |
11:40 |
現場調査の実際と留意点 |
11:40 |
~ |
12:40 |
昼 食・休 憩 |
12:40 |
~ |
13:40 |
現場調査の実際と留意点 |
13:40 |
~ |
13:50 |
休 憩 |
13:50 |
~ |
14:50 |
現場調査の実際と留意点 |
14:50 |
~ |
15:00 |
休 憩 |
|
15:00 |
~ |
16:00 |
建築物石綿含有建材調査報告書の作成 |
調査票の記入、調査報告書の作成、所有者等への報告その他の建築物石綿含有建材調査報告書に関する事項 |
60分 |
16:00 |
~ |
16:10 |
休 憩 |
|
16:10 |
~ |
17:10 |
(修了考査) |
60分 |
一戸建は1日で実施します。
時 間 |
項 目 |
内 容 |
講習時間 |
9:30 |
~ |
9:40 |
開講挨拶・予定説明 |
|
|
9:40 |
~ |
10:40 |
建築物石綿含有建材調査に関する基礎知識1 |
労働安全衛生法その他関係法令、建築物と石綿、石綿関連疾患及び石綿濃度と健康リスクに係る建築物石綿含有建材調査の基礎知識に関する事項 |
60分 |
10:40 |
~ |
|
休 憩 |
|
10:45 |
~ |
11:45 |
建築物石綿含有建材調査に関する基礎知識2 |
大気汚染防止法、建築基準法その他関係法令、リスク・コミュニケーションその他の建築物石綿含有建材調査全般にわたる基礎知識に関する事項 |
60分 |
11:45 |
~ |
11:50 |
休 憩 |
|
11:50 |
~ |
12:50 |
一戸建て住宅等における石綿含有建材の調査 |
一戸建て住宅等の定義、種類、使用される石綿含有建材、電気・空調設備と防火材料その他の建築物石綿含有建材調査を行う際に必要となる情報収集に関する事項 |
60分 |
12:50 |
~ |
13:35 |
昼 食・休 憩 |
|
13:35 |
~ |
14:35 |
現場調査の実際と留意点 |
調査計画、事前準備、現地調査、現地調査の記録方法、建材中の石綿分析その他の現地調査に関する事項 |
180分 |
14:35 |
~ |
14:40 |
休 憩 |
14:40 |
~ |
15:40 |
現場調査の実際と留意点 |
15:40 |
~ |
15:45 |
休 憩 |
15:45 |
~ |
16:45 |
現場調査の実際と留意点 |
16:45 |
~ |
16:50 |
休 憩 |
|
16:50 |
~ |
17:50 |
建築物石綿含有建材調査報告書の作成 |
調査票の記入、調査報告書の作成、所有者等への報告その他の建築物石綿含有建材調査報告書に関する事項 |
60分 |
17:50 |
~ |
18:00 |
休 憩 |
|
18:00 |
~ |
19:00 |
(修了考査) |
60分 |
講習とは別日に修了試験を実施する機関も少なくないですが、安全教育センターでは講習後に実施しています。
かなりタイトなスケジュールとなっているため、しっかりと復習して臨んでください。
4.試験
資格を取得するためには、試験に合格しなければなりません。
試験の問題数は、一般が40問、一戸建て等が30問です。
60%以上の正解かつ各章で40%以上の正解で合格になります。
試験のレベルは、技能講習などより難しくなっています。
毎回約10%の方が不合格となっています。
仮に試験に不合格だった場合は、後日再試験を受け、合格すると修了証が発行されます。
合格のためには、講師が話した内容などをしっかり復習することが欠かせません。
試験後、約1週間以内に合否をお伝えし、修了証を送付します。
5.過去問の紹介
受講を考えておられる方が気になるのは、試験に合格できることではないかと思います。
安全教育センターでの試験は、次のような試験が出ますので紹介します。
6.スケジュール
調査者による調査が義務になるのは、令和5年10月からとなります。
そして今後、需要が高まる資格となります。
安全教育センターでは2023年1月の時点で、約1200人の方が受講され、資格を取得されており、高い実績を持っております。
スケジュールなどは下記よりご確認ください。
建築物石綿含有建材調査者講習
安全教育センターでは、東北6県(青森県、秋田県、岩手県、宮城県、山形県、福島県)だけでなく、北海道、東京都、大阪府、福岡県でも実施しております。
スケジュールにない日程でも、ご指定の会場に講師を派遣する出張講習も行っています。
特に東北などでは、実施している機関が限られていますので、受講のチャンスを逃さないようにしてもらえればと思います。
満席になることも少なくありません。もし資格取得をお考えでしたら、お早めにお申し込みください。
7.よくある質問
講習受講にあたって、よくお問い合わせがある質問をまとめております。
受講資格についての質問も多くいただいております。
まず、こちらをご確認いただき、それでも不明な場合にお問い合わせください。