法改正

化学物質に関する法改正についての解説1 情報伝達とリスクアセスメントについて

化学物質に関する法改正についての解説1 情報伝達とリスクアセスメントについて

2022年(令和4)年5月に化学物質管理についての法改正がありました。これは管理のあり方について、自律的な管理を目指すという、大きな転換点となるものです。
化学物質管理については、今回の法改正などを踏まえ、事業場ごとに調査と管理方法を検討し、実施することが求められます。
そして自律的管理が定着したあかつきには、特定化学物質障害予防規則や有機溶剤中毒予防規則などの特別規則を廃止することも検討されています。
化学物質は製造や取り扱い、譲渡提供など様々な形で使用されています。
これは業種や規模に関わらず、化学物質に接点のある事業場全てに関わることです。
今回は、昨年公布の法改正の内容について説明します。
これらは2023年4月1日にすでに施行になっているものもあります。また2024年4月1日から施行となるものあります。
この法改正に関わり、化学物質管理者と保護具着用管理者の選任が義務化されます。
これらについてはこちらのコラムを御覧ください。
目次
1 法改正のポイントは

2 情報伝達についての項目

1法改正のポイント

今回の法改正についてポイントをまとめていきましょう。
厚生労働省では、今回の法改正についての情報をまとめたページがありますので、詳細はこちらを御覧ください。
ポイントをまとめること次のようになります。
安衛則関係
  1. リスクアセスメント対象物質の製造、取り扱いまたは譲渡提供を行う事業場では、化学物質管理者を選任するなど、管理体制を強化
  2. 化学物質のSDS(安全データシート)の情報伝達の強化、拡充
  3. 事業者による化学物質の自律的な管理体制の整備(ばく露を最小限にする、皮膚や眼の保護具選択など)
  4. 衛生委員会での審議事項に化学物質関係も含み、管理状況に関する労使のモニタリング体制を強化
  5. 雇入れ時等の教育を全業種での実施に拡大
特別則関係(有機溶剤中毒予防規則、鉛中毒予防規則、四アルキル鉛中毒予防規則、特定化学物質障害予防規則、粉じん障害防止規則)
  1. 化学物質管理の水準が一定以上の事業場に対する個別規制の適用除外
  2. 作業環境測定結果が第三管理区分の事業場に対する作業環境の改善措置の強化
  3. 作業環境管理やばく露防止対策等が適切に実施されている場合のる特殊健康診断の実施頻度の緩和
特別則関係は、管理が適切に行われている場合の緩和についてですね。
これらに伴い細かい改正がありますが、大きく区分けすると次のようになります。
個別の条文の改正について、ポイントを見ていきましょう。

2 情報伝達についての項目について

情報伝達に関する項目は次のとおりです。

2.1 名称等の表示・通知をしなければならない化学物質の追加

(2024(令和6)年4月1日施行)
(法第 57 条、法第 57 条の 2、令別表第 9)
2023(令和5)年4月の段階で、リスクアセスメント対象物質(=SDS交付物質)は674種類です。
4月の法改正で908物質まで増加しています。しかしこれについて施行は2024(令和6)年4月1日ですので、リスクアセスメントが義務づけられるのは2024年4月からとなります。
今後は段階的に対象物質を増やし、最終的には2026(令和8)年に約2900物質になる予定です。
かなりの種類を増やしていきますが、現在国内で使用されている化学物質は約7~8万種類といわれていますので、まだ氷山の一角と言えます。
自律的管理のポイントは、SDSが交付されていない物質についてもリスクアセスメントを行うことが求められます。努力義務という形になるのですが、未知の物質を取り合うので、慎重さが求められることには違いありません。

2.2 SDS等による通知方法の柔軟化

(2022(令和4)年5月31日施行)

(安衛則第 24 条の 15 第 1 項、同第 24 条の 15第 2 項、同第 34 条の 2 の 3、同第 34 条の 2 の 5 第 3 項)
従来は、SDS等をユーザーに伝える方法は、次のように限られていました。
・文書(印刷物)
・メディアやFAXなど相手方が承諾した方法
昨今の情報伝達ツールが多様化していることもあり、ネットから参照してもらう方法もできるようになりました。例えば次のような方法も可能です。
これらの情報伝達手段への変更は、ユーザーの同意は必要ありません。
・自社HPのアドレス
・二次元バーコード
今後はラベルに二次元バーコードを記載し、そこからSDS情報にアクセスするなども増えてくるのではないでしょうか。

2.3 「人体に及ぼす作用」の定期確認及び更新

(2023(令和5)年4月1日施行)
(安衛則第 24 条の 15 第 2 項、同第 34 条の 2 の 5 第 2 項)
化学物質の有害性なども情報が更新されます。更新した情報がSDSにも反映されていなければ、適切な対策が取れません。
今後は5年以内ごとに、記載内容に見直しがあるかの確認が義務付けられます。
もし変更があった場合は、確認後1年以内にSDSの内容を更新しなければなりません。
そして変更があった場合は、SDSの通知先にも変更について伝えなければなりません。
なお、現在SDS交付が努力義務となっている安衛則第24条の15の特定危険有害化学物質等も同様の措置が求められます。ただしこちらも努力義務となります。

2.4 通知事項の追加及び含有量表示の適正化

(2024(令和6)年4月1日施行)
(安衛則第 34 条の 2 の 6)
SDSの通知事項に新たに「想定される用途及び当該用途における使用上の注意」が追加されます。この想定される用途での使用において、吸入または皮膚や眼との接触について、適切な保護具も記載しなければなりません。
SDSによる含有率表示も変わります。
従来は、物質の含有率を10%刻みで表示していました。これでは幅が大きすぎます。
今後は、重量パーセントでの表示となります。そのためより正確な数字を把握することができます。

2.5 事業場内別容器保管時の措置の強化

(2023(令和5)年4月1日施行)
(安衛則第 33 条の 2)
現場での対応に関わることなので、作業者にしっかり伝えなければならないことです。
購入した容器にはラベルがあります。しかし小分けなどすると、何が入っているのか分からなくなります。
こんな事例があります。ペットボトルにシンナーを入れて使用していたところ、誤飲したというものです。ありえないと思うかもしれませんが、実際に発生した事例です。
このような事故を防ぐため、他の容器に移し替えたときは、その容器にも「名称」と「人体への有害性」について表示しなければなりません。
別容器用のラベルを作成し、貼り付ける方法もありますが、それ以外にも、次の方法も可能です。
  • 使用場所への掲示
  • 必要事項を記載した一覧表の備え付け
  • 内容を常時確認できる機器の設置
  • 作業手順書や作業指示書に記載
いずれの方法でも、使用する作業者がわかるようにする必要があります。

2.6 注文者が必要な措置を講じなければならない設備の範囲の拡大

(2023(令和5)年4月1日施行)
(令第 9 条の 3 第 2 号)
注文者とは、別の事業者に仕事の一部を請け負わせる(外注する)者をいいます。
注文者の責務としては、設備などを使用させる場合、請負人の労働者が労働災害にあわないようにしなければなりません。
化学物資に関しては、製造、取り扱い設備の改造、修理、清掃等の仕事の注文者は、次のことを文書で通知します。
  • 化学物質の有害性等の情報
  • 作業時の注意事項
  • 安全確保のための措置
請負者の労働者が安全に作業ができるようにすることが求められます。
今回の法改正では、対象設備の範囲が拡大しました。SDS等による通知の義務対象物の製造・取扱設備も対象となります。

3 リスクアセスメント関係

 3.1ばく露を最小限度にすること

(2023(令和5)年4月1日施行)
(安衛則第 577 条の 2 第 1 項、同第 577 条の 3)

ばく露を濃度基準値以下にすること

(2024(令和6)年4月1日施行)
(安衛則第 577 条の 2 第 2 項)
有害性のある物質についての対策です。原則として、ばく露を最小にすることが必要です。
リスクアセスメントでは、次の方法で対策を検討します。
  1. 代替物等の変更
  2. 工学的対策(密閉化、局所排気装置、全体換気装置等の設置)
  3. 管理的対策(作業の方法の改善等)
  4. 有効な保護具の使用(呼吸用保護具、皮膚接触防護など)
厚生労働省は今後、物質ごとにばく露の管理基準値を示していきます。労働者の呼吸域などの有害物濃度が基準値以下にするように環境改善などが必要になります。
実際のばく露濃度の確認は、個人ばく露測定などで測定する必要があります。
今後、国もばく露濃度基準値を約800種類示していく方針です。

3.2ばく露低減措置等の意見聴取、記録作成・保存、周知

(2023(令和5)年4月1日施行)

(安衛則第 577 条の 2 第 2 項、第 4 項)
リスクアセスメントを行った後には記録を残さなければなりませんが、対策を現場で実施した後についても記録が義務づけられます。
ばく露低減措置について、労働者から意見を聞き、それを記録、保存、周知しなけれればなりません。
記録したものは3年間保存です。ただしがん原性物質については、30年間保存しなければなりません。

3.3皮膚等障害化学物質への直接接触の防止(努力義務)

(2023(令和5)年4月1日施行)
(安衛則第 594 条の 2)

皮膚等障害化学物質への直接接触の防止(義務)

(2024(令和6)年4月1日施行)
(安衛則第 594 条の 2)
今回の法改正では、蒸気やガスなどの呼吸器からのばく露だけでなく、眼や皮膚などからのばく露についても対策を強化しています。
皮膚等への直接接触防止の義務化は2段階に別れています。
皮膚等への障害が明らかな物質については、努力義務の期間を1年間おいて、義務化にしていきます。
皮膚等への障害を防止するためには、保護眼鏡、不浸透性の化学防護衣、化学防護手袋、履物等の保護具を選択します。有害物の種類に適応したものを選ぶ必要があります。

3.4リスクアセスメント結果等に係る記録の作成保存

(2023(令和5)年4月1日施行)

(安衛則第 34 条の 2 の 8)
リスクアセスメントの結果と、結果に基づき事業者が講ずる労働者の健康障害を防止するための措置について記録を作成し保存します。
記録は次のリスクアセスメントを行うまでの間は保存しなければなりません。

3.5リスクアセスメントの実施時期

(2023(令和5)年4月1日施行)

(安衛則第 34 条の 2 の 7 第 1 項)
実施の時期については、このように定めています。
  1. 対象物を原材料などとして新規に採用したり、変更したりするとき
  2. 対象物を製造し、または取り扱う業務の作業の方法や作業手順を新規に採用したり変更したりするとき
  3. 前の2つに掲げるもののほか、対象物による危険性または有害性などについて変化が生じたり、生じるおそれがあったりするとき
またSDSの通知内容に変更があった場合なども、リスクアセスメントを行います。

3.6リスクアセスメントの方法

(2023(令和5)年4月1日施行)

(安衛則第 34 条の 2 の 7 第 2 項)
化学物質のリスクアセスメントは、火災爆発などの危険性についてと健康障害に関する有害性について行います。
危険性のリスクアセスメントは、安全に関して行われているものと同様です。しかし健康障害については、「有害性」と「ばく露量」から見積もりをしなければなりません。
ばく露量の見積もりは専門知識を要します。
一番確実な方法は、実測すること、つまり作業環境測定であることには違いありません。
作業環境測定が義務づけられている作業場では、測定結果を使用することができます。
または計算により推定値を出す方法もあります。
この代表が、厚生労働省が無料提供しているコントロール・バンディングやCREATE-SIMPLEなどがあります。
リスクアセスメントの方法については、また別のお話の機会に書きましょう。

3.7化学物質労災発生事業場等への労働基準監督署長による指示

(2024(令和6)年4月1日施行)

(安衛則第 34 条の 2 の 10)
化学物質に関する労働災害が発生するおそれがある事業場に対して、労働基準監督署は改善指示などを行います。
  1. 労働基準監督署長が、労働災害の発生又はそのおそれのある事業場に対して、化学物質の管理が適切に行われていない疑いがあると判断した場合は、その事業場に対して改善の指示
  2. 指示を受けた事業場は、化学物質管理専門家に改善のための助言を求める
  3. 化学物質管理専門家は、事業場に対して、改善についての助言を文書などで通知する
  4. 事業場は、化学物質管理専門家の助言も取り入れた改善計画書を作成し、労働基準監督署長に提出する
  5. 事業場は、改善計画に従って改善措置を行う
最終的に労働基準監督署長に改善が認められることで、一連の措置は完了します。
しかし元に戻っては意味がないので、継続することが必要です。
助言を求める化学物質管理専門家は、事業場の化学物質管理者ではありません。
より専門的な知識を持つ人のことです。
具体的には、次のような資格や経験を持つ人です。
・労働衛生コンサルタント(衛生工学)として5年以上の経験
・衛生工学衛生管理者として8年以上の実務経験
・作業環境測定士として8年以上の実務経験
・その他上記と同等以上の知識や経験を有するもの(オキュペイショナル・ハイジニストなど)
続いて、事業場での化学物質管理体制などについてですが、続きはその2で書いていきます。