○コラム

安全衛生経費とは | 適切に確保するための手順を解説

安全衛生経費とは、建設業などで労働災害を防止するために使用される費用のことです。
 
しかし、安全衛生経費は具体的に「何に使用する」と決められているわけではないため、曖昧になりやすい経費でもあります。
 
実際に、建設業では請負金額に含まれる場合が多いですが、低価格での受注を目指して削られることも少なくありません。また、元請負人に対して下請負人が適正な費用請求できない場合もあります。安全衛生経費は建設業で細かく決めることが求められているものの、現状は適切に請求できていないことも珍しくないです。
 
そこで、この記事では安全衛生経費とは何か、例を交えてわかりやすく解説します。経費を削減して下請けが立ち行かなくなると、元請けにも影響があるため、どちらの事業者もぜひ最後まで読んで安全衛生経費の重要性を理解していただけますと幸いです。

 

安全衛生経費とは?

安全衛生経費とは、主に建設業などで労働災害を防止するためにかかる費用のことです。建設業法第19条の3に規定する「通常必要と認められる原価」に含まれる重要な経費の1つとされています。
 
文字通り、現場の安全衛生を確保するために使用される経費で、足場や手すりを設置する仮設費、安全靴をはじめハーネスやヘルメットの購入費、安全に対する技術や知識を学ぶ教育訓練の費用、定期的な健康診断の費用として使用されます。
 
具体的に何に使用するかは決められていませんが、総じて現場の安全を守るための経費と認識しておきましょう。
 

安全衛生経費の確保が求められる背景

安全衛生経費の確保が求められている背景には、定期的に発生する労働災害が関係しています。
 
厚生労働省が発表した「令和5年の労働災害発生状況」では、建設業の死亡災害は223人で、全産業中の約30%を占めています。休業4日以上の死傷災害は14,414人となり、これは全産業中の約10%となります。特に死亡災害の割合が高いことがわかります。
 
現場での死傷者数は年々少なくなってきていると言われていますが、それでも数千人~数万人単位で現場で働く人たちが負傷しています。安全衛生経費は、事故や災害を防ぐために欠かすことができないのです。
 
参照)厚生労働省:令和5年 労働災害発生状況

 

安全衛生経費の例

安全衛生経費は建設業の場合、管理費に含まれます。ここからは、安全衛生経費の例について詳しく解説します。
 
なお、安全衛生経費は直接工事費と間接工事費に分けて考えられるため、区別して考えましょう。
 

直接工事費

直接工事費は、現場での施工で必要な安全設備に対する費用です。
 
例を挙げると、足場や支保工、作業構台などの仮設設備などが挙げられます。
 
建設業では足場や支保工、作業構台など安全に作業するための仮設設備がなければ、作業ができません。費用を削減したいからと足場や支保工、作業構台をきちんと作らないと事故の原因となるばかりでなく、事業者の責任問題となります。時折、本足場を組むべきところを、一側足場にする、または中さんを省くなどが見られますが、安全な作業に配慮するならば、適切な設備のための費用を惜しむのは問題です。
 

間接工事費

間接工事費は、共通仮設費と現場管理費に分けて考えるとわかりやすいでしょう。
 
共通仮設費は、交通規制のためのバリケードの設置や安全管理のための人員の確保、安全靴や墜落制止用器具やヘルメットなどの保護具を用意するための経費です。また、高所作業車の準備、消火器消化器の配備などの仮設費も共通仮設費に含まれます。
 
一方、現場管理費は、健康診断や特別教育、救護訓練や避難訓練にかかる費用が典型例となっています。現場の安全を守るためには、単に保護具で身を固めるだけでは不十分です。装備だけでなく、普段の意識を変える必要があるからこそ、現場管理費も欠かせない項目と言えるでしょう。

 

労働災害防止対策の義務を負うのは?

建築業での労働災害防止対策の義務は、事業者にあります。これは元請だけではなく、下請けを含むすべての事業者が対象です。
 
元請・下請に関係なくすべての事業者が労働災害防止対策の義務を負っているという認識が重要です。労働者自身が現場で気を付けるのは言うまでもありませんが、事業者が労働者に対して安全衛生を徹底し、現場の安全を確保することが欠かせません。これは、労働者を守るだけでなく、事業者を守ることにも繋がります。
 
労働災害では怪我だけでなく、死亡する例も後を絶たないため、労働者と事業者が明確な安全意識を持って仕事に取り組むことが重要と言えるでしょう。
 
厚生労働省も安全経費確保のためのガイドブックを出していますので、こちらも参考にしてください。
 
▶︎安全経費確保のためのガイドブック

 

安全衛生経費を適切に確保するための手順

安全衛生経費は、手順を踏まえて適切に確保することが重要です。ここからは、安全衛生経費を適切に確保するための手段について詳しく解説します。
 

元請業者による見積条件の提示

元請業者は見積条件を提示する際、具体的な工事内容だけでなく労働災害防止対策の実施者や負担者の区分、内容を明確化しましょう。
 
安全衛生経費は具体的に何にいくら使用するのかと決められているわけではないため、厳密な見積もりが困難な場合があります。しかし、事前に見積条件を提示しておけば、後からずれが生じることもありません。まずは見積条件を確認した上で、安全衛生経費がどれくらい必要なのかを計算するのが望ましいです。
 

下請業者による労働災害防止対策に要する経費の明示

下請業者は安全衛生経費の項目と費用の根拠を明確にした上で、正確に見積もってから見積書に明示します。
 
労働災害防止対策に要する経費をあらかじめ明示しておくことで、どれくらいの予算が必要なのかあらかじめ試算可能です。
 
ただし、見積もりの際は具体的な根拠が必要です。例えば、現場で使用する安全靴や墜落制止用器具、ヘルメットは、他の工事でも共用するものです。特別に必要な場合は、今回の工事において、どのような作業時に必要なのかを明記することで、経費としての理解を得られるでしょう。例えば、今回は法面での作業があるため、ロープ高所作業用具が必要などの主張であれば、納得してもらえるのではないでしょうか。
 

対等な立場での契約交渉

契約の際は、元請業者と下請業者は、両者が対等な立場でなければなりません。
 
工事請負契約については「建設業法第18条」に以下のような条文が記載されています。
 
“建設工事の請負契約の当事者は、各々の対等な立場における合意に基いて公正な契約を締結し、信義に従つて誠実にこれを履行しなければならない。”
 
以上の通り、建設業は対等な立場における合意の下で契約を締結するべきとされるため、仕事を請ける立場であっても、必要となる経費はしっかりと主張することが望まれます。安全経費を削って仕事をした結果、事故を起こす方が、大きな迷惑をかけることになります。
 

契約書面にて明確化

契約締結時には、書面で明確化しましょう。
 
契約書面へ安全衛生経費の実施者・負担者・内容を明示し、書面で両者が保管するのが一般的です。電子契約も増えてきましたが、信頼のあるサービスを利用するなどが求められます。
 
普段、電話やメールでやり取りする場合でも、契約関連は書面で行いましょう。
 

請負代金の適切な支払い対応

請負代金はあらかじめ契約書に明示しているものが基本で、明記されていないものを後から差し引いたりしてはいけません。公平な取引のためにも、真摯な対応が重要です。
 
安全衛生経費は現場に必要なものではあるものの、境界線がはっきりとしていない費用であるため、曖昧になりやすいです。しかし、だからこそ契約時には明確に話し合い、対等な立場で決めることが必要と言えます。

 

まとめ

安全衛生経費は、現場の安全を守るために使用される費用です。建設業では、毎年現場で死傷者・死亡者が発生しています。
 
これらの労働災害は不測の事態もあるため、必ずしも避けられるとは限りません。しかし、安全衛生を怠ったことで労働者が怪我をしたり死亡したりした場合は、事業者の責任となります。命を落としてしまった場合、不運の出来事では片付けられない事態となるのは確実です。
 
だからこそ、安全衛生経費は削るのではなく、働く人のために使用することを第一に考えなければなりません。そのためには、労働者だけでなく事業者も安全衛生に対する意識改革が必要となるでしょう。
 
現場の安全のためには、安全パトロールや現場での安全教育も経費として盛り込んでください。これらは直接、事故を防ぐものではないかもしれませんが、作業員の安全意識を向上させるために重要です。
 
安全教育センターでは、現場の安全向上のためのパトロールや教育を行っています。事故が発生した後に再発防止のために教育などをされることもありますが、転ばぬ先の杖として、教育などもご検討ください。
 
パトロールや教育についてのご質問は、お問い合わせフォームから、ご連絡ください。