法改正衛生管理

金属アーク溶接作業主任者限定技能講習 役割と講習内容について

溶接ヒューム

マスクフィットテスト 対象者

金属アーク溶接等作業については、近年大きく法令が変わってきています。

令和4年4月1日から、金属アーク溶接作業時には特定化学物質作業主任者を選任することが義務付けられたため、技能講習を受講したという人も多いのではないでしょうか。

金属アーク溶接等作業時に選任する作業主任者について、令和6年1月1日からは金属アーク溶接等作業主任者が新設されました。 特定化学物質作業主任者技能講習を修了したのに、また金属アーク溶接等作業主任者の講習も受ける必要があるのかなど、疑問に思われる方もいるのではと思います。

今回は、金属アーク溶接作業主任者限定技能講習について、特定化学物質作業主任者技能講習との違いなども含めて説明していきます。 また、安全教育センターでも金属アーク溶接作業主任者限定技能講習を実施してきます。

受講を検討されている方は、実施スケジュールをご確認ください。

目次

  1. 金属アーク溶接の健康への影響
  2. 金属アーク溶接作業主任者を選任する作業場
  3. 特定化学物質作業主任者及び四アルキル鉛作業主任者技能講習との違い
  4. 金属アーク溶接作業主任者の役割と職務内容
  5. その他の金属アーク溶接作業の資格と規制について
    1. アーク溶接等特別教育との違い
  6. 金属アーク溶接等作業主任者限定技能講習の内容
  7.  安全教育センターでの講習
    1. 受講料
    2. 開催エリア
    3. カリキュラム例
    4. 修了試験について
    5. 実施スケジュール

1.金属アーク溶接等作業の健康への影響

金属アーク溶接等作業とは、次の作業をいいます。
  1. アークを熱源とした金属をアーク溶接する作業
  2. アークを用いて溶断、またはガウジングする作業
  3. その他の溶接ヒュームを製造し、または取り扱う作業
いずれの金属アーク作業等においても、溶接ヒュームが発生します。これは蒸発した金属であり、空気中で冷却されると固体に戻ります。固体に戻るものの、微粒子として空気中に漂うことになります。 この微粒子を吸入することで、人体には悪影響が現れます。 溶接ヒュームの有害性の主なものとして、次のものがあります。
  1. 皮膚や粘膜に接することによる急性症状(作業後に高熱を発する金属ヒューム熱)
  2. 粉じんを吸い込むことによる溶接工肺(じん肺)
  3. 発がん(肺がん、腎がん、膀胱がん)
  4. マンガンによる神経障害(パーキンソン症候群など)
これらは溶接作業時に発せられる熱や有害光線にさらされ、溶接ヒュームを吸入することで発症します。発がん性やマンガンによる神経障害など、人体に深刻な症状をもたらすこともあり、令和2年の法改正により、溶接ヒュームは特定化学物質に分類されることになりました。

2.金属アーク溶接作業主任者を選任する作業場

溶接ヒュームが特定化学物質に分類されたことにより、管理方法が大きく変わりました。
特に大きな変更点としては、特定化学物質作業主任者及び四アルキル鉛等作業主任者技能講習を修了した者から、作業主任者を選任するというものです。(令和3年4月から義務化)
作業主任者の選任は、屋内、屋外問わず選任しなければなりません。作業主任者は作業の指揮、監督を行います。建設業などでは1人で溶接作業を行うことも少なくありません。そのような場合は、作業者本人が作業主任者になることが求められます。

3.特定化学物質作業主任者及び四アルキル鉛作業主任者技能講習との違い

作業主任者を選任することが義務付けられたことにより、金属アーク溶接等作業を従事されている方が技能講習を受講されてきました。

安全教育センターでも多くの方に受講いただきましたが、その際「溶接についての話はほんの少ししかない。」「内容が難しい。」などの声も多数聞かれました。講習の内容と受講者にギャップが生じていたことは否めません。

より金属アーク溶接作業にフォーカスした内容の必要性もあり、令和6年1月1日から、金属アーク溶接作業主任者限定技能講習が設けられることになりました。

今後は、金属アーク溶接作業主任者限定技能講習を修了した者から、作業主任者を選任することになります。なお、すでに特定化学物質作業主任者及び四アルキル鉛作業主任者技能講習を修了している方は、新たに金属アーク溶接作業主任者限定技能講習を終了する必要はありません。

金属アーク溶接等作業主任者限定技能講習と特定化学物質作業主任者等技能講習の大きな違いは、講習時間にあります。

特定化学物質作業主任者は2日間ですが、金属アーク溶接は1日です。

また講習内容も溶接に関するものを中心としています。

ただし限定とついていますので、金属アーク溶接以外の特定化学物質は対象外です。仮に他の特定化学物質を取り扱う作業場で作業主任者として選任される必要が出てきた場合は、特定化学物質作業主任者技能講習を受けなければなりません。


4.金属アーク溶接作業主任者の役割と職務内容

金属アーク溶接作業主任者は、金属アーク溶接作業場で選任が必要となります。 職務は次のとおりです。
  1. 金属アーク溶接等作業に従事する作業者が溶接ヒュームにより汚染され、またはこれらを吸入しないように、作業の方法を決定し、作業者を指揮すること
  2. 全体換気装置その他作業者が健康障害を受けることを予防するための装置を1ヶ月を超えない期間ごとに点検すること
  3. 保護具の使用状況を監視すること
作業主任者を選任した場合は、氏名と職務を掲示することが必要です。今後は金属アーク溶接等作業場にも掲示を忘れないようにしてください。

5.その他の金属アーク溶接作業の資格と規制について

法改正により作業主任者を選任することが必要になるなど、金属アーク溶接等作業では、近年規制が厳しくなってきました。

作業主任者の選任等特化則での規定以外でも、義務付けられていることがあるので、以下にまとめます。

  1. 作業を従事者は、金属アーク溶接等特別教育を修了する
  2. 屋内、屋外問わず防じんマスクを使用する
  3. 屋内で常時作業する場合は、個人サンプリングによる作業環境測定を行う。
  4. 作業環境測定の結果に基づき要求防護係数を求め、これを呼吸用保護具の指定防護係数と比較して、選定する
  5. 選定した呼吸用保護具について、1年以内に1回フィットテストを実施する

3~5の項目は屋内で、常時金属アーク溶接に従事する際に必要となる事項です。非常に厳しい規制になっていることがわかります。

5.1 金属アーク溶接等特別教育との違いは

さて、上記に書いた通り、金属アーク溶接の資格には特別教育があります。この特別教育と限定技能講習の違いは何かを説明します。

この2つについて、法改正の際に厚生労働省に寄せられた質問にありました。その質問と回答を紹介します。

「「労働安全衛生規則等の一部を改正する省令(案)及び化学物質関係作業主任者技能講習規程の一部を改正する件(案)について(概要)に関する意見募集について」に対して寄せられた御意見等について」(令和5年4月3日 厚生労働省労働基準局安全衛生部 化学物質対策課環境改善室)

この中の質疑6に、特別教育との区別について質問されています。以下引用です。

質問

既に溶接業務に従事しているもの、アーク溶接の特別教育を受講しているものについては、講習内容が重複することが考えられるため、講習内容を精査し条件を満たすものについては、時間短縮または免除することが妥当と考える。

回答

金属アーク溶接等作業主任者限定技能講習は、金属アーク溶接等作業の指揮や設備等の管理等を行うことを職務とする金属アーク溶接等作業主任者の選任のための講習であり、アーク溶接等に係る特別教育は、アーク溶接等作業を安全に実施するための教育であり、趣旨が異なり、内容に重複はないため、それぞれ技能講習又は特別教育を受ける必要があります。

また質疑2には次のような質問があります。

【技能講習の名称について】
・ アーク溶接に限定した作業主任者技能講習を実施することについては、賛成だが、当該講習修了者が、プレス作業主任者とプレス金型特別教育のように、アーク溶接等特別教育の「上位互換」であるかのような誤解を与えないように名称等の工夫(例えば、金属アーク溶接による健康障害防止作業主任者など)をお願いしたい。(以下略)

回答

名称については、特定化学物質及び四アルキル鉛等作業主任者技能講習(以下「特化物技能講習」という。)に包含される技能講習であるため、「限定技能講習」という名称とすることで、既存の特化物技能講習と区分けしているところです。

これの質疑から、両者は全く別物であるといえます。限定技能講習は特別教育の上位資格ではありません。

特別教育だけを修了した人は、作業主任者になることはできません。また金属アーク溶接等作業主任者限定技能講習のみを修了した人は、作業することができません。

一人で作業しつつ、作業主任者も兼任する方は、特別教育と限定技能講習の両方を修了しなければなりません。


6.金属アーク溶接等作業主任者限定技能講習の内容

金属アーク溶接等作業主任者限定技能講習のカリキュラムは次のとおりです。
講習科目 範囲 講習時間
健康障害及びその予防措置に課する知識 溶接ヒュームによる健康障害の病理、症状、予防方法及び応急措置 1時間
作業環境の改善方法に関する知識 溶接ヒュームの性質 金属アーク溶接等作業に係る器具その他の設備の管理、作業環境の評価及び改善の方法 2時間
保護具に関する知識 金属アーク溶接等作業に係る保護具の種類、性能、使用方法及び管理 2時間
関係法令 労働安全衛生法その他の法令 1時間
合計6時間の講習を受けた後、修了試験があります。 カリキュラム自体は、特定化学物質作業主任者技能講習と同様ですが、内容(範囲)が異なっています。

7.安全教育センターでの講習

安全教育センターでは、金属アーク溶接等作業主任者限定技能講習を主催と出張講習で実施しております。 出張講習とは、お客様の指定の会場に講師を派遣するものです。ただし出張講習は、都県労働局長の認可を受けている都道府県に限ります。詳しくは7.2をご覧ください。 いずれの場合も、修了試験合格者には修了証を発行しております。

7.1受講料

受講料は、一人あたり次の通りです。

12,430円(税込)

受講料にはテキスト代が込となります。

7.2 開催エリア

以下の都道府県にて、主催及び出張講習を実施しております。

宮城県

※北海道、岩手県、福島県、東京都は申請中ですので、随時追加していきます。

7.3カリキュラム例

標準的なカリキュラム例です。開催場所などにより、開始時間が異なります。 実際のスケジュールをご確認ください。 また学科が前後することもあります。

時間 講習科目 講習時間(分)
9:30-9:40 開講挨拶・予定説明 10
9:40-10:40 健康障害及びその予防措置に関する知識 60
10:40-10:50 休 憩 10
10:50-11:50 作業環境の改善方法に関する知識 60
11:50-12:50 昼 食・休 憩 60
12:50-13:50 作業環境の改善方法に関する知識 60
13:50-14:00 休 憩 10
14:00-15:00 保護具に関する知識 60
15:00-15:10 休 憩 10
15:10-16:10 保護具に関する知識 60
16:10-16:20 休 憩 10
16:20-17:20 関係法令 60
17:20-17:30 休 憩 10
17:30-18:30 修了試験 (60)
    360

7.4 修了試験について

修了試験は、学科講習修了後にすぐに実施します。

修了試験に合格して、初めて修了証を手にして、作業主任者に選任されるようになります。 試験の時間は1時間です。

7.5 実施スケジュール

主催での実施スケジュールは、こちらから御覧ください 出張講習の場合は、お問い合わせからご連絡ください。