○安衛法と仲良くなる

安全配慮義務とは | 適用範囲・罰則・対策について解説

安全配慮義務とは、事業者が労働者の安全と健康を守るために配慮すべき義務のことです。
 
建設業をはじめとする現場仕事では、毎年死傷者が発生しており、労働災害による被災者も後を絶ちません。労働災害が発生した時、事業者は労働安全衛生法などの法令遵守を問われます。仮に法令違反がなかったとしても、安全配慮を果たしていたかの責任も問われます。
 
そこで、この記事では安全配慮義務とは何か、適用範囲、労働契約法に違反した場合の罰則、違反とならないための対策について詳しく解説します。
 
安全配慮義務について知りたい方はぜひ最後までご覧ください。

 

安全配慮義務とは?

安全配慮義務とは、現場の安全と健康を守るために配慮すべき義務のことです。安全配慮は義務とされており、労働契約法や労働衛生安全法で次のように定められています。
 
■労働契約法における安全配慮義務
「第5条:使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」
出展:「労働契約法」労働者の安全への配慮 第5条

 
■労働安全衛生法における安全配慮義務
「第3条:事業者は、単にこの法律で定める労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない。また、事業者は、国が実施する労働災害の防止に関する施策に協力するようにしなければならない。」
出展:「労働安全衛生法」 第3条1項

 
具体的には、労働者が安全かつ健康に働けるよう事業者が次のことを行わなくてはなりません。
・現場など職場環境の整備
・事故防止策や労働災害防止策の実施
・心身の不調に対する対策の実施

 
事業者は労働者の安全と健康を守るために、上記の点に気を付けなければなりません。仮に安全配慮を怠り、労働者が怪我をした場合は事業者の責任を問われます。だからこそ、事業者は労働者が安全かつ健康に働ける環境を整備しなければなりません。

 
当然ながら、長時間労働による疾患やパワーハラスメント・セクシャルハラスメントによるメンタルヘルスを引き起こすような現場は安全配慮義務が徹底されていない現場と認識されてしまいます。肉体的な病気はもちろん、精神的な病気も安全配慮義務の範囲内となるため、十分な注意が必要となるでしょう。

 

安全配慮義務の適用範囲

安全配慮義務は、企業と直接雇用関係がない派遣社員や下請け企業の従業員にも及びます。海外に赴任や出張している従業員についても、安全配慮義務が適用されるため、注意が必要です。
 
安全配慮義務は労働契約法や労働安全衛生法の法令に違反がなくとも、場合によっては安全配慮義務違反を問われることがあるため十分に注意しましょう。
 
適用範囲と聞くとわかりづらいですが、要するに現場で働く労働者と現場を取り仕切る事業者のすべてに安全配慮義務があるという認識です。法律によっては具体的な罰則が明記されていないものもありますが、一部の法律では安全配慮義務に対して違反が明記されているものもあるため、全員が安全に配慮すべきと言えます。
 
状況によっては労働時間・休憩時間・休日などの福利厚生を適正にすること、健康診断やストレスチェックを実施して健康管理すること、体調を考慮した人材配置を行うこと、怪我をした際に適切に治療を行うことなどが求められます。安全配慮義務の適用範囲は具体的に決められているわけではありませんが、人だけでなく周辺の環境も含めて考える必要があるため、注意が必要です。

 

安全配慮義務違反の事例

安全配慮義務違反の事例として、陸上自衛隊の判例を見ていきましょう。
 
陸上自衛隊(自衛隊八戸車両整備工場事件)の判例
 
上記の判例は昭和50年2月25日の判例で、概要は「陸上自衛隊員が自衛隊内の車両整備工場で車両整備中、後退してきたトラックにひかれて死亡したもので、国の公務員に対する安全配慮義務を認定した」というものです。実際に、判決では「国が公務遂行のために設置すべき場所、施設もしくは器具等の設置管理又は公務員が国もしくは上司の指示のもとに遂行する公務の管理に当たって、公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務を負っているものと理解すべきである」としています。
 
他にも、安全配慮義務違反の判例としては平成3年11月28日の「日立製作所武藤工場事件」や、平成12年9月7日の「みちのく銀行事件」などが挙げられます。これらの事件でも、安全配慮義務違反を怠った事例が見られるため、事業者・労働者ともに参考にするのが賢明です。
 
安全配慮義務に違反した場合、具体的な罰則はなくとも損害賠償請求が発生する可能性があるため、十分に注意が必要となるでしょう。

 

安全配慮義務違反とならないための対策

安全配慮義務違反とならないためには、あらかじめ対策を打つことが重要です。中でも、法令+αで「安全についてどれだけ配慮を尽くしていたか」、また「安全配慮の内容を記録に残していてきちんと証明できるか」がポイントとなるでしょう。ここからは、そんな安全配慮義務違反とならないための対策について詳しく解説します。

 

労働環境の評価と改善

安全配慮義務違反を回避するには、定期的に労働環境を評価し、危険要因を特定することが重要です。
 
評価結果に基づき、設備の改修、危険物の適切な管理、労働者の意見を反映させるなど、必要な改善を行うことで安全配慮義務違反を避けられます。
 
例えば、現場で問題が発生した場合、当事者に指導をすることはもちろん、現場の環境を改善することで問題を根底から解決することが重要です。ただし、起こった事象にただ対応するだけでなく、なぜ安全配慮義務違反が発生したのかを徹底して洗い出すことで再発防止が可能となります。
 
まずは労働環境がどのようになっているのか、どのように直していくのかを考えましょう。

 

教育・訓練の提供

安全配慮義務違反を回避するには、教育や訓練の提供も欠かせません。
 
業務中の危険や安全対策について労働者に適切な教育と訓練を行うことで、事業者は十分に安全配慮ができていると判断されます。しかし、何も教育や訓練を行っていなかった場合、労働者よりも事業者が安全配慮義務を怠ったと判断されるでしょう。そうならないためにも、普段から徹底した教育と訓練が必要です。
 
場合によっては自社だけで教育・訓練を行うのではなく、社外の教育・訓練サービスを活用するのも良いでしょう。

 

労働時間管理

安全配慮を徹底するためには、労働時間管理が必要です。
 
日本の労働基準法では、平日1日の労働時間を8時間、週の労働時間を40時間と定めています。
 
事業者は労働者を8時間を超えて働かせる場合、1時間以上の休憩を与えなければなりません。6時間を超える場合でも45分以上の休憩を与えなければならないなど、厳しく制限されています。当然、1日8時間を超える労働時間に設定してはならず、適切な休憩を与えない場合は安全配慮義務違反です。
 
過重労働を防ぐためにも、適切な労働時間管理を行う必要があるため、事業者は労働者がどれくらいの時間働いているのかを把握しなければなりません。もし労働基準法で定められた労働時間を超えている場合は、即座に是正が求められるでしょう。

 

ハラスメント対策

職場でパワーハラスメントやセクシャルハラスメントが発生している場合は、予防対策と事後対応を行う必要があります。
 
パワーハラスメントは職場での権力を振りかざした理不尽な行い、セクシャルハラスメントは性に対する不埒な行いを指し、どちらも社会問題となっています。安全配慮義務には、パワーハラスメントやセクシャルハラスメントによる行為も含まれているため、現場でハラスメント行為が行われていないか確認が必要です。
 
もし確認された場合は、当事者に話を聞き、早急に是正することが重要です。

 

メンタルヘルス対策

安全配慮義務では、従業員のメンタルヘルスケアに注力し、産業医との連携などを図ることも重要です。
 
最近では仕事を理由に体だけでなく心を壊してしまう方が多く、気づかないうちに職場が安全配慮義務を犯している可能性もあります。
 
メンタルヘルスは目に見えない分、気づくのが遅れてしまいやすい事例です。現場にメンタルヘルスが蔓延しているにもかかわらず放置した場合、離職や退職が相次ぎ、事業の存続にも関わるかもしれません。最悪の場合は自殺などの事件に繋がる可能性もあるため、メンタルヘルス対策は徹底する必要があります。
 
心身の不調を訴える労働者が後を絶たない場合は、事業者が現場環境を一度視察し、問題点がないか確認する必要があるでしょう。

 

安全教育センターは、企業の安全衛生管理活動の支援をしています

安全配慮義務は、労働者と事業者の視点から対策を行わなくてはなりません。現場で安全配慮を怠ったことによって怪我人が出た場合、労働者ではなく事業者が責任に問われます。安全配慮義務違反に対する法的な罰則はないものの、被害者から損害賠償請求をされれば企業のイメージにもダメージが出るでしょう。
 
そのため、安全配慮義務は組織全体で徹底する必要があります。まずは労働者・事業者両方の観点から教育・訓練を実施しましょう。なお、安全教育センターでは企業の安全衛生管理活動を支援しているため、何をすれば良いか判断しかねる場合はぜひご相談いただけますと幸いです。