○コラム

工場における熱中症対策 |屋内に潜むリスクや対策をご紹介

工場内での熱中症対策は、従業員の健康と安全を守るために欠かせません。屋外だけでなく、工場内でも熱中症リスクが高まるため、適切な対策が求められます。本記事では、工場内で熱中症が発生しやすい要因と、その具体的な対策について詳しく解説します。企業が取るべき換気改善や遮熱対策、冷房設備の導入、デジタル技術の活用、そして個人が心掛けるべき水分・塩分補給や体調管理についても紹介します。

 

屋内(工場内)でも熱中症のリスクは高い?

熱中症というと、一般的に屋外での発生が思い浮かびやすいですが、実は屋内でも熱中症のリスクは非常に高いです。令和5年の厚生労働省のデータによると、2023年には職場で熱中症にかかった人は1,106人、そのうち死亡者は31人にのぼります​​。特に製造業では、熱中症による死傷者数が建設業に次いで多い209人という報告があります​​。
 
※参照)令和5年 職場における熱中症による死傷災害の発生状況

 

工場内で熱中症が発生しやすい要因

工場内で熱中症が発生しやすい要因として、密閉された空間による風通しの悪さ、製造工程で使用される機械等から発生する熱、金属製の屋根からの輻射熱が挙げられます。これらの要因が重なることで、工場内の温度が急上昇し、従業員が熱中症にかかるリスクが高まります。特に夏場には、これらの要因がさらに強まり、適切な対策が求められます。

 

熱がこもりやすい

工場は一般的に密閉された空間が多く、風通しが悪いため熱がこもりやすい環境です。工場内の壁や屋根は、断熱材が十分に施されていないことが多く、外部からの熱がそのまま内部に伝わりやすい構造になっています。また、大型機械や製造設備が稼働していると、それ自体が熱を発生させるため、内部の温度がさらに上昇します。特に窓が少なく、自然の風が通りにくい設計の工場では、空気の流れが滞りやすく、熱がこもりやすいです。このような環境では、外気温が高くなる夏場には、室温が急激に上昇し、従業員が熱中症になるリスクが高まります。効果的な換気や冷却装置の導入が不可欠ですが、それだけでは不十分な場合もあります。適切な断熱対策や、作業環境の改善が求められる中で、管理者は従業員の健康管理に注意を払う必要があります。

 

製造工程から発生する熱

工場内では製品の製造工程で機械から放出される熱は、工場内の気温を大幅に上昇させ、熱中症のリスクを高める要因となります。特に、熱源となる機器の近くで作業する従業員は、直接的な熱の影響を受けやすく、体温が急上昇する危険があります。工場内の温度管理が不十分な場合、これらの熱が逃げ場を失い、室内全体の温度がさらに上がることになります。従業員は長時間、高温の環境で作業を続けることになり、体内の水分と塩分のバランスが崩れ、熱中症を引き起こす可能性が高まります。効果的な対策としては、熱源の周囲に冷却装置を設置したり、定期的な換気を行うことが重要です。また、作業スケジュールを工夫し、従業員が高温環境での作業を長時間続けないようにすることも必要です。

 

屋根からの輻射熱

工場の多くは金属製の折半屋根を採用しており、これが熱中症リスクを高める要因となっています。金属は熱を吸収しやすく、直射日光を受けると表面温度が非常に高くなります。特に夏場には屋根の表面温度が70℃以上になることも珍しくありません。この高温の屋根からは輻射熱が発生し、工場内に放射されます。輻射熱は空気自体を温めるのではなく、直接人の体に熱を伝えるため、工場内にいる従業員は強烈な熱を感じます。このような環境では、空調設備があっても室内全体の温度が下がりにくく、従業員が熱中症になるリスクが高まります。輻射熱を軽減するためには、遮熱塗料や遮熱シートを屋根に施す方法が有効です。また、屋根にスプリンクラーを設置し、水を散布して気化熱による冷却効果を得ることも一つの対策です。これらの対策により、工場内の温度上昇を抑え、従業員の健康を守ることができます。

 

【企業向け】工場内での熱中症対策

工場内での熱中症対策は、従業員の健康と安全を守るために欠かせません。特に、夏場や高温環境での作業は熱中症リスクが高まるため、適切な対策が必要です。企業は換気の改善、遮熱対策、冷房設備の導入、デジタル技術の活用といった多角的なアプローチを取ることで、工場内の温度管理を徹底し、従業員が快適に作業できる環境を整えることが重要です。

 

換気の改善

工場内の換気を改善することは、熱中症対策において非常に重要です。まず、工場内に換気扇を設置し、外気を取り入れることで新鮮な空気を循環させます。さらに、窓を増やして自然換気を促進する方法も効果的です。特に大型の窓を設けることで、風通しが良くなり、室内の熱気を効率的に排出できます。また、大型扇風機やシーリングファンの設置も有効です。これらの装置は、空気の流れを作り出し、室内の温度を均一に保つ役割を果たします。特にシーリングファンは、上部に滞留しがちな熱い空気を循環させ、室内全体の温度を下げる効果があります。これにより、作業環境が快適になり、従業員のパフォーマンスも向上します。さらに、換気の改善は、熱中症だけでなく、作業効率や製品の品質にも良い影響を与えるため、積極的な導入が求められます。

 

遮熱対策

工場内の温度上昇を抑えるためには、遮熱対策が欠かせません。まず、屋根に遮熱塗料を施すことが有効です。遮熱塗料は太陽光を反射し、屋根の温度上昇を防ぐ効果があります。これにより、工場内の温度を大幅に下げることができます。さらに、遮熱シートを屋根や壁に貼ることで、外部からの熱を遮断することが可能です。これらの対策により、内部の温度が安定し、冷房効率も向上します。また、屋根にスプリンクラーを設置する方法もあります。スプリンクラーから放出される水が蒸発する際に気化熱を奪い、屋根の温度を冷却します。この方法は特に夏場の高温対策として有効です。これらの遮熱対策を組み合わせることで、工場内の温度管理が容易になり、従業員の健康を守るだけでなく、作業環境の快適さも向上します。企業は積極的にこれらの対策を導入し、効果的な温度管理を実現することが重要です。

 

冷房設備の導入

工場内の温度を効果的に下げるためには、冷房設備の導入が不可欠です。特に、広い工場では全館空調システムを導入することが理想的です。全館空調は、工場全体の温度を均一に保ち、快適な作業環境を提供します。しかし、全館空調の導入が難しい場合や、特定の作業場所だけを冷却したい場合には、スポットクーラーの使用が効果的です。スポットクーラーは、局所的に冷気を送り込むことで、必要なエリアだけを効率的に冷やすことができます。また、移動式のスポットクーラーを使用すれば、作業場所に合わせて冷却エリアを自由に変更できるため、非常に便利です。これらの冷房設備を適切に活用することで、工場内の温度を効果的に下げることができ、従業員の熱中症リスクを大幅に軽減できます。企業は冷房設備の導入を検討し、従業員が快適に働ける環境を整えることが重要です。

 

デジタル技術の活用

最新のデジタル技術を活用することで、工場内の熱中症対策をさらに強化できます。まず、IoTセンサーを設置して工場内の温度や湿度をリアルタイムにモニタリングすることが可能です。これにより、環境の変化を即座に把握し、必要な対策を迅速に講じることができます。また、AIを活用したシステムでは、過去のデータと現在の状況を分析し、熱中症のリスクを予測することができます。AIによる予測を基に、具体的な対策を自動的に提案する機能もあります。例えば、特定の時間帯や天候条件に基づいて、冷房設備の稼働スケジュールを最適化したり、従業員に対して適切な水分補給や休憩のタイミングを通知することができます。これにより、効果的な熱中症予防が実現します。デジタル技術の活用は、工場内の環境管理を高度化し、従業員の健康を守るための重要な手段となります。企業はこれらの技術を積極的に導入し、効果的な熱中症対策を推進することが求められます。

 

【個人向け】暑さ対策として心掛けたいポイント

工場内での作業では、個人が暑さ対策を心掛けることが非常に重要です。特に高温環境での作業が続く場合、水分・塩分の補給、熱中症対策グッズの活用、そして適切な体調管理が不可欠です。これらの対策を徹底することで、熱中症のリスクを大幅に減らし、健康を維持しながら安全に作業を続けることができます。

 

水分・塩分補給

工場内の高温環境では、汗をかくことで体内の水分と塩分が失われやすくなります。これを補うためには、定期的な水分と塩分の補給が欠かせません。作業中は少なくとも20〜30分ごとにコップ1杯(約200ml)の水分を補給することが望ましいとされています。特に大量に汗をかいた場合は、塩分濃度0.1〜0.2%のスポーツドリンクや経口補水液を摂取することが推奨されます。また、こまめに水分を摂ることが重要ですが、一度に大量の水分を摂取するのは避けましょう。これにより体内の電解質バランスを保ち、体温調節機能を正常に維持することができます。さらに、作業前後や休憩中にも意識して水分と塩分を摂るよう心掛けましょう。飲み物は冷たすぎると逆に体に負担をかけることがあるため、適度に冷やした状態で摂取することが理想的です。

 

熱中症対策グッズの活用

高温環境での作業には、熱中症対策グッズの活用が非常に有効です。例えば、空調服やクールベストは体温を下げる効果があり、作業中の快適さを向上させます。空調服は内蔵された小型ファンが空気を循環させ、汗の蒸発を促進することで体温を下げます。ただし、粉じんが多い場所では使用が難しい場合があります。また、不適合のバッテリーを使用すると発火のリスクがあるため、正規品の使用を徹底しましょう。一方、クールベストは内蔵された保冷材が体を直接冷やし、長時間の作業でも快適さを保てます。これらのグッズは、作業環境や個人の体調に合わせて選ぶことが重要です。さらに、冷却タオルやネッククーラーも有効です。これらは簡単に使用でき、汗を拭き取ると同時に冷却効果を発揮します。これらのグッズを上手に活用することで、熱中症リスクを大幅に軽減できます。

 

適切な体調管理

適切な体調管理は、熱中症予防の基本です。まず、十分な睡眠を確保することが重要です。睡眠不足は体温調節機能を低下させ、熱中症リスクを高めます。理想的には、毎晩7〜8時間の睡眠を取るよう心掛けましょう。また、朝食を抜かないことも大切です。朝食はエネルギーを補給し、体温調節を助けます。特に、暑い環境での作業前にはバランスの取れた食事を摂ることが望ましいです。さらに、お酒の飲み過ぎは避けるべきです。アルコールには利尿作用があり、体内の水分を失いやすくなります。飲酒は脱水状態を引き起こし、翌日の熱中症リスクを高めるため、適量を守ることが重要です。日常的な体調管理として、定期的な運動やバランスの取れた食事を心掛けることで、体力を維持し、熱中症に強い体を作ることができます。これらの対策を徹底することで、健康を守りながら安全に作業を行うことができます。

 

まとめ

工場内での熱中症対策は、企業と個人の両面から取り組むことが重要です。企業は、換気の改善や遮熱対策、冷房設備の導入、デジタル技術の活用を通じて工場内の温度管理を徹底し、従業員の健康を守る必要があります。具体的には、換気扇やシーリングファンを設置し、屋根に遮熱塗料やスプリンクラーを導入することで温度を下げます。また、IoTセンサーやAIを使ってリアルタイムで温湿度を監視し、適切な対策を自動提案するシステムを活用します。個人は、水分と塩分の補給、空調服やクールベストなどの熱中症対策グッズの利用、そして適切な体調管理が必要です。定期的な水分補給やバランスの良い食事、十分な睡眠を心掛けることで、熱中症のリスクを低減できます。これらの対策を組み合わせることで、工場内での熱中症を予防し、安全で快適な作業環境を実現できます。