○コラム

労働者の転倒災害|災害の原因と対策について解説します

転倒災害は労働災害の中でも特に多く、全体の約4分の1を占めています。特に高年齢労働者においては、骨折リスクが高くなり深刻な問題です。
 
本記事では、転倒災害の発生状況や主な原因、そして具体的な対策について詳しく解説します。また、特に高年齢労働者に有効な「エイジフレンドリー補助金」についても紹介します。職場の安全を守るための実践的な情報を通じて、転倒災害の予防に役立ててください。

 

転倒災害の発生状況

転倒災害は労働災害の中でも特に多く、全体の約4分の1を占める重要な問題です。特に第三次産業、小売業、社会福祉施設、飲食業などで多発しており、これらの業種では発生割合が30%前後に達しています。製造業や建設業、陸運業においても無視できない増加傾向が見られます。
 
転倒災害の主な原因は、通路や床面での滑りや、段差や突起物につまずくこと、足場の不安定さなどです。これらの要因が重なることで、労働者は日常的に転倒の危険にさらされています。特に高年齢労働者にとっては、身体機能の低下が転倒リスクをさらに高める要因となっています。

 

加齢に伴う転倒リスク・骨折リスク

高年齢労働者は、転倒リスクが高まります。これは年齢とともに筋力やバランス感覚が低下するなどが原因と言えます。さらに、骨密度が低下することで、転倒した際に骨折しやすくなります。特に女性は50代を以降、骨密度が急激に減少するため、骨折のリスクが増大します。
 
職場で高年齢労働者の転倒を防ぐためには、滑りにくい床材の使用や段差の解消、視認性の向上などのハード面の環境整備が重要です。また、日常的に運動やストレッチを行い、筋力やバランス感覚を維持するなどのソフト面の対応ことも推奨されます。さらに、定期的な健康診断や骨密度測定を行うことで、早期に対策を講じることが可能です。

 

「つまずき」等による転倒災害の原因と対策

転倒災害の中で「つまずき」によるものは多く、職場環境や心身機能の衰え、注意不足が主な原因となっています。これらの原因を特定し、適切な対策を講じることで、転倒災害のリスクを大幅に減少させることができます。以下では、具体的なつまずきの原因とその対策について詳しく解説します。

 

何もないところでつまずいて転倒、足がもつれて転倒

何もないところでつまずくことや、足がもつれて転倒することは、特に高年齢労働者に多く見られます。これは年齢とともに筋力やバランス感覚が低下するためです。このような転倒を防ぐためには、日常的にバランス感覚を鍛える運動やストレッチを取り入れることが効果的です。また、職場全体で転倒防止の意識を高めるために、定期的な安全教育を実施し、注意を喚起することも重要です。特に、歩行時には足をしっかり上げ、周囲の状況に注意を払うことが推奨されます。
 
厚生労働省のSTOP!転倒災害プロジェクトのページでは、転倒防止体操が紹介されているので、取り入れるのもよいでしょう。
 
また、視力の低下も転倒の一因となるため、定期的な視力検査や眼鏡の適切な使用も重要です。職場環境の整備も必要で、歩行経路を明確にし、障害物を取り除くことが効果的です。定期的な点検とメンテナンスを行い、転倒のリスクを最小限に抑えることが求められます。

 

作業場・通路に放置された物につまずいて転倒

作業場や通路に放置された物につまずいて転倒する事故は、整理整頓が不十分な職場で発生しやすいです。このような事故を防ぐためには、5S活動(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)を徹底することが重要です。これにより、作業場や通路に物が放置されることがなくなり、転倒リスクを大幅に減少させることができます。
 
さらに、作業場や通路のレイアウトを見直し、効率的かつ安全な動線を確保することも有効です。定期的な職場巡視を行い、問題点を早期に発見し対処することが求められます。また、従業員全員が整理整頓の重要性を理解し、日常的に実践することが必要です。

 

作業場や通路以外の障害物(車止め等)につまずいて転倒

作業場や通路以外の障害物、例えば車止めや階段の端などにつまずいて転倒するケースは多くあります。これらの障害物は視認性が低いため、注意を怠るとつまずきやすいです。対策として、障害物の周囲に警告表示を設置し、明るい色で視覚的に目立たせることが有効です。また、障害物の位置を事前に把握し、作業員に周知することも重要です。
 
さらに、定期的に職場を巡回し、障害物の配置を確認することも必要です。特に夜間や悪天候時には視界が悪くなるため、追加の照明を設置するなどの対策も考えられます。こうした対策を徹底することで、つまずきによる転倒を防ぎ、安全な作業環境を確保することができます。

 

作業場や通路の設備、什器、家具に足を引っかけて転倒

作業場や通路にある設備や什器、家具に足を引っかけて転倒する事故も多発しています。特に足元の見えにくい場所や、移動中に注意が散漫になっているときに発生しやすいです。このような転倒を防ぐためには、設備や什器の配置を工夫し、動線を確保することが重要です。また、設備や什器の角に保護材をつけるなどして、安全対策を講じることも効果的です。
 
また、職場内の動線を明確にするために、床にラインを引くなどの視覚的なガイドを設置することも有効です。定期的な点検を行い、設備や什器が正しく配置されているか確認することも必要です。従業員への教育を通じて、注意深く移動する習慣をつけることで、転倒リスクを大幅に減少させることができます。

 

作業場や通路のコードなどにつまずいて転倒

作業場や通路に引き回されたコードやケーブルにつまずいて転倒する事故は、意外と多く発生します。特に、電気コードや通信ケーブルなどが散乱している場合、足を引っかけやすくなります。このような事故を防ぐためには、コードやケーブルを整理し、適切な場所に固定することが重要です。コードカバーやケーブルホルダーを使用して、床に直接置かないようにすることが効果的です。
 
また、コード類は壁沿いや天井に配線するなど、足元から離れた場所に設置することも有効です。定期的な点検を行い、不要なコードを撤去することも大切です。さらに、従業員に対してコード類の取り扱い方や整理整頓の重要性を教育し、日常的に意識させることで、転倒事故の発生を防ぐことができます。職場全体で安全な環境を維持するための取り組みが必要です。

 

「滑り」による転倒災害の原因と対策

滑りによる転倒災害は、職場での労働災害の中でも特に注意が必要です。濡れた床や油がこぼれた場所など、滑りやすい環境が存在すると、転倒のリスクが非常に高くなります。これらのリスクを軽減するためには、適切な対策が必要です。以下では、具体的な原因とその対策について説明します。

 

凍結した通路等で滑って転倒

冬季において、凍結した通路での滑り転倒は大きな問題となります。特に屋外での作業や通行が頻繁な場所では、凍結防止策が欠かせません。凍結防止のためには、塩化カルシウムや砂を撒くことで路面の滑りを防ぐことが有効です。また、滑り止めマットの設置や、防滑性の高い履物を使用することも効果的です。
 
さらに、従業員に対して凍結した通路の危険性を周知し、注意を促すことも重要です。定期的な点検とメンテナンスを行い、凍結しやすい場所を特定し、早期に対策を講じることで、転倒事故の発生を防ぐことができます。これにより、冬季の安全性が大幅に向上します。

 

作業場や通路にこぼれていた水、洗剤、油等により滑って転倒

作業場や通路に水や洗剤、油などがこぼれると、その場所が滑りやすくなり転倒のリスクが高まります。これを防ぐためには、こぼれた液体を速やかに清掃する体制を整えることが重要です。専用の清掃用具を常備し、こぼれた際には迅速に対応できるようにしておくことが必要です。
 
また、滑りにくい床材を使用することや、定期的に床の清掃を行い、常に清潔な状態を保つことも有効です。従業員に対しても、液体がこぼれた際の対処方法や注意点を教育し、意識を高めることが重要です。これにより、滑りによる転倒災害を未然に防ぐことが可能になります。職場全体での意識と協力が求められます。

 

水場(食品加工場等)で滑って転倒

水場や食品加工場などでは、床が濡れやすく滑りやすい環境が常に存在します。このような場所での転倒を防ぐためには、まず滑りにくい床材を使用することが重要です。防滑タイルやゴムマットを導入することで、足元の安全性を確保できます。また、作業中に水がこぼれた際には即座に清掃を行う体制を整えることも必要です。
 
さらに、従業員には滑りにくい履物を着用させることが効果的です。労働安全衛生規則に基づき、防滑性の高い靴を支給し、その使用を徹底することが推奨されます。また、水場では定期的な床のメンテナンスを行い、床材の摩耗や劣化を防ぐことも大切です。教育や訓練を通じて、従業員に安全意識を高めることが必要です。

 

雨で濡れた通路等で滑って転倒

雨天時に通路が濡れて滑りやすくなることは多くの職場で見られる問題です。このような状況を防ぐためには、まず雨が通路に侵入しないように対策を講じることが重要です。屋根の設置や排水設備の整備を行い、通路が乾燥した状態を保てるようにします。また、滑り止めマットを使用することも効果的です。
 
さらに、通路が濡れた際には速やかに清掃を行う体制を整えることも必要です。専用のモップや乾燥用具を常備し、雨天時には定期的に通路の点検と清掃を行うことで、滑りによる転倒を防ぐことができます。従業員には、雨天時の安全な歩行方法を教育し、特に注意が必要な箇所を周知させることが大切です。
 
以上の対策を講じることで、雨で濡れた通路等での転倒リスクを大幅に低減することが可能です。職場全体での取り組みが求められます。

 

高年齢労働者の転倒災害防止に利用できる「エイジフレンドリー補助金」について

高年齢労働者の転倒災害を防止するための一つの有効な手段として、「エイジフレンドリー補助金」があります。これは、高年齢労働者の安全と健康を確保するための取り組みを支援する補助金です。特に、身体機能が低下しやすい高年齢労働者にとって、転倒は深刻な問題です。この補助金は、労働環境を改善し、安全性を向上させるために活用できます。
 
具体的な活用方法としては、防滑性の高い床材の導入や、段差解消のためのスロープ設置、安全な作業環境を整えるための照明改善などが挙げられます。また、従業員教育や健康管理プログラムの実施費用も補助対象となります。これにより、高年齢労働者が安心して働ける環境を整備することができます。
 
さらに、この補助金を利用することで、企業は高年齢労働者の安全対策を強化し、労働災害の発生を未然に防ぐことができます。補助金の申請には、具体的な改善計画を提出する必要がありますが、これにより企業全体で安全意識を高める効果も期待できます。
 
エイジフレンドリー補助金は、高年齢労働者の安全と健康を守るための重要な支援策です。企業はこの補助金を活用し、労働環境を積極的に改善することで、労働災害のリスクを減少させることができます。高年齢労働者が安心して働ける職場づくりに、補助金活用もご検討ください。