墜落・転落○事故事例アーカイブ

労働災害における「墜落・転落」について|事故事例や防止対策を紹介

労働災害の中でも、最も多いのが墜落・転落による死亡災害です。
 
厚生労働省の「令和5年労働災害発生状況の分析等」によると、令和5年の墜落・転落による死亡者数は204人。全体の約25%の割合になります。これは事故の型による分類の中で最多で、死傷者数は20,758人、全体で3番目に多い数字となります。
 
業種別では建設業が最も多いため、常に墜落・転落には十分気を付けなければなりません。しかし、気を付けるとは言っても具体的に何に気を付ければ良いのかわからない人もいるのではないでしょうか。
 
そこで、この記事では労働災害における「墜落・転落」について詳しく解説します。
 
当記事では墜落・転落の違い、労働災害における発生状況、事故事例について解説するので、ぜひ最後までお読みください。

 

墜落・転落とは? それぞれの違い

厚生労働省の情報によると、墜落・転落は「人が樹木、建築物、足場、機械、乗物、はしご、階段、斜面等から落ちることをいう。乗っていた場所 がくずれ、動揺して墜落した場合、砂ビン等による蟻地獄の場合を含む。車両系機械などとともに転落 した場合を含む。交通事故は除く。感電して墜落した場合には感電に分類する。 」と定義されています。
 
つまり、特定のものから落ちること全般を墜落、特定のものと一緒または接触しながら落ちることを転落というわけです。
 
他にも辞書的な意味合い・医学的な意味合いによる違いも知っておくとよりわかりやすいので、次の情報もご確認いただけると幸いです。
 
■辞書的な意味合い
墜落:高いところから落ちること
転落:転げ落ちること
 
■医学的な意味合い
墜落:身体が完全に宙に浮いた状態で落下すること
転落:階段や坂道などに接しながら落下すること
 
どちらも「落ちる」「転ぶ」という点では共通しているものの、辞書での意味合いよりも医学での意味合いの方が労働災害をイメージしやすいかと思います。
 
具体的に墜落は何にも接触することなく落下すること、転落は特定の物体に接触しながら落下することと認識しておきましょう。
 
建設業などで発生する墜落・転落は死亡災害にまで発展する恐れがあるため、十分に気を付けておかなければなりません。

 

労働災害における「墜落・転落」の発生状況

労働災害における「墜落・転落」が発生する恐れのある場所としては、屋根・梁、屋上、足場、はしご等(脚立・作業台)、開口部、トラック荷台・機械運転席からなどがあります。
 
主な原因としては、墜落・転落防止設備がないこと、安全帯を未着用・不使用、安全教育不足、作業方法・手順の誤り、連絡調整不足などがあり、いずれの労働災害も現場で働く人の不注意によって引き起こされるのが通例です。
 
そのため、現場で働く人は常に墜落・転落が発生しないよう注意が必要となるでしょう。

 

墜落・転落の事故事例

墜落・転落の危険性を知るためには、具体的な事故事例を知ることが重要です。ここでは、墜落・転落の事故事例について詳しく解説します。
 
「工場屋根で換気扇取付工事中にスレートを踏み抜き墜落」「木造屋根で垂木取り付け作業中に墜落」「荷下ろし中にトラックから転落し死亡」という3つの事例を紹介するので、ぜひどのような事故だったのか一度ご覧ください。

 

工場屋根で換気扇取付工事中にスレートを踏み抜き墜落

当事例は、事業規模16人~29人の「その他建築工事業」で発生した事故です。
 
工場の屋根に換気扇を取り付ける工事中に事故が発生しました。屋根は中央部が13m、軒先が9mの高さで、6mm厚の波型スレートで覆われていました。換気扇の取り付け位置は中央付近で、労働者は前日に幅30cm、長さ4mと1.5mの歩み板20枚を敷いて通路を確保していました。
 
事故当日、Z社の労働者A~Cの3人が作業し、換気扇の取り付けを終えた後、通路に使用した歩み板を回収しました。この時、Aは換気扇の試運転を確認していましたが、歩み板撤去後に屋根のスレートを踏み抜き、12m下の床に墜落して死亡しました。当時、作業前のミーティングで安全注意はありましたが、歩み板の撤去方法については指示がなく、安全通路の確保や墜落防止措置も講じられていませんでした。また、Z社は工事が短時間で終わることから工事計画書を作成していませんでした。
 
その結果、死亡者1人を出す労働災害が発生してしまったとされています。

 

木造屋根で垂木取り付け作業中に墜落

当事例は、事業規模1人~4人の「木造家屋建築工事業」で発生した事故です。
 
災害発生当日、午前8時頃に工事を請け負ったZ社の社長Aは、作業者B~Fの5人に当日の作業内容を説明して工事現場に向かい、午前8時半頃から作業を開始しました。
 
午前は6人全員で木造家屋1階の筋交い取付け作業を行い、午後はBとCが1階の屋根上に上がり、Aがトラッククレーンでつり上げた垂木を屋根の骨組に取り付ける作業を行いました。Aは垂木をつり上げた後、D~Fとともに1階で午前中の作業を続けました。その後、午後4時頃に屋根南側と北側下段の垂木取付け作業が終了し、次に北側上段に移動して作業を開始しました。
 
このとき、垂木6本の長さが長すぎたため、Bが仮置きしていた携帯用丸のこ盤で切断し、順次取り付けていきました。しかし、6本目の垂木を取り付けようとした際に寸法が長かったため携帯用丸のこ盤を取り寄せようと身を乗り出したとき、Bは体のバランスを崩し、約5.5m下の1階コンクリートに墜落しました。その後、Aにより救出され病院に搬送されましたが、間もなく死亡しました。
 
なお、BとCが作業していた屋根の母屋は幅12cmで約1m間隔がありましたが、安全帯を使用する設備や墜落防止用の防網は設置されていませんでした。Aは作業主任者として器具や工具、安全帯の点検や監視を行っておらず、作業者への安全教育も実施していませんでした。
 
結果的に、取り返しのつかない死亡災害に発展したとされています。

 

荷下ろし中にトラックから転落し死亡

当事例は、事業規模1人~4人の「各種商品卸売業」で発生した事故です。
 
葦簾の輸入および販売を行うZ社では、社長以外の常勤労働者は経理担当だけであり、葦簾の運搬や選別作業がある時のみ臨時に労働者を雇用していました。
 
災害が発生した当日、10tトラックが葦簾を運搬して到着したため、Z社の社長・臨時雇用の労働者A、トラック運転手の3人でトラックの荷台に積まれた葦簾の束(1束高さ約2.5m、幅約3.5m、重さ30kg)を下ろし、倉庫に搬入する作業を始めました。当時、運転手が荷台上から葦簾を地上の社長とAに手渡し、社長とAが倉庫に搬入する形で役割分担を行っていました。
 
作業を始めて約1時間後、社長は「外出してくるから帰るまで休んでいてくれ」と言い、その場を離れました。約1時間30分後、外出から戻った社長はAが一人で荷台の上の葦簾を下ろしているのを見かけ、指示と違うので注意しに近づきました。Aは「早く作業を終わらせたい」と言ったため、社長は「危ない」と警告したものの、そのまま事務所に向かいました。その直後、「あっ」という声がし、振り返るとAが葦簾の上からバランスを崩して地上に転落するのが見えました。
 
Z社では、Aのために保護帽を用意していましたが、着用は義務付けていませんでした。また、Z社では臨時労働者に対して安全衛生教育を実施していませんでした。
 
上記のような偶然が重なり、労働災害が発生したとされています。

 

【業種別】墜落・転落の防止対策

厚生労働省は、建設業・陸上貨物運送事業における墜落・転落の防止対策として、労働安全衛生規則の改正を行っています。しかし、まだまだ予防に繋がっていない現場があるため、周知の徹底が重要です。
 
ここでは、業種別の墜落・転落の防止対策について、近年(令和6年時点)で法改正された内容を見ていきましょう。

 

建設業

建設業では、足場からの墜落防止措置が強化されます。令和5年10月1日から順次施行されるため、建設現場の事業者・労働者は注意が必要です。
 
具体的には以下の3つが改正されるので、周知が欠かせません。
 
・一側足場の使用範囲が明確される(設置場所の幅が1m以上では本足場を組む)
・足場の点検時には点検者の氏名が必要となる
・足場の組み立て等の後の点検者の氏名の記録・保存が必要となる
 
以上の内容で改正されるため、詳しくは「足場からの墜落防止措置が強化されます」の記事をご確認ください。
 
※【関連記事】2023(令和5)年の足場の法改正 主なポイントは一側足場と点検です

 

陸上貨物運送事業

陸上貨物運送事業では、トラックでの荷役作業時における安全対策が強化されます。特別教育については令和6年2月、それ以外の規定は令和5年10月から施行されるため、現場の事業者・労働者は適宜対応が必要です。
 
具体的には以下の3つに改正されるので、周知が求められるでしょう。
 
・昇降設備の設置及び保護帽の着用が必要な貨物自動車の範囲が拡大される(最大積載量5トン以上→2トン以上)
・テールゲートリフターを使用して荷を積み卸す作業への特別教育が義務化される
・運転位置から離れる場合の措置が一部改正される
 
以上の内容で改正されるため、詳しくは「トラックでの荷役作業時における安全対策が強化されます」の記事をご参照ください。

 

まとめ

労働災害では、墜落・転落による死亡者・死傷者が毎年発生しているため、今一度安全教育について徹底することが重要です。
 
現場で人が亡くなるのは事業者・労働者にとって最悪の事態であり、事業存続にも関わってくる問題だけに、労働災害は安全教育を徹底周知して防ぐことが求められるでしょう。
 
しかし、なかなか現場で安全教育を行うのは難しく、手が回っていないところもあるかもしれません。その場合は、安全教育センターにご相談ください。当社では現場の安全教育を代行しており、事業者向け・労働者向けなど細かなプランを用意しています。労働災害を防ぎ、健全な現場の実現を目指している場合は、まず当社にお問い合わせいただけると幸いです。