切れ・こすれ○事故事例アーカイブ

「切れ・こすれ」の災害を防止するためには? 実際の事故事例と併せて解説

現場で発生する労働災害の中で「切れ・こすれ」による事案は毎年多数発生しており、令和5年だけで死傷者数は7,598人に及んでいます。特に製造業での労働災害は多く、全体の約3分の1にあたる2,327人が被災している状況です。
 
では、なぜ現場で「切れ・こすれ」による災害が頻発するのでしょうか。
 
そこで、この記事では「切れ・こすれ」による労働災害の発生状況、事故が多発している作業の共通点、事故事例について詳しく解説します。当記事では事故を未然に防ぐための対策についても解説するため、ぜひ最後までお読みいただけると幸いです。

 

「切れ・こすれ」労働災害の発生状況

厚生労働省によると、令和5年に発生した「切れ・こすれ」による死傷者数は7,598人。中でも製造業での発生割合が高く、全体の約3分の1にあたる2,327人が製造業で労働災害に逢っている状況です。参考までに「切れ」と「こすれ」の違いを見てみましょう。
 
・切れ:刃物や工具取扱中の物体によって切れた状態を指す
・こすれ:こすられる状態で切れた状態を指す
 
どちらも皮膚に切り傷を負うことを意味しますが、「切れ」は刃物や工具取扱中の物体によって切れた状態を指すのに対して「こすれ」はこすれる状態で切れた状態を指します。ベルトコンベアのベルト部に皮膚が接触して、切るなどです。

 

切れ・こすれ事故が多い作業の共通点

ここからは、切れ・こすれ事故が多い作業の共通点について見ていきましょう。

 

切れ味の悪い工具の使用

切れ・こすれによる事故は、切れ味の悪い工具を使用することで発生しやすくなります。
 
刃こぼれやサビにより切れ味が悪くなった工具を使用すると余計な力が必要となり、手元が狂いやすくなることで切れ・こすれが発生するわけです。
 
そのため、日常点検を欠かさず、点検簿で管理するなどの対策が必要となるでしょう。

 

機械操作

切れ・こすれは機械操作によって発生する場合もあるため、注意が必要です。
 
例えば、クッキーカッター機などの機械を操作する際、稼働中の機械に手を出すなどの場合に発生します。このような安全規則を無視した行動を取ることで事故が発生しやすくなります。
 
機械操作のミスによって事故が発生する場合もあるため、常に安全確認については現場で共有しておくことが重要となるでしょう。

 

不安定な姿勢や環境

不安定な姿勢や環境で作業する場合も、切れ・こすれにお気を付けください。
 
足元が悪い場所や不安定な体勢での作業は、バランスを崩して事故を引き起こす可能性があります。例えば、丸のこ盤を狭い場所などで使用すると、バランスを崩した拍子に刃物と接触すると大怪我を負う場合があるため、作業時には安定した姿勢や環境を保つことが重要です。
 
労働環境によっては、常に安定し場所で作業は難しいかもしれません。そのような場合であっても、危険がないように配慮することが求められます。

 

切れ・こすれの事故事例

ここからは、切れ・こすれの事故事例について見ていきましょう。

 

携帯用丸のこ盤が反発して労働者に当たり死亡

当事例は、事業規模30人~99人の「道路建設工事業」で発生した事故です。
 
この災害は、河川の護岸工事現場で発生しました。
 
当日、労働者Aは管理者Bの指示で携帯用丸のこ盤を使って測量用の杭を作るため、角材を加工していました。しかし、Aの作業中に丸のこ盤が反発し、歯部分がAに直撃。すぐに病院に搬送されたものの、死亡が確認されました。
 
使用していた丸のこ盤は安全カバーの金具が変形していたため、安全カバーが正常に作動せず歯が剥き出しの状態でした。また、丸のこ盤には管理責任者が定められておらず、点検や整備もされていませんでした。さらに、BはAに具体的な安全作業方法を示さず、事業場では携帯用丸のこ盤の取扱いに関する安全教育も行われていませんでした。
 
その結果、死亡者1名を出す労働災害に発展したとされています。

 

エンジンカッター跳ね上がり労働者死亡

当事例は、事業規模1人~4人の「建築設備工事業」で発生した事故です。
 
当時、排水管工事現場の掘削溝でエンジンカッターを使ってヒューム管の切断作業が行われていました。
 
ヒューム管は2回に分けて切断する必要があったため、現場では管の直径に対して半分ずつ切り込みを入れていました。しかし、2回目の切断時に切り込みの角度がずれてしまい、さらに管の下部を切断する必要が生じました。
 
そんな中、下部を切断する際にエンジンカッターの研削刃の上部を使用したため研削刃が切断物に挟まれてキックバックが発生し、跳ね上がった刃が被災者の頸部に接触しました。被災者は多量の出血があり、病院に搬送されましたが、死亡しました。
 
当時の状況から切断幅が短いために切断物の下部に枕木を設けることができず、切断物は固定や支持がされていない状態だったことがわかっています。

 

薪の切断中に可搬型丸のこで切創し死亡

当事例は、事業規模1人~4人の「機械(精密機械を除く)器具製造業」で発生した事故です。
 
この災害は、作業者Aが工場のストーブで使う薪にするため、可搬型丸のこ盤で桑の木を切断していたときに発生しました。
 
Aは前日に引き続き、朝から工場近隣の農家から運び込まれた桑の木を適当な長さに切断していました。使用した丸のこ盤は木工用の100V・4,700回転/分で、歯の直径は18.5cm、Aが会社に頼んで購入し、Aだけが使用していました。
 
昼頃、外出先から戻った社長と専務がAを探すと、Aが丸のこ盤で切創を負い倒れているのを発見しました。当時、Aは会社支給の作業服、安全靴、ゴム手袋を着用していましたが、丸のこ盤の歯の接触予防装置が機能していない状態となっていました。
 
また、会社は丸のこ盤の使用や作業手順を共有しておらず、点検に関する安全衛生教育も実施していませんでした。

 

切れ・こすれの事故を防ぐための対策

最後に、切れ・こすれの事故を防ぐための対策について見ていきましょう。

 

適切な保護具の着用

切れ・こすれを防ぐには、適切な保護具の着用が重要です。
 
労働災害が発生している現場では保護具を適切に着用していなかったことが原因となった例が散見されるため、長靴・長いエプロン・手袋など身体を保護するものを着用して作業を行うと良いでしょう。特に、手で作業する場合は耐切創手袋があると心強いのではないでしょうか。
 
耐切創手袋とは、建設現場や工場、ガラス加工など鋭利な刃物を使用する際に手を切らないようにするための手袋を指します。手袋ごとに耐切創レベルが設けられており、作業の危険度に合わせて適切なレベルの手袋を使用するのが通例です。製品によっては耐油性のものなど他の性能が組み合わせられているものも販売されているので、作業内容に合ったものを選ぶようにしましょう。
 
ただし、丸のこ盤など回転する刃物を使用する場合は巻き込まれる可能性があるため、手袋の着用は禁止です。耐切創手袋は包丁などの薄い刃に対しては有効ですが、丸のこ盤などの小さな刃物の運動するものには効果は薄くなりますので避けてください。

 

機械の適切な使用と管理

機械設備の管理と安全な使用は何よりも重要です。
 
例えば、機械の可動部など安全装置を備えなければなりません。そして点検、掃除、修理をする場合には機械を完全に停止させてから作業を行うなど基本的な安全対策を行うだけでも効果的です。
 
他には、刃物部分のガードを外すなど本来の状態でない形で使用しないこと、稼働中の機械に手を出さないことなど、作業上の安全ルールなどをしっかりと守るだけけでも思わぬ災害を防止することができます。

 

4S活動の徹底

4S活動とは、整理・整頓・清掃・清潔の4つのSを心がける活動のことです。
 
普段から整理・整頓・清掃・清潔を保つことで、機械の状態を正常に保つことができます。また周囲に不用品がないことで、転倒などの被害も防ぐことができます。
 
現場が散らかっていたり汚れていたりすると想定外の事故に発展する恐れがあるからこそ、常に4Sを心がけた現場作りを行いましょう。

 

安全教育の実施

切れ・こすれに限らず、労働災害を防ぐためには安全教育の実施が重要です。
 
刃物など危険物を扱うのですから、安全な作業手順を定め、遵守させるために教育が欠かせません。労働者の不注意や危機意識の低下を防ぐため、定期的な安全教育を実施することが推奨されます。
 
安全教育によって安全管理に対する意識が向上し、労働災害の防止につながるでしょう。

 

まとめ

現場で発生する労働災害の中で「切れ・こすれ」による事故が多発しており、令和5年だけで死傷者数は7,598人に達しています。製造業での労働災害は全体の約3分の1にあたる2,327人が被災している状況で、常に警戒が必要です。
 
定期的に死亡事故も発生しているため、現場全体で安全管理の徹底が求められるでしょう。
 
なお、安全教育センターでは労働災害を防ぐための講習を行っております。安全教育がなかなか徹底できていない場合は、ぜひ気軽にお問い合わせいただけると幸いです。