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踏み抜き|実際の事故事例と防止策を解説

建設現場や工場での作業中、老朽化した屋根や床を誤って踏み抜いてしまい、思わぬ事故に巻き込まれるケースが後を絶ちません。このような踏み抜き事故は、時に命を奪うこともある重大なリスクです。本記事では、実際に発生した事故事例と共に、踏み抜き事故を未然に防ぐための具体的な対策について詳しく解説します。あなたの職場でも、今一度安全対策を見直してみませんか?

 

「踏み抜き」の事故とは?

「踏み抜き」の事故とは、主に建設現場や工場などで、老朽化した屋根材や床材を作業中に誤って踏み抜いてしまい、その結果、作業員が下に落下してしまう事故のことを指します。こうした事故は特に劣化が進んだスレートや木材が使用されている場所で発生しやすく、墜落による重篤な怪我や死亡事故に繋がる危険性が非常に高いです。適切な安全対策を講じることが、こうした事故を未然に防ぐために極めて重要であり、現場の安全管理が欠かせません。

 

踏み抜きの事故はストレート屋根で多発している

スレート屋根は軽量で施工しやすいという利点があり、多くの建物で使用されていますが、経年劣化によりその強度が大幅に低下しやすいという欠点があります。そのため、建設現場や工場では、劣化したスレート屋根を誤って踏み抜く事故が頻発しています。例えば、2024年に名古屋市の工場で発生した事例では、62歳の作業員がスレート屋根を踏み抜き、約4メートル下に墜落してしまいました。作業員は全身を強く打ち、残念ながら命を落とす結果となっています。このような事故は、特に古くなったスレート屋根で発生しやすいため、事前の点検や踏み抜き防止措置の徹底が必要不可欠です。
 
参考:https://www.rodo.co.jp/news/180307/

 

労働安全衛生規則第524条による法的規制

労働安全衛生規則第524条では、スレートなどの屋根上での作業において、踏み抜き事故を防止するための具体的な措置を講じることが事業者に義務付けられています。具体的には、幅30cm以上の歩み板を設置する、落下防止用のネットを張る、または安全帯の使用を徹底するなどの対策が求められます。この規制は、作業員の安全を確保し、重大な労働災害を防ぐために非常に重要な役割を果たしています。

 

第524条 事業者は、スレート、木毛板等の材料でふかれた屋根の上で作業を行う場合において、踏み抜きにより労働者に危険を及ぼすおそれのあるときは、幅30センチメートル以上の歩み板を設け、防網を張る等踏み抜きによる労働者の危険を防止するための措置を講じなければならない。

 

実際に起きた「踏み抜き」の事故事例

踏み抜き事故は、建設現場や工場などで頻繁に発生しており、結果的に重大な労働災害を引き起こしています。ここではいくつかの事故事例を紹介します。
 

 

スレート波板と塩化ビニール波板の踏み抜き事故

スレート波板や塩化ビニール波板は、多くの工場や倉庫で使用されていますが、これらの素材は経年劣化によって強度が低下しやすく、踏み抜き事故の原因となりやすいです。実際の事例として、東京都内の工場で発生した事故では、作業員が劣化したスレート波板を踏み抜き、高さ約8メートルの位置から墜落して死亡しました。事業者は、安全対策として幅30センチ以上の歩み板を設置するなどの措置を講じていなかったため、労働安全衛生法第21条に違反したとして書類送検されました。この事例は、スレートや塩化ビニール波板が使用されている現場での危険性を強く示しており、適切な安全対策の必要性を再認識させられるものです。
 
参考:https://www.tokyotsa.com/file/61_saigai.pdf

 

工場のスレート屋根の踏み抜き事故

工場のスレート屋根で発生した踏み抜き事故は、経年劣化による強度低下が原因で起きることが多いです。ある事例では、工場の換気扇取り付け工事中に、作業員がスレート屋根を踏み抜き、12メートル下の床に墜落し死亡しました。この工場では、歩み板の撤去後に安全な通路を確保しておらず、また作業員に安全帯の使用を徹底させていなかったことが事故の要因となりました。さらに、工事計画書を作成せず、具体的な作業手順を指示していなかったことも問題でした。この事例は、スレート屋根での作業における安全対策の不備が、重大な事故を引き起こすリスクを高めることを示しています。
 
参考:https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen_pg/SAI_DET.aspx?joho_no=101116

 

樹脂製波板の踏み抜き事故

樹脂製波板は、採光や通気のために工場や倉庫の屋根に使用されることが多いですが、強度が低く、特に経年劣化が進んだ場合には踏み抜き事故のリスクが高まります。ある製鉄所では、作業員が樹脂製波板を踏み抜き、約10メートル下の床に墜落して死亡する事故が発生しました。この事故では、現場で危険予知ミーティングが行われていたものの、明り採り用波板の踏み抜きリスクが考慮されておらず、適切な立入禁止措置や墜落防止措置が取られていませんでした。結果的に、事故は未然に防ぐことができず、重大な労働災害へと繋がってしまいました。この事例は、樹脂製波板の危険性を理解し、事前に十分な対策を講じることの重要性を示しています。
 
参考:https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen_pg/SAI_DET.aspx?joho_no=101083

 

踏み抜き事故を防止するためのポイント

踏み抜き事故を防止するためには、いくつかの重要なポイントを押さえる必要があります。まず、劣化した屋根材の上を歩く際には、法令で定められている対策を取ることが重要です。法令の事項は次のとおりです。

 

幅30cm以上の歩み板の設置

これは、屋根材が経年劣化や環境要因によって強度が低下している場合、直接その上を歩くと非常に危険であるためです。歩み板を設置することで、作業員の体重が広い範囲に分散され、屋根材が踏み抜かれるリスクを大幅に低減することができます。また、歩み板は設置時にしっかりと固定し、滑りや移動を防ぐことも重要です。これにより、作業員が安全に作業を行える環境を整えることが可能となります。作業中にうっかり歩み板以外の場所に足を踏み出し、踏み抜く事故も発生しているため、歩み板以外の場所を移動させないように徹底することも重要です。

 

防網の設置

防網の設置は、作業員が万が一踏み抜きを起こした際に、墜落事故を防ぐための有効な対策です。屋根や高所での作業では、作業員が踏み抜きや転落するリスクが常に伴います。防網は、作業員が万が一墜落した場合でも、地面に直接落下するのを防ぎ、大きな怪我を未然に防ぐ役割を果たします。また、防網の設置場所や取り付け方法については、作業現場の状況に応じて最適な配置を行うことが求められます。屋根の下に取り付けることになるので、大掛かりな対策となりますが、万が一に備えて設置を検討するとよいでしょう。

 

事前調査

屋根材の劣化状況や過去の修繕履歴を確認する事前調査は、踏み抜き事故を防止するための重要なステップです。作業を行う前に、屋根材がどの程度劣化しているか、また、以前にどのような修繕が行われていたかを把握することで、リスクの高い箇所を特定することができます。当然、調査段階でも踏み抜きリスクは存在するので、歩み板の設置などの措置は行わなければなりません。

 

まとめ

踏み抜き事故は、建設現場や工場などで発生しやすい重大な労働災害の一つです。特に、老朽化したスレート屋根や波板などの劣化した建材を使用している現場では、踏み抜き事故のリスクが高まります。このような事故を防ぐためには、幅30cm以上の歩み板や防網の設置など、基本的な安全対策を徹底することが不可欠です。また、事前調査によって劣化状況や過去の修繕履歴を確認し、リスクの高い箇所を特定することも重要です。
 
安全教育センターでは、踏み抜きも含めた高所作業の安全対策についての教育も行っております。教育にご興味を持っていただけましたら、お問い合わせください。