○コラム

粉じん障害|発生しやすい職業や防止策について解説

粉じん障害とは、労働作業中に粉じんにさらされることによって引き起こされる健康障害のことです。
 
粉じん障害は鉱業・建設業・製造業・溶接作業などの現場で発生しやすいため、症状や対策を知っておきたいです。
 
ここでは、粉じん障害とは、粉じん障害が発生しやすい職業の例、粉じん障害を防止するために有効な対策について詳しく解説します。また、特定粉じん作業に従事するためは特別教育を修了しなければなりませんので、こちらも紹介します。

 

粉じん障害とは?

粉じん障害とは、労働作業中に粉じんにさらされることによって引き起こされる健康障害のことです。代表的な症状が「じん肺」です。

 

最も代表的な粉じん障害は「じん肺」

じん肺は粉じんを長期間吸入することで肺の組織が線維化し、呼吸機能が低下する疾患です。
 
鉱物、金属、研磨材、炭素原料、アーク溶接のヒュームなどの粉じんのうち、比較的粒径の大きいものは鼻や気管支等に付着して「たん」となって体外へ排出されますが、小さいものは肺の奥深くの肺胞にまで入り込んで沈着します。
 
結果的に肺の伸縮性や弾力性が失われ、じん肺を発症します。
 
初期症状の段階では息切れ・咳・たんが出るだけで済みますが、病気が進行すると肺の組織が壊され、呼吸困難を引き起こすことも珍しくありません。また、気管支炎・肺がん・気胸などの合併症にかかりやすくなります。
 
具体的な統計を見ると、じん肺および合併症の認定件数は平成15年度から原発性肺がんが合併症に追加されたにもかかわらず減少が続いた後、平成27年~平成29年度は横ばい、平成30年度は277人と初めて300人を割り、令和3年度は200人を割って197人、令和4年度は165人、令和5年度は158人まで減少しています。昭和55年に6,842人いたじん肺新規有所見労働者と比べると、大幅に減少していることがわかります。
 
ただ、未だに鉱業・建設業・製造業・溶接業などではじん肺を罹患する人がいるので、引き続き対策が必要です。

 

発生要因

粉じん障害は、主に破砕、研磨、解体などの作業で発生する粉じんを長期的に吸入することによって引き起こされます。継続的に粉じんを吸入することで次第に肺の内部がダメージを受け、組織が線維化することで息切れ・咳・たんなどが出るのが特徴です。
 
病状が深刻化すると肺の組織そのものが破壊され、呼吸困難に至るなど厄介な病気といえるでしょう。
 
じん肺は数年から十数年かけてゆっくりと進行します。一度じん肺にかかるともともとの正常な肺には戻らず、粉じん作業をやめた後も症状の進行を止められません。発症しないためには、粉じん作業時にばく露(吸入)しないことが何よりも重要なのです。

 

粉じん障害が発生しやすい職業の例

ここでは、粉じん障害が発生しやすい職業の例について詳しく解説します。法令で定める特定粉じん業務を中心に紹介します。

 

鉱業関連

鉱業では、工事中のトンネル内で発生する破砕した岩石に起因する粉じんを吸い込みやすいです。坑内に粉じんが蔓延した状態で作業しなければならず、他の職業と比べても粉じん障害になりやすい職業とされています。

 

建設業関連

建設業もトンネル内での作業によって粉じんを吸い込むことがあります。
 
坑内では作業環境測定が義務付けられている他、特定粉じん作業に就く労働者に対して特別教育を行うことが粉じん則により義務化されています。また、住宅解体では多くの粉じんを発生させます。その他、コンクリートのはつりなど、粉じんが発生する業務も少なくありません。
 
石綿も粉じんであるため、適切な対応が必要です。石綿については、石綿障害予防規則などで対策が定められています。

 

製造業関連

他には製造業などの現場でも、粉じんへの警戒が必要です。生コン製造工業などではコンクリートの微粉が出やすく、知らず知らずのうちに粉じんを吸い込んでいる可能性があります。
 
場合により、金属加工などではグラインダーの使用によって出る金属の微粉で肺がダメージを受けることがあるため、意識的に予防対策したいです。
 
業種によっては粉じんの影響があまりない現場もあるものの、粉じん障害は長時間かけてゆっくりと進行していくので、用心しておくことに越したことはありません。

 

溶接作業

溶接作業では、金属アーク溶接の溶接ヒュームも粉じんに該当します。溶接ヒュームとは、金属アーク溶接などで発生する細かい粒子のことです。
 
金属アーク溶接によって金属を溶断すると熱に溶かされた金属が蒸気となります。この蒸気が空気中で冷却されて金属酸化物の細かい粒子となります。その粒子が溶接ヒュームです。溶接作業中に、溶接ヒュームを吸い込むことで、溶接工肺など症状を引き起こします。

 

粉じん障害を防止するために有効な対策

厚生労働省では粉じん障害防止策として「粉じん障害防止総合対策」を策定し、事業者や労働者に対して具体的な対策を推進しています。
 
ここでは、粉じん障害を防止するために有効な対策について解説します。

 

粉じん濃度の作業環境測定

粉じん障害を防止するためには、粉じん濃度の測定が欠かせません。
 
特に、以下のような場所では発散防止対策の徹底が求められます。
 
・坑内の鉱物等を動力により掘削する箇所
・鉱物等を動力(手持式動力工具によるものを除く)により破砕し、粉砕し、またはふるい分ける箇所
・鉱物等をずり積機等車両系建設機械により積み込み、または積み卸す箇所
・鉱物等をコンベヤー(ポータブルコンベヤーを除く)へ積み込み、またはコンベヤーから積み卸す箇所
・屋内の岩石または鉱物を動力(手持式または可搬式動力工具によるものを除く)により裁断し、彫り、または仕上げする箇所
・屋内の研磨材の吹き付けにより、研磨し、または岩石もしくは鉱物を彫る箇所
・屋内の研磨材を用いて動力(手持式または可搬式動力工具によるものを除く)により、岩石、鉱物もしくは金属を研磨し、もしくはばり取りし、または金属を裁断する箇所
・屋内の鉱物等、炭素原料またはアルミニウムはくを動力(手持式動力工具によるものを除く)により破砕し、粉砕し、またはふるい分ける箇所
・屋内のセメント、フライアッシュまたは粉状の鉱石、炭素原料、炭素製品、アルミニウムもしくは酸化チタンを袋詰めする箇所
・屋内の粉状の鉱石、炭素原料またはこれらを含む物を混合し、混入し、または散布する箇所
・屋内の原料を混合する箇所
・耐火レンガまたはタイルを製造する工程において、屋内の原料(湿潤なものを除く)を動力により成形する箇所
・屋内の半製品または製品を動力(手持式動力工具によるものを除く)により仕上げする箇所
・屋内の型ばらし装置を用いて砂型を壊し、もしくは砂落としし、または動力(手持式動力工具によるものを除く)により砂を再生し、砂を混練し、もしくは鋳ばり等を削り取る箇所
・屋内の手持式溶射機を用いないで金属を溶射する箇所
 
以上の場所では粉じん発散防止対策を行いましょう。
 
なお、特定粉じん作業に従事する労働者には、粉じんによる疾病と健康管理、粉じんの発散防止、呼吸用保護具の使用の方法及び作業場の換気の方法等について特別の教育が義務付けられています。この教育を修了した人を「特定粉じん作業者」と呼び、一定の教育を受けた者として業務に就くことが可能です。

 

換気設備

粉じんの発散防止対策を行うのも、粉じん障害の防止策として効果的です。
 
粉じん障害防止規則では、粉じんが発散しないよう防止することが大切とされています。特定粉じんの発生を防止したり、空気中の粉じん濃度を減らすには、局所排気装置、プッシュプル型換気装置、除じん装置、 発生源を密閉する設備などの換気設備を設置します。
 
特定粉じん作業を行う場合は、特定粉じん発生源に対してこれらの設備や装置を設置することが定められています。また、特定粉じん発生源に設置する局所排気装置やプッシュプル型換気装置、除じん装置については、定期自主検査(1年以内ごとに1回)が義務付けられています。

 

粉じんへのばく露を低減するための対策

粉じんへのばく露を提言するための対策を行うのも、粉じん障害の防止策として有効です。
 
粉じんが発生する場所では、防じんマスクを使用してください。防じんマスクは粉じん濃度に応じて、適切なものを選択しなければなりません。また着用時には、シールチェック(密着確認)を行い、顔とマスク面体に隙間がないことを確認しなければなりません。防じんマスクに破損や変形があると効果が下がるため、保守管理も重要です。
 
金属アーク溶接は屋内、屋外でも防じんマスクを着用することが推奨されます。

 

粉じん作業従事労働者の健康管理

あわせて、粉じん作業従事労働者の健康管理も重要です。
 
粉じん作業などの危険有害業務に従事している労働者は、1年以内ごとの定期券に加え、粉じんの影響有無を特殊健康診断を受診します。粉じん作業従事労働者はじん肺検診を受けなければなりません。じん肺検診は、症状の進行に応じて定期に受けます。症状が見られるのであれば毎年受診します。金属アーク溶接従事者は、じん肺検診に加え、特定化学物質特殊権更新診断を6ヶ月以内ごとに受診しなければなりません。

 

まとめ

鉱業・建設業・製造業・溶接作業などの現場では、粉じん障害が発生します。
 
従来と比べると粉じん障害の発生件数は低下しているものの、未だに毎年数名~数十名単位で「じん肺」を発症する人がいます。
 
じん肺は一度発症するとゆっくり進行し、最終的には呼吸困難を引き起こす病気であるため、いかに罹患させないようにするかが鍵です。
 
法令で定める特定粉じん作業に従事する場合は、特定粉じん作業特別教育を修了しなければなりません。
 
安全教育センターでは、出張講習として特定粉じん作業特別教育を提供しています。全国どこへでも事業者の指定する場所、日時に講師を派遣します。
 
また、金属アーク溶接等作業で発生する溶接ヒュームは粉じんですが、特定化学物質でもあります。そのため溶接作業場では、特定化学物質作業主任者もしくは金属アーク溶接等作業主任者を選任しなければなりません。安全教育センターでは、金属アーク溶接等作業主任者限定技能講習を実施しております。開催は都道府県労働局の認可を得ている北海道、岩手県、宮城県、福島県、東京都になりますが、これらの都道府県であれば出張講習も行っております。詳しくはお問い合わせください。